イヌホオズキ類の比較

Flora of Mikawa
イヌホオズキ類
果実が黒色のイヌホオズキ、アメリカイヌホオズキ、オオイヌホオズキ、テリミノイヌホオズキなどのイヌホオズキ類はブラックナイトシェードグループと呼ばれ、区別が難しく、多数のsynonymがあり、学名が変更されてきたものも多い。アメリカイヌホオズキも学名がSolanum ptychanthumからSolanum emulansに訂正され、2018年(Särkinen etc.(2018))、2019年(Sandra Knapp etc.(2019))に詳しい解説が示された。オオイヌホオズキもSolanum douglasiiからSolanum nigrescensに変更されている。ムラサキイヌホオズキは詳細が不明なSolanum memphiticum Mart.とされていたが、現在ではナンゴクイヌホオズキ Solanum scabrumのsynonymとされている。
イヌホオズキ類の分類は花の大きさや、花柱の長さなどの他に果実に含まれる球状顆粒や種子の数、種子の大きさなども重要なポイントとなるため、調査し、比較した。日本のイヌホオズキ類は神奈川県植物誌に区別が掲載されているが、文献により数値が異なり、どの数値が正しいのか判断が困難である。日本ではイヌホオズキ、オオイヌホオズキ、アメリカイヌホオズキ、テリミノイヌホオズキの主な4種があり、このうちテリミノイヌホオズキは垂れ実型とカンザシイヌホオズキ型が確認報告されている。ダグラスイヌホオズキ(Solanum douglasiiの仮称)は神奈川県植物誌では過去には現在のオオイヌホオズキの学名としていたものである。学名も変遷があり、多数のsynonymがある。これらの公表データも様々であるが、神奈川県植物誌、FNA(Flora of North America)、The Jepson Manualに加え、Sandra Knapp etc.(2019)の解説のデータ、SEInet等が次表である。
表1 文献に示されたデータ
※最初のデータは神奈川県植物誌のデータ
※[]内はFlora of North Americaのデータ
※{}内はSandra Knapp etc.(2019)の解説のデータ
※()内はThe Jepson Manualのデータ
イヌホオズキの神奈川県植物誌のデータとFlora of Chinaのデータは花柱の長さが長く、Flora of Chinaのデータは葯の長さも長く、果実は光沢が全くなく、他のデータとは異なっている。
イヌホオズキ、テリミノイヌホオズキの小花柄は果時に基部の太さより先の太さが明瞭に太くなる。ダグラスイヌホオズキは小花柄が細い。
果実はテリミノイヌホオズキは光沢が強い。イヌホオズキは光沢がない。
果時にテリミノイヌホオズキの萼片は後屈して捲れ上がるのが目立ち、オオイヌホオズキ、ダグラスイヌホオズキ、アメリカイヌホオズキは果実に密着する。
種子数は神奈川県植物誌のデータはオオイヌホオズキとアメリカイヌホオズキが60~120個と大きく、他のデータと異なる。
花粉粒はイヌホオズキだけが大きい。
球状顆粒数はイヌホオズキは0でオオイヌホオズキ、ダグラスイヌホオズキ、アメリカイヌホオズキは数個あり、テリミノイヌホオズキは少数あるかまたは無い。異なる数値の文献もある。
ナンゴクイヌホオズキはgarden-huckleberryと呼ばれ、広く栽培され、やや大きい多数の果実が密になるものから、Flora of Chinaの解説にあるような果実の小さい(直径5~10mm)野生のものもある。果実はやや光沢があり、葯は黄色、橙色、褐色がある。
【文献での類似種の区別】
オオイヌホオズキはテリミノイヌホオズキ(S. americanum)と同所性がある場合、葯が長く、果実が鈍い緑色または帯紫色で、広がった萼片に付着していることにより区別できる。ルイジアナ州の稲作畑とサトウキビ畑で雑草として採取され、暫定的に中国種 S. merrillianum T. N. Liou と特定された植物は、S. americanum と S. nigrescens の中間的な存在で、最近の雑種集団である可能性がある(S. Knapp 他 2019)。 S. douglasiiでは葯が短く、葯の長さに比べて花糸が長い点で区別できる。さらに、S. douglasii は通常ロッキー山脈の西側に見られるのに対し、S. nigrescens は米国南東部に生息する。S. nigrescens と S. interius の分布は重なっている(たとえば、テキサス州)。Solanum nigrescens は、通常鋭い萼片、より小さな種子、および果実のより多数の球状顆粒によって S. interius と区別できる。Solanum nigrescens は、より細い花序柄と小花柄、より小さな種子、および果実の球状顆粒によって S. nigrum と異なる。[Flora of North America]
アメリカイヌホオズキは葉が薄い膜質、分岐しない花序、長さ1.0~1.5mmの小さな葯、S. americanum に比べて比較的長い0.6~1.0mmの花糸、S. americanum よりも長い萼片が S. americanum のように強く反り返るのではなく果実に密着していること、果実の先端で小花柄が太くなること(S. americanum と異なる)、成熟した果実とともに小花柄が落ちること(S. americanum では花序に花柄が残る)。球状顆粒は多く、6~9個。
テリミノイヌホオズキ(Solanum americanum)とダグラスイヌホオズキ(S. douglasii)は、葯の長さと、花冠の大きさが判別に有効であるが、時折中間種が存在する(CANOTIA Vol. 5 (1) 2009)。
表2 調査結果
1 オオイヌホオズキと思って採取したものの中に球状顆粒が少ないものが見つかった。球状顆粒はあっても4個以下であり、無いものもある。データ数が少ないときは花柱が短い種と考えたが、データ数を増やしたところ、オオイヌホオズキにも花柱の短いものがあり、球状顆粒以外のデータはほとんど一致してしまった。アメリカのサイトを検索したところSolanum douglasii にデータがほぼ一致していた。Douglas' nightshadeと呼ばれているため、ひとまず、ダグラスイヌホオズキと呼ぶことにした。しかし2019年のSandra Knapp etc.やFNAの解説では種子が大きく、長さ1.5~2mm(実測は1.1~1.5mm)で、葯や花柱も長く、花柱の葯錘からの突き出しがかなり長く、観察したものと異なっていることが明らかになり、ダグラスイヌホオズキ類似種と訂正した。
2 アメリカイヌホオズキとテリミノイヌホオズキの中間型が出てきてしまった。果実はテリミノホオズキのように早く熟さないが、大きくて光沢が強い。花はアメリカイヌホオズキに似て淡紫色を帯びるため、ムラサキイヌホオズキ類似種として集計した。ムラサキイヌホオズキ Solanum memphiticum Mart.は現在ではナンゴクイヌホオズキ(Solanum scabrum Mill.)のsynonymとされているため、比較した。花柱、葯が短く、球状顆粒があり、ナンゴクイヌホオズキには合致しない。全体の外観はアメリカイヌホオズキに近いが、葉はアメリカイヌホオズキのように質が薄くなく、果実の光沢がアメリカイヌホオズキより強く、萼の後屈がテリミノイヌホオズキに近いが。他のデータはほぼアメリカイヌホオズキの文献値の範囲にある。
3 アメリカイヌホオズキはThe Jepson Manualのデータ、CDFA(CALIFORNIA DEPARTMENT OF FOOD AND AGRICULTURE)のデータ、カナダのオンタリオ州のデータを考慮すると大きな違いはないと思われる。カリフォルニアにはアメリカイヌホオズキはないため、オンタリオ州のデータも参考にした。球状顆粒は最大が6個であり、やや少なかった。過去に8個のものがあり、同じ場所を探したが、アメリカイヌホオズキは見当たらなかった。アメリカイヌホオズキは少なく、草刈りに会う場所にあるものが多く、データを得にくい。花序の花数は5個が混じるものが見られた。ontarioweedsのデータは球状顆粒数も葯の長さもよく一致している。
4 テリミノイヌホオズキのカンザシイヌホオズキ型はほとんど球状顆粒がなく、稀に1~2個の球状顆粒をもつものが混じる。種子は白色のものがほとんどである。しかし、花序はカンザシイヌホオズキ型であるが、果実の光沢が少なく、種子が淡褐色のものが1株だけあった(集計には入れていない)。また、種子が白色で、小果柄が一部、垂れ下がる株が多数あり、カンザシイヌホオズキ型に含めている。テリミノイヌホオズキの垂れ実型は全て球状顆粒がなく、種子が白色と淡褐色2種類のものがある。種子が白色のものは葯が褐色を帯び、果実の光沢が強い。淡褐色のものは、果実の光沢が少ないものが混じる。(テリミノイヌホオズキ参照)種子は淡褐色のものは葯の長さが長く、テリミノイヌホオズキの文献値からはずれる。
イヌホオズキ類の分類は花の大きさや、花柱の長さなどの他に果実に含まれる球状顆粒や種子の数、種子の大きさなども重要なポイントとなるため、調査し、比較した。日本のイヌホオズキ類は神奈川県植物誌に区別が掲載されているが、文献により数値が異なり、どの数値が正しいのか判断が困難である。日本ではイヌホオズキ、オオイヌホオズキ、アメリカイヌホオズキ、テリミノイヌホオズキの主な4種があり、このうちテリミノイヌホオズキは垂れ実型とカンザシイヌホオズキ型が確認報告されている。ダグラスイヌホオズキ(Solanum douglasiiの仮称)は神奈川県植物誌では過去には現在のオオイヌホオズキの学名としていたものである。学名も変遷があり、多数のsynonymがある。これらの公表データも様々であるが、神奈川県植物誌、FNA(Flora of North America)、The Jepson Manualに加え、Sandra Knapp etc.(2019)の解説のデータ、SEInet等が次表である。
表1 文献に示されたデータ
イヌホオズキ Solanum nigrum |
オオイヌホオズキ Solanum nigrescens |
ダグラスイヌホオズキ Solanum douglasii |
アメリカイヌホオズキ Solanum emulans |
テリミノイヌホオズキ Solanum america- num |
ナンゴクイヌホオズキ Solanum scabrum |
||
---|---|---|---|---|---|---|---|
葉の長さcm | - [3.5~7] {3.8~7.2(~14.5)} (4~7)(FOC:4~10) |
- [4~10.5] {(1.5)4~10.5(15)} |
- [1~5(~9)] {3~10(~17)} (1~(5)9) |
- [4.5~10.5] {4.5~10.5(~17.5)} |
- [2~10.5] {3.5~10.5} (2~15) |
{4~15(20)} 1~5(~8) 2~10(~12) |
|
花序 | 短い総状 [分岐または不分岐、散形~総状] (分岐または不分岐、散形~総状) |
散形~やや総状 [散形~総状] {ほぼ散形} |
- [不分岐の総状] {不分枝~2股分枝の総状} |
散形 [散形] {散形~ほぼ散形まれに2股分岐} (散形~総状) |
ほぼ散形 散形~ほぼ散形まれに2股分岐 |
ほぼ散形~総状 散形 |
|
小花柄 mm |
小花柄の長さ | {3~5 果時10~12} |
{4~7 果時10~12} |
{5~10 果時8~11} |
{8~10 果時8~10} |
{3~9 果時13~18} (3~10) |
{4~10 果時7~15(20)} (5~10:FOC) |
基部の太さ mm | {0.2~0.3 果時0.4~0.5} |
{約1 果時約0.5?} |
{0.3~0.4 果時0.4~0.5} |
{0.4~0.5 果時0.4~0.6} |
{0.2~0.3 果時0.7~1.0} |
{0.3~0.5 果時0.5~1} |
|
先端の太さ mm | {0.2~0.3 果時1.0~1.1} |
{約0.5 果時約1} |
{0.4~0.6 果時0.5~0.6} |
{0.5~0.6 果時0.7~1.0} |
{0.4~0.5 果時0.8~1.0} |
{0.75~0.9 果時1.1~1.5} |
|
花序の 花数 個 |
範囲 | 5~12 [(3~)4~10] {(3~)4~10} (3~10) |
5~8 [(2~)5~10] {(2)5~10} |
- [2~7(~14)] {(3~)6~14} (2~7(14)) |
1~4 [(2~)3~6] {(2)3~6} |
5~12 [3~10] {(3~)4~6(8)} (3~10) |
- - {4~10(30+)} (多数or3~5:China) |
範囲の最大 | 3~12 | (2~)5~10 | 2~14 | 1~6 | 3~12 | 3~5~10(30+) | |
花(花冠)径 ㎜ | 範囲 | 8~12 [10~15] {10~12} (10~15) (FOC:8~10) |
8~12 [10~15] {8~10} |
- [10~20] {13~15(~20)} (13~15(20)) |
4~6 [5~10] {8~10} |
4~6 [4~8] {3~6} (3~6) |
- - {7~12} (約10) |
範囲の最大 | 8~15 | 8~15 | 10~20 | 4~10 | 3~8 | 7~12 | |
花柱 ㎜ | 範囲 | 4~6 [2.5~3.5] {2.5~3.5} (2.5~3.5)(FOC:5~6) |
4~6 [-] {3.5~5} |
- [-] {6.5~7.5} (4~5) |
2~3 [-] {3.5~4.5} |
2~3 [2.2~2.6] {2.2~2.6} (2.5~4) |
- - {2.5~5} (約3) |
範囲の最大 | 2.5~6 | 3.5~6 | 4~7.5 | 2~4.5 |
2~4 | 2.5~5 | |
葯 ㎜ | 範囲 | 2~3(約2) [(1.8~)2~2.5] {1.8~2.5} (1.8~2.5) (FOC:2.5~3.5) |
2~3 [2~3] {2~2.8(3)} |
- [(2.5~)3~4.5] {(2.5~)3~4.5} (3~4.5) |
1~1.5 [1~1.5] {(1~)1.5~1.7} |
1~1.5 [0.7~1.5] {0.7~1.5} (0.7~1.5) |
- - {2~3} (2~4) |
範囲の最大 | 1.8~3.5 | 2~3 | 2.5~4.5 | 1~1.7 | 0.7~1.5 | 2~4 | |
花糸の自由部 ㎜ | 範囲 | - [-] {0.5~0.7} (1~1.5) (FOC:1~1.5) |
- [-] {0.5~2} (0.1~0.5(1)) |
- [-] {0.1~0.5(1)} (3~4.5) |
- [-] {0.6~1.0} |
- [0.5~0.8] {0.5~0.8} |
- - {0.5~0.8} |
範囲の最大 | 0.5~1.5 | 0.1~2 | 0.1~4.5 | 0.6~1.0 | 0.5~0.8 | 0.5~0.8 | |
花粉粒 μm | (26.6)29.5~33.9(35.7) | (12)15.0~21.7(24.8) | |||||
果時の萼 | [広がり付着] {広がり反曲} (広がる~弱く後屈) 付着 |
[-] {密着、まれにやや反曲} |
[-] {密着} |
[密着] {密着~わずかに広がる} |
[強く後屈] {強く後屈} (強く後屈) |
[-] {密着~わずかに後屈} |
|
果実光沢 | 無 [鈍~微] {鈍~微} (鈍~微) (FOC:鈍) |
やや鈍 [鈍] {鈍~微} |
- [鈍] {無} (鈍) |
やや鈍 [鈍~微] {無~微} |
強 [有] {強} (有) |
- - {有} (やや有) |
|
果径 ㎜ | 範囲 | 7~10 [5~10] {6~10} (6~10) (FOC:8~10) |
7~10 [5~8] {6~8} |
- [5~10] {6~14} |
7~10 [5~9] {6~8} |
4~7 [5~10] {4~9(~12)} (5~10) |
- - {10~20} (5~10:FOC) |
範囲の最大 | 5~10 | 5~10 | 5~14 | 5~10 | 4~10(~12) | 5~10~20 | |
種子数 個 | 範囲 | 30~60 [(15~)20~40(60)] {(15~)20~40} (20~40) 15~60 |
60~120 {(5)10~50} |
- [-] {>50} (>50) |
60~120 [20~50(~60)] {20~50(~60)} (30~50) 【>75】50-100 |
30~50 [30~50] {30~50} (30~50) 【50-110】 |
- - {(20~)100~150} (20~)100~150 |
範囲の最大 | 15~60 | (5)10~120 | 50以上 | 20~120 | 30~110 | (20~)100~150 | |
種子長 ㎜ | 範囲 | 約2 [1.8~2] {1.8~2.0} (1.8~2) |
1~1.3 [1.2~1.5] {1.2~1.5} |
- [1.5~2] {1.5~1.9} (1.5~2) |
1~1.3 [1.6~1.8] {1.6~1.8} (0.8~1.6) |
約1.5 [1~1.5] {1~1.5} (1~1.5) 【0.8-1.6】 |
- - {2~2.8} (0.8~1:FOC) |
範囲の最大 | 1.8~2 | 1~1.5 | 1.5~2 | 0.8~1.8 | 0.8~1.6 | 0.8~1または2~2.8 | |
種子の色 | - [黄色] {褐色} 黄~ほぼ白 |
淡黄褐色 [黄褐色] {淡褐色~黄色} |
- {褐色} |
淡黄褐色 [帯黄色] {褐色} |
白色 [淡黄色~褐色] {淡黄色} [黄~ほぼ白] |
- - {黄褐色~紫色} 黄褐色~紫色 |
|
球状顆粒 個 | 範囲 | 0 [0] {0or2(~8)} (0) |
4~10 [(4~)5~6(~13)] {(4)5~6(13)} |
- [(2~)6~8] {(2~)6~8} (6~8) CANOTIA:0~5 |
4~10 [(4)6~9(10)] {6~9(10)} 【1-10】 |
0~2 [(0~)2~4(~6)] {0or2~4(6)} (2~4(6)) |
- - {0} (0) |
範囲の最大 | 0または2(~8) | 4~10(~13) | (0~)6~8) | 1~10 | (0~)2~4(~6) | 0 | |
球状顆粒幅 mm | 0 [0] {0.5} |
- [-] {約0.5} |
- [-] {0.5~0.7} (0.5~0.7) |
- [約0.3] {約0.3} |
- [2個が小さい] {<0.5が2個} |
- - {0} (0) |
|
染色体数 | [2n=72] | [2n=24] | [2n=24] | [2n=24] | [2n=24] | {2n=72} |
※[]内はFlora of North Americaのデータ
※{}内はSandra Knapp etc.(2019)の解説のデータ
※()内はThe Jepson Manualのデータ
※花粉粒はIPGRI(Black nightshades Solanum nigrum L and related species 1997)のデータ
※【】はCDFAデータ(CDFA(CALIFORNIA DEPARTMENT OF FOOD AND AGRICULTURE))等
※ダグラスイヌホオズキの小花柄の長さはFNAのデータ※ナンゴクイヌホオズキのデータはSandra Knapp etc.(2019)、Flore du Gabon、Flora of Chinaのデータ
イヌホオズキの神奈川県植物誌のデータとFlora of Chinaのデータは花柱の長さが長く、Flora of Chinaのデータは葯の長さも長く、果実は光沢が全くなく、他のデータとは異なっている。
イヌホオズキ、テリミノイヌホオズキの小花柄は果時に基部の太さより先の太さが明瞭に太くなる。ダグラスイヌホオズキは小花柄が細い。
果実はテリミノイヌホオズキは光沢が強い。イヌホオズキは光沢がない。
果時にテリミノイヌホオズキの萼片は後屈して捲れ上がるのが目立ち、オオイヌホオズキ、ダグラスイヌホオズキ、アメリカイヌホオズキは果実に密着する。
種子数は神奈川県植物誌のデータはオオイヌホオズキとアメリカイヌホオズキが60~120個と大きく、他のデータと異なる。
花粉粒はイヌホオズキだけが大きい。
球状顆粒数はイヌホオズキは0でオオイヌホオズキ、ダグラスイヌホオズキ、アメリカイヌホオズキは数個あり、テリミノイヌホオズキは少数あるかまたは無い。異なる数値の文献もある。
ナンゴクイヌホオズキはgarden-huckleberryと呼ばれ、広く栽培され、やや大きい多数の果実が密になるものから、Flora of Chinaの解説にあるような果実の小さい(直径5~10mm)野生のものもある。果実はやや光沢があり、葯は黄色、橙色、褐色がある。
【文献での類似種の区別】
オオイヌホオズキはテリミノイヌホオズキ(S. americanum)と同所性がある場合、葯が長く、果実が鈍い緑色または帯紫色で、広がった萼片に付着していることにより区別できる。ルイジアナ州の稲作畑とサトウキビ畑で雑草として採取され、暫定的に中国種 S. merrillianum T. N. Liou と特定された植物は、S. americanum と S. nigrescens の中間的な存在で、最近の雑種集団である可能性がある(S. Knapp 他 2019)。 S. douglasiiでは葯が短く、葯の長さに比べて花糸が長い点で区別できる。さらに、S. douglasii は通常ロッキー山脈の西側に見られるのに対し、S. nigrescens は米国南東部に生息する。S. nigrescens と S. interius の分布は重なっている(たとえば、テキサス州)。Solanum nigrescens は、通常鋭い萼片、より小さな種子、および果実のより多数の球状顆粒によって S. interius と区別できる。Solanum nigrescens は、より細い花序柄と小花柄、より小さな種子、および果実の球状顆粒によって S. nigrum と異なる。[Flora of North America]
アメリカイヌホオズキは葉が薄い膜質、分岐しない花序、長さ1.0~1.5mmの小さな葯、S. americanum に比べて比較的長い0.6~1.0mmの花糸、S. americanum よりも長い萼片が S. americanum のように強く反り返るのではなく果実に密着していること、果実の先端で小花柄が太くなること(S. americanum と異なる)、成熟した果実とともに小花柄が落ちること(S. americanum では花序に花柄が残る)。球状顆粒は多く、6~9個。
テリミノイヌホオズキ(Solanum americanum)とダグラスイヌホオズキ(S. douglasii)は、葯の長さと、花冠の大きさが判別に有効であるが、時折中間種が存在する(CANOTIA Vol. 5 (1) 2009)。
調査結果
表2 調査結果
イヌホオズキ | オオイヌホオズキ | ダグラスイヌホオズキ類似種※ Solanum douglasii |
アメリカイヌホオズキ | ムラサキイヌホオズキ類似種 | テリミノイヌホオズキ | |||||
カンザシイヌホオズキ型 | 垂れ実型(種子白色) | 垂れ実型(種子淡褐色) | ||||||||
花 | 花序の花 個 | 範囲 | 4~11 | 3~8 | 2~9 | 1~5 | 2~6 | 3~11 | 3~7 | 3~9 | 文献 | 3~12 | (2~)5~10 | 2~14 | 1~6 | 3~5~10(30+) | 3~12 | 3~12 | 3~12 |
花 径 |
範囲 ㎜ | 9~14 | 7~15.5 | 7~17 | 6~12 | 6~12 | 4.5~12 | 7~10 | 6~13 | |
平均 ㎜ | 11 | 11 | 13 | 9 | 8 | 7.5 | 8 | 10 | ||
文献 ㎜ | 8~15 | 8~15 | 10~20 | 4~10 | 7~12 | 3~8 | 3~8 | 3~8 | ||
花 柱 |
範囲 ㎜ | 3.3~4.0 | 3.3~4.7 | 3.6~4.7 | 2.1~2.8 | 2.0~2.5 | 1.6~2.9 | 1.9~2.5 | 2.2~3.7 | |
平均 ㎜ | 3.7 | 4.0 | 4.0 | 2.4 | 2.2 | 2.1 | 2.3 | 3.2 | ||
文献 ㎜ | 2.5~6 | 3.5~6 | 4~7.5 | 2~4.5 | 2.5~5 | 2~4 | 2~4 | 2~4 | ||
葯 | 範囲 ㎜ | 1.8~2.6 | 2.2~2.8 | 2.3~2.9 | 1.4~1.6 | 1.2~1.8 | 1.1~1.6 | 1.3~1.5 | 1.4~1.9 | |
平均 ㎜ | 2.2 | 2.5 | 2.6 | 1.5 | 1.4 | 1.3 | 1.4 | 1.7 | ||
文献 ㎜ | 1.8~3.5 | 2~3 | 2.5~4.5 | 1~1.7 | 2~4 | 0.7~1.5 | 0.7~1.5 | 0.7~1.5 | ||
花 粉 |
長径 μm | 35~41 | 25~33 | 25~28 | 27~33 | 25~31 | 26~33 | 29~33 | 25~28 | |
平均μm | 38 | 29 | 27 | 30 | 28 | 29 | 31 | 27 | ||
果 実 |
楕円性 | 縦長 | 微横長 | 微横長 | 微横長 | 横長 | 横長 | 横長 | 横長 | |
光沢 | 無 | 鈍~弱 | 鈍~弱 | 鈍~弱 | 強~弱 | 強 | 強 | 強~弱 | ||
フケ班紋 | 少 | 少 | 少 | 少 | 多 | 多 | 多 | 多 | ||
果 径 |
範囲 ㎜ | 5~9 | 5~10 | 5~9 | 5~8.5 | 6~9 | 3~8.5 | 6~9 | 4.5~10 | |
平均 ㎜ | 7.6 | 8 | 7 | 7 | 8 | 6.5 | 8 | 7 | ||
文献 ㎜ | 5~10 | 5~10 | 5~14 | 5~10 | 5~10~20 | 4~10(~12) | 4~10(~12) | 4~10(~12) | ||
種 子 数 |
範囲 個 | (5)22~53 | (9)69~110 | (20)63~125 | (12)69~118 | (13)32~87 | (2)30~67 | (17)26~59 | (7)27~88 | |
平均 個 | 34 | 78 | 89 | 83 | 53 | 38 | 42 | 44 | ||
文献 個 | 15~60 | (5)10~120 | 50以上 | 20~120 | (20~)100~150 | 30~110 | 30~110 | 30~110 | ||
顆 粒 数 |
範囲 個 | 0 | 5~12 | 0~4 (0~7) |
4~6 | 2~6 | 0~2 | 0 | 0 | |
平均 個 | 0 | 9 | 2(3) | 5 | 5 | 0.1 | 0 | 0 | ||
文献 個 | 0または2(~8) | 4~10(~13) | (0~)6~8) | 1~10 | 0 | (0~)2~4(~6) | (0~)2~4(~6) | (0~)2~4(~6) | ||
種 子 |
色 | 淡褐 | 淡褐 | 淡褐 | 淡黄褐 | 淡黄褐 | 白 | 白 | 淡褐 | |
長 さ |
範囲 ㎜ | 1.7~2.2 | 1.1~1.5 | 1.1~1.5 | 1.2~1.5 | 1.3~1.8 | 1.2~1.6 | 1.3~1.7 | 1.2~1.8 | |
平均 ㎜ | 1.9 | 1.3 | 1.3 | 1.4 | 1.6 | 1.5 | 1.5 | 1.6 | ||
文献 ㎜ | 1.8~2 | 1~1.5 | 1.5~2 | 0.8~1.8 | 0.8~1または2~2.8 | 0.8~1.6 | 0.8~1.6 | 0.8~1.6 |
※果実中の種子数は果実が小さいと明らかに少なくなるため、種子数は果径が7㎜以上のものを集計した。()内は果実の径が7㎜未満の全てを含めたとき。
※アメリカイヌホオズキなどの花は花冠の裂片が反り返っていることが多いが、平開した花も多く、花冠は平開した花の直径を測定したため、花弁が後屈して狭くなっている花を含めていない。
※表1の範囲から全く外れるデータは赤色、範囲外に及ぶデータは青色とした。
※ダグラスイヌホオズキはSolanum douglasiiと思われるものの仮称。
※ダグラスイヌホオズキの球状顆粒数の()は花の未確認のものを含めたとき。
※テリミノイヌホオズキにはこの表にあてはまらないものがある。
※ムラサキイヌホオズキ類似種はSolanum scabrum Mill.の文献値と比較した。
※調査データ数は表7参照
1 オオイヌホオズキと思って採取したものの中に球状顆粒が少ないものが見つかった。球状顆粒はあっても4個以下であり、無いものもある。データ数が少ないときは花柱が短い種と考えたが、データ数を増やしたところ、オオイヌホオズキにも花柱の短いものがあり、球状顆粒以外のデータはほとんど一致してしまった。アメリカのサイトを検索したところSolanum douglasii にデータがほぼ一致していた。Douglas' nightshadeと呼ばれているため、ひとまず、ダグラスイヌホオズキと呼ぶことにした。しかし2019年のSandra Knapp etc.やFNAの解説では種子が大きく、長さ1.5~2mm(実測は1.1~1.5mm)で、葯や花柱も長く、花柱の葯錘からの突き出しがかなり長く、観察したものと異なっていることが明らかになり、ダグラスイヌホオズキ類似種と訂正した。
2 アメリカイヌホオズキとテリミノイヌホオズキの中間型が出てきてしまった。果実はテリミノホオズキのように早く熟さないが、大きくて光沢が強い。花はアメリカイヌホオズキに似て淡紫色を帯びるため、ムラサキイヌホオズキ類似種として集計した。ムラサキイヌホオズキ Solanum memphiticum Mart.は現在ではナンゴクイヌホオズキ(Solanum scabrum Mill.)のsynonymとされているため、比較した。花柱、葯が短く、球状顆粒があり、ナンゴクイヌホオズキには合致しない。全体の外観はアメリカイヌホオズキに近いが、葉はアメリカイヌホオズキのように質が薄くなく、果実の光沢がアメリカイヌホオズキより強く、萼の後屈がテリミノイヌホオズキに近いが。他のデータはほぼアメリカイヌホオズキの文献値の範囲にある。
3 アメリカイヌホオズキはThe Jepson Manualのデータ、CDFA(CALIFORNIA DEPARTMENT OF FOOD AND AGRICULTURE)のデータ、カナダのオンタリオ州のデータを考慮すると大きな違いはないと思われる。カリフォルニアにはアメリカイヌホオズキはないため、オンタリオ州のデータも参考にした。球状顆粒は最大が6個であり、やや少なかった。過去に8個のものがあり、同じ場所を探したが、アメリカイヌホオズキは見当たらなかった。アメリカイヌホオズキは少なく、草刈りに会う場所にあるものが多く、データを得にくい。花序の花数は5個が混じるものが見られた。ontarioweedsのデータは球状顆粒数も葯の長さもよく一致している。
4 テリミノイヌホオズキのカンザシイヌホオズキ型はほとんど球状顆粒がなく、稀に1~2個の球状顆粒をもつものが混じる。種子は白色のものがほとんどである。しかし、花序はカンザシイヌホオズキ型であるが、果実の光沢が少なく、種子が淡褐色のものが1株だけあった(集計には入れていない)。また、種子が白色で、小果柄が一部、垂れ下がる株が多数あり、カンザシイヌホオズキ型に含めている。テリミノイヌホオズキの垂れ実型は全て球状顆粒がなく、種子が白色と淡褐色2種類のものがある。種子が白色のものは葯が褐色を帯び、果実の光沢が強い。淡褐色のものは、果実の光沢が少ないものが混じる。(テリミノイヌホオズキ参照)種子は淡褐色のものは葯の長さが長く、テリミノイヌホオズキの文献値からはずれる。