テリミノイヌホオズキ(広義)

Flora of Mikawa
ナス科 Solanaceae ナス属
別 名 | ニセイヌホオズキ、カンザシイヌホオズキ |
中国名 | 少花龙葵 shao hua long kui |
英 名 | American black nightshade, American nightshade, American black, common nightshade, West Indian nightshade, small-flowered nightshade, small-flowered white nightshade, glossy nightshade |
学 名 | Solanum americanum Mill. synonym Solanum nigrum var. nodiflorum (Jacquin) A. Gray synonym Solanum pachystylum Polgarsynonym Solanum americanum var. nodiflorum (Jacq.) Edmonds synonym Solanum nodiflorum Jacq.synonym Solanum nodiflorum subsp. nutans R.J.F.Hend. synonym Solanum photeinocarpum Nakam. et Odash. synonym Solanum americanum Mill. var. nodiflorum (Jacq.) A.Gray synonym Solanum alatum auct. non Moenchsynonym Solanum ptychanthum Dunal [Solanum emulansの異名は誤り] synonym Solanum dillenii Schult. synonym Solanum merrillianum Liou 光枝木龙葵 guang zhi mu long kui |







花 期 | 6~10月 |
高 さ | 30~80cm |
生活型 | 1年草又は多年草 |
生育場所 | 田の畔、湿った場所 |
分 布 | 帰化種 USA(アラバマ州、アリゾナ州、カリフォルニア州、フロリダ州、ジョージア州、サウスカロライナ州、ユタ州、ワシントン、ルイジアナ州、ミシシッピ州、オレゴン州、テキサス州、)、カナダ(ブリティッシュコロンビア州)、メキシコ、中央アメリカ(グアテマラ、ベリーズ、エルサルバドル、コスタリカ、ホンジュラス、ニカラグア、パナマ)、西インド諸島(アルバ島、ケイマン諸島、ハイチ、バハマ、キューバ、ドミニカ共和国、トリニダード・トバゴ、アンティル諸島、ウィンドワード島、ジャマイカ、リーワード島、オランダ領アンティル諸島、プエルトリコ、 タークス・カイコス諸島、ガラパゴス諸島)、南アメリカ(アルゼンチン、ウルグアイ、エクアドル、ガイアナ、コロンビア、フランス領ギアナ、スリナム、パラグアイ、ブラジル、ベネズエラ、ペルー、ボリビア、チリ)原産 |
撮 影 | 幡豆町 11.10.28 |
テリミノイヌホオズキはナス科ナス属の草本、1936年に台湾産のSolanum photeinocarpumにつけられた名であり、その後、Solanum americanumと同じものとされた。北アメリカでも混同があり、Solanum nodiflorumをSolanum americanum(テリミノイヌホオズキ)とし、それまでSolanum americanumとされていいたものをSolanum ptycanthumとし、さらにSolanum ptycanthumからSolanum emulans Raf.(アメリカイヌホオズキ)に変更され、Solanum ptycanthumはSolanum americanum Mill.のsynonymとされた。現在、日本のテリミノイヌホオズキであるSolanum americanumは広義に扱われ、多数のsynonymがある。
特徴は多型であり、花が小さく、通常直径4~6㎜。非常に短い葯をもち、通常長さ1~1.5mm。萼片は果時に強く反り返り、未熟な緑色の果実はフケ状斑紋が目立ち、熟すと光沢のある黒色になる。球状顆粒はほとんどもたない。種子は通常、小さく、長さ1~1.5mm、白色~黄褐色~淡褐色。果時の小花柄が真っすぐのカンザシ型と垂れ実型がある。
Sandra Knapp etc.(2019)、Särkinen etc.(2018)の解説は次のとおり、文献値の最小~最大値を【】に示した。
高さ1.5mまでになる1年生から短命の多年生草本で、基部は亜木質。茎は円柱形またはやや角(かど)がありうねがあり、古い茎はしばしば刺状になり、顕著に中空ではない。新芽には毛があり、毛は長さ0.2~0.8mmの単純で開出する単列の2~8細胞の腺のない毛がしばしば茎の角に沿って密にある。古い茎は無毛になり、毛の基部のみが疑似刺として残存する。仮軸枝は2葉があり(difoliate)、葉は双生(geminate)ではない[仮軸性sympodial growthの成長により茎がジグザグになり、葉が対生する:Morelloid Cladeの特徴 ]。葉は単純で、長さ3.5~10.5cm【1~15(~16)cm】、幅1.0~4.5cm、卵形~楕円形、上面には茎と同じように単純で単列の毛がまばらに生え、葉身と葉脈に沿って均等に広がり、下面も似ているがより密に毛があり、主脈は3~6対、基部は漸尖し、葉柄に沿下し、縁は全縁またはまれに波状の歯があり、先は鋭形。葉柄は長さ0.3~2.0~3.8(~4.0)cmで、茎と同様の単純な単列の毛がまばらに生える。花序は長さ0.6~2.5cm、側生で節間につき、分岐しないかまれに2股に分岐し、花が(3~)4~6(8)個【(1)3~12個】(非常にまれに、通常ではない多分岐の花序に多数の花が付く)、先端近くに密集し(散形花序からほぼ散形花序)、茎と同様の単純な単列の毛がまばらに生える。花序柄は長さ(0.5~)1.0~1.8cmで繊細。小花柄は長さ3~9mm、基部の直径0.2~0.3mm、先端部は直径0.4~0.5mmで、太く真っ直ぐ広がり、基部に関節がある。小花柄の痕跡は0~0.5mm間隔で、花序の先端に密集する。蕾は広楕円形で、花冠は開花前に萼片の先端より1/3突出する。花は5数性で、全て完全花である。萼筒は長さ0.8~1.3mm、萼片は長さ0.3~0.5mm、幅0.5~0.6mm、広三角形、先は鈍形、茎と同様に単列の毛がまばらに生える。花冠は直径3~6mm【2~10mm】、星形、白色で基部近くの中央部は黄緑色、基部まで1/2~2/3の長さの裂片があり、裂片は長さ2.0~3.2mm、幅1.0~2.5mm、開花時に強く後屈し、後に広がり、外側は密にパピラがあり、1~4細胞の単純な単列毛があり、先端と縁には毛が密にある。雄しべは等長、花糸の筒部は微細、花糸の自由部分は長さ0.5~0.8mm、外側は軟毛があり、絡み合った単列毛がある。葯は長さ0.7~1.5mm【0.7~2 mm】、幅0.5~0.6mm、楕円形~ほぼ球形で非常にふっくらとして見え、黄色、先端には孔があり、孔は老化と乾燥によりスリット状に長くなる。子房は球形、無毛。花柱は長さ2.2~2.6mm【1.2~4(~4.5)】、密に毛があり、葯錘に含まれる基部から 2/3 のところに 2~3細胞の単列毛があり、葯錘からほぼ0.5(~1.0)mm 突き出る。柱頭はわずかに頭状で、表面にはわずかにパピラがあり、生きた植物では緑色。果実は球形、液果、直径4~9(~12)mm【4~10(~12)mm】、成熟すると紫黒色で不透明になり、果皮の表面は著しく光沢がある。果時の小花柄は長さ13~18mm、基部の直径は約0.7~1.0mm、先端の直径は0.8~1.0mmで、丈夫で真っ直ぐ広がり、間隔は約1(~3)mm離れまたはしっかり密集し、果実と一緒に落ちず、植物体に残り、古い花序に宿存する。果時に萼は増大せず、萼筒は長さ1mm未満、萼片は長さ1(~2)mm、果実が成熟すると強く後屈する。種子は1果あたり30~50個【30~110個】、長さ1.0~1.5mm【0.8~2(~2.5)mm】、幅0.8~1.3mm、扁平、涙滴形、頂端近くにへそがあり、淡黄色【白~淡黄~暗黄~淡橙黄~黄褐~橙褐~褐色】、表面に微細な穴があり、種皮細胞の輪郭は五角形。球状顆粒(stone cells)はほとんど存在しないが(オーストラリア、南太平洋、南アメリカ)、存在する場合は(北アメリカ、メキシコ、カリブ海、ユーラシア、アフリカ)、1果あたり2~4(6)個あり、直径0.5mmを超える大きなものが2~4個【0~5(~6)個】、0.5mm未満の小さなものが2個ある。2n=2×=24 (see Särkinen et al. 2018 for vouchers)。
Solanum americanumは4タイプあるともいわれ、日本でテリミノイヌホオズキとされている植物には明らかに複数の分類群が含まれ、垂れ実型(球状顆粒有り・無し)とカンザシイヌホオズキ型(球状顆粒無し)の2タイプが確認報告されている。Solanum americanum のデータは学名の混乱もあり、文献によりかなり異なるものもある。Flora of North AmericaではテリミノイヌホオズキはS. nigrescens や S. pseudogracile などの他の種との遺伝子移入が疑われる例もあるとしている。Särkinen etc.(2018)では6倍体のSolanum nigrum L.(イヌホオズキ)や4倍体のSolanum scabrum Mill.(ナンゴクイヌホオズキ)はS. americanum と S. villosumとの雑種と推定されているとしている。
神奈川植物誌のデータに加え、Flora of North America(FNA)、Sandra Knapp etc.(2019)、The Jepson Manualのデータおよびオーストラリ、ニュージーランド、アフリカなどその他のデータを比較した。採取地で変化が多いため、データの最小~最大の範囲をテリミノイヌホオズキ(Solanum americanum )の文献データとして表に示した。
カンザシイヌホオズキ型に球状顆粒を1~2個もつ果実が稀に混じることがあった。現在までの調査では垂れ実型に球状顆粒のあるものが見つかっていない。調査結果は若干範囲から外れるものがあるが、ほぼ既存データ範囲に近かった。
※最初のデータは神奈川県植物誌のデータ
※2列目はFlora of North America(FNA)のデータ
※3列目はSandra Knapp etc.(2019)の解説のデータ
※4列目はThe Jepson Manualのデータ
テリミノイヌホオズキの花冠は日陰や低温の環境では淡紫色になりやすいとされている。果実は熟すと黒色 glossy black 又は brownish-black になり光沢があり、熟す前は果実の表面にフケ状の斑紋 white flecks が多い。果実の萼片が基部から顕著に反曲する。果実中の球状顆粒sclerotic granulesは0~5(6)個。種子は長さ2㎜以下、白色~黄色~淡黄褐色~淡褐色。
果実の光沢、フケ状班紋、球状顆粒によりテリミノイヌホオズキと判断してきたが、特徴などは以下のとおりであり、 花序の形、葯の色、果実の光沢、球状顆粒数、種子の色の違いからテリミノイヌホオズキは4タイプに分けられる。他のイヌホオズキ類との比較はイヌホオズキ類の比較表にまとめた。
草形
茎は直立するのが普通であるが、倒伏することも多く、カンザシイヌホオズキ型と垂れ実型が並んで生えていることも多い。
花序
花序の小果柄が立つものをカンザシイヌホオズキ型、垂れ下がるのを垂れ実型としている。しかし、中間的なものも見られ、一部の小果柄だけが垂れ下がるものは区別が難しいため、種子の色が白色のものはカンザシイヌホオズキ型に含めた。
萼
蕾の萼片は花によって大きさや形が変化し、萼片の基部の幅が狭く、基部の間が離れるものと、萼片の基部が幅広くて基部の間が近いものの2種の傾向はあるものの、判別に使うのは難しい。果実の萼片は基部から顕著に反曲する。
果実
カンザシイヌホオズキ型も垂れ実型も果実に光沢の少ないものが見られ、垂れ実型は光沢の弱いものがしばしば見られる。果実はやや横幅が広く、縦幅と高さが短い楕円状になる。フケ状班紋は明らかに多く、子房に斑点が見えるものがある。
種子
種子の色は白色と淡褐色のものがある。完熟した果実では種子の紫色が強くやや判りにくいが、完熟前の緑色の果実の種子では明瞭に差がある。種子の長さがほとんど1.5㎜以下であるが1.8㎜のものもある。
球状顆粒
球状顆粒があるものはほとんど無く、カンザシイヌホオズキ型の果実9個だけに1~2個が混ざるものがあった。球状顆粒が0~2個の株の周りを調べたが、外観が同じでも全く球状顆粒がない株が多く、10個の果実中にたった1個、直径0.3㎜の小さな球状顆粒があっただけの株もあった。それまでの調査で球状顆粒を見落としているおそれも十分ある。球状顆粒以外に際立った差はなく、カンザシイヌホオズキを球状顆粒の有無で区分するのは困難と思われる。
テリミノイヌホオズキのタイプ別調査結果
※ 果実中の種子数は果実が小さいと明らかに少なくなるため、種子数は果径が7㎜以上のものを集計した。()内は果実の径が7㎜未満の全てを含めたとき。
【テリミノイヌホオズキの4タイプ別の特徴】
テリミノイヌホオズキのタイプ
疑問点など
1 カンザシイヌホオズキ型と垂れ実型を分ける場合、中間型がある。
2 果実の光沢は強いものと弱いものがある。
3 花序はカンザシイヌホオズキ型であるが、果実の光沢が少なく、種子が淡褐色のものが1株だけあった。すぐに枯れてしまい詳細不明。
特徴は多型であり、花が小さく、通常直径4~6㎜。非常に短い葯をもち、通常長さ1~1.5mm。萼片は果時に強く反り返り、未熟な緑色の果実はフケ状斑紋が目立ち、熟すと光沢のある黒色になる。球状顆粒はほとんどもたない。種子は通常、小さく、長さ1~1.5mm、白色~黄褐色~淡褐色。果時の小花柄が真っすぐのカンザシ型と垂れ実型がある。
Sandra Knapp etc.(2019)、Särkinen etc.(2018)の解説は次のとおり、文献値の最小~最大値を【】に示した。
高さ1.5mまでになる1年生から短命の多年生草本で、基部は亜木質。茎は円柱形またはやや角(かど)がありうねがあり、古い茎はしばしば刺状になり、顕著に中空ではない。新芽には毛があり、毛は長さ0.2~0.8mmの単純で開出する単列の2~8細胞の腺のない毛がしばしば茎の角に沿って密にある。古い茎は無毛になり、毛の基部のみが疑似刺として残存する。仮軸枝は2葉があり(difoliate)、葉は双生(geminate)ではない[仮軸性sympodial growthの成長により茎がジグザグになり、葉が対生する:Morelloid Cladeの特徴 ]。葉は単純で、長さ3.5~10.5cm【1~15(~16)cm】、幅1.0~4.5cm、卵形~楕円形、上面には茎と同じように単純で単列の毛がまばらに生え、葉身と葉脈に沿って均等に広がり、下面も似ているがより密に毛があり、主脈は3~6対、基部は漸尖し、葉柄に沿下し、縁は全縁またはまれに波状の歯があり、先は鋭形。葉柄は長さ0.3~2.0~3.8(~4.0)cmで、茎と同様の単純な単列の毛がまばらに生える。花序は長さ0.6~2.5cm、側生で節間につき、分岐しないかまれに2股に分岐し、花が(3~)4~6(8)個【(1)3~12個】(非常にまれに、通常ではない多分岐の花序に多数の花が付く)、先端近くに密集し(散形花序からほぼ散形花序)、茎と同様の単純な単列の毛がまばらに生える。花序柄は長さ(0.5~)1.0~1.8cmで繊細。小花柄は長さ3~9mm、基部の直径0.2~0.3mm、先端部は直径0.4~0.5mmで、太く真っ直ぐ広がり、基部に関節がある。小花柄の痕跡は0~0.5mm間隔で、花序の先端に密集する。蕾は広楕円形で、花冠は開花前に萼片の先端より1/3突出する。花は5数性で、全て完全花である。萼筒は長さ0.8~1.3mm、萼片は長さ0.3~0.5mm、幅0.5~0.6mm、広三角形、先は鈍形、茎と同様に単列の毛がまばらに生える。花冠は直径3~6mm【2~10mm】、星形、白色で基部近くの中央部は黄緑色、基部まで1/2~2/3の長さの裂片があり、裂片は長さ2.0~3.2mm、幅1.0~2.5mm、開花時に強く後屈し、後に広がり、外側は密にパピラがあり、1~4細胞の単純な単列毛があり、先端と縁には毛が密にある。雄しべは等長、花糸の筒部は微細、花糸の自由部分は長さ0.5~0.8mm、外側は軟毛があり、絡み合った単列毛がある。葯は長さ0.7~1.5mm【0.7~2 mm】、幅0.5~0.6mm、楕円形~ほぼ球形で非常にふっくらとして見え、黄色、先端には孔があり、孔は老化と乾燥によりスリット状に長くなる。子房は球形、無毛。花柱は長さ2.2~2.6mm【1.2~4(~4.5)】、密に毛があり、葯錘に含まれる基部から 2/3 のところに 2~3細胞の単列毛があり、葯錘からほぼ0.5(~1.0)mm 突き出る。柱頭はわずかに頭状で、表面にはわずかにパピラがあり、生きた植物では緑色。果実は球形、液果、直径4~9(~12)mm【4~10(~12)mm】、成熟すると紫黒色で不透明になり、果皮の表面は著しく光沢がある。果時の小花柄は長さ13~18mm、基部の直径は約0.7~1.0mm、先端の直径は0.8~1.0mmで、丈夫で真っ直ぐ広がり、間隔は約1(~3)mm離れまたはしっかり密集し、果実と一緒に落ちず、植物体に残り、古い花序に宿存する。果時に萼は増大せず、萼筒は長さ1mm未満、萼片は長さ1(~2)mm、果実が成熟すると強く後屈する。種子は1果あたり30~50個【30~110個】、長さ1.0~1.5mm【0.8~2(~2.5)mm】、幅0.8~1.3mm、扁平、涙滴形、頂端近くにへそがあり、淡黄色【白~淡黄~暗黄~淡橙黄~黄褐~橙褐~褐色】、表面に微細な穴があり、種皮細胞の輪郭は五角形。球状顆粒(stone cells)はほとんど存在しないが(オーストラリア、南太平洋、南アメリカ)、存在する場合は(北アメリカ、メキシコ、カリブ海、ユーラシア、アフリカ)、1果あたり2~4(6)個あり、直径0.5mmを超える大きなものが2~4個【0~5(~6)個】、0.5mm未満の小さなものが2個ある。2n=2×=24 (see Särkinen et al. 2018 for vouchers)。
Solanum americanumは4タイプあるともいわれ、日本でテリミノイヌホオズキとされている植物には明らかに複数の分類群が含まれ、垂れ実型(球状顆粒有り・無し)とカンザシイヌホオズキ型(球状顆粒無し)の2タイプが確認報告されている。Solanum americanum のデータは学名の混乱もあり、文献によりかなり異なるものもある。Flora of North AmericaではテリミノイヌホオズキはS. nigrescens や S. pseudogracile などの他の種との遺伝子移入が疑われる例もあるとしている。Särkinen etc.(2018)では6倍体のSolanum nigrum L.(イヌホオズキ)や4倍体のSolanum scabrum Mill.(ナンゴクイヌホオズキ)はS. americanum と S. villosumとの雑種と推定されているとしている。
神奈川植物誌のデータに加え、Flora of North America(FNA)、Sandra Knapp etc.(2019)、The Jepson Manualのデータおよびオーストラリ、ニュージーランド、アフリカなどその他のデータを比較した。採取地で変化が多いため、データの最小~最大の範囲をテリミノイヌホオズキ(Solanum americanum )の文献データとして表に示した。
カンザシイヌホオズキ型に球状顆粒を1~2個もつ果実が稀に混じることがあった。現在までの調査では垂れ実型に球状顆粒のあるものが見つかっていない。調査結果は若干範囲から外れるものがあるが、ほぼ既存データ範囲に近かった。
テリミノイヌホオズキ S.americanum 文献値 | 実測値 | ||||||||
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神奈川県植物誌 |
Flora of North America | Sandra Knapp etc.(2019) | Jepson eFlora | その他 FOC・JSTOR・SEINet・PlantNET・Weed of Australia・NZPCN・PROTA・IDTools | カンザシイヌホオズキ型 | 垂れ実型・種子白色 | 垂れ実型・種子淡褐色 | ||
葉の長さ (㎝) |
- | 2~10.5 | 3.5~10.5 | 2~15 | 1~14(~16) | ||||
花序の花 個 | 範囲 | 5~12 | 3~10 | (3~)4~6(8) | 3~10 | (1~)3~12 | 3~11 | 3~7 | 3~9 |
最大範囲 | (1)3~12 | 3~11 | |||||||
花径 ㎜ | 範囲 | 4~6 | 4~8 | 3~6 | 3~6 | 2~10 | 4.5~12 | 7~10 | 6~13 |
最大範囲 | 2~10 | 4.5~13 | |||||||
花柱 ㎜ | 範囲 | 2~3 | 2.2~2.6 | 2.2~2.6 | 2.5~4 | 1.2~4(~4.5) | 1.6~2.9 | 1.9~2.5 | 2.9~3.7 |
最大範囲 | 1.2~4(~4.5) | 1.6~3.7 | |||||||
葯 ㎜ | 範囲 | 1~1.5 | 0.7~1.5 | 0.7~1.5 | 0.7~1.5 | 0.7~2 | 1.1~1.6 | 1.3~1.5 | 1.6~1.9 |
最大範囲 | 0.7~2 | 1.1~1.9 | |||||||
花粉粒 (μm) |
(12)15.0~21.7(24.8) | 20~22 | 26~33 | 29~33 | 25~28 | ||||
果実の 光沢 |
強 | 有 | 強 | 有 | 有~強 | 強 | 強 | 強~弱 | |
果径 ㎜ | 範囲 | 4~7 | 5~10 | 4~9(~12) | 5~10 | 4~9(~10) | 3~8.5 | 6~9 | 4.5~10 |
最大範囲 | 4~10(~12) | 3~10 | |||||||
種子数 個 | 範囲 | 30~50 | 30~50 | 30~50 | 30~50 | 50~110 | (2)30~67 | (17)26~59 | (7)27~88 |
最大範囲 | 30~110 | 26~88 | |||||||
種子長 ㎜ | 範囲 | 約1.5 | 1~1.5 | 1~1.5 | 1~1.5 | 0.8~2(~2.5) | 1.2~1.6 | 1.3~1.7 | 1.2~1.8 |
最大範囲 | 0.8~2(~2.5) | 1.2~1.8 | |||||||
種子の色 | 白 | 淡黄~褐 | 淡黄 | 黄~ほぼ白 | ほぼ白~暗黄~淡橙黄~黄褐~橙褐 | 白 | 白 | 淡褐 | |
球状顆粒 個 | 範囲 | 0~2 | (0~)2~4(~6) | 0or2~4(6) | 2~4(6) | 0~5 | 0~2 | 0 | 0 |
最大範囲 | 0~5(~6) | 0~2 |
※最初のデータは神奈川県植物誌のデータ
※2列目はFlora of North America(FNA)のデータ
※3列目はSandra Knapp etc.(2019)の解説のデータ
※4列目はThe Jepson Manualのデータ
※5列目のその他はFlora of China(FOC)、JSTOR Flora Somalia、SEINet(CANOTIA)、NEW SOUTH WALES FLORA ONLINE(PlantNET)、Weed of Australia、New Zealand Plant Conservation Network(NZPCN)、PROTA4U、IDTools.orgのデータの最小値~最大値
※花粉粒はIPGRI(Black nightshades Solanum nigrum L and related species 1997)、NEW SOUTH WALES FLORA ONLINEのデータ
テリミノイヌホオズキの特徴
テリミノイヌホオズキの花冠は日陰や低温の環境では淡紫色になりやすいとされている。果実は熟すと黒色 glossy black 又は brownish-black になり光沢があり、熟す前は果実の表面にフケ状の斑紋 white flecks が多い。果実の萼片が基部から顕著に反曲する。果実中の球状顆粒sclerotic granulesは0~5(6)個。種子は長さ2㎜以下、白色~黄色~淡黄褐色~淡褐色。
調査結果
果実の光沢、フケ状班紋、球状顆粒によりテリミノイヌホオズキと判断してきたが、特徴などは以下のとおりであり、 花序の形、葯の色、果実の光沢、球状顆粒数、種子の色の違いからテリミノイヌホオズキは4タイプに分けられる。他のイヌホオズキ類との比較はイヌホオズキ類の比較表にまとめた。
草形
茎は直立するのが普通であるが、倒伏することも多く、カンザシイヌホオズキ型と垂れ実型が並んで生えていることも多い。
花序
花序の小果柄が立つものをカンザシイヌホオズキ型、垂れ下がるのを垂れ実型としている。しかし、中間的なものも見られ、一部の小果柄だけが垂れ下がるものは区別が難しいため、種子の色が白色のものはカンザシイヌホオズキ型に含めた。
萼
蕾の萼片は花によって大きさや形が変化し、萼片の基部の幅が狭く、基部の間が離れるものと、萼片の基部が幅広くて基部の間が近いものの2種の傾向はあるものの、判別に使うのは難しい。果実の萼片は基部から顕著に反曲する。
果実
カンザシイヌホオズキ型も垂れ実型も果実に光沢の少ないものが見られ、垂れ実型は光沢の弱いものがしばしば見られる。果実はやや横幅が広く、縦幅と高さが短い楕円状になる。フケ状班紋は明らかに多く、子房に斑点が見えるものがある。
種子
種子の色は白色と淡褐色のものがある。完熟した果実では種子の紫色が強くやや判りにくいが、完熟前の緑色の果実の種子では明瞭に差がある。種子の長さがほとんど1.5㎜以下であるが1.8㎜のものもある。
球状顆粒
球状顆粒があるものはほとんど無く、カンザシイヌホオズキ型の果実9個だけに1~2個が混ざるものがあった。球状顆粒が0~2個の株の周りを調べたが、外観が同じでも全く球状顆粒がない株が多く、10個の果実中にたった1個、直径0.3㎜の小さな球状顆粒があっただけの株もあった。それまでの調査で球状顆粒を見落としているおそれも十分ある。球状顆粒以外に際立った差はなく、カンザシイヌホオズキを球状顆粒の有無で区分するのは困難と思われる。
テリミノイヌホオズキのタイプ別調査結果
カンザシイヌホオズキ型(球状顆粒無) | カンザシイヌホオズキ型(球状顆粒有) | 小計(カンザシイヌホオズキ型) | 垂れ実型(種子白色) | 垂れ実型(種子淡褐色) | 総計 | |||
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花 | 花序の花(個) | 3~11 | 3~8 | 3~11 | 3~ 7 | 3~9 | 3~11 | |
花径 | 範囲 ㎜ | 4.5~12 | 6~8 | 4.5~12 | 7~10 | 6~13 | 4.5~13 | |
平均 ㎜ | 7.5 | 7 | 7.5 | 8.5 | 9 | 8 | ||
データ数 | 95 | 25 | 120 | 24 | 76 | 220 | ||
花柱 | 範囲 ㎜ | 1.6~2.9 | 1.6~1.9 | 1.6~2.9 | 1.9~2.5 | 2.1~3.7 | 1.6~3.7 | |
平均 ㎜ | 2.2 | 1.8 | 2.1 | 2.3 | 3.1 | 2.5 | ||
データ数 | 16 | 6 | 22 | 11 | 18 | 51 | ||
葯 | 範囲 ㎜ | 1.1~1.6 | 1.2~1.6 | 1.1~1.6 | 1.3~1.5 | 1.4~1.9 | 1.1~1.9 | |
平均 ㎜ | 1.4 | 1.3 | 1.3 | 1.4 | 1.7 | 1.5 | ||
データ数 | 35 | 13 | 48 | 29 | 30 | 107 | ||
花粉 | 範囲μm | 26~33 | 27~33 | 26~33 | 29~33 | 25~28 | 25~33 | |
平均μm | 29 | 29 | 29 | 31 | 27 | 29 | ||
データ数 | 20 | 21 | 41 | 10 | 10 | 61 | ||
果実 | 楕円性 | 横長 | 横長 | 横長 | 横長 | 横長 | 横長 | |
光沢 | 強 | 強 | 強 | 強 | 強/弱 | 強 | ||
フケ班紋 | 多 | 多 | 多 | 多 | 多 | 多 | ||
果径 | 範囲 ㎜ | 3~8.5 | 5.5~8 | 3~8.5 | 6~9 | 4.5~9 | 3~9 | |
平均 ㎜ | 6.5 | 7 | 6.5 | 8 | 7 | 7 | ||
データ数 | 78 | 23 | 101 | 15 | 58 | 174 | ||
種子数 | 範囲 個 | (2)30~67 | (10)38~67 | (2)30~67 | (17)26~59 | (7)35~77 | (2)26~77 | |
平均 個 | 37 | 41 | 38 | 42 | 43 | 40 | ||
データ数 | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ||
顆粒数 | 範囲 個 | 0 | 0~2 | 0~2 | 0 | 0 | 0 | |
平均 個 | 0 | 0.5 | 0.1 | 0 | 0 | 0.1 | ||
データ数 | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ||
種子 | 色 | 白 | 白 | 白 | 白 | 淡褐 | 淡褐 | |
種子長 | 範囲 ㎜ | 1.2~1.6 | 1.4~1.6 | 1.2~1.6 | 1.3~1.7 | 1.2~1.8 | 1.2~1.8 | |
平均 ㎜ | 1.4 | 1.5 | 1.5 | 1.5 | 1.6 | 1.5 | ||
データ数 | 91 | 110 | 201 | 111 | 156 | 468 |
【テリミノイヌホオズキの4タイプ別の特徴】
テリミノイヌホオズキのタイプ
カンザシイヌホオズキ型 |
垂れ実型 |
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A | B | C | D | |
全形 | 直立又は倒伏 | 直立 | 倒伏 | 直立又は倒伏 |
萼片 | 果実の萼は基部から強く反曲する |
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花序の形 | 小果柄が上向き~水平、垂れ下がるものが混じる | 小果柄が上向き | 小果柄が垂れ下がる | 小果柄が垂れ下がる |
果実の光沢 | 強 | 強 | 強 | 強、やや弱いことがある |
葯の色 | 黄色 | 黄色 | 褐色を帯びる | 黄色 |
果実の表面 | フケ状班紋が明瞭に多数見える |
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種子の色 | 白色 | 白色 | 白色 | 淡褐色 |
球状顆粒 | 0 | 0~2 | 0 | 0 |
疑問点など
1 カンザシイヌホオズキ型と垂れ実型を分ける場合、中間型がある。
2 果実の光沢は強いものと弱いものがある。
3 花序はカンザシイヌホオズキ型であるが、果実の光沢が少なく、種子が淡褐色のものが1株だけあった。すぐに枯れてしまい詳細不明。
カンザシイヌホオズキA型 | 垂れ実型 |
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