イヌホオズキ類の花
Flora of Mikawa
イヌホオズキ類
イヌホオズキ類の花期は長く、花は早いものは6月から見られ、三河地方では12月まで花が見られる。花が10月頃ほとんどなく、黒い果実だけになっている場所もあれば、12月に花ばかりで、黒い果実がまだない場所もある。アメリカイヌホオズキは1年草であるためか、少ないためなのか定かではないが、11月で花が見られなくなる。
イヌホオズキ類の花は花冠が白色で、淡紫色を帯びることもあり、5深裂し、裂片の縁には短毛があり、しばしば裂片が反り返る。花冠の切れ込みの深さや、幅に差異がある。まれには裂片が4個や6個の花もある。裂片が縮れることもある。花冠の色は白色~淡紫色、花冠の基部は黄~黄褐色になる。雄しべは5個、基部で花冠と合着し、花糸の内面に白毛がある。アメリカイヌホオズキやムラサキイヌホオズキでは花糸の白毛がほとんどないこともある。葯は鮮やかな黄色。花粉は白色。雌しべ1個。花柱は断面が円く、やや蛇行し、先が鉤状に曲がることもよくあり、子房との境がややくびれていることが多い。柱頭はほぼ球形。花柱が葯の間から突き出すこともよくある。ダグラスイヌホオズキと思われる株では花が開いた時期にすでに子房が大きくなり、花柱が葯の上に突き出しているものが見られた。テリミノイヌホオズキなどで、果実ができかかっても花冠が残っていることもある。
アメリカイヌホオズキやムラサキイヌホオズキの花は淡紫色が普通であるが、他のいずれの花も淡紫色になることがあり、色だけでは判別できない。テリミノイヌホオズキ(カンザシ型)の花が淡紫色のものはしばしば見られる。
表3 花
※ 表1の範囲から全く外れるデータは赤色、範囲外に及ぶデータは青色とした。
※ ダグラスイヌホオズキはSolanum douglasiiと思われるものの仮称。
※ 調査データ数は表7参照
花冠の裂片が反曲することが多いので、反曲した花と平開した花では幅が全く異なってしまう。花径は星形に平開した花冠だけの最大幅とした。花径はフィールドで平開している花を0.5㎜単位のスケールで測定した。植物を採取し、持ち帰って測定すると平開していても小さく見え、花瓶で水を吸わせると戻って大きくなることにより、採取して時間が経つと花が縮小してしまうことがわかった。フィールドで測定するか戻して測定しないと誤差が大きい。フィールドで花を観察すると、6㎜くらいが花径の最小限界に近く見え、それより小さいものはほとんどなかった。花が小さいと葯の大きさが花冠いっぱいになり、バランスがくずれてしまうように見える。花径が4~6㎜としているデータは花冠裂片が反り返ったものを測定したものとしか考えられない。花の最大径と最小径を調べたところ、花径の範囲の中間値くらいの大きさの花が多く、平均値とほぼ一致する。花を見つけたらメジャーで花冠の開いた花の最大径と最小径を測ると違いがよくわかると思う。メジャーが無い時は1円硬貨の直径が2㎝なので比べて見てほしい。
花の大きさは同種でもかなり株によって差があり、大きさの比較は思ったより難しい。イヌホオズキ、オオイヌホオズキ、ダグラスイヌホオズキは13㎜以上あるものがよく混じり、テリミノイヌホオズキやアメリカイヌホオズキは普通12㎜以下である。ただし、アメリカイヌホオズキは最大15㎜とされており、かなり大きいこともあるようである。8~12㎜(約1㎝)がイヌホオズキ類の花の普通の大きさといえる。
ここでは形の差を見るため、裂片が星形に開いたものばかりを載せている。実際には裂片の反り返りもよく起こり、反り返ったものばかりのときがあり、開いたものばかりのときもある。
花冠は深裂するが、同じ株の花でも切れ込みの深さに変化があることがある。同一の花の裂片で切れ込みの深さに差のあることもよくある。イヌホオズキは明らかに切れ込みの深さが浅く、裂片の幅が広い。オオイヌホオズキやテリミノイヌホオズキでも浅く見える場合もあり、花が極端に小さいと裂片の長さが短いため、切れ込みが浅く感じられる。切れ込みが変化し、似ているように見えるものもあれば、切れ込みが浅く違うもののように見えるときも多い。アメリカイヌホオズキ、ムラサキイヌホオズキ、テリミノイヌホオズキ類はよく似ていて判別は困難と思える。下の写真で裂片の幅が違って見えるものもある。この程度の変化はどの種でも普通である。垂れ実型の種子の白いものは黄色の葯が褐色を帯びる特徴がある。
イヌホオズキ類の花(花の大きさを比べられるよう写真の倍率を調整している。)
イヌホオズキ類の萼は先が5裂し、果実が大きくなっても大きくならず、反り返る。萼も大きさや萼片の幅が違い、よく見ると形が違う。萼片は形が不揃いなことも多い。果実の萼を比べることが多いが、形の違いは蕾のときに見るのがよいと思う。テリミノイヌホオズキの同一株の萼片を比べると高さや幅がかなり変化する。それでも幅が狭いものと幅が広いものがある。カンザシイヌホオズキ型は萼片の幅が狭いものが多く、広いものが少ない。垂れ実型は萼片の幅が広いものが多く、狭いものは少ない。あまり差が無いものもある。例外も多く、傾向があるという程度にしておくほうが間違いがないと思われる。
同一株の萼片の変化
1 テリミノイヌホオズキ(カンザシイヌホオズキ型) 萼片の狭いもの
2 テリミノイヌホオズキ(垂れ実型) 萼片の幅の広いもの
イヌホオズキ類の蕾
花序につく花数は幅があり普通、1~12個、アメリカイヌホオズキは花序の花数が1~5個である。先端付近や下の方につく花序の花数が少ないことが多く、アメリカイヌホオズキでは1個だけということもある。普通は3個以上の花がつき、アメリカイヌホオズキだけ少なくなる。花数の上限を気にかけてしまいがちだが、1、2個のものがあるかどうか確認することも大事である。テリミノイヌホオズキのように普通花数が多いものでも花や葉が小型で、花序につく花数が3、4個で5個がないものがあった。(1例だけのため集計には入れていない。)これには花が2個の花序もあり、稀にはどれも2個になるということと推定される。例外もあり、花序の花数だけではアメリカイヌホオズキと判断できない例である。確認できた中で最も花数が多い花序はイヌホオズキの17個(下の写真)が最大であった。最も少ないのはアメリカイヌホオズキの1個である。
イヌホオズキ類の花は花冠が白色で、淡紫色を帯びることもあり、5深裂し、裂片の縁には短毛があり、しばしば裂片が反り返る。花冠の切れ込みの深さや、幅に差異がある。まれには裂片が4個や6個の花もある。裂片が縮れることもある。花冠の色は白色~淡紫色、花冠の基部は黄~黄褐色になる。雄しべは5個、基部で花冠と合着し、花糸の内面に白毛がある。アメリカイヌホオズキやムラサキイヌホオズキでは花糸の白毛がほとんどないこともある。葯は鮮やかな黄色。花粉は白色。雌しべ1個。花柱は断面が円く、やや蛇行し、先が鉤状に曲がることもよくあり、子房との境がややくびれていることが多い。柱頭はほぼ球形。花柱が葯の間から突き出すこともよくある。ダグラスイヌホオズキと思われる株では花が開いた時期にすでに子房が大きくなり、花柱が葯の上に突き出しているものが見られた。テリミノイヌホオズキなどで、果実ができかかっても花冠が残っていることもある。
アメリカイヌホオズキやムラサキイヌホオズキの花は淡紫色が普通であるが、他のいずれの花も淡紫色になることがあり、色だけでは判別できない。テリミノイヌホオズキ(カンザシ型)の花が淡紫色のものはしばしば見られる。
表3 花
イヌホオズキ | オオイヌホオズキ | ダグラスイヌホオズキ※ Solanum douglasii |
アメリカイヌホオズキ | ムラサキイヌホオズキ | テリミノイヌホオズキ | |||||
カンザシイヌホオズキ型 | 垂れ実型(種子白色) | 垂れ実型(種子淡褐色) | ||||||||
花 | 花序の花 個 | 4~11 | 3~ 8 | 2~9 | 1~ 5 | 2~6 | 3~11 | 3~ 7 | 3~9 | |
花 径 |
範囲 ㎜ | 9~14 | 7~15.5 | 7~17 | 6~12 | 6~12 | 4.5~12 | 7~10 | 6~13 | |
平均 ㎜ | 11 | 11 | 13 | 9 | 8 | 7.5 | 8 | 10 | ||
花 柱 |
範囲 ㎜ | 3.3~4.0 | 3.3~4.7 | 3.6~4.7 | 2.1~2.8 | 2.0~2.5 | 1.6~2.9 | 1.9~2.5 | 2.2~3.7 | |
平均 ㎜ | 3.7 | 4.0 | 4.0 | 2.4 | 2.2 | 2.1 | 2.3 | 3.2 | ||
葯 | 範囲 ㎜ | 1.8~2.6 | 2.2~2.8 | 2.3~2.9 | 1.4~1.6 | 1.2~1.8 | 1.1~1.6 | 1.3~1.5 | 1.4~1.9 | |
平均 ㎜ | 2.2 | 2.5 | 2.6 | 1.5 | 1.4 | 1.3 | 1.4 | 1.7 | ||
花 粉 |
範囲μm | 35~41 | 25~33 | 25~28 | 27~33 | 25~31 | 26~33 | 29~33 | 25~28 | |
平均μm | 38 | 29 | 27 | 30 | 28 | 29 | 31 | 27 |
※ ダグラスイヌホオズキはSolanum douglasiiと思われるものの仮称。
※ 調査データ数は表7参照
1 花の大きさ
花冠の裂片が反曲することが多いので、反曲した花と平開した花では幅が全く異なってしまう。花径は星形に平開した花冠だけの最大幅とした。花径はフィールドで平開している花を0.5㎜単位のスケールで測定した。植物を採取し、持ち帰って測定すると平開していても小さく見え、花瓶で水を吸わせると戻って大きくなることにより、採取して時間が経つと花が縮小してしまうことがわかった。フィールドで測定するか戻して測定しないと誤差が大きい。フィールドで花を観察すると、6㎜くらいが花径の最小限界に近く見え、それより小さいものはほとんどなかった。花が小さいと葯の大きさが花冠いっぱいになり、バランスがくずれてしまうように見える。花径が4~6㎜としているデータは花冠裂片が反り返ったものを測定したものとしか考えられない。花の最大径と最小径を調べたところ、花径の範囲の中間値くらいの大きさの花が多く、平均値とほぼ一致する。花を見つけたらメジャーで花冠の開いた花の最大径と最小径を測ると違いがよくわかると思う。メジャーが無い時は1円硬貨の直径が2㎝なので比べて見てほしい。
花の大きさは同種でもかなり株によって差があり、大きさの比較は思ったより難しい。イヌホオズキ、オオイヌホオズキ、ダグラスイヌホオズキは13㎜以上あるものがよく混じり、テリミノイヌホオズキやアメリカイヌホオズキは普通12㎜以下である。ただし、アメリカイヌホオズキは最大15㎜とされており、かなり大きいこともあるようである。8~12㎜(約1㎝)がイヌホオズキ類の花の普通の大きさといえる。
2 花の形
ここでは形の差を見るため、裂片が星形に開いたものばかりを載せている。実際には裂片の反り返りもよく起こり、反り返ったものばかりのときがあり、開いたものばかりのときもある。
花冠は深裂するが、同じ株の花でも切れ込みの深さに変化があることがある。同一の花の裂片で切れ込みの深さに差のあることもよくある。イヌホオズキは明らかに切れ込みの深さが浅く、裂片の幅が広い。オオイヌホオズキやテリミノイヌホオズキでも浅く見える場合もあり、花が極端に小さいと裂片の長さが短いため、切れ込みが浅く感じられる。切れ込みが変化し、似ているように見えるものもあれば、切れ込みが浅く違うもののように見えるときも多い。アメリカイヌホオズキ、ムラサキイヌホオズキ、テリミノイヌホオズキ類はよく似ていて判別は困難と思える。下の写真で裂片の幅が違って見えるものもある。この程度の変化はどの種でも普通である。垂れ実型の種子の白いものは黄色の葯が褐色を帯びる特徴がある。
イヌホオズキ類の花(花の大きさを比べられるよう写真の倍率を調整している。)
イヌホオズキ |
オオイヌホオズキ |
ダグラスイヌホオズキ※2 |
---|---|---|
垂れ実型・種子白色 |
垂れ実型・種子白色の葯 |
垂れ実型・種子淡褐色 |
垂れ実型・種子白色 | 垂れ実型・種子白色の葯 | 垂れ実型・種子淡褐色 |
3 蕾の萼
イヌホオズキ類の萼は先が5裂し、果実が大きくなっても大きくならず、反り返る。萼も大きさや萼片の幅が違い、よく見ると形が違う。萼片は形が不揃いなことも多い。果実の萼を比べることが多いが、形の違いは蕾のときに見るのがよいと思う。テリミノイヌホオズキの同一株の萼片を比べると高さや幅がかなり変化する。それでも幅が狭いものと幅が広いものがある。カンザシイヌホオズキ型は萼片の幅が狭いものが多く、広いものが少ない。垂れ実型は萼片の幅が広いものが多く、狭いものは少ない。あまり差が無いものもある。例外も多く、傾向があるという程度にしておくほうが間違いがないと思われる。
同一株の萼片の変化
1 テリミノイヌホオズキ(カンザシイヌホオズキ型) 萼片の狭いもの
2 テリミノイヌホオズキ(垂れ実型) 萼片の幅の広いもの
イヌホオズキ類の蕾
イヌホオズキ | オオイヌホオズキ | ダグラスイヌホオズキ※2 |
---|---|---|
花冠の幅が広く、萼片が短い | 花冠の長さが長い | 花冠の長さが長い |
アメリカイヌホオズキ | ムラサキイヌホオズキ | カンザシイヌホオズキ型 |
萼が紫色を帯びない | 萼が紫色を帯びる | 萼が細く、萼片の幅が狭い |
テリミノイヌホオズキ垂れ実型 | カンザシイヌホオズキ型の萼片 | |
萼が細く、萼片の幅が広い |
4 花序につく花数
花序につく花数は幅があり普通、1~12個、アメリカイヌホオズキは花序の花数が1~5個である。先端付近や下の方につく花序の花数が少ないことが多く、アメリカイヌホオズキでは1個だけということもある。普通は3個以上の花がつき、アメリカイヌホオズキだけ少なくなる。花数の上限を気にかけてしまいがちだが、1、2個のものがあるかどうか確認することも大事である。テリミノイヌホオズキのように普通花数が多いものでも花や葉が小型で、花序につく花数が3、4個で5個がないものがあった。(1例だけのため集計には入れていない。)これには花が2個の花序もあり、稀にはどれも2個になるということと推定される。例外もあり、花序の花数だけではアメリカイヌホオズキと判断できない例である。確認できた中で最も花数が多い花序はイヌホオズキの17個(下の写真)が最大であった。最も少ないのはアメリカイヌホオズキの1個である。
5 花序の形
イヌホオズキ類の花序は節間につき、柄があり、柄の先に集まってほぼ散状又は短い総状に小花柄のある花がつく。イヌホオズキは花序の中軸(小花柄のつく軸)がやや長く、総状に花がつく。花数が少ない4個の場合でも明らかに総状になったものが見られる。オオイヌホオズキは花数が少ないとほぼ散状につき、花数が多くなると離れてつくことがあり、総状となる。アメリカイヌホオズキは花数が少ないため、ほぼ散状につく。テリミノイヌホオズキは花がほぼ散状についたり、総状についたりする。変化もあり、散状か総状かは参考程度にとどめた方がよい。オオイヌホオズキは1花序に散形花序が2個ついたものがあった。テリミノイヌホオズキでも2個に花序が分かれたものが時々見られる。南アメリカ原産で合衆国西海岸やオーストラリアの東海岸などに帰化しているSolanum
furcatum(South American black nightshade , forked nightshade)は花序が大きい時に1つの花序に2つの明瞭な散状花序をもつことで知られている。
テリミノイヌホオズキでは小果柄が上向きに立つことがあり、カンザシイヌホオズキ型と呼ばれている。下向きになるものもあり、中間型と思われるものもある。テリミノイヌホオズキのカンザシイヌホオズキ型以外は下向きに垂れる。右の写真はカンザシイヌホオズキ型のやや垂れた花序であり、花序が2個に分かれている。
花が大きいと花柱の長さや葯の長さも大きくなる。オオイヌホオズキは花柱が葯の上に出ず、テリミノイヌホオズ(カンザシイヌホオズキ型)は葯の間から花柱が突き出る。花柱と葯の長さの比も大きい。他は少し頭が出る程度が多い。ダグラスイヌホオズキは花柱が葯の間から突き出ることが多い種であるが、確認した長く突き出ているものは開花した花の子房が大きくなり、花柱を下から押し上げていた。
イヌホオズキ類の花粉粒は白色のほぼ楕円形であり、形は皆、よく似ている。イヌホオズキの花粉粒は大きいもので長さが40μmほどあり、他の種の30μm程度より明らかに大きい。
テリミノイヌホオズキでは小果柄が上向きに立つことがあり、カンザシイヌホオズキ型と呼ばれている。下向きになるものもあり、中間型と思われるものもある。テリミノイヌホオズキのカンザシイヌホオズキ型以外は下向きに垂れる。右の写真はカンザシイヌホオズキ型のやや垂れた花序であり、花序が2個に分かれている。
6 花柱と葯の長さ
花が大きいと花柱の長さや葯の長さも大きくなる。オオイヌホオズキは花柱が葯の上に出ず、テリミノイヌホオズ(カンザシイヌホオズキ型)は葯の間から花柱が突き出る。花柱と葯の長さの比も大きい。他は少し頭が出る程度が多い。ダグラスイヌホオズキは花柱が葯の間から突き出ることが多い種であるが、確認した長く突き出ているものは開花した花の子房が大きくなり、花柱を下から押し上げていた。
7 花粉粒の大きさ
イヌホオズキ類の花粉粒は白色のほぼ楕円形であり、形は皆、よく似ている。イヌホオズキの花粉粒は大きいもので長さが40μmほどあり、他の種の30μm程度より明らかに大きい。
イヌホオズキ |
オオイヌホオズキ |
ダグラスイヌホオズキ※2 |
---|---|---|
アメリカイヌホオズキ |
ムラサキイヌホオズキ |
カンザシイヌホオズキ型 |
垂れ実型・種子白色 |
垂れ実型・種子淡褐色 |