ウスギムヨウラン 薄黄無葉蘭
Flora of Mikawa
ラン科 Orchidaceae ムヨウラン属
別 名 | ウスキムヨウラン |
学 名 | Lecanorchis kiusiana Tuyama |
花 期 | 5月末~6月中旬 |
高 さ | 5~25㎝ |
生活型 | 腐生植物 |
生育場所 | 林内 |
分 布 | 在来種 本州(静岡県以西)、四国、九州、朝鮮 |
撮 影 | 湖西市 14.6.2 |
愛知県の絶滅危惧ⅠB類、国の準絶滅危惧種に指定されている。東三河でも確認され、エンシュウムヨウランより花期が10日ほど遅いといわれている。
多年草。高さ5~25㎝。地下茎は長さ3~5㎝、木質で硬く、はじめ下を向き、すぐ反転して地表近くまで伸び、長さ4~5㎜の鱗片葉をつける。茎は直立し、高さ13~20㎝、黄褐色。葉は鱗片葉、互生し、3~4個つき、長さ4~6㎜、先は鈍形~鋭形。茎の上部の長さ1~5(10)㎝の総状花序に花が(1)2~6(7)個つく。花柄は長さ0.5~5.5㎜。花は長さ13~15㎜、淡黄褐色、筒状、半開。萼の基部に小さな副萼があり、副萼の下が膨らむ。膨らみが不明瞭なものもある。苞は三角形、長さ(1.7)3~4(5.2)㎜。萼片は長さ13~15㎜の倒披針形。側花弁は萼片よりやや幅が広い。唇弁は長さ10~12㎜、3裂する。側裂片は小さく、中裂片は肉質、内側に先が紅色の毛状突起が密生する。花後、しだいに黒みを増し、果実は長さ1.9~3㎝、直立して、長く残る。花期は5月末~6月中旬。
キバナウスキムヨウラン form. lutea は黄花品種。
エンシュウムヨウラン Lecanorchis suginoana は愛知県、静岡県だけに分布する。愛知県内で見られるのはほとんどこのエンシュウムヨウランである。学名はウスギムヨウランの変種とされることもある。唇弁の内側に黄色の肉質の毛があり、赤紫色を帯びない。萼の基部に小さな副萼があり、副萼の下が膨らむ。
キバナエンシュウムユウラン form. flava は黄花品種。
ムヨウラン Lecanorchis japonica は花を3~7個つけ、副萼の下が膨らまない。三河にも自生する。
キイムヨウラン Lecanorchis hokurikuensis form. kiiense は花が鮮黄色。ホクリクムヨウランの黄花品種。
多年草、菌栄養性(mycotrophic)。 根茎は這うかまたは斜上し、円筒形、細く、わずかに堅くまたはほぼ肉質、分枝するかまたは単純。 茎はほぼ直立し、細く、枝分かれするか又は単純で、まばらに鱗片状の鞘がある。総状花序は頂生、普通、花が数個~10個つく。花の苞は小さく、膜質。 花は普通、逆さまになり(resupinate)、小型または中型、子房と花被の間に小さな歯のある1個の杯の副萼(calyculus)があり、花被の基部近くの副萼の上に器官脱離層(abscission layer)がある。萼片と花弁は離生で、似ている。唇弁の基部には爪部があり、普通、樋状(canaliculate)の爪部がずい柱の足に合着して筒を形成し、まれに離生し、距は無く、上部は3裂または不分裂。 ディスクはしばしば有毛またはパピラがある。ずい柱はやや細く、先がわずかに広がり、わずかにこん棒形。 葯は亜頂生、2葯室。花粉塊は2個、顆粒状粉状(granular-farinaceous)、花粉塊柄(caudicle)または明瞭な粘着体(viscidium)は無い。嘴状体(rostellum)は短い。果実は円筒形の蒴果。
世界に約23種あり、東南アジアから太平洋諸島、中国北部~南部、日本に分布する。
台湾原産。中国名は宝岛孟兰。Lecanorchis cerina var. albida T.P.LinはLecanorchis japonica Blumeのsynonymとされている。
2 Lecanorchis hokurikuensis Masam. ホクリクムヨウラン 北陸無葉蘭
synonym Lecanorchis japonica Blume var. hokurikuensis (Masam.) T.Hashim.
日本固有種。本州(東北地方以南)、四国、九州、琉球諸島に分布する。常緑広葉樹林(スダジイ、ウラジロガシ等)内に生える。愛知県:絶滅危惧Ⅱ類
多年草。高さ25~40cm。根茎は長さ 8~30cm、直径約2mm、木質で硬く、はじめ下を向き、すぐ反転して屈曲しながらまばらに分枝し、地表近くまで伸びる。茎は直立し、高さ25~40cm、淡褐色、4~6個の鱗片葉を互生する。鱗片葉は長さ8~13㎜、先は鋭形。総状花序は長さ 2~10cm、花が茎の先端部にやや集まって、4~8個、下向きにつき、花が筒状であまり開かず、わずかに半開した状態で終わることが多く、完全に開花した状態はなかなか見ることができない。花は紫褐色~淡赤紫色~暗紫色。副萼の下に膨らみは無い。苞は三角形で長さ3~7㎜。萼片は倒披針形、長さ16~22㎜×幅約3㎜、側花弁はやや幅が広い。花茎、子房、萼片等に微細な小突起が不規則にまばらにつく。唇弁は倒披針形、長さ15~18mm、3裂する。側裂片は小さく、中裂片は縦に長い台形、凹面状、黄色の肉質の毛状突起が密生する。ずい柱は白色、こん棒形、遊離部は倒狭卵形、普通、側部に小裂片があるが、ほとんど目立たないこともある。2n=36(n=18)。花期は5~6月。
2-1 Lecanorchis hokurikuensis Masam. f. kiiensis (Murata) Seriz. キイムヨウラン 紀伊無葉蘭
synonym Lecanorchis japonica Blume var. kiiensis (Murata) T.Hashim.
synonym Lecanorchis kiiensis Murata
本州(関東地方以西)、四国、九州(鹿児島県)に分布する。常緑広葉樹林下に生える。
ホクリクムヨウランの花が紫色を帯びず鮮黄色のもの。
3 Lecanorchis japonica Blume ムヨウラン 無葉蘭
synonym Lecanorchis cerina var. albida T.P.Lin
日本(本州の岩手県以南、四国、九州、琉球諸島、伊豆諸島)、中国、台湾原産。中国名は盂兰 yu lan。林内に生える。
多年草高さ約33㎝。根茎は直径5~6㎜、肉質。茎は帯白色、果時は黒色、細く、中間の下部に4個の鞘があり、鞘は筒状、長さ5~7㎜、膜質、茎を抱く。 総状花序は頂生、長さ4~5㎝、花が3~7個つく。花の苞は卵形~卵状披針形、長さ2.5~3㎜。小花柄と子房は長さ1.4~2㎝、細い。副萼は高さ0.8~1㎜×幅約1㎜、6歯がある、副萼の下は膨らまない。萼片は倒披針形、長さ11~14㎜×幅2~2.5㎜、先は鈍形。花弁は萼片に似ている。唇弁は基部に爪部があり、樋状の爪部が縁に沿ってずい柱に合着し、筒を形成し、筒は長さ長さ3.5~4㎜。唇弁の上部の分離部分はほぼ倒卵形または倒卵状披針形、長さ8~9㎜、3裂する。側裂片はほぼ卵形。中裂片は広楕円形または円形、約・長さ3㎜×幅4㎜、内側に密にひげ状絨毛があり(barbate-villous)、縁は縮れてギザギザになり、ディスクにはひげ状絨がある。ずい柱は長さ7~10mm、頂点がわずかに広がる。蒴果は直立し、円筒形、長さ2~4cm。花期は5~7月。
3-1 Lecanorchis japonica Blume f. lutea キバナノムヨウラン 黄花の無葉蘭
全体が黄色の品種。キイムヨウランに似るが、花が全開し、ずい柱の翼が全縁である。
4 Lecanorchis kiusiana Tuyama ウスギムヨウラン 薄黄無葉蘭
本州(静岡県以西)、四国、九州、朝鮮原産。別名はウスキムヨウラン。
多年草。高さ5~25㎝。地下茎は長さ3~5㎝、木質で硬く、はじめ下を向き、すぐ反転して地表近くまで伸び、長さ4~5㎜の鱗片葉をつける。茎は直立し、高さ13~20㎝、黄褐色。葉は鱗片葉、互生し、3~4個つき、長さ4~6㎜、先は鈍形~鋭形。茎の上部の長さ1~5(10)㎝の総状花序に花が(1)2~6(7)個つく。花柄は長さ0.5~5.5㎜。花は長さ13~15㎜、淡黄褐色、筒状、半開。萼の基部に小さな副萼があり、副萼の下が膨らむ。膨らみが不明瞭なものもある。苞は三角形、長さ(1.7)3~4(5.2)㎜。萼片は長さ13~15㎜の倒披針形。側花弁は萼片よりやや幅が広い。唇弁は長さ10~12㎜、3裂する。側裂片は小さく、中裂片は肉質、内側に先が紅色の毛状突起が密生する。花後、しだいに黒みを増し、果実は長さ1.9~3㎝、直立して、長く残る。花期は5月末~6月中旬。
4-1 Lecanorchis kiusiana Tuyama f. lutea Y.Sawa, H.Fukunaga et S.Sawa キバナウスキムヨウラン 黄花薄黄無葉蘭
黄花品種。
5 Lecanorchis moritae Suetsugu et T.C.Hsu アマミムヨウラン 奄美無葉蘭
日本固有種。奄美大島に自生。林内に生える。
多年草、地上生、菌従属栄養性。根は見られない。茎は直立し、高さ15㎝、黄褐色~紫褐色、直径1.5㎜、分枝せず、茎に沿って数個の薄い鱗片状の鞘がある、花序軸は長さ1.0~3.0㎝で、花は5個以下、密につく。花の苞は三角形、長さ3.0~5.0㎜、先は鋭形、無毛。小花柄・子房は鋭角で斜上し、わずかに捻じれ、内側に曲がり、長さ17~26㎜、副萼(calyculus)の下にリング状の突出部がある。副萼は高さ約1.5mm、縁はギザギザの小歯状(erose-denticulate)。花が完全に開くことはめったになく、わずかに上向きで、唇弁を除いて褐黄色~オリーブ褐色。背萼片は倒披針形、鈍形、長さ15.0㎜×幅3.2㎜。側萼片は斜めの倒披針形、ほぼ鋭形、長さ15.0㎜×幅3.5㎜。花弁は斜めの倒披針形、鈍形、長さ15.0㎜×幅4.4㎜、先近くでわずかに後屈する。唇弁は3裂し、基部がずい柱の長さの2/5~1/2で付着し、広げると長さ15.5㎜×7.8㎜、ディスクの上部1/3に毛がある。毛は白色または紫色で、多細胞性、リボン状、上部で多少、分枝し、長さ約1㎜、単細胞の小枝が散在する。ディスクの後部は基部を除いて顕微鏡的に微細なパピラがある。唇弁の側裂片はずい柱を超え、高さ約1.5㎜、三角形でほぼ全縁または全縁で平らにしたときに上部の縁に1~2個の鋸歯がある。中裂片は横長の楕円形で、基部がわずかに狭まり、不規則なギザギザの歯またはギザギザの波打ちと縁にパピラがあり、自然な状態で、長さ4.6㎜×幅4.0㎜、広げると長さ4.6㎜×幅6.2mmである。ずい柱は長さ10㎜、先に翼があり、翼は切れ込みがある。葯は白色、幅1.5㎜、上部に窪みがあり、腹側に多少、パピラがあり、乳頭状で、スリットの近くに毛がある。花期は5月。
6 Lecanorchis nigricans Honda クロムヨウラン 黒無葉蘭 広義
synonym Lecanorchis oligotricha Fukuyama
synonym Lecanorchis purpurea Masamune
synonym Lecanorchis taiwaniana S. S. Ying.
日本(関東~九州、琉球)、中国、台湾原産。中国名は全唇盂兰 quan chun yu lan。林内の湿った場所に生える。
高さ12~40cm。 根茎は斜上し、木質、節に短い鱗片がある。茎は直立し、帯黒色、細く、しばしば枝分かれし、離れて数個の鞘がつく。総状花序は頂生、長さ3~5㎝、花が5~8個つく。花の苞は卵状三角形、長さ2~4㎜。小花柄と子房は紫褐色、長さ1~2㎝、細い。副萼(calyculus)は高さ約0.8mm、小歯がある。花はほとんど大きく開く。萼片と花弁は帯褐色~ほぼ帯白色、ときに紫色を帯び、凹面状になる。萼片は狭倒披針形、長さ10~16mm×幅2~3㎜、先は鋭形。 側萼片はやや斜め、かま状披針形、長さ12~14mm×幅約2.5㎜。花弁は倒披針状線形、サイズは萼片に似ている。唇弁は帯白色、紫色を帯びて、倒披針形~倒卵状へら形、萼片の長さとほぼ同長で、内側に±パピラ状の毛があり、分裂しない。ずい柱は白色、長さ6~10㎜、細い。花期は8月~10月。(Flora of China)
6-1 Lecanorchis nigricans Honda var. nigricans クロムヨウラン 黒無葉蘭 狭義
日本(関東~九州、琉球)、中国、台湾原産。林内の湿った場所に生える。
花が一度も開かず硬い蕾のまま落下する閉鎖花受粉(cleistogamous)。唇弁は紫色部の面積が広く、唇弁先端の毛は短く密でよく分枝する。花弁のつけ根が太い。
地上生、菌従属栄養性植物。花序は高さ10~25(~30)㎝、下半部で1本または分枝し、花時に白色、果時に黒色、無毛、直径約0.8~2.0㎜、鱗片状の鞘がつく(鞘は3~5個、互生し、長さ3~4㎜、光沢がある)。根茎(地下茎)は直立し、J字形または複雑で、木質(長さ3~10cm、硬く、長さ5~6㎜の鱗片葉をつける。)。根は単純で、多数を放射状につけ、水平または下向きに伸びて長さ20~30㎝、黄褐色。花序軸は長さ2~8㎝、花が3~15個つき、花序軸の上半分の節間は長さ1~3mm。花の苞は三角形、先は鋭形、長さ1.0~2.0㎜。小花柄のある子房は斜上し、長さ15~25mm。花は包み込まれているか、決して開かない。萼片は紫白色、線形、長円状倒披針形、約・長さ11~14㎜×幅3.0~3.7mm、先は鈍形。花弁は紫白色、線形、長円状倒披針形、長さ13~14mm×幅2.8~3.6㎜、先は鈍形。唇弁は(分裂せず、)へら形、自然の状態では、強く、長さ12~14㎜×幅3.2~3.9㎜、平らにすると幅6.5~7.5㎜、ディスクはかなり密に短い多細胞の毛があり、毛はしばしば先近くで枝分かれし、または自然な状態では先が鋭形になる。ずい柱は長さ10~12㎜×幅1.1~2.0㎜、わずかに反曲し、その長さの約1/2が唇弁と融着し、腹側は無毛またはわずかに微軟毛がある。葯は紫白色、幅約1.5mm。蒴果は長さ17~30mm、円筒状紡錘形、黒色、軸から70~90度の角度で斜上する。花期は6月下旬~9月中旬。
6-2 Lecanorchis nigricans Honda var. patipetala Y.Sawa トサノクロムヨウラン 土佐無葉蘭
日本(関東~九州)、中国、台湾に分布する。林内の湿った場所に生える。
花は広く開く開花受粉(chasmogamous)。唇弁基部のディスクの毛が長く、疎。葯が白色。 地上生、菌従属栄養性植物。花序は高さ10~25(~30)㎝、下半部で1本または分枝し、花時に白色、果時に黒色、無毛、直径約0.8~1.5mm、鱗片状の鞘がつく。根茎は直立し、J字形または複雑で、木質。根は単純で、多数を放射状につけ、水平または下向きに伸びて長さ20~30㎝、黄褐色。花序軸は長さ2~8㎝、花が3~15個つき、花序軸の上半分の節間は長さ1~6(~10)mm。花の苞は三角形、先は鋭形、長さ0.8~3.0mm。小花柄のある子房は斜上し、長さ15~30mm。花は広くく開き、直径約2.5cm。萼片は紫白色、線形、長円状倒披針形、約・長さ12~17mm×幅2.7~3.4mm、先は鈍形。花弁は紫白色、線形、長円状倒披針形、長さ13~17 mm×幅2.6~3.4mm、先は鈍形。唇弁は浅いへら形、自然の状況では強く、長さ13~15mm×幅4.0~4.5mmになり、平らにすると幅6.0~7.0㎜、ディスクは長い多細胞の毛がかなり少なく、毛は先近くでまれに分枝する。ずい柱は長さ10~13mm×幅1.2~2.8mm、わずかに反曲し、その長さの約1/2が唇弁と融着し、腹側は無毛またはわずかに微軟毛がある。葯は白色、幅約1.5mm。蒴果は長さ15~30mm、黒色、円筒状紡錘形、軸から70~90度の角度で斜上する。花期は7月中旬~9月中旬。
6-3 Lecanorchis nigricans Honda var. yakusimensis T.Hashim. ヤクムヨウラン 屋久無葉蘭
synonym Lecanorchis oligotricha Fukuy.
屋久島に分布する。林内の湿った場所に生える。
トサノクロムヨウランに似るがずい柱の腹面に微軟毛が明瞭にみられる。唇弁の離生部がトサノクロムヨウランよりも深い。側花弁と萼片は先端部がやや楕円形に近い。
地上生、菌従属栄養性植物。花序は高さ10~25(~30)㎝、下半部で1本または分枝し、花時に白色、果時に黒色、無毛、直径約0.8~1.5mm、鱗片状の鞘がつく。根茎は直立し、J字形または複雑で、木質。根は単純で、多数を放射状につけ、水平または下向きに伸びて長さ20~30㎝、黄褐色。花序軸は長さ2~8㎝、花が3~15個つき、花序軸の上半分の節間は長さ1~6(~10)mm。花の苞は三角形、先は鋭形、長さは0.7~2.0mm。小花柄のある子房は斜上し、長さ14~30mm。花は広く開き、直径約2.5cm。萼片は紫白色、線形、倒披針状へら形、約・長さ13~17mm×幅3.3~4.0mm、先は鈍形。花弁は紫白色、線形、倒披針状へら形、長さ13~17mm×幅3.3~4.0mm、先は鈍形。唇弁はへら形~僧帽形、強く凹面状で、自然の状態では、長さ12~15mm×幅約4.5mm、平らにすると幅7.5~8.0mm、ディスクは長い多細胞の毛がかなり少なく、毛はまれに先近くで分枝する。ずい柱は長さ10~13mm、反曲し、その長さの約1/2が唇弁と融着し、腹側に密に微軟毛がある。葯は紫白色、幅約2.0mm。蒴果は長さ20~30mm、円筒状紡錘形、黒色、軸から70~90度の角度で斜上する。花期は7月中旬~9月中旬。
7 Lecanorchis ohwii Masam.
synonym Lecanorchis albida (T.P.Lin) T.P.Lin
台湾原産。中国名は白皿蘭 bai min lan。
8 Lecanorchis purpurea Masam. アワムヨウラン 阿波無葉蘭
synonym Lecanorchis trachycaula Ohwi
日本(本州の和歌山県、四国の徳島県、九州の鹿児島、沖縄、伊豆諸島)、台湾原産。別名はムラサキムヨウラン。常緑広葉樹林下に生える。 緑葉の無い腐生植物。高さ20~50cm。茎は繊細で、クロムヨウランに近似するが,唇弁が3裂し、唇弁のディスクに密で曲がりくねったこん棒状の毛によりクロムヨウランから区別できる。萼片と花弁はへら状倒披針形、帯白色~淡黄褐色、長さ約16㎜、先は鈍形。唇弁は白色~薄紫色、へら形、長さ約18㎜×幅約3.6㎜、3裂し、ディスクに曲がりくねったこん棒状の毛が密生する。花期は6~9月。
9 Lecanorchis suginoana (Tuyama) Seriz. エンシュウムヨウラン 遠州無葉蘭
synonym Lecanorchis kiusiana Tuyama var. suginoana (Tuyama) T.Hashim.
synonym Lecanorchis japonica Blume var. suginoana Tuyama
日本(愛知県、静岡県、東北地方)、台湾に分布。林内の日陰に生える。
腐生植物。高さ15~30㎝。地下茎は長さ2~7㎝、木質で硬く、はじめ下向き、すぐに反転して屈曲しながらまばらに分枝し、地表近くまで伸びる。地中の植物体は地上の花に比べて非常に大きく、半径約50㎝の円状に腐葉土中に広がっている。茎は硬く、直立し、高さ15~30㎝、淡褐色、下部に3~6個の鱗片葉を互生する。鱗片葉は長さ5~10㎜、先は鈍形または鋭形。総状花序は長さ 2~10cm、ややまばらに花を3~7個つける。花は淡褐色(または鮮やかな黄色)、長さ約1.5㎝、筒状でほとんど開かないかまたは斜開する。苞は三角状卵形、長さ2~5㎜。萼片と花弁はほぼ同形、倒披針形、長さ13~18mm。萼の基部に小さな副萼があり、副萼の下が膨らむ。唇弁は倒披針形、長さ12~15㎜、淡色、左右の側裂片は丸みを帯び、中裂片はあまりカーブせず、唇弁の縁に鋸歯がほとんど無く、内側に黄色の肉質の毛があり(ウスキムヨウランより少なく、赤紫色を帯びない)、毛の突起物がほぼ上半分まで分枝し、枝毛状になる。ずい柱は先端部の左右両縁が尖ってやや突出し、3裂しない。花後は花茎まで黒くなり、翌年の花期まで残っている場合もある。花期は5月中旬~6月初旬。
9-1 Lecanorchis suginoana (Tuyama) Seriz. f. flava Seriz. キバナエンシュウムヨウラン
黄花品種はアルビノであり、キバナエンシュウムユウラン form. flava Seriz.という。
10 Lecanorchis tabugawaensis Suetsugu et Fukunaga タブガワムヨウラン 椨川無葉欄
鹿児島県屋久島、沖縄県国頭村、長崎県福江島、奄美大島に分布する。常緑広葉樹林内に生える。
地上生、菌従属栄養性。花序は高さ15~45㎝、不分枝または下半分で分枝し、花時には黄白色、果時には褐黒色、無毛、直径約1.0㎜、膜質の鱗片状の鞘を有する。花序軸は長さ6~15㎝、花が4~15個つき、節間は5~15㎜離れる。花の苞三角形、長さ約2.0㎜×幅約1.0㎜。小花柄のある子房は長さ15~20㎜。萼片と側花弁は広く広がり、約直径2.5㎝。萼片は黄白色、線形、下半分がわずかに狭く、長さ14~17㎜、約幅1.8~2.5㎜、先は鈍形、3脈がある。花弁は黄白色、線形、わずかに斜め、長さ14~17㎜、約幅2.0~2.5㎜、先は鈍形、3脈がある。唇弁は、白色、先が紫色を帯び、無毛、長さ14~15㎜、平らにすると幅約5㎜、全縁。ずい柱は長さ12~13㎜で、真っ直ぐ、その長さの約2/5~1/2が唇弁と融着し、無毛。葯は帯白色、幅約1.5mm。蒴果は長さ20~30㎜、明るい褐色、軸から20~45°の角度で斜上する。花期は7月中旬~8月初旬。
ムロトムヨウラン Lecanorchis taiwaniana S. S. Ying emend. Suetsugu, T.C. Hsu, S. Sawa & Fukunagaに似るが、1)ずい柱がほとんど湾曲しない。2)唇弁の幅が狭い。3)唇弁の先端部がほぼ全縁である。4)唇弁の離生部内部がほぼ無毛である。5)ずい柱の腹部が無毛である。6)ずい柱の全長のうち唇弁と癒合する部分の長さが2分の1以下である。等の点からムロトムヨウランと区別が可能である。(参考10)
11 Lecanorchis taiwaniana S.S.Ying ムロトムヨウラン 室戸無葉蘭
synonym Lecanorchis amethystea Y.Sawa, H.Fukunaga et S.Sawa
日本(四国の高知県、鹿児島県の黒島・中之島、奄美大島、 沖縄島)、台湾、インド(アッサム)、ラオス原産。常緑広葉樹林内に生える。
地上生、菌従属栄養性。花序は高さ15~45㎝、単生または下半分で分枝し、花時には黄白色、果時には褐黒色、無毛、約・直径0.8~1.5㎜、鱗片状の鞘がある。花序軸は長さ(2~)6~15㎝、花が4~20個つき、節間は5~15㎜離れる。花の苞は三角形、長さ1.5~2.0㎜×幅約1.0~1.3㎜。小花柄のある子房は長さ15~20㎜。花は広く開き、直径約2.5cm。萼片は黄白色、ときに薄紫色を帯び、線形、下半分がわずかに狭く、長さ12~16㎜×幅1.8~2.5(~3)㎜、先が鈍形、3脈がある。花弁は黄白色、線形、わずかに斜め、長さ13~16㎜×幅2.0~2.5(~2.9)㎜、先は鈍形、3脈がある。唇弁は先が紫色を帯び、へら形、長さ14~15㎜、平らにすると幅6~7㎜、わずかに3裂し、側裂片は直立し、先に帯紫色の多細胞の毛があり、基部に帯白色のパピラがある。ずい柱は長さ11~13㎜、わずかに曲がり、その長さの約3/5~2/3が唇弁と融着し、腹側に微軟毛がある。葯は帯白色、幅約1.2㎜。蒴果は長さ20~30㎜、明るい褐色、軸から20~45°の角度で斜上する。花期は7~8月。
12 Lecanorchis thalassica T.P.Lin
台湾原産。中国名は灰绿盂兰 hui lü yu lan。
13 Lecanorchis triloba J.J.Sm. オキナワムヨウラン 沖縄無葉欄
synonym Lecanorchis multiflora J.J.Sm. var. brachycarpa (Ohwi) T.Hashim.
synonym Lecanorchis latens T.P.Lin et W.M.Lin
synonym Lecanorchis javanica auct. non Blume
synonym Lecanorchis flavicans Fukuy.
synonym Lecanorchis cerina auct. non Fukuy.
synonym Lecanorchis brachycarpa Ohwi
日本(沖縄本島、石垣島、西表島、徳之島)、台湾、タイ、スマトラ、ジャワ、ボルネオ、ニューギニアに分布。常緑広葉樹林内に生える。
シラヒゲムヨウラン Lecanorchis vietnamica Aver. に似るが、唇弁内面に1対のカルスがある。 オキナワムヨウランはオキナワムヨウランモドキによく似るが、1)オキナワムヨウランの花は正開するのに対し、オキナワムヨウランモドキの花は一度も開かず蕾のまま落下する。2)オキナワムヨウランの唇弁の中央裂片は倒卵形で毛が非常に多いのに対し、オキナワムヨウランモドキのそれは、細長い三角形で、毛はやや疎で、毛が生えている面積もオキナワムヨウランよりも小さいことから区別できる。(参考15)
13-1 Lecanorchis triloba J.J.Sm. var. clausa Suetsugu et Fukunaga オキナワムヨウランモドキ 沖縄無葉欄擬
沖縄本島、奄美大島に分布する。常緑広葉樹林内に生える。
閉鎖花型で、オキナワムヨウランモドキの花は一度も開かず蕾のまま落下する。唇弁の中央裂片は細長い三角形、毛はやや疎で、毛が生えている面積もオキナワムヨウランよりも小さいことから区別できる。
多年草、地上生、菌従属栄養性(mycoheterotrophic)。花序は高さ15~40㎝、1本または分枝し、節近くでわずかにいぼ状突起があり、直径1~2㎜、膜質の鱗片状の鞘がある。花序軸は無毛、長さ1~3㎝、花が3~10個つく。花の苞は卵形、先は鋭形、約・長さ2㎜×幅1㎜。子房は小花柄があり、斜上し、長さ10~15㎜。花被筒は決して開か無い。萼片と側花弁は淡黄色、薄褐紫色を帯びる。萼片は似ており、倒披針状長円形、強く凹面状、長さ約10mm、平らにすると幅約2.5㎜、先は鋭形。花弁は倒卵状へら形、やや凹面状、長さ約10㎜、平らにすると幅約3.3㎜、先は鈍形。唇弁は3裂し、自然状態で、長さ約10mm×幅約3mm、平らにすると幅約5mmで、側裂片の間に2個のカルス(calli)があり、基部はずい柱の長さの約2/3に付着する。側裂片は平らにすると円形、先端はずい柱を超えない。中裂片は狭三角形、縁は不規則にギザギザの小歯があり、長さ約4.5mm、自然状態で界で幅約3mm、平らにすると円形になりす。約・長さ4.5㎜×幅4.5㎜、膜質の縁を除いて密な多量の白色の毛で覆われる。ずい柱は白色、こん棒形、約・長さ7.2㎜×幅1mm、わずかに曲がり、腹側の表面とずい柱の翼にパピラがある。柱頭は突き出し、直立した板(plate)を形成し、毛がある。葯は幅約1.2㎜、微細なパピラがある。蒴果は斜上~直立し、長さ約12㎜。花期は6~10月。
14 Lecanorchis vietnamica Aver. シラヒゲムヨウラン 白髭無葉蘭
synonym Lecanorchis flavicans Fukuy. var. acutiloba T.Hashim.
日本(屋久島、奄美大島、沖縄本島)、台湾、ベトナム原産。常緑広葉樹林内に生える。
L. malaccensis RidlとL. japonica Blumeに類似しているが、L. japonicaより花がはるかに小さく、唇弁は膨らんだ袋状の基部をもち、側裂片が幅広く先が尖っって鋭いことで区別できる。
根茎は垂直、灰褐色、太さ2~3㎜。茎は細く、暗褐色-紫色からほぼ黒色で、高さ12~30㎝×太さ0.5~1㎜で、基部に小さな苞が多数、間隔を開けてつき、基部にごく少数の太い灰褐色の根がつく。花序は単純、または分枝して、頂部に緩い、花が少ない穂状花序をつけ、花序軸はジグザグになる。花の苞は非常に小さく、卵形、先は鈍形、無毛。子房は円筒形、長さ8~12㎜、帯黄色または帯ピンク色。副萼は短く、鐘形、長さ0.5~1㎜×幅1.5㎜、縁には不規則な、ギザギザの歯がある。花は無柄で、ほとんど開かず、鐘形。萼片と花弁はほぼ類似し、薄褐色、帯黄色からほぼ白色、長円状へら形、不明瞭な3脈があり、長さ8~11㎜×幅1.8~3㎜。唇弁は長さ8~11㎜×幅5~8㎜、基部がずい柱の基部から側面に付着し、膨らんだ袋状の蜜腺を形成する。唇弁は3裂し、側裂片は直立し、三角状披針形~広かま形、先は鋭形、長さ1.5~2.5㎜×幅1~1.8㎜。中裂片は直角に下向き、長円形または倒卵形、長さ2~3㎜×幅2.2~3㎜、普通、長さが幅よりも長く、先が円形、長くて曲がりくねった白色~ライラックピンク色を帯びた毛で密に覆われる。ずい柱は真っ直ぐ、高さ5~6㎜×幅1~1.5㎜。柱頭は、肉質の卵形の細かくパピラのある薄板(lamella)を前方に後屈させる。葯帽は半球形、直径約1㎜。果実は円筒形~狭楕円形の黒色の蒴果、長さ1.8~2.4㎝×幅約3㎜。花期はベトナムで2~5月(沖縄では6~9月)。
15 Lecanorchis virella T.Hashim. ミドリムヨウラン 緑無葉蘭
synonym Lecanorchis japonica Blume var. tubiformis T.Hashim.
日本(宮崎県、屋久島、奄美大島)、台湾原産。常緑広葉樹林内に生える。
腐生性(saprophytic)の多年草。高さ約30㎝。根茎はほぼ直立、短く、分枝し、鱗片があり、多数の堅い根がある。地下の鱗片は普通、毛がある。地上茎は単純、直立し、褐黄色だが、やや、帯緑色で、乾くと太さ約1㎜、3~5個の帯紫色の長さ7~10㎜の鱗片状の鞘を緩くつけ、下部の鞘は筒状で縁近くの内側に毛がある。総状花序は緩く、花が2~6個つく。苞は無毛、三角状卵形、先は尖鋭形または鈍形、長さ3~6㎜。花は半開きで、帯紫色の小歯のある副萼につく。萼片と花弁は先で後屈し、前半分が褐緑色または緑褐色、先は栗色。背萼片は倒披針形、先はほぼ鋭形、縁はわずかに不規則で、3本の主脈と2本の不明瞭な脈があり、広げると、長さ17㎜×幅3.5㎜。側萼片は自然の状態で斜めの倒披針形、先はほぼ鋭形、広げると鈍形、縁はわずかに不規則で、3本の主脈と少数の不明瞭な脈があり、広げると、長さ17㎜×幅3.5㎜。花弁は先が萼片よりさらに後屈し、斜めの倒披針形、自然状態では先は鈍形、縁はわずかに不規則で、3本の脈と不明瞭な少数の脈があり、長さ16.5㎜×幅4㎜。唇弁は基部の縁が半分以上が、ずい柱の基部2/3に付着し、他の花被片より短く、長さ13㎜、自由部分は紫色または帯紫色、下面は帯緑色、3裂し、自然の状態では凹面状、広げると長さ5.5~6mm×幅6㎜。側裂片はずい柱を超え、三角形状歯状、前部分は縁がギザギザに引き裂かれ、ずい柱近くの後部は細かいギザギザになり、高さ約1.5㎜。中裂片は横長の長方形、前部はほぼ切形、側部はギザギザに引き裂かれ、広げると長さ2~2.5㎜×幅4~5㎜、ディスクの上に、黄色の多細胞の、たまに分枝する、後ろ向きの毛が密にある。唇弁の下部に多細胞の毛が散在し微細な単細胞の毛がある。ずい柱は白色または紫白色、こん棒形、先の両側にわずかに切れ込んだ耳(翼)があり、長さ10mm。葯は帯紫色。小花柄のある子房は褐黄色、花期の初めに上側に斜めに直立し、花期の中間では水平になり、後にほぼ直立し、長さ13~25㎜。花期は3~5月。(参考5)
Lecanorchis
Lecanorchis
Lecanorchis
Lecanorchis
ラン科植物分類雑記 (4)
タブガワムヨウラン(ラン科)を奄美大島に記録する
トサノクロムヨウラン(ラン科)を屋久島に記録する
オキナワムヨウラン(ラン科)を奄美大島に記録する 末次健司ほか
菌従属栄養植物ムヨウランの新品種キバナノムヨウラン
多年草。高さ5~25㎝。地下茎は長さ3~5㎝、木質で硬く、はじめ下を向き、すぐ反転して地表近くまで伸び、長さ4~5㎜の鱗片葉をつける。茎は直立し、高さ13~20㎝、黄褐色。葉は鱗片葉、互生し、3~4個つき、長さ4~6㎜、先は鈍形~鋭形。茎の上部の長さ1~5(10)㎝の総状花序に花が(1)2~6(7)個つく。花柄は長さ0.5~5.5㎜。花は長さ13~15㎜、淡黄褐色、筒状、半開。萼の基部に小さな副萼があり、副萼の下が膨らむ。膨らみが不明瞭なものもある。苞は三角形、長さ(1.7)3~4(5.2)㎜。萼片は長さ13~15㎜の倒披針形。側花弁は萼片よりやや幅が広い。唇弁は長さ10~12㎜、3裂する。側裂片は小さく、中裂片は肉質、内側に先が紅色の毛状突起が密生する。花後、しだいに黒みを増し、果実は長さ1.9~3㎝、直立して、長く残る。花期は5月末~6月中旬。
キバナウスキムヨウラン form. lutea は黄花品種。
エンシュウムヨウラン Lecanorchis suginoana は愛知県、静岡県だけに分布する。愛知県内で見られるのはほとんどこのエンシュウムヨウランである。学名はウスギムヨウランの変種とされることもある。唇弁の内側に黄色の肉質の毛があり、赤紫色を帯びない。萼の基部に小さな副萼があり、副萼の下が膨らむ。
キバナエンシュウムユウラン form. flava は黄花品種。
ムヨウラン Lecanorchis japonica は花を3~7個つけ、副萼の下が膨らまない。三河にも自生する。
キイムヨウラン Lecanorchis hokurikuensis form. kiiense は花が鮮黄色。ホクリクムヨウランの黄花品種。
ムヨウラン属
family Orchidaceae - genus Lecanorchis多年草、菌栄養性(mycotrophic)。 根茎は這うかまたは斜上し、円筒形、細く、わずかに堅くまたはほぼ肉質、分枝するかまたは単純。 茎はほぼ直立し、細く、枝分かれするか又は単純で、まばらに鱗片状の鞘がある。総状花序は頂生、普通、花が数個~10個つく。花の苞は小さく、膜質。 花は普通、逆さまになり(resupinate)、小型または中型、子房と花被の間に小さな歯のある1個の杯の副萼(calyculus)があり、花被の基部近くの副萼の上に器官脱離層(abscission layer)がある。萼片と花弁は離生で、似ている。唇弁の基部には爪部があり、普通、樋状(canaliculate)の爪部がずい柱の足に合着して筒を形成し、まれに離生し、距は無く、上部は3裂または不分裂。 ディスクはしばしば有毛またはパピラがある。ずい柱はやや細く、先がわずかに広がり、わずかにこん棒形。 葯は亜頂生、2葯室。花粉塊は2個、顆粒状粉状(granular-farinaceous)、花粉塊柄(caudicle)または明瞭な粘着体(viscidium)は無い。嘴状体(rostellum)は短い。果実は円筒形の蒴果。
世界に約23種あり、東南アジアから太平洋諸島、中国北部~南部、日本に分布する。
ムヨウラン属の主な種と園芸品種
1 Lecanorchis cerina Fukuy. ロウバイスケロクラン台湾原産。中国名は宝岛孟兰。Lecanorchis cerina var. albida T.P.LinはLecanorchis japonica Blumeのsynonymとされている。
2 Lecanorchis hokurikuensis Masam. ホクリクムヨウラン 北陸無葉蘭
synonym Lecanorchis japonica Blume var. hokurikuensis (Masam.) T.Hashim.
日本固有種。本州(東北地方以南)、四国、九州、琉球諸島に分布する。常緑広葉樹林(スダジイ、ウラジロガシ等)内に生える。愛知県:絶滅危惧Ⅱ類
多年草。高さ25~40cm。根茎は長さ 8~30cm、直径約2mm、木質で硬く、はじめ下を向き、すぐ反転して屈曲しながらまばらに分枝し、地表近くまで伸びる。茎は直立し、高さ25~40cm、淡褐色、4~6個の鱗片葉を互生する。鱗片葉は長さ8~13㎜、先は鋭形。総状花序は長さ 2~10cm、花が茎の先端部にやや集まって、4~8個、下向きにつき、花が筒状であまり開かず、わずかに半開した状態で終わることが多く、完全に開花した状態はなかなか見ることができない。花は紫褐色~淡赤紫色~暗紫色。副萼の下に膨らみは無い。苞は三角形で長さ3~7㎜。萼片は倒披針形、長さ16~22㎜×幅約3㎜、側花弁はやや幅が広い。花茎、子房、萼片等に微細な小突起が不規則にまばらにつく。唇弁は倒披針形、長さ15~18mm、3裂する。側裂片は小さく、中裂片は縦に長い台形、凹面状、黄色の肉質の毛状突起が密生する。ずい柱は白色、こん棒形、遊離部は倒狭卵形、普通、側部に小裂片があるが、ほとんど目立たないこともある。2n=36(n=18)。花期は5~6月。
2-1 Lecanorchis hokurikuensis Masam. f. kiiensis (Murata) Seriz. キイムヨウラン 紀伊無葉蘭
synonym Lecanorchis japonica Blume var. kiiensis (Murata) T.Hashim.
synonym Lecanorchis kiiensis Murata
本州(関東地方以西)、四国、九州(鹿児島県)に分布する。常緑広葉樹林下に生える。
ホクリクムヨウランの花が紫色を帯びず鮮黄色のもの。
3 Lecanorchis japonica Blume ムヨウラン 無葉蘭
synonym Lecanorchis cerina var. albida T.P.Lin
日本(本州の岩手県以南、四国、九州、琉球諸島、伊豆諸島)、中国、台湾原産。中国名は盂兰 yu lan。林内に生える。
多年草高さ約33㎝。根茎は直径5~6㎜、肉質。茎は帯白色、果時は黒色、細く、中間の下部に4個の鞘があり、鞘は筒状、長さ5~7㎜、膜質、茎を抱く。 総状花序は頂生、長さ4~5㎝、花が3~7個つく。花の苞は卵形~卵状披針形、長さ2.5~3㎜。小花柄と子房は長さ1.4~2㎝、細い。副萼は高さ0.8~1㎜×幅約1㎜、6歯がある、副萼の下は膨らまない。萼片は倒披針形、長さ11~14㎜×幅2~2.5㎜、先は鈍形。花弁は萼片に似ている。唇弁は基部に爪部があり、樋状の爪部が縁に沿ってずい柱に合着し、筒を形成し、筒は長さ長さ3.5~4㎜。唇弁の上部の分離部分はほぼ倒卵形または倒卵状披針形、長さ8~9㎜、3裂する。側裂片はほぼ卵形。中裂片は広楕円形または円形、約・長さ3㎜×幅4㎜、内側に密にひげ状絨毛があり(barbate-villous)、縁は縮れてギザギザになり、ディスクにはひげ状絨がある。ずい柱は長さ7~10mm、頂点がわずかに広がる。蒴果は直立し、円筒形、長さ2~4cm。花期は5~7月。
3-1 Lecanorchis japonica Blume f. lutea キバナノムヨウラン 黄花の無葉蘭
全体が黄色の品種。キイムヨウランに似るが、花が全開し、ずい柱の翼が全縁である。
4 Lecanorchis kiusiana Tuyama ウスギムヨウラン 薄黄無葉蘭
本州(静岡県以西)、四国、九州、朝鮮原産。別名はウスキムヨウラン。
多年草。高さ5~25㎝。地下茎は長さ3~5㎝、木質で硬く、はじめ下を向き、すぐ反転して地表近くまで伸び、長さ4~5㎜の鱗片葉をつける。茎は直立し、高さ13~20㎝、黄褐色。葉は鱗片葉、互生し、3~4個つき、長さ4~6㎜、先は鈍形~鋭形。茎の上部の長さ1~5(10)㎝の総状花序に花が(1)2~6(7)個つく。花柄は長さ0.5~5.5㎜。花は長さ13~15㎜、淡黄褐色、筒状、半開。萼の基部に小さな副萼があり、副萼の下が膨らむ。膨らみが不明瞭なものもある。苞は三角形、長さ(1.7)3~4(5.2)㎜。萼片は長さ13~15㎜の倒披針形。側花弁は萼片よりやや幅が広い。唇弁は長さ10~12㎜、3裂する。側裂片は小さく、中裂片は肉質、内側に先が紅色の毛状突起が密生する。花後、しだいに黒みを増し、果実は長さ1.9~3㎝、直立して、長く残る。花期は5月末~6月中旬。
4-1 Lecanorchis kiusiana Tuyama f. lutea Y.Sawa, H.Fukunaga et S.Sawa キバナウスキムヨウラン 黄花薄黄無葉蘭
黄花品種。
5 Lecanorchis moritae Suetsugu et T.C.Hsu アマミムヨウラン 奄美無葉蘭
日本固有種。奄美大島に自生。林内に生える。
多年草、地上生、菌従属栄養性。根は見られない。茎は直立し、高さ15㎝、黄褐色~紫褐色、直径1.5㎜、分枝せず、茎に沿って数個の薄い鱗片状の鞘がある、花序軸は長さ1.0~3.0㎝で、花は5個以下、密につく。花の苞は三角形、長さ3.0~5.0㎜、先は鋭形、無毛。小花柄・子房は鋭角で斜上し、わずかに捻じれ、内側に曲がり、長さ17~26㎜、副萼(calyculus)の下にリング状の突出部がある。副萼は高さ約1.5mm、縁はギザギザの小歯状(erose-denticulate)。花が完全に開くことはめったになく、わずかに上向きで、唇弁を除いて褐黄色~オリーブ褐色。背萼片は倒披針形、鈍形、長さ15.0㎜×幅3.2㎜。側萼片は斜めの倒披針形、ほぼ鋭形、長さ15.0㎜×幅3.5㎜。花弁は斜めの倒披針形、鈍形、長さ15.0㎜×幅4.4㎜、先近くでわずかに後屈する。唇弁は3裂し、基部がずい柱の長さの2/5~1/2で付着し、広げると長さ15.5㎜×7.8㎜、ディスクの上部1/3に毛がある。毛は白色または紫色で、多細胞性、リボン状、上部で多少、分枝し、長さ約1㎜、単細胞の小枝が散在する。ディスクの後部は基部を除いて顕微鏡的に微細なパピラがある。唇弁の側裂片はずい柱を超え、高さ約1.5㎜、三角形でほぼ全縁または全縁で平らにしたときに上部の縁に1~2個の鋸歯がある。中裂片は横長の楕円形で、基部がわずかに狭まり、不規則なギザギザの歯またはギザギザの波打ちと縁にパピラがあり、自然な状態で、長さ4.6㎜×幅4.0㎜、広げると長さ4.6㎜×幅6.2mmである。ずい柱は長さ10㎜、先に翼があり、翼は切れ込みがある。葯は白色、幅1.5㎜、上部に窪みがあり、腹側に多少、パピラがあり、乳頭状で、スリットの近くに毛がある。花期は5月。
6 Lecanorchis nigricans Honda クロムヨウラン 黒無葉蘭 広義
synonym Lecanorchis oligotricha Fukuyama
synonym Lecanorchis purpurea Masamune
synonym Lecanorchis taiwaniana S. S. Ying.
日本(関東~九州、琉球)、中国、台湾原産。中国名は全唇盂兰 quan chun yu lan。林内の湿った場所に生える。
高さ12~40cm。 根茎は斜上し、木質、節に短い鱗片がある。茎は直立し、帯黒色、細く、しばしば枝分かれし、離れて数個の鞘がつく。総状花序は頂生、長さ3~5㎝、花が5~8個つく。花の苞は卵状三角形、長さ2~4㎜。小花柄と子房は紫褐色、長さ1~2㎝、細い。副萼(calyculus)は高さ約0.8mm、小歯がある。花はほとんど大きく開く。萼片と花弁は帯褐色~ほぼ帯白色、ときに紫色を帯び、凹面状になる。萼片は狭倒披針形、長さ10~16mm×幅2~3㎜、先は鋭形。 側萼片はやや斜め、かま状披針形、長さ12~14mm×幅約2.5㎜。花弁は倒披針状線形、サイズは萼片に似ている。唇弁は帯白色、紫色を帯びて、倒披針形~倒卵状へら形、萼片の長さとほぼ同長で、内側に±パピラ状の毛があり、分裂しない。ずい柱は白色、長さ6~10㎜、細い。花期は8月~10月。(Flora of China)
6-1 Lecanorchis nigricans Honda var. nigricans クロムヨウラン 黒無葉蘭 狭義
日本(関東~九州、琉球)、中国、台湾原産。林内の湿った場所に生える。
花が一度も開かず硬い蕾のまま落下する閉鎖花受粉(cleistogamous)。唇弁は紫色部の面積が広く、唇弁先端の毛は短く密でよく分枝する。花弁のつけ根が太い。
地上生、菌従属栄養性植物。花序は高さ10~25(~30)㎝、下半部で1本または分枝し、花時に白色、果時に黒色、無毛、直径約0.8~2.0㎜、鱗片状の鞘がつく(鞘は3~5個、互生し、長さ3~4㎜、光沢がある)。根茎(地下茎)は直立し、J字形または複雑で、木質(長さ3~10cm、硬く、長さ5~6㎜の鱗片葉をつける。)。根は単純で、多数を放射状につけ、水平または下向きに伸びて長さ20~30㎝、黄褐色。花序軸は長さ2~8㎝、花が3~15個つき、花序軸の上半分の節間は長さ1~3mm。花の苞は三角形、先は鋭形、長さ1.0~2.0㎜。小花柄のある子房は斜上し、長さ15~25mm。花は包み込まれているか、決して開かない。萼片は紫白色、線形、長円状倒披針形、約・長さ11~14㎜×幅3.0~3.7mm、先は鈍形。花弁は紫白色、線形、長円状倒披針形、長さ13~14mm×幅2.8~3.6㎜、先は鈍形。唇弁は(分裂せず、)へら形、自然の状態では、強く、長さ12~14㎜×幅3.2~3.9㎜、平らにすると幅6.5~7.5㎜、ディスクはかなり密に短い多細胞の毛があり、毛はしばしば先近くで枝分かれし、または自然な状態では先が鋭形になる。ずい柱は長さ10~12㎜×幅1.1~2.0㎜、わずかに反曲し、その長さの約1/2が唇弁と融着し、腹側は無毛またはわずかに微軟毛がある。葯は紫白色、幅約1.5mm。蒴果は長さ17~30mm、円筒状紡錘形、黒色、軸から70~90度の角度で斜上する。花期は6月下旬~9月中旬。
6-2 Lecanorchis nigricans Honda var. patipetala Y.Sawa トサノクロムヨウラン 土佐無葉蘭
日本(関東~九州)、中国、台湾に分布する。林内の湿った場所に生える。
花は広く開く開花受粉(chasmogamous)。唇弁基部のディスクの毛が長く、疎。葯が白色。 地上生、菌従属栄養性植物。花序は高さ10~25(~30)㎝、下半部で1本または分枝し、花時に白色、果時に黒色、無毛、直径約0.8~1.5mm、鱗片状の鞘がつく。根茎は直立し、J字形または複雑で、木質。根は単純で、多数を放射状につけ、水平または下向きに伸びて長さ20~30㎝、黄褐色。花序軸は長さ2~8㎝、花が3~15個つき、花序軸の上半分の節間は長さ1~6(~10)mm。花の苞は三角形、先は鋭形、長さ0.8~3.0mm。小花柄のある子房は斜上し、長さ15~30mm。花は広くく開き、直径約2.5cm。萼片は紫白色、線形、長円状倒披針形、約・長さ12~17mm×幅2.7~3.4mm、先は鈍形。花弁は紫白色、線形、長円状倒披針形、長さ13~17 mm×幅2.6~3.4mm、先は鈍形。唇弁は浅いへら形、自然の状況では強く、長さ13~15mm×幅4.0~4.5mmになり、平らにすると幅6.0~7.0㎜、ディスクは長い多細胞の毛がかなり少なく、毛は先近くでまれに分枝する。ずい柱は長さ10~13mm×幅1.2~2.8mm、わずかに反曲し、その長さの約1/2が唇弁と融着し、腹側は無毛またはわずかに微軟毛がある。葯は白色、幅約1.5mm。蒴果は長さ15~30mm、黒色、円筒状紡錘形、軸から70~90度の角度で斜上する。花期は7月中旬~9月中旬。
6-3 Lecanorchis nigricans Honda var. yakusimensis T.Hashim. ヤクムヨウラン 屋久無葉蘭
synonym Lecanorchis oligotricha Fukuy.
屋久島に分布する。林内の湿った場所に生える。
トサノクロムヨウランに似るがずい柱の腹面に微軟毛が明瞭にみられる。唇弁の離生部がトサノクロムヨウランよりも深い。側花弁と萼片は先端部がやや楕円形に近い。
地上生、菌従属栄養性植物。花序は高さ10~25(~30)㎝、下半部で1本または分枝し、花時に白色、果時に黒色、無毛、直径約0.8~1.5mm、鱗片状の鞘がつく。根茎は直立し、J字形または複雑で、木質。根は単純で、多数を放射状につけ、水平または下向きに伸びて長さ20~30㎝、黄褐色。花序軸は長さ2~8㎝、花が3~15個つき、花序軸の上半分の節間は長さ1~6(~10)mm。花の苞は三角形、先は鋭形、長さは0.7~2.0mm。小花柄のある子房は斜上し、長さ14~30mm。花は広く開き、直径約2.5cm。萼片は紫白色、線形、倒披針状へら形、約・長さ13~17mm×幅3.3~4.0mm、先は鈍形。花弁は紫白色、線形、倒披針状へら形、長さ13~17mm×幅3.3~4.0mm、先は鈍形。唇弁はへら形~僧帽形、強く凹面状で、自然の状態では、長さ12~15mm×幅約4.5mm、平らにすると幅7.5~8.0mm、ディスクは長い多細胞の毛がかなり少なく、毛はまれに先近くで分枝する。ずい柱は長さ10~13mm、反曲し、その長さの約1/2が唇弁と融着し、腹側に密に微軟毛がある。葯は紫白色、幅約2.0mm。蒴果は長さ20~30mm、円筒状紡錘形、黒色、軸から70~90度の角度で斜上する。花期は7月中旬~9月中旬。
7 Lecanorchis ohwii Masam.
synonym Lecanorchis albida (T.P.Lin) T.P.Lin
台湾原産。中国名は白皿蘭 bai min lan。
8 Lecanorchis purpurea Masam. アワムヨウラン 阿波無葉蘭
synonym Lecanorchis trachycaula Ohwi
日本(本州の和歌山県、四国の徳島県、九州の鹿児島、沖縄、伊豆諸島)、台湾原産。別名はムラサキムヨウラン。常緑広葉樹林下に生える。 緑葉の無い腐生植物。高さ20~50cm。茎は繊細で、クロムヨウランに近似するが,唇弁が3裂し、唇弁のディスクに密で曲がりくねったこん棒状の毛によりクロムヨウランから区別できる。萼片と花弁はへら状倒披針形、帯白色~淡黄褐色、長さ約16㎜、先は鈍形。唇弁は白色~薄紫色、へら形、長さ約18㎜×幅約3.6㎜、3裂し、ディスクに曲がりくねったこん棒状の毛が密生する。花期は6~9月。
9 Lecanorchis suginoana (Tuyama) Seriz. エンシュウムヨウラン 遠州無葉蘭
synonym Lecanorchis kiusiana Tuyama var. suginoana (Tuyama) T.Hashim.
synonym Lecanorchis japonica Blume var. suginoana Tuyama
日本(愛知県、静岡県、東北地方)、台湾に分布。林内の日陰に生える。
腐生植物。高さ15~30㎝。地下茎は長さ2~7㎝、木質で硬く、はじめ下向き、すぐに反転して屈曲しながらまばらに分枝し、地表近くまで伸びる。地中の植物体は地上の花に比べて非常に大きく、半径約50㎝の円状に腐葉土中に広がっている。茎は硬く、直立し、高さ15~30㎝、淡褐色、下部に3~6個の鱗片葉を互生する。鱗片葉は長さ5~10㎜、先は鈍形または鋭形。総状花序は長さ 2~10cm、ややまばらに花を3~7個つける。花は淡褐色(または鮮やかな黄色)、長さ約1.5㎝、筒状でほとんど開かないかまたは斜開する。苞は三角状卵形、長さ2~5㎜。萼片と花弁はほぼ同形、倒披針形、長さ13~18mm。萼の基部に小さな副萼があり、副萼の下が膨らむ。唇弁は倒披針形、長さ12~15㎜、淡色、左右の側裂片は丸みを帯び、中裂片はあまりカーブせず、唇弁の縁に鋸歯がほとんど無く、内側に黄色の肉質の毛があり(ウスキムヨウランより少なく、赤紫色を帯びない)、毛の突起物がほぼ上半分まで分枝し、枝毛状になる。ずい柱は先端部の左右両縁が尖ってやや突出し、3裂しない。花後は花茎まで黒くなり、翌年の花期まで残っている場合もある。花期は5月中旬~6月初旬。
9-1 Lecanorchis suginoana (Tuyama) Seriz. f. flava Seriz. キバナエンシュウムヨウラン
黄花品種はアルビノであり、キバナエンシュウムユウラン form. flava Seriz.という。
10 Lecanorchis tabugawaensis Suetsugu et Fukunaga タブガワムヨウラン 椨川無葉欄
鹿児島県屋久島、沖縄県国頭村、長崎県福江島、奄美大島に分布する。常緑広葉樹林内に生える。
地上生、菌従属栄養性。花序は高さ15~45㎝、不分枝または下半分で分枝し、花時には黄白色、果時には褐黒色、無毛、直径約1.0㎜、膜質の鱗片状の鞘を有する。花序軸は長さ6~15㎝、花が4~15個つき、節間は5~15㎜離れる。花の苞三角形、長さ約2.0㎜×幅約1.0㎜。小花柄のある子房は長さ15~20㎜。萼片と側花弁は広く広がり、約直径2.5㎝。萼片は黄白色、線形、下半分がわずかに狭く、長さ14~17㎜、約幅1.8~2.5㎜、先は鈍形、3脈がある。花弁は黄白色、線形、わずかに斜め、長さ14~17㎜、約幅2.0~2.5㎜、先は鈍形、3脈がある。唇弁は、白色、先が紫色を帯び、無毛、長さ14~15㎜、平らにすると幅約5㎜、全縁。ずい柱は長さ12~13㎜で、真っ直ぐ、その長さの約2/5~1/2が唇弁と融着し、無毛。葯は帯白色、幅約1.5mm。蒴果は長さ20~30㎜、明るい褐色、軸から20~45°の角度で斜上する。花期は7月中旬~8月初旬。
ムロトムヨウラン Lecanorchis taiwaniana S. S. Ying emend. Suetsugu, T.C. Hsu, S. Sawa & Fukunagaに似るが、1)ずい柱がほとんど湾曲しない。2)唇弁の幅が狭い。3)唇弁の先端部がほぼ全縁である。4)唇弁の離生部内部がほぼ無毛である。5)ずい柱の腹部が無毛である。6)ずい柱の全長のうち唇弁と癒合する部分の長さが2分の1以下である。等の点からムロトムヨウランと区別が可能である。(参考10)
11 Lecanorchis taiwaniana S.S.Ying ムロトムヨウラン 室戸無葉蘭
synonym Lecanorchis amethystea Y.Sawa, H.Fukunaga et S.Sawa
日本(四国の高知県、鹿児島県の黒島・中之島、奄美大島、 沖縄島)、台湾、インド(アッサム)、ラオス原産。常緑広葉樹林内に生える。
地上生、菌従属栄養性。花序は高さ15~45㎝、単生または下半分で分枝し、花時には黄白色、果時には褐黒色、無毛、約・直径0.8~1.5㎜、鱗片状の鞘がある。花序軸は長さ(2~)6~15㎝、花が4~20個つき、節間は5~15㎜離れる。花の苞は三角形、長さ1.5~2.0㎜×幅約1.0~1.3㎜。小花柄のある子房は長さ15~20㎜。花は広く開き、直径約2.5cm。萼片は黄白色、ときに薄紫色を帯び、線形、下半分がわずかに狭く、長さ12~16㎜×幅1.8~2.5(~3)㎜、先が鈍形、3脈がある。花弁は黄白色、線形、わずかに斜め、長さ13~16㎜×幅2.0~2.5(~2.9)㎜、先は鈍形、3脈がある。唇弁は先が紫色を帯び、へら形、長さ14~15㎜、平らにすると幅6~7㎜、わずかに3裂し、側裂片は直立し、先に帯紫色の多細胞の毛があり、基部に帯白色のパピラがある。ずい柱は長さ11~13㎜、わずかに曲がり、その長さの約3/5~2/3が唇弁と融着し、腹側に微軟毛がある。葯は帯白色、幅約1.2㎜。蒴果は長さ20~30㎜、明るい褐色、軸から20~45°の角度で斜上する。花期は7~8月。
12 Lecanorchis thalassica T.P.Lin
台湾原産。中国名は灰绿盂兰 hui lü yu lan。
13 Lecanorchis triloba J.J.Sm. オキナワムヨウラン 沖縄無葉欄
synonym Lecanorchis multiflora J.J.Sm. var. brachycarpa (Ohwi) T.Hashim.
synonym Lecanorchis latens T.P.Lin et W.M.Lin
synonym Lecanorchis javanica auct. non Blume
synonym Lecanorchis flavicans Fukuy.
synonym Lecanorchis cerina auct. non Fukuy.
synonym Lecanorchis brachycarpa Ohwi
日本(沖縄本島、石垣島、西表島、徳之島)、台湾、タイ、スマトラ、ジャワ、ボルネオ、ニューギニアに分布。常緑広葉樹林内に生える。
シラヒゲムヨウラン Lecanorchis vietnamica Aver. に似るが、唇弁内面に1対のカルスがある。 オキナワムヨウランはオキナワムヨウランモドキによく似るが、1)オキナワムヨウランの花は正開するのに対し、オキナワムヨウランモドキの花は一度も開かず蕾のまま落下する。2)オキナワムヨウランの唇弁の中央裂片は倒卵形で毛が非常に多いのに対し、オキナワムヨウランモドキのそれは、細長い三角形で、毛はやや疎で、毛が生えている面積もオキナワムヨウランよりも小さいことから区別できる。(参考15)
13-1 Lecanorchis triloba J.J.Sm. var. clausa Suetsugu et Fukunaga オキナワムヨウランモドキ 沖縄無葉欄擬
沖縄本島、奄美大島に分布する。常緑広葉樹林内に生える。
閉鎖花型で、オキナワムヨウランモドキの花は一度も開かず蕾のまま落下する。唇弁の中央裂片は細長い三角形、毛はやや疎で、毛が生えている面積もオキナワムヨウランよりも小さいことから区別できる。
多年草、地上生、菌従属栄養性(mycoheterotrophic)。花序は高さ15~40㎝、1本または分枝し、節近くでわずかにいぼ状突起があり、直径1~2㎜、膜質の鱗片状の鞘がある。花序軸は無毛、長さ1~3㎝、花が3~10個つく。花の苞は卵形、先は鋭形、約・長さ2㎜×幅1㎜。子房は小花柄があり、斜上し、長さ10~15㎜。花被筒は決して開か無い。萼片と側花弁は淡黄色、薄褐紫色を帯びる。萼片は似ており、倒披針状長円形、強く凹面状、長さ約10mm、平らにすると幅約2.5㎜、先は鋭形。花弁は倒卵状へら形、やや凹面状、長さ約10㎜、平らにすると幅約3.3㎜、先は鈍形。唇弁は3裂し、自然状態で、長さ約10mm×幅約3mm、平らにすると幅約5mmで、側裂片の間に2個のカルス(calli)があり、基部はずい柱の長さの約2/3に付着する。側裂片は平らにすると円形、先端はずい柱を超えない。中裂片は狭三角形、縁は不規則にギザギザの小歯があり、長さ約4.5mm、自然状態で界で幅約3mm、平らにすると円形になりす。約・長さ4.5㎜×幅4.5㎜、膜質の縁を除いて密な多量の白色の毛で覆われる。ずい柱は白色、こん棒形、約・長さ7.2㎜×幅1mm、わずかに曲がり、腹側の表面とずい柱の翼にパピラがある。柱頭は突き出し、直立した板(plate)を形成し、毛がある。葯は幅約1.2㎜、微細なパピラがある。蒴果は斜上~直立し、長さ約12㎜。花期は6~10月。
14 Lecanorchis vietnamica Aver. シラヒゲムヨウラン 白髭無葉蘭
synonym Lecanorchis flavicans Fukuy. var. acutiloba T.Hashim.
日本(屋久島、奄美大島、沖縄本島)、台湾、ベトナム原産。常緑広葉樹林内に生える。
L. malaccensis RidlとL. japonica Blumeに類似しているが、L. japonicaより花がはるかに小さく、唇弁は膨らんだ袋状の基部をもち、側裂片が幅広く先が尖っって鋭いことで区別できる。
根茎は垂直、灰褐色、太さ2~3㎜。茎は細く、暗褐色-紫色からほぼ黒色で、高さ12~30㎝×太さ0.5~1㎜で、基部に小さな苞が多数、間隔を開けてつき、基部にごく少数の太い灰褐色の根がつく。花序は単純、または分枝して、頂部に緩い、花が少ない穂状花序をつけ、花序軸はジグザグになる。花の苞は非常に小さく、卵形、先は鈍形、無毛。子房は円筒形、長さ8~12㎜、帯黄色または帯ピンク色。副萼は短く、鐘形、長さ0.5~1㎜×幅1.5㎜、縁には不規則な、ギザギザの歯がある。花は無柄で、ほとんど開かず、鐘形。萼片と花弁はほぼ類似し、薄褐色、帯黄色からほぼ白色、長円状へら形、不明瞭な3脈があり、長さ8~11㎜×幅1.8~3㎜。唇弁は長さ8~11㎜×幅5~8㎜、基部がずい柱の基部から側面に付着し、膨らんだ袋状の蜜腺を形成する。唇弁は3裂し、側裂片は直立し、三角状披針形~広かま形、先は鋭形、長さ1.5~2.5㎜×幅1~1.8㎜。中裂片は直角に下向き、長円形または倒卵形、長さ2~3㎜×幅2.2~3㎜、普通、長さが幅よりも長く、先が円形、長くて曲がりくねった白色~ライラックピンク色を帯びた毛で密に覆われる。ずい柱は真っ直ぐ、高さ5~6㎜×幅1~1.5㎜。柱頭は、肉質の卵形の細かくパピラのある薄板(lamella)を前方に後屈させる。葯帽は半球形、直径約1㎜。果実は円筒形~狭楕円形の黒色の蒴果、長さ1.8~2.4㎝×幅約3㎜。花期はベトナムで2~5月(沖縄では6~9月)。
15 Lecanorchis virella T.Hashim. ミドリムヨウラン 緑無葉蘭
synonym Lecanorchis japonica Blume var. tubiformis T.Hashim.
日本(宮崎県、屋久島、奄美大島)、台湾原産。常緑広葉樹林内に生える。
腐生性(saprophytic)の多年草。高さ約30㎝。根茎はほぼ直立、短く、分枝し、鱗片があり、多数の堅い根がある。地下の鱗片は普通、毛がある。地上茎は単純、直立し、褐黄色だが、やや、帯緑色で、乾くと太さ約1㎜、3~5個の帯紫色の長さ7~10㎜の鱗片状の鞘を緩くつけ、下部の鞘は筒状で縁近くの内側に毛がある。総状花序は緩く、花が2~6個つく。苞は無毛、三角状卵形、先は尖鋭形または鈍形、長さ3~6㎜。花は半開きで、帯紫色の小歯のある副萼につく。萼片と花弁は先で後屈し、前半分が褐緑色または緑褐色、先は栗色。背萼片は倒披針形、先はほぼ鋭形、縁はわずかに不規則で、3本の主脈と2本の不明瞭な脈があり、広げると、長さ17㎜×幅3.5㎜。側萼片は自然の状態で斜めの倒披針形、先はほぼ鋭形、広げると鈍形、縁はわずかに不規則で、3本の主脈と少数の不明瞭な脈があり、広げると、長さ17㎜×幅3.5㎜。花弁は先が萼片よりさらに後屈し、斜めの倒披針形、自然状態では先は鈍形、縁はわずかに不規則で、3本の脈と不明瞭な少数の脈があり、長さ16.5㎜×幅4㎜。唇弁は基部の縁が半分以上が、ずい柱の基部2/3に付着し、他の花被片より短く、長さ13㎜、自由部分は紫色または帯紫色、下面は帯緑色、3裂し、自然の状態では凹面状、広げると長さ5.5~6mm×幅6㎜。側裂片はずい柱を超え、三角形状歯状、前部分は縁がギザギザに引き裂かれ、ずい柱近くの後部は細かいギザギザになり、高さ約1.5㎜。中裂片は横長の長方形、前部はほぼ切形、側部はギザギザに引き裂かれ、広げると長さ2~2.5㎜×幅4~5㎜、ディスクの上に、黄色の多細胞の、たまに分枝する、後ろ向きの毛が密にある。唇弁の下部に多細胞の毛が散在し微細な単細胞の毛がある。ずい柱は白色または紫白色、こん棒形、先の両側にわずかに切れ込んだ耳(翼)があり、長さ10mm。葯は帯紫色。小花柄のある子房は褐黄色、花期の初めに上側に斜めに直立し、花期の中間では水平になり、後にほぼ直立し、長さ13~25㎜。花期は3~5月。(参考5)
参考
1) Flora of ChinaLecanorchis
http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=2&taxon_id=117802
2) Plants of the World Online| KewscienceLecanorchis
https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:29809-1
3) World Flora OnlineLecanorchis
http://www.worldfloraonline.org/taxon/wfo-4000020830;jsessionid=418EEB39D7644CEF2CC85022CDBFD6E6
4) World Checklist of Vascular PlantsLecanorchis
https://wcvp.science.kew.org/
5) 筑波実験植物園研報 8:1-9,1989ラン科植物分類雑記 (4)
https://www.kahaku.go.jp/research/publication/tsukuba/download/08/ATBG08_1.pdf
6) Bunrui 5 (1〕:33−38〔2005)愛知県のムヨウラン類 芹沢俊介
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunrui/5/1/5_KJ00004649630/_pdf/-char/ja
7) Turczaninowia 2011, 14(2) : 15–100 p55Neotypification of Lecanorchis purpurea (Orchidaceae, Vanilloideae) with the discussion on the taxonomic identities of L. trachycaula, L. malaccensis, and L. betung-kerihunensis
https://www.researchgate.net/publication/314035866_The_orchids_of_Vietnam_Illustrated_survey_Part_3_Subfamily_Epidendroideae_primitive_tribes_-_Neottieae_Vanilleae_Gastrodieae_Nervilieae
8) PhytoKeys 73:125-135 (2016)Lecanorchis tabugawaensis (Orchidaceae, Vanilloideae), a new mycoheterotrophic plant from Yakushima Island, Japan
https://phytokeys.pensoft.net/articles.php?id=10019
9) Phytotaxa 265(2):112(2016)Epitypification, emendation and synonymy of Lecanorchis taiwaniana (Vanilleae, Vanilloideae, Orchidaceae)
https://www.researchgate.net/publication/303958950_Epitypification_emendation_and_synonymy_of_Lecanorchis_taiwaniana_Vanilleae_Vanilloideae_Orchidaceae
10) 植物地理・分類研究 66(2): 165-167 (2018)タブガワムヨウラン(ラン科)を奄美大島に記録する
https://www.jstage.jst.go.jp/article/chiribunrui/66/2/66_0662-09/_pdf/-char/ja
11) 植物地理・分類研究 66(1): 47-50 (2018)トサノクロムヨウラン(ラン科)を屋久島に記録する
https://www.jstage.jst.go.jp/article/chiribunrui/66/1/66_0661-07/_pdf
12) PhytoKeys 92: 17-35 Jan. 2018The taxonomic identity of three varieties of Lecanorchis nigricans (Vanilleae, Vanilloideae, Orchidaceae) in Japan
https://phytokeys.pensoft.net/article/21657/
13) Acta Phytotax. Geobot. 69 (1): 63–67 (2018)A New Variety of the Mycoheterotrophic Plant Lecanorchis triloba (Orchidaceae) from Okinawa Island, Ryukyu Islands,Japan
https://www.jstage.jst.go.jp/article/apg/69/1/69_201716/_pdf/-char/ja
14) Acta Phytotax. Geobot. 69 (2): 139–141 (2018)First Record of the Mycoheterotrophic Orchid Lecanorchis taiwaniana from Nam Ha National Protected Area, Northern Laos
https://www.jstage.jst.go.jp/article/apg/69/2/69_201719/_pdf/-char/ja
15) Phytotaxa 360 (2): 145–152 2018Neotypification of Lecanorchis purpurea (Orchidaceae, Vanilloideae) with the discussion on the taxonomic identities of L. trachycaula, L. malaccensis, and L. betung-kerihunensis
https://phytokeys.pensoft.net/article/21657/
16) Phytotaxa 404(4):137 May 2019Lecanorchis moritae (Orchidaceae, Vanilloideae), a new mycoheterotrophic species from Amami-Oshima Island, Japan, based on morphological and molecular data
file:///C:/Users/haovo/Downloads/Suetsuguetal.2019Lecanorchismoritae.pdf
17) 植物地理・分類研究 68(2): 131-133 (2020)オキナワムヨウラン(ラン科)を奄美大島に記録する 末次健司ほか
https://www.jstage.jst.go.jp/article/chiribunrui/68/2/68_0682-08/_pdf/-char/ja
18) 植物地理・分類研究/69 巻 (2021) 2 号 p268- 菌従属栄養植物ムヨウランの新品種キバナノムヨウラン
https://www.jstage.jst.go.jp/article/chiribunrui/69/2/69_0692-20/_article/-char/ja