ヌカボ 糠穂

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Flora of Mikawa

イネ科 Poaceae ヌカボ属

中国名 华北剪股颖 hua bei jian gu ying
英 名 clavate bent
学 名 Agrostis clavata Trin.
 synonym Agrostis clavata Trin. var. nukabo Ohwi

 synonym Agrostis clavata Trin. subsp. matsumurae (Hack. ex Honda) Tateoka

ヌカボの花序
ヌカボの熟してきた小穂
ヌカボの葉舌
ヌカボの果実
ヌカボ
ヤマヌカボの小穂
ヤマヌカボの護頴
花 期 5~6月
高 さ 30~70㎝
生活型 1・2年草
生育場所 道端、畑地、原野、丘陵地
分 布 在来種 北海道、本州、四国、九州、沖縄、朝鮮、中国
撮 影 西尾市(幡豆町) 12.5.28
茎は叢生して直立する。葉は幅2~5㎜、平滑で無毛。葉舌は長さ約2㎜、切形。全体の1/3長以下の小さな花序を茎の先につける。花序は穂状に近く、花序の枝は茎に沿って直立~斜上する。花序の枝の基部から小穂をつけ、果期にも枝はほとんど開出しない。花序軸や枝に上向きの小歯があり、ざらつく。小穂は1小花のみからなり、長さ1.8~2(実測2~2.2)㎜、紫色を帯びることがある。小穂の第1苞穎は第2苞穎よりやや長く、小花は苞穎より短い。小穂が熟してくると第1苞頴が開き、その後、第2苞頴も開き、護頴に包まれた果実が落ち、苞頴は残る。護頴は薄膜質、5脈があり、芒はない。内頴が護頴の長さの1/3より短いか又は無い。果実(頴果)は長さ0.9~1.1(実測1~1.1)㎜の乳褐色、腹部が窪む。
 類似のヤマヌカボ Agrostis clavata Trin. var. clavataは花序の枝が長く、やや開出し、花序の枝は基部近くに小穂がつかない。また、苞頴や葯が紫色を帯びることが多い。ヌカボと稔性のある雑種をつくるという報告もあり、判別が難しい。ヌカボとヤマヌカボをhe変種に分けないで広義に扱う見解もある。Kewscience , GBIFやFlora of China などもこの見解であり、基準種に含めている。
 帰化種のハイコヌカグサは茎の基部が長く這い、狭長な円錐花序に淡紫褐色の小穂を密につける。

ヌカボ属

  family Poaceae - genus Agrostis

 一年草または多年草、房状またはときに根茎または匍匐茎をもつ。葉身は線形から糸状または剛毛があり、平らまたは巻く。葉舌は膜質。 花序は円錐花序、開き~細くなりまたは穂状花序状になる。小穂は1個の小花をもち、小さく、しばしば隙間があり、小軸の伸長はない。小軸は苞穎の上で関節離断する。苞穎は宿存し、小花より長く、ほぼ同長または第1苞穎が少し長く、膜質、1脈があり、先はほぼ鋭形~尖鋭形。小花のカルスは無毛または短い直軟毛がある。護穎は長円形~楕円形、苞穎よりも薄く、しばしば透明で、5脈があり、背が丸く、無毛または毛があり、側脈がときに突き出し、芒はないか、または背から芒があり、先は切形または歯がる。芒は普通、膝状に曲がり、ときに弱く膝状に曲がり、または短いときは真っすぐである。内穎は護穎よりも短く、ときに非常に小さくなる。雄しべは3個。穎果は長円形、腹側が溝がある。x=7。
 世界に約200種あり、北半球の温帯および寒冷地域に分布し、また、熱帯の山々にも分布する。

ヌカボ属の主な種と園芸品種

1 Agrostis arisanmontana Ohwi アリサンヌカボ 阿里山糠穂
  synonym Agrostis rigidula Steud. subsp. arisanmontana (Ohwi) T.Koyama
  synonym Agrostis infirma Büse var. arisanmontana (Ohwi) Veldkamp
 中国、台湾原産。中国名は阿里山剪股颖 a li shan jian gu ying。
2 Agrostis avenacea J.F.Gmel. ナンカイヌカボ 南海糠穂
 オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア原産。英名はPacific bentgrass, bent grass, blown grass, fairy grass, common blown grass。道端、荒地、造成地に生える。
 多年草。高さ15~65㎝。茎は平滑、叢生して直立する。葉舌は長さ3~5㎜。葉は長さ8~20㎝、幅1~3㎜、ざらつく。長さ7~30㎝の円錐花序を茎の先につける。花序の枝を数本、輪性し、花序は著しく散開する。花序の枝は小刺があり、長く、下部では長さ5~15㎝、枝の基部には小穂をつけない。小穂は1小花のみからなる。苞穎は長さ2.8~3.6㎜、小花より長く、微軟毛が背面にある。護頴は長さ約2㎜、薄膜質、背面や縁に毛が生え、基部にも毛がある。護頴の先には2歯がある。護頴の中部から曲がった長さ4~7.5㎜の芒が出る。内頴は長さ1㎜以上あり、護頴のほぼ1/2長。葯は長さ約0.5㎜。花期は6月。

3 Agrostis canina L. ヒメヌカボ 姫糠穂
 日本(北海道、本州、九州)、中国、モンゴル、ロシア、カシミール、ヨーロッパ、北東アメリカ原産。中国名は普通剪股颖 pu tong jian gu ying。湿った草原に生える。日本では戦後、芝草として栽培され、逸出している。
 多年草、ゆるく房状、茎状、芝形成。 稈は直立または基部で膝状に曲がり、高さ20~60㎝、直径1~1.2㎜、3~5節がある。 葉鞘は平滑。 葉身は線形、平坦、または先に向かって内巻きし、長さ3~20㎝×幅1~3㎜、細かくザラつく。葉舌は長さ1.5~4㎜、背が中の細かくザラつき、先は鈍形または鋭形。円錐花序は緩く、外形が披針形~卵形、長さ5~12(~20)㎝、枝は節ごとに3~6本つき、花時に広がり、普通、果時に直立し、毛細管状、長さ8㎝以下、ザラつき、下半分が裸出する。小穂は長さ1.5~3㎜、紫褐色。苞穎は披針形、ほぼ同長、竜骨はザラつき、先は鋭形。カルスの毛は長さ約0.2㎜。護穎は小穂の長さの2/3、芒は基部近く~背の真ん中より少しまでに出る、側脈が小さく突き出し、先は鈍い歯状。 芒は弱く膝状に曲がり、長さ4.5㎜以下。内穎は長さ約0.5㎜。葯は長さ1~1.5㎜。花期は7月。

4 Agrostis capillaris L. イトコヌカグサ 糸小糠草
  synonym Agrostis tenuis Sibth.
 中国、アフガニスタン、西ロシア、北アフリカ、南西アジア(コーカサス、トルコ)、ヨーロッパ原産。中国名は细弱剪股颖 xi ruo jian gu ying。北米およびその他の温帯諸国に導入されている。別名はコロニアルベント。草が茂る湿った場所に生える。
 多年草、根茎がある、根茎は鱗片があり、短い。稈は房状になり、膝状に曲がりまたは傾伏し、基部で発根し、高さ20~70cm。 葉鞘は平滑。 葉身は線形、平らまたは内巻き、長さ2~15cm×幅1~4㎜、ザラつきまたはほぼ平滑、先は尖鋭形。花のつかないシュートの葉舌は長さ1~2㎜、幅よりも短く、切形。 円錐花序は外形が楕円形、長さ20cm以下、開き、非常に緩い。各節に2~5本の枝がつき、広がり、毛細管状、長さ1.5~3.5cm、わずかに曲がり、平滑またはほぼ平滑、下半分がむき出しになり、小穂は十分な間隔で配置される。小穂は長さ1.5~2.5㎜、紫褐色。苞穎は楕円状披針形、ほぼ同長または第1苞穎がわずかに長く、第1苞穎は上部の竜骨がザラつき、第2苞穎はしばしば平滑、先は鋭形。カルスは細かい毛がある。護穎は小穂の長さの2/3~3/4、無毛、中肋がわずかに目立ち、普通、芒がなく、先は切形。内穎は護穎の長さの1/2~3/4。葯は長さ0.8~1.5㎜。花期は8月。

5 Agrostis castellana Boiss. et Reuter イベリアヌカボ 
 ヨーロッパ南部原産。英名はhighland bent , dryland browntop。別名はイベリアベント。芝生やグルフのグリーンに使われる。
 多年草。緩く、叢生する。根茎がある。根茎は長さ10(40)㎝以下、膨らんだ鱗片で覆われる。稈は高さ30~80㎝、直立または膝状に曲がり、節は10個以下、乾燥した生息地で開花後に、基部の節間に葉の基部は無く、上部の節からシュートが増殖し、シーズン後半にとくに、芽が出る。葉は主に茎葉。葉鞘は平滑。葉舌は長さ0.5~3㎜、幅よりも短く、背面は平滑または細かくザラつき、先は切形~円形、繊毛状微細不整歯がある。葉身は長さ4~10㎝×幅1~3㎜、平ら。円錐花序は長さ10~30㎝、稈の長さの1/2未満、幅3~8㎝、緩く卵形、やや疎、花後にやや狭くなり、線状披針形になり、最下部の節に(1)2~7本の枝を持つ。枝は開出~斜上し、まばらに細かくザラつき、中間点より上で枝分かれし、小穂は普通、上部の1/3に限定され、枝の先端の個別の集団につく。下部の枝は長さ3~9㎝。小梗は長さ0.6~2.3(3)㎜、普通、小穂よりも短く、隣接する小梗は散開しない。小穂は披針形、黄緑色~わら色または帯褐色、わずか~強く、紫色で覆われる。両苞穎はほぼ同長、長さ2~3㎜、披針形、1脈があり、先は鋭形または尖鋭形。第1苞穎は中脈の上がザラつき、少なくとも上部がザラつく。第2苞穎は平滑または中脈の上部がザラつき~細かくザラつく。カルスは多数毛があり、毛は長さ0.3(0.6)㎜以下。護穎は長さ1.3~1.9㎜、ときに下部の1/2に毛があり、半透明、(3)5脈があり、脈は上部で明瞭、先は普通、切形~鈍形、ときに鋭形、全縁または側脈が0.6㎜以下突き出し、芒が有または無、普通、花序の中で混在し、、頂部の小穂は普通、芒があり、すべて芒がないこともあり、芒は長さ5㎜以下、下部1/3から生じ、またはたまに、中央より上からの微細な剛毛が生じることもある。内穎は長さ0.6~1.1㎜、護穎の長さの1/2~2/3。葯は3個、長さ1~1.5㎜。穎果は長さ約1㎜。2n=28, 42。

6 Agrostis clavata Trin. ヌカボ 糠穂 広義
6-1 Agrostis clavata Trin. var. clavata ヤマヌカボ 山糠穂
  synonym Agrostis exarata Trin. subsp. clavata (Trin.) T.Koyama
 北海道、本州、四国、九州、朝鮮、中国、台湾、ロシア、カナダ、アラスカ原産。中国名は华北剪股颖 hua bei jian gu ying。英名はclavate bent。山地、丘陵地、人里などの林縁、道端、造成地に生える。
 多年草。高さ30~70㎝。茎は細く、繊細、叢生して直立する。葉は柔らかく、幅(0.5)2~5㎜、平滑で無毛。葉舌は切形。植物体の1/3長以下の円錐花序を茎の先につける。花序の枝は細く、ざらつき、やや開出して斜上し、3~6個つき、花序の枝の基部近くには小穂をつけない。小穂は1小花のみからなり、長さ2~2.2㎜。小穂の第1苞穎は第2苞穎より少し長く、小花(護頴)は苞穎より短い。苞頴や葯が紫色を帯びることも多い。護頴は薄膜質、3脈があり、芒はない。護頴は果実をほとんど覆い、腹側に隙間が見える程度であり、内頴はほとんど見えないが、護頴を取り外すと内頴が護頴の基部についてくる。内頴は護頴の長さの1/3より短いか、不明瞭。果実(頴果)は長さ約1~1.2㎜、腹部が窪む。2n=42。花期は5~6月。
6-2 Agrostis clavata Trin. var. nukabo Ohwi ヌカボ 糠穂
  synonym Agrostis matsumurae Hack. ex Honda
  synonym Agrostis clavata Trin. subsp. matsumurae (Hack. ex Honda) Tateoka
  synonym Agrostis exarata Trin. subsp. nukabo (Ohwi) T.Koyama
  synonym Agrostis exarata Trin. var. nukabo (Ohwi) T.Koyama
 北海道、本州、四国、九州、沖縄、朝鮮、中国原産。道端、畑地、原野、丘陵地に生える。
 ※Flora of Chinaでは明瞭に区別できないとして、基準種に含めている。
 1・2年草。高さ30~70㎝。茎は叢生して直立する。葉は幅2~5㎜、平滑で無毛。葉舌は長さ約2㎜、切形。全体の1/3長以下の小さな花序を茎の先につける。花序は穂状に近く、花序の枝は茎に沿って直立~斜上する。花序の枝の基部から小穂をつけ、果期にも枝はほとんど開出しない。花序軸や枝に上向きの小歯があり、ざらつく。小穂は1小花のみからなり、長さ1.8~2(実測2~2.2)㎜、紫色を帯びることがある。小穂の第1苞穎は第2苞穎よりやや長く、小花は苞穎より短い。小穂が熟してくると第1苞頴が開き、その後、第2苞頴も開き、護頴に包まれた果実が落ち、苞頴は残る。護頴は薄膜質、5脈があり、芒はない。内頴が護頴の長さの1/3より短いか又は無い。果実(頴果)は長さ0.9~1.1(実測1~1.1)㎜の乳褐色、腹部が窪む。花期は5~6月。

7 Agrostis divaricatissima Mez マンセンヌカボ 
 韓国、中国、モンゴル、ロシア原産。中国名は歧序剪股颖 qi xu jian gu ying。

8 Agrostis exarata Trin. チシマヌカボ 
 北アメリカ(アラスカ、カナダ、USA、メキシコ)、ロシア原産。
9 Agrostis flaccida Hack. ミヤマヌカボ 深山糠穂
  synonym Agrostis borealis Hartm. var. flaccida (Hack.) T.Koyama
 日本(北海道、本州、四国、九州)、韓国、中国、ロシア(カムチャツカ、千島列島、サハリン)原産。中国名は柔软剪股颖 rou ruan jian gu ying。別名はヒメコメススキ。高山の岩礫地、海岸や平地の岩場などに生える。
 多年草。房状になり、短い根茎がある。 稈は直立または基部で膝状に曲がり、細く、高さ15~30(~50)㎝、およそ 直径1㎜、3節がある。葉鞘は平滑。 葉身は細く、線形、弱く巻き、まれに平らで、柔らかく、長さ5~10㎝×幅0.5~2㎜、平滑、稈の最上部の葉身は長く、稈から広く散開する。葉舌は長さ1~2㎜、先は鈍形。円錐花序は開き、拡散し、外形が狭卵形、長さ4~8㎝。各節ごとに2~5本の枝がつき、広がり、毛細管状、長さ5~7㎝、平滑またはほぼ平滑、下半分が裸出する。小穂は長さ2.5~3㎜、紫色または紫緑色。苞穎は披針形、わずかに不等長、第1苞穎は長さ3~3.8㎜、第2苞穎は長さ2.8~3㎜、竜骨はザラつき、先は尖鋭形。カルスの毛は長さ0.2~0.5㎜。護穎は小穂の長さの2/3~3/4、不明瞭な顆粒状に細かくザラつき、芒は背の下部1/4~1/3から出て、側脈がときに小さく突き出し、先は切形状で歯がある。芒は弱く膝状に曲がり、長さ3~5㎜。内穎は長さ約0.25㎜。葯は長さ1~1.6㎜。花期および果期は7~8月。2n=14, 28。
9-1 Agrostis flaccida Hack. f. vivipara Honda コモチミヤマヌカボ 
 果実の中の種子が草上で発芽する(胎生芽)もの。

10 Agrostis fukuyamae Ohwi タカサゴヤマヌカボ 高砂山<糠穂br>   synonym Agrostis infirma Büse var. fukuyamae (Ohwi) Veldkamp
  synonym Agrostis rigidula Steud. var. fukuyamae (Ohwi) Veldkamp
 台湾原産。中国名は舟颖剪股颖 zhou ying jian gu ying。

11 Agrostis gigantea Roth コヌカグサ 小糠草
  synonym Agrostis palustris auct. non Huds.
  synonym Agrostis stolonifera L. var. palustris auct. non (Huds.) Farw.
  synonym Agrostis stolonifera L. var. major (Gaudin) Farw.
  synonym Agrostis stolonifera L. subsp. gigantea (Roth) Maire et Weill.
  synonym Agrostis alba auct. non L.
 朝鮮、中国、モンゴル、ロシア、インド、ネパール、パキスタン、西アジア、ヨーロッパ原産。中国名は巨序剪股颖 ju xu jian gu ying。英名はredtop。別名はレッドトップ。牧草として渡来したものが野生化したもの。南北アメリカ、ニュージーランドなどに帰化している。日当たりのよい山野、道端に生える。
 多年草。高さ50~100㎝。匍匐根茎があり、横に伸び広がる。茎は硬く、直立し、叢生する。葉は無毛、長さ10~20㎝、幅2~8㎜。葉舌は長さ2~7㎜、薄く、花序のつかない葉舌は幅より長さが長くなる。花序は円錐状、3~6(8)本の枝を輪生状に斜上し、長さ10~25㎝。花序の短い枝には基部近くから小穂がつく。小穂の柄には普通、小刺がある。小穂は紫色を帯びることが多く、緑色~淡紫色、長さ2~2.8㎜、1小花をもつ。苞穎は第1、第2ともほぼ同長。第1苞穎の背は竜骨状で刺がある。護穎は長さ1.4~1.9㎜の透明な膜質、苞穎より短く、背にかすかな芒があることがあり、基毛はない。葯は黄色、護頴の1/2以上の長さがある。内頴はほぼ果実と同長で護頴の半長より長い。果実は長さ約1㎜、淡褐色。熟して小花が落ちた後も、苞穎が残る。2n=42。花期は6~8月。

12 Agrostis hideoi Ohwi ユキクラヌカボ 雪倉糠穂
 日本固有種。本州に分布。別名はオクヤマヌカボ。山地に生える。
 多年草、叢生する。稈は直立し、長さ20~40㎝、直径0.5~0.8㎜、4~5節がある。葉鞘は平滑。葉舌は縁毛がなく、膜質、長さ0.8~1㎜、切形または鈍形。葉身は長さ3~10㎝×幅1~2㎜、表面はザラつき、上面は粗い。花序は円錐花序、円錐花序は開き、卵形、発散し、長さ5~8㎝×幅2~3㎝、小穂は枝の先に集まる。花序の一次枝は4~7本つき、長さ1~3㎝、ザラつく。小穂は単生。稔性の小穂は小梗がある。小梗は糸状、長さ3~8㎜。小穂は1個の稔性の小花からなり、小軸の伸長は無い。小穂は楕円形、側部が扁平、長さ3~3.5㎜、成熟時に別れ、各稔性の小花の下で関節離断する。小花のカルスは毛があり、毛は護穎の長さの0.2倍。両苞穎は宿存し、似ており、小花の先から突き出し、稔性の護穎より堅い。第1苞穎は披針形、長さ3~3.5㎜。第2苞穎の長さの1.1~1.倍、膜質、1竜骨があり、1脈があり、一次脈はザラつき、側脈はなく、先は尖鋭形。第2苞穎は披針形、長さ2.7~3㎜、隣接する稔性の護穎の長さの1.7~1.8倍、膜質、1竜骨、1脈があり、一次脈はザラつき、側脈は無く、先は鋭形。稔性の護穎は長円形、長さ1.5~1.7㎜、透明、竜骨は無く、5脈があり、側脈は突き出る。護穎の表面は細かくザラつき、上面は粗く、先は歯状、4裂して芒があり5芒がある。主要な護穎は背に芒があり、護穎の背の0.1上から生じ、膝状に曲がり、全体の長さは3~3.5㎜、柱(下部)は捻じれる。側護穎の芒は裂片の先に商事、長さ0.8~1㎜、主要な芒より短い。内穎は護穎の長さの0.2倍、透明、2脈がある。鱗被は2個、膜質。葯は3個、長さ0.8~1㎜。穎果は果皮が付着性、長円形、長さ1.25㎜。へそは線形。胚乳は 粉質。

13 Agrostis hyemalis (Walter) Britton, Sterns et Poggenb. フユヌカボ 冬糠穂
  synonym Agrostis hiemalis Britton & Stern.et Poggenb.
 中国東北部、ロシア、北アメリカ(カナダ、USA,メキシコ)、南アメリカ(エクアドル、ペルー)原産。英名はwinter bent , winter bentgrass , Agrostide d'hiver。別名はハナビヌカボ。道端、開けた牧草地、雑木地帯、岩場などに生える。
多年生または一越年生(facultative annuals)。叢生し、根茎または匍匐茎はない。稈は高さ15~82㎝、直立し、(3)4~7節がある。葉は茎葉と根生葉。葉鞘は平滑。葉舌は長さ(0.7)1.2~4㎜、背面はザラつき、先は普通、円形~切形、ときに鋭形、切り裂かれ、微細不整歯になる。葉身は長さ3~10㎝×幅1~2㎜、平ら、内巻きになり、または折りたたまれる。円錐花序は長さ(5)10~25(36)㎝×幅(3)4~24㎝、広卵形、しばしば長さが幅と長さになり、拡散し、成熟時に穂全体が基部で分離し、タンブルウィード(tumbleweed)を形り、基部はしばしば上部の鞘に囲まれ、最下部の節には (3)5~11本の枝がつく。枝はザラつき、毛細管状、柔軟、広範囲に広がり、上部の1/4が枝分かれし、小穂は枝の先端に強く密集し、下部の枝は長さ5~15㎝。小梗は長さ0.1~2.5(3.5)㎜。小穂は卵形~狭卵形、帯緑色、または帯紫色。苞穎はほぼ等長、長さ1~2㎜、1脈があり、竜骨があり、竜骨はザラつき、ときに、体も先に向かってザラつき、先は鋭形~尖鋭形。カルスの毛は長さ0.2㎜以下、まばら。護穎は長さ0.8~1.2㎜、細かくザラつき、半透明~不透明、5脈があり、脈は不明瞭または上部が明瞭、先は普通、鈍形、ときに鋭形、全縁、芒は無い。内穎は無いかまたは長さ0.2㎜以下で薄い。葯は3個、長さ0.2~0.5㎜。穎果は長さ0.7~1㎜。 2n =28。

14 Agrostis infirma Büse ニイタカヌカボ 
  synonym Agrostis rigidula Steud.
  synonym Agrostis morrisonensis Hayata
 中国、台湾、インドネシア、ニューギニア、フィリピン原産。中国名は玉山剪股颖 yu shan jian gu ying。

15 Agrostis lachnantha Nees アフリカヌカボ 
  synonym Lachnagrostis lachnantha (Nees) Rúgolo & A.M.Molina [Kewscience]
 アフリカ、イエメン原産。

16 Agrostis mertensii Trin. コミヤマヌカボ 小深山糠穂
  synonym Agrostis borealis Hartm.
  synonym Agrostis mertensii Trin. subsp. borealis (Hartm.) Tzvelev 
 日本(北海道、本州、四国、九州)、ロシア、ヨーロッパ北西部、グリーンランド、北アメリカ、南アメリカ原産。英名はnorthern bent。川や湖の谷の斜面や砂利州、山や崖の開いた草原、や岩だらけの斜面に生える。
 多年草。叢生し、根茎や匍匐茎は無い。稈は高さ(5)10~40㎝、直立、2~4節がある。主に根生葉、または根生葉と茎葉、根生葉は宿存する。葉鞘は平滑またはザラつく。葉舌は長さ0.7~3.3㎜、細かくザラつくかまたは平滑、普通、円形、ときに鋭形または切形、微細鋸歯縁、ときに切り裂かれる。葉身は長さ2.5~13 cm×幅0.5~3㎜、普通、平らで、たまに内巻きまたは折りたたまれる。円錐花序は長さ(2)3~10㎝、幅(0.5)1.5~5㎝、広卵形~披針形、普通、開き、成熟時に上部の鞘から突き出し、最下部の節には(1)2~5本の枝がある。枝は直立し、毛細管状ではなく、容易に見え、平滑またはまばらに細かくザラつき、中間より上で分枝し、上部1/2以上に小穂がつき、下部の枝は長さ(1.5)2~4㎝。小梗は長さ0.4~6.4㎜。小穂は狭卵形、暗褐色または帯紫色。両苞穎はほぼ等長、長さ2~4㎜、楕円形~披針形、中脈はザラつく~細かくザラつき、少なくとも上部がザラつき、1脈があり、先は鋭形。カルスの毛は長さ0.4㎜以下、毛はまばら。護穎は長さ1.6~2.6㎜、平滑または細かくザラつき、半透明から不透明、5脈があり、脈は明瞭~不明瞭、先は鋭形、全縁または微細不整歯があり、中間のすぐ下から芒が出て、芒は長さ(2)3~4.4㎜、膝状に曲がり、突き出し、宿存する。内穎はないかまたは長さ0.1㎜以下で薄い。葯は3個、長さ0.5~0.8㎜、普通、開時に脱落する。穎果は長さ1.4~2㎜。胚乳は固形。2n=56。[2n=42はAgrostis scabra]。

17 Agrostis nebulosa Boiss. et Reut. カスミヌカボ 
 中国、ブータン、インド(ダージリン、シッキム)、ミャンマー北部、ネパール原産。中国名は泸水剪股颖 lu shui jian gu ying。別名はカスミソウ。

18 Agrostis nigra With. クロコヌカグサ 黒小糠草
  synonym Agrostis gigantea Roth subsp. gigantea
 北海道、本州、九州に分布し、原産地不明の帰化種とされていた。英名はblack bent grass。耕作放棄地や空き地に生える。
 コヌカグサに比べて、小穂がより紫褐色を帯び、花序の枝が横に広がると区別されるとされていたが、現在ではコヌカグサ(Agrostis gigantea)に含められる。

19 Agrostis osakae Honda キタヤマヌカボ 
 講談社のFlora of Japan, Volume Ⅳa(2020)に乗せられているが、コヌカグサ(Agrostis gigantea)に含める説もある。

20 Agrostis scabra Willd. エゾヌカボ 蝦夷糠穂
  synonym Agrostis hyemalis auct. non (Walter) Britton, Sterns et Poggenb.
 日本(北海道、本州)、朝鮮、ロシア、北アメリカ原産。英名は agrostis scabra willd , tlcklegrass , rough bent。草地、牧草地、低木地、森林地帯、湿地、小川や湖の縁、道端、溝、放棄された牧草地などの乱れた場所など様々な場所に生える。日本では山地の草原に生える。
 多年草または一年草。叢生し、根茎や匍匐茎は無い。稈は高さ(7.5)15~90㎝、直立し、節は普通、1~3個つく。葉は主に根生葉、普通、宿存する。葉鞘は普通、平滑、ときに細かくザラつく。葉舌は長さ0.7~5㎜、背面はザラつき、先は普通、円形、ときに切形または鋭形、微細不整歯状の繊毛があり、ときに切り裂かれる。葉身は長さ4~14㎝×幅1~2㎜、根生葉の葉身はほとんど内巻き、茎葉はほとんどが平坦。円錐花序は長さ(4)8~25(50)㎝、幅0.5~20㎝、広卵形、しばしば長さとほぼ同じ幅になり、拡散し、円錐花序全体がしばしば成熟時に基部で分離し、タンブルウィード(tumbleweed)を作り、上部の鞘から突き出し、最下部の節には(1)2~7(12)本の枝がつき、枝はザラつき、毛細管状、柔軟で、広範囲に広がり、容易に見え、中間以上で分枝し、小穂はやや離れてつき、密ではない。下部の枝は長さ4~12cm。小梗は長さ0.4~9.6㎜。小穂は披針形、緑紫色、成熟するとしばしば紫色になる。両苞穎は不等長、長さ1.8~3.4㎜、披針形、1脈があり、竜骨は少なくとも先がざらつき、先は尖鋭形。カルスの毛は長さ0.2mm以下、毛はまばら。護穎は長さ1.4~2㎜、ザラつく~細かくザラつきまたは平滑、半透明~不透明、5脈があり、脈が先から突き出し、先は鋭形~鈍傾、普通、全縁、ときに微細な歯があり、芒は無いかまたは中間より下から芒が出る。芒は長さ0.2~3㎜、護穎の先から長さ2.5㎜以下、突き出し、膝状に曲がるかまたは真っ直ぐで、宿存する。内穎は無いかまたは長さ0.2㎜以下。葯は3個、長さ0.4~0.8㎜、普通、花時に脱落する。穎果は長さ0.9~1.4㎜。胚乳は液状。 2n=42。

21 Agrostis sozanensis Hayata ソウザンヌカボ 
  synonym Agrostis rigidula Steud. var. formosana (Hack.) Veldkamp
  synonym Agrostis infirma Büse var. formosana (Hack.) Veldkamp
  synonym Agrostis transmorrisonensis Hayata
 中国、台湾原産。中国名は台湾剪股颖 tai wan jian gu ying。別名はニイタカコヌカグサ。

22 Agrostis stolonifera L. ハイコヌカグサ 
  synonym Agrostis palustris Huds.
  synonym Agrostis sibirica Petrov
 日本、中国、モンゴル、ロシア、ブータン、インド、ネパール、中央および南西アジア、ヨーロッパ原産。中国名は西伯利亚剪股颖 xi bo li ya jian gu ying。別名はクリーピングベントグラス、タマガワヌカボ、ハマヌカボ、オオヌカボ。道端の湿った場所に生える。
 多年草、房状になり、匍匐茎があり、匍匐茎は細く、葉がつき、広範囲に広がり、花後に発達する。稈は、高さ30~50(~100)㎝、直立または基部で膝状に曲がり、基部から発根する。葉鞘は平滑。葉身は線形、平らまたは内巻きし、長さ4~10㎝×幅2~5㎜、細かくザラつき、先は鋭形~尖鋭形。花のつかないシュートの葉舌は長さ2~3.5㎜、円形~切形、しばしば切り裂かれる。円錐花序は狭く、外形が線形~披針形、長さ5~20㎝、花時にのみ開き、それ以外は狭くなり、しばしば密になる。各節の数本の枝があり、密に分枝し、斜上し、ザラつき、節の主枝はしばしば下部の1/3が裸出するが、基部に小穂を持つ短い枝をつける。小穂は長さ1.8~3㎜、黄緑色。両苞穎は披針形、ほぼ同長または第1苞穎がわずかに長く、第1苞穎は竜骨の上部がザラつく。第2苞穎はしばしば平滑、先は鋭形。カルスには微細な毛がある。護穎は小穂の長さの3/4~ほぼ同長、普通、芒はなく、先は円形。内穎は護穎の長さの1/2~3/4。葯は長さ0.8~1.5㎜。花期は8月。

23 Agrostis tateyamensis Tateoka タテヤマヌカボ 立山糠穂
 日本固有種。本州(立山)に分布する。高山地帯の草原や砂礫地に生える。  多年草。茎は房状になり、繊細で、直立し、高さ20~35㎝。茎葉は少数つき、線形、長さ5~8㎝×幅2~2.5㎜、先は尖鋭形、表面はザラつく。葉舌は白色、半透明、長さ約2㎜、先は鈍形。葉鞘は平滑、無毛。円錐花序は外形が卵形、長さ5~9㎝、花序軸は1~2分枝し、繊細な枝を斜上し、枝の中間以上に小穂をまばらにつける。枝や小梗に刺状の短毛がある。小穂は長さ2.6~2.8㎜。両苞穎はほぼ等長、第1苞穎は長さ2.6~2.8㎜、第2苞穎は長さ2.5~2.6㎜、薄膜質、帯淡紫色、中脈はほぼ無毛。小花は長さは第2苞穎とほぼ等長、長さ約2.5㎜、微細な基毛がある。護穎の芒は長さ4~4.5㎜、膝状に弱く~強く曲がる。花期は7~8月。2n=42(6倍体)。

24 Agrostis valvata Steud. ヒメコヌカグサ 姫小糠草
  synonym Agrostis nipponensis Honda
 日本固有種。本州(関東以西)、四国、九州に分布。林縁の湿潤地、湿地に生える。開発による湿地、湿潤地の減少により、全国的に絶滅寸前であり、絶滅危惧種に指定されている。
 多年草。高さ40~70㎝。根茎はなく、茎は無毛で、平滑、叢生する。葉は柔らかく、無毛。葉舌は長さ2.5~3㎜、白色、膜質。葉鞘は無毛。円錐花序にまばらに小穂をつける。花序の枝は開出する。小穂は外来種の道端や畦道などに生育するコヌカグサ(レッドトップ)と同様に、淡緑色~淡紫色を帯び、長さ2.5~3㎜、無芒。小花は1個。苞穎は護穎よりわずかに短く、第2苞穎は第1苞穎より幅が広い。小花が苞頴よりやや大きいのが特徴である。護頴は薄膜質、3脈がある。内穎は微小。花期は5~6月。

25 Agrostis vinealis Schreb. クロヌカボ 黒糠穂
  synonym Agrostis coarctata Ehrh. ex Hoffm. subsp. trinii (Turcz. ex Litw.) H.Scholz
  synonym Agrostis flaccida Hack. subsp. trinii (Turcz. ex Litw.) T.Koyama
  synonym Agrostis flaccida Hack. var. trinii (Turcz. ex Litw.) Ohwi
  synonym Agrostis kudoi Honda ex Miyabe et Kudô
  synonym Agrostis trinii Turcz. ex Litw.
  synonym Agrostis vinealis Schreb. subsp. kudoi (Honda) Tzvelev
  synonym Agrostis vinealis Schreb. subsp. trinii (Turcz. ex Litw.) Tzvelev
 日本、韓国、中国、モンゴル、ロシア、パキスタン、アメリカ、ヨーロッパ原産。中国名は芒剪股颖 mang jian gu ying。湿った草地に生える。
 多年草、房状になり、短い根茎がある。稈は基部が膝状に曲がり、直立し、高さ30~60㎝、 直径約1㎜、3節がある。葉鞘は滑らか。 葉身は細く直線状、平らまたは弱く巻かれた、灰色がかった緑色、長さ5~8㎝×幅0.5~2㎜、ザラつく。葉舌は長さ1.5~3㎜、先は鈍形。 円錐花序は長さ7~12㎝、披針形~狭卵形、節ごとに2~5の枝があり、緩やかに斜上し、細く、中程度にザラつく。 小穂は長さ2~2.5㎜、紫色。両苞穎は長円状披針形、ほぼ同長、第1苞穎はわずかに長く、竜骨はザラつくかまたは第20苞穎ではほぼ平滑、先は尖鋭形。カルスの毛は長さ約0.2㎜。護穎は小穂の長さの2/3、芒は中間の少し下~下部の1/3から出るか、または芒がなく、先は鈍形。芒は膝状に曲がり、長さ3~3.5㎜。内穎は非常に小さい。葯は長さ1~1.5㎜。花期および果期は夏~秋。

26 Agrostis x fouilladei P.Fourn. バケヌカボ 化糠穂
  synonym Agrostis x dimorpholemma Ohwi
 地中海原産。中国名は多形剪股穎 duo xing jian gu ying。造成地の緑化に使用される。  多年草。高さ30~50㎝。匍匐根茎があり、横に伸び広がる。茎は硬く、直立し、叢生する。葉は無毛、コヌカグサより幅が広い。葉舌は長さ1.5~3㎜。花序は円錐状で、3~6本の枝を輪生状に斜上し、長さ7~20㎝、有芒の小穂と無芒の小穂が混在する。有芒の小穂は花序の枝の先端に多い。小穂は紫色を帯びることがあり、緑色の場合も多い。小穂の柄の刺はやや少ない。苞穎は第1、第2ともほぼ同長。第1苞穎の背は竜骨状で刺がある。小穂は1小花のみをもつ。護穎は透明な膜質、苞穎より短い。護頴の基部付近から芒が出て、芒のあるものと無いものがある。葯は黄色、護頴の1/2以上の長さがある。内頴は護頴のほぼ1/2長。花期は6~7月。

参考

1) Flora of China
 Agrostis
http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=2&taxon_id=100853
2) Plants of the World Online| Kewscience
 Agrostis
https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:325863-2
3) World Flora Online
 Agrostis
http://www.worldfloraonline.org/taxon/wfo-4000000996;jsessionid=C6D952E61A905195958F79D83D98C2B4
4) World Checklist of Vascular Plants
 Agrostis
https://wcvp.science.kew.org/
5) FNA - Flora of North America
 Agrostis
http://floranorthamerica.org/Agrostis