イヌホオズキ類の果実
Flora of Mikawa
イヌホオズキ類
イヌホオズキ類の分類には、果実が判別の重要ポイントである。果実をつぶして種子を調べていると、完熟したものは甘い良い香りがする。有毒で食べられないが、食べたくなるような良い香りである。
表4 イヌホオズキ類の果実
※ 果実中の種子数は果実が小さいと明らかに少なくなるため、種子数は果径が7㎜以上のものを集計した。()内は果実の径が7㎜未満の全てを含めたとき。
※ 表1の範囲から全く外れるデータは赤色、範囲外に及ぶデータは青色とした。
※ ダグラスイヌホオズキはSolanum douglasiiと思われるものの仮称。
※ ダグラスイヌホオズキの球状顆粒数の()は花の未確認のものを含めたとき。
※ テリミノイヌホオズキにはこの表にあてはまらないものがある。
※ 調査データ数は表7参照
イヌホオズキ類の熟した果実の形をよく見ると、完全な球形でなく、普通02~0.5㎜ほどの差であるがやや楕円状になっているのが普通である。横長になるものが多く、果実が大きいと顕著になり、オオイヌホオズキでも果径が9㎜を越えると横から見て、明瞭な楕円状になる。上から見ても楕円状である。中間型やテリミノイヌホオズキ(垂れ実型)も果実の横幅が9㎜程度の大きいものは明瞭な楕円で、縦幅が1~1.5㎜ほど短い。イヌホオズキだけはわずかに縦長になるのを除き、種類の差より大きさの差と思われる。
イヌホオズキ類の果実の表面には白色の小さなフケ状の班紋(white flecks 白色の斑点)が出る。白い斑点状のものが果実の内側の果肉にあり、果皮が薄いために透過して見える。果実が熟すとよく見えなくなる。果実が大きくなって黒くなる前の緑色のときに見やすい。テリミノイヌホオズキはこのフケ状の班紋が、果実の光沢が弱いときにも明瞭で、他種との区別ができる。テリミノイヌホオズキの垂れ実型で種子が白色のものは特に光沢が強く、フケ状班紋もはっきり見える。種子が淡褐色のものは光沢が弱いものもあり、フケ状班紋が均等に見えず、果実の一部でしか見えないこともある。
果実のフケ状様班紋
イヌホオズキ類の果実は初めは緑色で、熟すとほぼ黒色になる。果実の光沢も異なり、イヌホオズキはほとんど光沢が無いことが多く、テリミノイヌホオズキは光沢が強いことで知られている。現実には光沢は個体差があり、イヌホオズキでもやや光沢があったり、テリミノイヌホオズキでも熟しすぎると光沢が少なくなったりする。典型的なイヌホオズキは果実に全く光沢がなく、緑色のものでも光沢がなく、違いがはっきりわかる。オオイヌホオズキもイヌホオズキと同じようにほとんど光沢がないときがあり、光沢がかなり強いときもある。オオイヌホオズキとダグラスイヌホオズキ Solanum douglasi の写真は最も光沢がなかったときのもの。テリミノイヌホオズキ(垂れ実型)は光沢の弱いことがあり、テリミノイヌホオズキにそぐわない感がある。野外では日射の強さも変化し、光沢を比較するのは難しい場合もある。黒く熟す前の緑色でも光沢の差がわかり、フケ状の班紋の様子も見られる。フケ状班紋の写真は同じ光源で撮影したものであり、光沢の差もよくわかる。
黒い果実の光沢の比較
果実径は実体顕微鏡下で0.5㎜スケールで測定した。楕円体になるものも多いので最大径を測定し、これを果実径とした。途中からデジタル表示のノギスを使ってみたが、強く挟むと0.2㎜ほど縮んでしまう。挟んで持ち上げても落ちないところで測定すると一定になる。
果実も小さいまま、熟してしまうことが普通に起き、株によってもかなり大きさに違いがあるので、果実の大きさの比較は簡単ではない。多数調べると平均径がずれてくるのでこのずれがほとんどなくなるまでデータ数を増やさないとほんとうのところはわからない。調査データ数がまだ少ないのではっきりはいえないが、公表されているデータどおり、テリミノイヌホオズキだけやや小さく、他はほとんど変わりないものと思われる。同じ種でも調査場所ごとにかなり違うことが解った。
萼にも差があり、果実が熟してくると萼片が反曲する。イヌホオズキは反曲が遅いことが多く、裂片の基部が果実に付着し、先だけがまくれ上がり、オオイヌホオズキもややその傾向がある。テリミノイヌホオズキは未熟なうちから反曲し、裂片の基部近くからまくれ上がる。ただし、熟して時間が経ったものはどれもよく似てくる。虫に食われて先が欠け、よくわからない萼片も多い。
果実中の種子数、球状顆粒数は実体顕微鏡下で分けて計測した。
未熟な果実の中
果実に含まれる種子数は数に明瞭な差があり、大事な目安になる。ただし、小さい果実ではどの種も極端に種子数が減るので、小さい果実の極端に種子数が減るものを除いて判定した方がよいと思われる。テリミノイヌホオズキは果径6.5㎜未満、他は7㎜未満になると種子数が大幅に減った。テリミノイヌホオズキ(カンザシイヌホオズキ型)の直径3.1.㎜の果実が最も小さく、種子は2個だった。判定の目安にするだけなら、どの種も果径7㎜が範囲に入っているので、それ以上の大きさの果実の種子数を調べれば、判定の目安になる。黒色の果実がなくても、緑色の大きい果実があれば種子数や球状顆粒数の確認には全く支障はないと当初、思っていたが、0.3㎜ほどの小さい球状顆粒は熟していないと見つけにくい。果実が黒くても完全な種子になりきれなかった厚さが薄いものもよく見られる。小さなものを除いてほぼ大きさが同じものは厚さの判定が簡単にできないので薄くても数に入れている。
イヌホオズキ類には白色~淡黄色の硬い顆粒(球状顆粒 sclerotic granules)が種子と一緒に含まれているものがある。ほぼ球形であり、楕円形のものも混じる。球状顆粒が何のためにどうしてあるのかまだ、解明されていないが、種の判別には重要とされている。球状顆粒の大きさには違いがあり、直径0.3㎜程度のかなり小さいものが混じる時があるので、数を数えるのはやっかいである。標本にして乾燥させて見る方法もあるが、乾燥に時間がかかるので、実体顕微鏡下でピンセットで分けて数えるのが早い。球状顆粒は果皮付近にあるので、果実をつぶすと果皮に付着して見つかるものが多い。球状顆粒数の公表データも皆同じという訳でなく、違っているものがあり、変化することを物語っているのではないだろうか。テリミノイヌホオズキ(カンザシイヌホオズキ型)は球状顆粒がないとされていたが、稀に球状顆粒を1~2個含むものがあることがわかった。10個の果実を調べてほとんど0であり、0.3㎜ほどの小さな球状顆粒が1個だけ見つかったということがあった。また、同一花序の4個の果実が3、3、7、7個の球状顆粒だったこともあり、球状顆粒は多数の果実を調べないとはっきりしないことがわかってきた。多数の果実の0.3㎜の球状顆粒を探すのは大変しんどい作業である。
表4 イヌホオズキ類の果実
イヌホオズキ | オオイヌホオズキ | ダグラスイヌホオズキ※ Solanum douglasii |
アメリカイヌホオズキ | ムラサキイヌホオズキ | テリミノイヌホオズキ | |||||
カンザシイヌホオズキ型 | 垂れ実型(種子白色) | 垂れ実型(種子淡褐色) | ||||||||
果 実 |
楕円性 | 縦長 | 微横長 | 微横長 | 微横長 | 横長 | 横長 | 横長 | 横長 | |
光沢 | 無 | 有 | 有 | 有 | 強/有 | 強 | 強 | 強/弱 | ||
フケ班紋 | 少 | 少 | 少 | 少 | 多 | 多 | 多 | 多 | ||
果 径 |
範囲 ㎜ | 5~9 | 5~10 | 5~9 | 5~8.5 | 6~9 | 3~8.5 | 6~9 | 4.5~10 | |
平均 ㎜ | 7.6 | 8 | 7 | 7 | 8 | 6.5 | 8 | 7 | ||
種 子 数 |
範囲 個 | (5)22~53 | (9)69~110 | (20)63~125 | (12)69~118 | (13)32~87 | (2)30~67 | (17)26~59 | (7)27~88 | |
平均 個 | 34 | 78 | 89 | 83 | 53 | 38 | 42 | 44 | ||
顆 粒 数 |
範囲 個 | 0 | 5~12 | 0~4 (0~7) |
4~6 | 2~6 | 0~2 | 0 | 0 | |
平均 個 | 0 | 9 | 2(3) | 5 | 5 | 0.1 | 0 | 0 |
※ 表1の範囲から全く外れるデータは赤色、範囲外に及ぶデータは青色とした。
※ ダグラスイヌホオズキはSolanum douglasiiと思われるものの仮称。
※ ダグラスイヌホオズキの球状顆粒数の()は花の未確認のものを含めたとき。
※ テリミノイヌホオズキにはこの表にあてはまらないものがある。
※ 調査データ数は表7参照
1 果実の楕円性
イヌホオズキ類の熟した果実の形をよく見ると、完全な球形でなく、普通02~0.5㎜ほどの差であるがやや楕円状になっているのが普通である。横長になるものが多く、果実が大きいと顕著になり、オオイヌホオズキでも果径が9㎜を越えると横から見て、明瞭な楕円状になる。上から見ても楕円状である。中間型やテリミノイヌホオズキ(垂れ実型)も果実の横幅が9㎜程度の大きいものは明瞭な楕円で、縦幅が1~1.5㎜ほど短い。イヌホオズキだけはわずかに縦長になるのを除き、種類の差より大きさの差と思われる。
2 果実のフケ状班紋 white flecks
イヌホオズキ類の果実の表面には白色の小さなフケ状の班紋(white flecks 白色の斑点)が出る。白い斑点状のものが果実の内側の果肉にあり、果皮が薄いために透過して見える。果実が熟すとよく見えなくなる。果実が大きくなって黒くなる前の緑色のときに見やすい。テリミノイヌホオズキはこのフケ状の班紋が、果実の光沢が弱いときにも明瞭で、他種との区別ができる。テリミノイヌホオズキの垂れ実型で種子が白色のものは特に光沢が強く、フケ状班紋もはっきり見える。種子が淡褐色のものは光沢が弱いものもあり、フケ状班紋が均等に見えず、果実の一部でしか見えないこともある。
果実のフケ状様班紋
イヌホオズキ |
オオイヌホオズキ |
ダグラスイヌホオズキ※4 |
---|---|---|
アメリカイヌホオズキ |
ムラサキイヌホオズキ |
|
テリミノイヌホオズキ垂れ実型・種子白色 |
テリミノイヌホオズキ垂れ実型・種子淡褐色 |
同左 光沢が弱いとき |
3 果実の光沢
イヌホオズキ類の果実は初めは緑色で、熟すとほぼ黒色になる。果実の光沢も異なり、イヌホオズキはほとんど光沢が無いことが多く、テリミノイヌホオズキは光沢が強いことで知られている。現実には光沢は個体差があり、イヌホオズキでもやや光沢があったり、テリミノイヌホオズキでも熟しすぎると光沢が少なくなったりする。典型的なイヌホオズキは果実に全く光沢がなく、緑色のものでも光沢がなく、違いがはっきりわかる。オオイヌホオズキもイヌホオズキと同じようにほとんど光沢がないときがあり、光沢がかなり強いときもある。オオイヌホオズキとダグラスイヌホオズキ Solanum douglasi の写真は最も光沢がなかったときのもの。テリミノイヌホオズキ(垂れ実型)は光沢の弱いことがあり、テリミノイヌホオズキにそぐわない感がある。野外では日射の強さも変化し、光沢を比較するのは難しい場合もある。黒く熟す前の緑色でも光沢の差がわかり、フケ状の班紋の様子も見られる。フケ状班紋の写真は同じ光源で撮影したものであり、光沢の差もよくわかる。
黒い果実の光沢の比較
イヌホオズキ |
オオイヌホオズキ |
ダグラスイヌホオズキ |
アメリカイヌホオズキ |
---|---|---|---|
ムラサキイヌホオズキ |
カンザシイヌホウズキ型 |
垂れ実型・種子白色 |
垂れ実型・種子淡褐色 |
4 果実の大きさ
果実径は実体顕微鏡下で0.5㎜スケールで測定した。楕円体になるものも多いので最大径を測定し、これを果実径とした。途中からデジタル表示のノギスを使ってみたが、強く挟むと0.2㎜ほど縮んでしまう。挟んで持ち上げても落ちないところで測定すると一定になる。
果実も小さいまま、熟してしまうことが普通に起き、株によってもかなり大きさに違いがあるので、果実の大きさの比較は簡単ではない。多数調べると平均径がずれてくるのでこのずれがほとんどなくなるまでデータ数を増やさないとほんとうのところはわからない。調査データ数がまだ少ないのではっきりはいえないが、公表されているデータどおり、テリミノイヌホオズキだけやや小さく、他はほとんど変わりないものと思われる。同じ種でも調査場所ごとにかなり違うことが解った。
5 果実の萼
萼にも差があり、果実が熟してくると萼片が反曲する。イヌホオズキは反曲が遅いことが多く、裂片の基部が果実に付着し、先だけがまくれ上がり、オオイヌホオズキもややその傾向がある。テリミノイヌホオズキは未熟なうちから反曲し、裂片の基部近くからまくれ上がる。ただし、熟して時間が経ったものはどれもよく似てくる。虫に食われて先が欠け、よくわからない萼片も多い。
6 果実に含まれる種子数と球状顆粒数
果実中の種子数、球状顆粒数は実体顕微鏡下で分けて計測した。
未熟な果実の中
カンザシイヌホオズキ型 | |
果実に含まれる種子数は数に明瞭な差があり、大事な目安になる。ただし、小さい果実ではどの種も極端に種子数が減るので、小さい果実の極端に種子数が減るものを除いて判定した方がよいと思われる。テリミノイヌホオズキは果径6.5㎜未満、他は7㎜未満になると種子数が大幅に減った。テリミノイヌホオズキ(カンザシイヌホオズキ型)の直径3.1.㎜の果実が最も小さく、種子は2個だった。判定の目安にするだけなら、どの種も果径7㎜が範囲に入っているので、それ以上の大きさの果実の種子数を調べれば、判定の目安になる。黒色の果実がなくても、緑色の大きい果実があれば種子数や球状顆粒数の確認には全く支障はないと当初、思っていたが、0.3㎜ほどの小さい球状顆粒は熟していないと見つけにくい。果実が黒くても完全な種子になりきれなかった厚さが薄いものもよく見られる。小さなものを除いてほぼ大きさが同じものは厚さの判定が簡単にできないので薄くても数に入れている。
イヌホオズキ類には白色~淡黄色の硬い顆粒(球状顆粒 sclerotic granules)が種子と一緒に含まれているものがある。ほぼ球形であり、楕円形のものも混じる。球状顆粒が何のためにどうしてあるのかまだ、解明されていないが、種の判別には重要とされている。球状顆粒の大きさには違いがあり、直径0.3㎜程度のかなり小さいものが混じる時があるので、数を数えるのはやっかいである。標本にして乾燥させて見る方法もあるが、乾燥に時間がかかるので、実体顕微鏡下でピンセットで分けて数えるのが早い。球状顆粒は果皮付近にあるので、果実をつぶすと果皮に付着して見つかるものが多い。球状顆粒数の公表データも皆同じという訳でなく、違っているものがあり、変化することを物語っているのではないだろうか。テリミノイヌホオズキ(カンザシイヌホオズキ型)は球状顆粒がないとされていたが、稀に球状顆粒を1~2個含むものがあることがわかった。10個の果実を調べてほとんど0であり、0.3㎜ほどの小さな球状顆粒が1個だけ見つかったということがあった。また、同一花序の4個の果実が3、3、7、7個の球状顆粒だったこともあり、球状顆粒は多数の果実を調べないとはっきりしないことがわかってきた。多数の果実の0.3㎜の球状顆粒を探すのは大変しんどい作業である。