イヌナズナ 犬薺

mark

Flora of Mikawa

アブラナ科 Brassicaceae イヌナズナ属

中国名 葶苈 ting li
英 名 woodland draba
学 名 Draba nemorosa L.
イヌナズナの花序
イヌナズナの花
イヌナズナの花2
イヌナズナの茎
イヌナズナ
イヌナズナ葉
花 期 3~6月
高 さ (3~)6~45(~60)cm
生活型 1年草
生育場所 草地、道端、湿った谷、川岸、森林縁、川沿い、山の斜面
分 布 在来種 北海道、本州、四国、九州、朝鮮、中国、ロシア、、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、西南アジア、ヨーロッパ、北アメリカ
撮 影 豊田市  06.4.16
和名は食べられないナズナという意から。
 1年草、高さ(3~)6~45(~60)cm。 茎は上向きに直立し、単純または基部より少し上で分枝し、密に毛があり、毛は単毛(1.3 mmまで)~二股~有柄または無柄の星状毛が混在し、花の下部~先までは無毛。根生葉はロゼットになり、しばしば、花期または果期を通じて宿存し、葉柄は廃れ、葉身は長円状倒卵形または倒披針形、長さ(0.4~)1~3.5(~5)㎝×幅(0.2~)0.5~1.5(~2)㎝、まばらまたは密に毛があり、毛は有柄、二股で星状の毛状突起で、放射の枝は単純、基部は楔形 、縁は歯または小歯があり、まれにほぼ全縁、先は鈍形。茎葉は(2~)3~12(~15)枚つき、無柄、葉身は広卵形~長円形、長さ(0.2~)0.5~1.8(~2.7)cm ×幅(1~)3~10(~15)㎜、下面に根生葉と同じように毛があり、上面には毛があり、毛は主に単純な毛状突起と少数の分岐した毛が混在し、基部は楔形~円形、縁には歯または小歯があり、先は鈍形または鋭形。総状花序は花が(15~)25~60(~90)個つき、葉があり、果時はわずかにまたはかなり長くなる。果時の小花柄は長さ0.7~2.5(~3)㎝、二分岐し、真っすぐ、無毛、糸状、果実より長い。萼片は卵形、長さ(0.7~)0.9~1.6㎜×幅0.5~1㎜m、ほぼ直立し、外面にまばらに単純毛があり、側対の基部は嚢状ではなく、縁は膜質ではない。花弁は黄色、へら形、長さ(1.2~)1.7~2.2(~2.5)㎜×幅(0.4~)0.6~1㎜、先は凹形、爪部は無い。花糸は長さ(0.9~)1~1.7(~2)㎜。 葯は広卵形~ほぼ腎形、長さ0.1~0.2㎜。胚珠は各子房あたり(30~)36~60(~72)個。果実は長円形または楕円形、長さ(3~)5~8(~10)㎜×幅1.5~2.5㎜、わずかに広い隔壁があり(latiseptate)、捻じれない。バルブは無毛または毛があり、毛状突起は単純、前方に曲がり、長さ0.05~0.2㎜、基部と先は鈍形、しばしば、明瞭な中脈と吻合側脈(anastomosing lateral veins)をもつ。花柱は廃れ、まれに長さ0.1㎜以下になる。種子は赤褐色、卵形、長さ0.5~0.7(~0.8)㎜×幅0.3~0.4(~0.5)㎜。花期および果期は3~6月。2n=16。
 ナズナは花が白く、果実が三角形。ナズナほど多くはなく、郊外の道端や土手で、たまに見られる程度である。

イヌナズナ属

 family Malvaceae- genus Draba

 多年草、まれに1年草、2年草(又は亜低木、茎が木質)。毛は単純毛、二又毛、星状毛、T形毛(malpighiaceous)、樹枝状毛、有柄又は無柄、しばしば、1種以上がある。茎は直立~斜上、ときに、平伏、葉がある又は無くt花茎がある。茎葉は葉柄があり又は無く、基部は楔形又は耳があり、全縁又は歯状縁、ときに欠く。総状花序は苞があり又は苞が無く、果時に長くなるか又はならない。果時の花柄は細く、直立、斜上又は開出する。萼片は卵形、長円形、又は、楕円形、側対の基部は袋状又はほぼ袋状にならず、縁は普通、膜質。花弁は黄色、白色、ピンク色、紫色、橙色(まれに赤色)、花弁の広い部分は倒卵形、へら形、長円形、倒披針形、円形又は線形、先は鈍形、円形、まれに凹形。爪部は曖昧又は強く区分される。雄しべは6本、4強雄しべ。花糸は基部で広がるか又は広がらない。葯は卵形又は長円形、先は鈍形。蜜腺は1,2, 又は4個、分離又は融合し、全ての雄しべの基部を抱く。中央の腺は有又は無。側腺は歯状、半環状又は環状。胚珠は子房に4個~多数。果実は裂開する短角果又はまれに長角果、卵形、楕円形、長円形、円形、卵形体、球形、披針形又は線形、広い隔壁がある又は円柱形、ときに螺旋状に捻じれる。バルブは明瞭又は不明瞭な脈があり、無毛又は軟毛があり、バルブの薄い隔膜(replum)は円く、隔壁(septum)は完全、膜質、半透明。花柱は明瞭又は廃れ、無毛。柱頭は頭状、全縁又はわずかに2裂。種子は2列につき、翼は無い(又はまれに翼があり)、長円形、卵形、又は円形、平らになる。種皮は小さな網目があり、湿っても粘らない。子葉は側位。
 世界に約350種あり、北半球に多く、特に北極地、北極地、亜寒帯、高山、亜高山に多い。南アメリカには約70種がある。

イヌナズナ属の主な種と園芸品種

1 Draba aizoides L. ハリイヌナズナ  針犬薺
 ヨーロッパ原産。英名はyellow whitlow-grass。亜高山~高山の山地に生える。
 茎は高さ5~10cm、分枝せず、無毛で葉はつかない。根生葉は細く、狭披針形(針形)、硬く、長さ2㎝まで、縁に長い縁毛があり、星状毛は無い。花弁は黄色、後に退色し、長さ4~6㎜。果実は披針形、長さ6~10㎜、ほとんどが無毛、果柄は長さ5~20㎜。花柱は長さ1.5~3㎜。2n=16。花期は2~7月。(© Flora Helvetica 2018)
品種) 'Compacta' , 'Napoleon'

2 Draba borealis DC. エゾイヌナズナ 蝦夷犬薺
  synonym Draba grandiflora Franch.
  synonym Draba borealis DC. var. leiocarpa Pohle
  synonym Draba kurilensis (Turcz.) N.Busch
 日本(北海道、本州)、ロシア、北アメリカ原産。標高0~2400mの岩の露出部と崖錐、砂利の段丘、牧草地、林縁と茂み、道端、草地、高山のツンドラに生える。
 多年草。てい幹は分枝する(通常、枝は細く、長く、根茎があり、ときに葉の基部を宿存する)。花茎ではない。茎は通常分枝せず、まれに分枝し、高さ(4~)10~36(~55)㎝、しばしば下部に粗毛があり、毛状突起(星状毛)は通常単純で2放射状、長さ0.5~1.1㎜、短い柄がある。3~8放射状の毛は、長さ0.1~0.4㎜(まれに、上部に単純な毛状突起を欠く)。根生葉はロゼットになる。葉身は卵形または倒卵形~倒披針形、長さ(0.5~)1~4.2(~6)cm×幅3~10(~25)㎜、縁は歯または小歯があり、表面は毛があり、毛状突起は短柄があり、十字形、または(2~)4~6放射状、長さ0.2~0.6㎜(主放射は通常単純で、まれに側枝が1~2本あり、ときに10放射状に見える)。 茎葉は(2~)3~7(~12)枚つき、無柄、 葉身は卵形で、縁は全縁または歯があり、表面は基生葉と同様に毛があるかまたは上面に単純毛があることがある。総状花序は花が(6~)8~20(~35)個つき、苞は無く、果時に長くなる。花序軸は屈曲せず、茎と同様に毛がある。果時の小花柄は二分岐または斜上し、真っ直ぐ、長さ(2~)4~8(~13)㎜、茎と同じように毛がある。萼片は卵形、長さ2~3㎜、毛がある(単純な毛状突起)。花弁は白色、倒卵形、長さ4~6㎜×幅2~3㎜。葯は卵形、長さ0.3~0.5㎜。果実は卵形~広長円形または披針形、わずかに捻じれているか平面で、扁平、長さ(5~)7~12㎜×幅2.5~4.5㎜。 バルブは毛があり、毛状突起は単純で柄が短く、2~4放射状、長さ0.1~0.4㎜。胚珠は各子房あたり16~28(~30)個。花柱は長さ0.2~0.6(~0.8)㎜、無毛。種子は長円形、長さ1~1.5㎜×幅0.7~1㎜。2n=64, 80。花期は6~7月。

3 Draba grandis Langsd. ex DC. イシノナズナ 石野薺
  synonym Nesodraba grandis (Langsd. ex DC.) Greene
 ロシア(千島、アリューシャン列島)、アラスカ、ブリティッシュコロンビア州に分布。標高0~50(~200)mの塩水のかかる海岸の岩だらけの断崖、ローム質の海辺の土手、海鳥の繁殖地、海岸の草本ツンドラ、砂浜に生える。
 多年草。てい幹は単純または分枝する(多肉質で、宿存する葉の基部を持つ)。花茎ではない。茎(傾伏)、分枝なく、高さ(2~)5~27(~37)㎝、全体に毛があり、毛状突起(星状毛)は2~4放射状、長さ0.05~0.2㎜。根生葉はロゼットになり、長い葉柄があり、葉柄は(翼があり、長さ(1~)4~15cm)、しばしば縁毛が無く (または葉の先端まで縁毛があり、毛状突起は単純、長さ0.3~0.8㎜)。葉身(やや肉質)は倒披針形~へら形または倒卵形、長さ(1~)2~11(~17)㎝×幅(5~)8~30(~45)㎜、縁はしばしば粗い歯があり(葉柄と同じように毛がある)、表面 通常毛があり、下面に柄のある2~4放射状の毛状突起があり、長さ0.05~0.25㎜、上面は同様、またはまた、単純で長い柄のある2放射状の毛状突起があり、長さ0.8 mmまで、まれに無毛になり、ほとんどが単純で2放射状の毛状突起。茎葉は2~12(16)枚つき、無柄または葉柄があり、葉身は倒披針形~倒卵形、縁は歯があるかまたは全縁で、表面は基部のように毛がある。 総状花序は花が5~26(~32)個つき、苞が無く、果時に長くなる。花序軸は屈曲せず、茎と同様に毛がある。果時の小花柄は水平~2分枝斜上または斜上し、通常真っ直ぐ、まれに上向きに曲がり、長さ(5~)10~22(~27)㎜、毛があり、毛状突起は2~4放射状(長さ0.05~0.3 mm)、ときに単純で距がある。萼片は広卵形、長さ3~4㎜、毛がある、(毛状突起は単純で柄が短く、2放射状)。花弁は黄色、倒披針形~へら形、長さ4.5~7㎜×幅1.8~3㎜。 葯は長円形、長さ0.7~1mm。 果実は長円形~披針形、または卵形~ほぼ円形で、わずかにねじれているか平面で、扁平、長さ(6~)10~20(~25)㎜×幅4~7(~9)㎜。バルブは無毛。胚珠は子房あたり24~52個。花柱は長さ(0.2~)0.4~1.6(~2) mm。 種子は卵形、長さ1.4~2×幅0.8~1.2mm。2n=36。花期は5~7月。

4 Draba igarashii S.Watan. シリベシナズナ 後志薺
 北海道固有種。高山の岩壁に生える。  多年草。葉や茎に星状毛が密にある。花は白色の4枚の花びらが十字花。

5 Draba incana L. ドラバ・インカナ
 ヨーロッパ、ロシア、グリーンランド、北アメリカ原産。英名はhoary whitlow grass。標高0~200mの露出した岩、崖錐、砂利の多い海岸に生える。
 2年草、花茎ではない。茎は通常分枝し、まれに不分枝、高さ(3~)6~30(~40)㎝、下部には密に毛があり、毛状突起は単純、長さ0.4~1.3㎜、2~4放射状のものは少なく、長さ0.3㎜(上部で大部分が分枝する毛状突起で、分岐がより少ない単純なものは少数)。根生葉はロゼットになり、葉柄があり、葉柄の基部と縁に縁毛があり(毛状突起は単純、長さ0.2~0.7㎜)、葉身は披針形または倒披針形~へら形、長さ0.5~2.9㎝×幅1~5(~9)㎜、縁には歯があり、表面は毛があり、下面に有柄で、十字形または2~3放射状の枝がある毛状突起があり、毛は長さ0.1~0.4㎜、(まれに放射状の枝が分枝する) 上面は単純な毛状突起があり、長さ0.1~0.7㎜、および柄のある2~4放射状の毛状突起がある。茎葉は(15~)22~54(~76)枚、(少なくとも基部で密に覆瓦状)、無柄。葉身は卵形~長円形または披針形、(基部はしばしば下面に密にひげを生やし、毛状突起は単純で、長さ1.3㎜まで)、縁は歯があり、表面は根生葉と同じように毛がある。総状花序は花が(11~)17~36(~48)個つき、基部に苞葉があり、果時に長くなり、またはそうでない。花序軸は屈曲せず、茎上部のように毛がある。果時の小花柄は直立~斜上し、(花序軸にほぼ伏せ)、真っ直ぐ、長さ(1.5~)2.5~6(~13)㎜、毛があり、毛状突起は2~4放射状と単純である。萼片は卵形、長さ2~2.5㎜、毛があり(毛状突起は単純で柄が短く、2~4放射状)。花弁は白色、へら形、長さ3.5~4.5㎜×幅1~2㎜。葯は卵形、長さ0.3~0.4㎜。果実は長円形~線状披針形または楕円形、わずかに捻じれるか平面で、扁平、長さ5~10(~12)㎜×幅1.5~2.5(~3)㎜。バルブは無毛または毛があり、毛状突起は単純で柄が短く、2~4放射状、長さ0.05~0.3㎜。 胚珠は各子房に(24~)30~40個。花柱は長さ0.01~0.25㎜。種子は長円形、長さ0.7~1.1㎜×幅0.5~0.6㎜。2n=32。花期は7~8月。
品種) Stylaris Group

6 Draba japonica Maxim. ナンブイヌナズナ 南部犬薺
 日本固有種(北海道の夕張岳、岩手県の早池峰山)。蛇紋岩地に生える。
 茎は下部で分枝して叢生し、花のつく茎は高さは5~10㎝。全草に白色の星状毛がある。茎葉は無柄で、葉身は広倒披針形、長さ4~15㎜×幅2~6㎜、縁は全縁または鋸歯があり、先は鋭形、両面と縁に星状毛、2分岐毛、および単純毛がある。総状花序は頂生、花を数個~10数個つけ、果時に長くなる。小花柄は花序から斜めに出て、毛がある。萼片は4個、楕円形で花弁より短い。花弁は黄色、4個、広倒卵形、長さ4.5~5㎜、先が凹形。雄しべは6本、うち4本が長い。雌しべは1個、花柱は長さ0.2~0.5㎜。果実は短角果、扁平、楕円形~倒卵状楕円形、長さ3.5~6㎜、両面は無毛かまたは短毛があり、先に花柱を宿存する。種子には付属体がつかない。花期は6~8月。

7 Draba kitadakensis Koidz. キタダケナズナ 北岳薺
  synonym Draba oiana Honda  ヤツガタケナズナ 八ヶ岳薺
  synonym Draba nakaiana H.Hara ソウウンナズナ 層雲薺

  synonym Draba kamtschatica (Ledeb.) N.Busch var. yesoensis Nakai

 日本固有種(本州の高山)。高山の岩場に生える。別名はハクホウナズナ(白鳳薺)、ヤツガダケナズナ(八ガ岳薺)。花は白色。エゾイヌナズナに似るが、葉がやや細く、果実の捻じれが緩い。
 小型の多年草、高さ10~15㎝。茎は短く、枝分かれし、白色の星状毛を密につける。葉は互生し、無柄、葉身は卵形、白緑色、長さ1~3.5㎝×幅0.5~1.5㎝、両面に星状毛を密生する。根生葉には低い突起状鋸歯がある。茎葉は3~7個つき、ほぼ全縁または鋸歯がある。総状花序は花を3~10数個つけ、単純毛を密生し、星状毛が混じる。花は白色の十字花、直径5~8㎜。花弁は4個、長さ約2㎜。果実は短角果、長さ5~8㎜、扁平、楕円形~線状長円形、やや捻じれる。種子は長さ約5㎜。花期は6~7月。

8 Draba lasiocarpa Rochel ドラバ・ラシオカルパ
 ヨーロッパ(アルバニア、オーストリア、ブルガリア、チェコスロバキア、ギリシャ、ハンガリー、ユーゴスラビア)原産。標高880~2000(2900)mの山地~亜高山の草地や岩礫地に生える。矮性。花は黄色。
 小さな密な茂みをつくる。花茎は無毛または絨毛があり、葉がつかない。春葉は広線形、5~20㎜×幅1.4~3.3㎜。夏葉は幅0.6~1.7㎜、表面は無毛~縁毛があり、たまに2分岐毛をもつ。花茎は無毛~絨毛があり、長さ1~15㎝。花序は花が3~30個つき、ほぼ散形花序状、果時に長くなる。花は黄色。果実と萼片は単純毛があり、または単純毛と2岐毛が混生する。花柱は長さ1.4~4.1㎜。lasiocarpaは果実が有毛の意味。花期は3~6月。
品種) Compacta Group

9 Draba mollissima Steven ドラバ・モリッシマ
 コーカサス(ロシア、アゼルバイジャン、ジョージア)原産。岩の間の乾燥した山岳地帯や裂け目に生える。
 小型の多年草、高さ4~8㎝、柔らかい白色の毛が密生する。葉は根生し、ロゼットになり、葉柄があり、葉身は線形、灰緑色、全縁。頭状の総状花序に明るい緑黄色の十字花をつける。果実は長角果。花期は4~5月。
品種) 'Goteborg'

10 Draba mongolica Turcz. ミヤマイヌナズナ 深山薺
  synonym Draba daurica auct. non DC. 
 中国(甘粛省、河北省、黒竜江省、吉林省、内モンゴル自治区、青海省、陝西省、山西省、四川省、新疆ウイグル自治区)、モンゴル、ロシア原産。中国名は蒙古葶苈 meng gu ting li。標高1700~4000の隙間、草地、斜面、川岸に生える。
 多年草、高さ(3~)5~15(~20)㎝、叢生する。てい幹は細く、少数が分岐がほとんどなく、最終的な枝はロゼットで終わり、前年の葉柄の残骸で覆われる。茎は直立し、単純で、綿毛があり、ほぼ無柄の星状毛を持つ。根生葉はロゼットになり、葉柄は無いかまたは長さ長さ1.2㎝以下、葉身は披針形、長さ0.8~3㎝×幅1~5㎜、綿毛があり、無柄で4放射枝の星状毛があり、その放射枝は1~2個の側枝を持ち、基部は漸尖形~楔形、縁は全縁または歯があり、縁毛はなく、先は鋭形。茎葉は6~14(~17)枚つき、無柄、葉身は卵形~長円形、または楕円形、長さ0.6~1.5㎝×幅2~7㎜、根生葉と同じように毛があり、基部は楔形~鈍形、縁は全縁または両側に1~6の歯があり、基部に縁毛がなく、先は鋭形。 総状花序は花が7~20個、苞は無くまたは最下部の花には苞があり、果時にはわずかに長くなる。果時の小花柄は 長さ1~5(~6)㎜、二分岐し、真っ直ぐ、全体に綿毛があり、ほぼ無柄の星状毛を持つ。萼片は長円形、長さ1~1.8㎜×幅0.5~0.9㎜、直立し、外面に直軟毛があり、側対の基部は嚢状では無く、縁は膜質。花弁は白色、へら形、長さ2~3.5㎜×幅1~1.3㎜、先は亜凹形または円形、爪部は無い。花糸は長さ1~1.8㎜。葯は卵形、長さ0.1~0.2㎜。胚珠は各子房に12~18(~20)個。果実は狭長円状楕円形~披針状線形、長さ(5~)6~8(~9)㎜×幅(1~)1.5~2.5㎜、直立、広い隔壁があり(latiseptate)、平らまたは1回捻じれる。バルブは綿毛がありまたは無毛、不明瞭な脈があり、基部は鈍形、先は鋭形または尖鋭形。花柱は長さ0.1~0.3㎜。種子は褐色、卵形、長さ0.9~1.1㎜×幅0.5~0.6。花期および果期は6~8月。

11 Draba nemorosa L. イヌナズナ 犬薺
  synonym Draba nemorosa L. var. hebecarpa Lindblom 
 日本(北海道、本州、四国、九州)、朝鮮、中国、ロシア、、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、西南アジア、ヨーロッパ、北アメリカ原産。中国名は葶苈 ting li。英名はwood whitlow-grass 。海抜4800m付近までの草地、道端、湿った谷、川岸、森林縁、川沿い、山の斜面に生える。
 1年草、高さ(3~)6~45(~60) cm。 茎は上向きに直立し、単純または基部より少し上で分枝し、密に毛があり、毛は単毛(1.3 mmまで)~二股~有柄または無柄の星状毛が混在し、花の下部~先までは無毛。根生葉はロゼットになり、しばしば、花期または果期を通じて宿存し、葉柄は廃れ、葉身は長円状倒卵形または倒披針形、長さ(0.4~)1~3.5(~5)㎝×幅(0.2~)0.5~1.5(~2)㎝、まばらまたは密に毛があり、毛は有柄、二股で星状の毛状突起で、放射の枝は単純、基部は楔形 、縁は歯または小歯があり、まれにほぼ全縁、先は鈍形。茎葉は(2~)3~12(~15)枚つき、無柄、葉身は広卵形~長円形、長さ(0.2~)0.5~1.8(~2.7)cm ×幅(1~)3~10(~15)㎜、下面に根生葉と同じように毛があり、上面には毛があり、毛は主に単純な毛状突起と少数の分岐した毛が混在し、基部は楔形~円形、縁には歯または小歯があり、先は鈍形または鋭形。総状花序は花が(15~)25~60(~90)個つき、葉があり、果時はわずかにまたはかなり長くなる。果時の小花柄は長さ0.7~2.5(~3)㎝、二分岐し、真っすぐ、無毛、糸状、果実より長い。萼片は卵形、長さ(0.7~)0.9~1.6㎜×幅0.5~1㎜m、ほぼ直立し、外面にまばらに単純毛があり、側対の基部は嚢状ではなく、縁は膜質ではない。花弁は黄色、へら形、長さ(1.2~)1.7~2.2(~2.5)㎜×幅(0.4~)0.6~1㎜、先は凹形、爪部は無い。花糸は長さ(0.9~)1~1.7(~2)㎜。 葯は広卵形~ほぼ腎形、長さ0.1~0.2㎜。胚珠は各子房あたり(30~)36~60(~72)個。果実は長円形または楕円形、長さ(3~)5~8(~10)㎜×幅1.5~2.5㎜、わずかに広い隔壁があり(latiseptate)、捻じれない。バルブは無毛または毛があり、毛状突起は単純、前方に曲がり、長さ0.05~0.2㎜、基部と先は鈍形、しばしば、明瞭な中脈と吻合側脈(anastomosing lateral veins)をもつ。花柱は廃れ、まれに長さ0.1㎜以下になる。種子は赤褐色、卵形、長さ0.5~0.7(~0.8)㎜×幅0.3~0.4(~0.5)㎜。花期および果期は3~6月。2n=16。
11-1 Draba nemorosa L. f. leiocarpa (Lindblom) Kitag. メイヌナズナ 雌犬薺
  synonym Draba nemorosa L. var. leiocarpa Lindblom 
 果実が無毛。

12 Draba okamotoi Ohwi ヒナナズナ 雛薺
 日本固有種(白馬鑓ケ岳、清水岳)。ハイマツ帯の岩地、礫地に生える。
 クモイナズナ(Arabis tanakana Makino) と シロウマナズナ(Draba shiroumana Makino)が 混生しているところに稀に見られ、種間交雑と推定されている。

13 Draba polytricha Ledeb. ドラバ・ポリトゥリシャ
 南コーカサス(アゼルバイジャン、アルメニア、ジョージア)、トルコ原産。岩場に生える。
 小型のぶどうパン形(bun-forming)に低く、高さ約5㎝に密に群生する。葉は灰緑色。多数の茎の頂部に黄色の花を束生し、上向きに咲く。花期は2~5月。

14 Draba sachalinensis (F.Schmidt) Trautv. モイワナズナ 藻岩薺

  synonym Draba sachalinensis var. shinano-montana (Ohwi) Okuyama モイワナズナ 狭義

  synonym Draba shinanomontana Ohwi 

  synonym Draba sachalinensis (F.Schmidt) Trautv. var. shinanomontana (Ohwi) Okuyama カブダチナズナ

 日本(北海道、本州の長野県)、ロシア原産。岩壁、絶壁、岩礫地に生える。和名は最初に発見された北海道の藻岩山に因む。
 多年草、高さ10~30㎝。茎は叢生し、単純毛と2分岐毛がある。根生葉はロゼットになり、倒披針形、わずかに鋸歯があり、両面に単毛と星状毛がある。茎葉は2~4枚つき、両面に単毛と星状毛がある。総状花序は頂生、花が密につく。花は十字花、花弁は白色、長さ6~8㎜、先が凹形。果実は短角果、披針形~広披針形、長さ8~10mm、星状毛があり、長さ2~3㎜の花柱が宿存する。花期は4~5月。

15 Draba sakuraii Makino トガクシナズナ 戸隠薺 広義
  synonym Draba sinanensis Makino ミヤマナズナ
 日本固有種(本州中部地方)。高山の岩場に生える。別名はミヤマナズナ。
 多年草、高さ約15㎝。ロゼットの葉は長円形~倒披針形、歯状縁又は全縁。茎葉は楕円形~卵形、、多少、粗い歯状縁。花は小さく、白色。長角果は長円形で短い花柱をもつ、無毛、普通、多少、捻じれ又は平ら。種子は楕円形、尾状の付属体を胚珠の合点(chalazal end)にもつ。
15-1 Draba sakuraii Makino var. sakuraii トガクシナズナ 戸隠薺
 葉の切れ込みが浅い。種子の付属体が長い。
15-2 Draba sakuraii Makino var. nipponica (Makino) Takeda クモマナズナ
  synonym Draba sakuraii Makino var. linearis (Kitam.) Sugim.
  synonym Draba sakuraii Makino subsp. nipponica (Makino) Sugim.
  synonym Draba nipponica Makino var. linearis Kitam.
  synonym Draba nipponica Makino f. ramosa S.Watan.
  synonym Draba nipponica Makino 
 葉は鋸歯が深い。種子の付属体が短い。

16 Draba sekiyana Ohwi ニイタカナズナ 新高薺
 台湾原産。中国名は台湾葶苈 tai wan ting li。標高3000~3900mの山頂に生える。
 多年草、高さ3~6㎝、密に叢生する。てい幹は数分枝し、最終的な枝は不稔のシュートまたはロゼットで終わり、前年の葉の残骸で覆われる。茎は直立し、単純で、中程度に直軟毛があり、または微軟毛があり、主に単純な毛状突起をもつ。根生葉はロゼットになり、宿存する。葉柄は長さ5㎜以下、縁毛は単純な毛状突起、葉身は披針形~倒披針形、長さ4~10㎜×幅1~2㎜、まばらから中等度に直軟毛があり、単純ではるかに少ない短柄の二股状の毛状突起をもち、基部は漸尖、縁は全縁、先は鈍形~鋭形。茎葉は1~3枚つき、無柄、葉身は長円形~狭卵形で、被物は根生葉に似ている。総状花序は4~8個の花がつき、苞が無く、または稀に一番下の花に苞があり、果時に長くなる。果時の小花柄は長さ4~12㎜で、斜上~直立し、真っすぐまたはわずかに湾曲し、細く、直軟毛または微軟毛があり、すべて単純毛。萼片は長円形、長さ1.5~2㎜×幅0.6~0.8㎜、直立し、外面にまばらに直軟毛があり、単純な毛状突起であり、ときにそれよりも少ない毛状突起が混在し、側対の基部は嚢状ではなく、縁は膜質ではない。花弁は白色、狭倒卵形、長さ2.5~3㎜×幅0.9~1.1㎜、先は円形。花糸は長さ1~1.7㎜。葯は卵形、長さ0.3~0.4㎜。胚珠は各子房につき14~20個。果実は長円形~楕円形、長さ5~10㎜×幅1.5~2.5㎜、膨らまず、広い隔壁があり(latiseptate)、わずかに捻じれる。バルブは無毛、脈は不明瞭、基部は鈍形、先は鋭形。花柱は長さ0.1~0.4㎜。種子は褐色、長円形、約・長さ1.1㎜×幅0.6㎜。花期および果期は8月~9月。

17 Draba shiroumana Makino シロウマナズナ 白馬薺
 日本固有種(本州中部地方)。高山帯の岩場に生える。
 多年草。高さ5~15㎝。茎は多数、株立し、無毛。葉はほとんど根生葉、茎葉は1~3個つく。根生葉は線状へら形~線状披針形、長さ5~15㎜×幅1.5~2㎜、縁は全縁~突起状の鋸歯が1~3対あり、先は鋭形、単純毛又はときに又状毛の縁毛があり、面は無毛。総状花序は頂生、短く、花が少数~多数つく。花は4弁花。花弁は白色、倒卵形、長さ約2.5㎜。果実は長さ約1㎝、やや捻じれ、無毛。花期は6~7月。

18 Draba ussuriensis Pohle オクエゾナズナ
  synonym Draba kamtschatica auct. non (Ledeb.) N.Busch 
 日本、中国、ロシア原産。中国名は乌苏里葶苈 wu su li ting li

19 Draba verna L. ヒメナズナ 姫薺
 インド、ロシア、西アジア、中央アジア、コーカサス、ヨーロッパ、北アフリカ原産。英名はwhitlow grass, whitlow wort。標高0~2500mの杉林の中の空き地、芝生、野原、牧草地、荒地、草が茂った丘の中腹、荒れ地、道端に生える。世界に広く帰化。
 1年草。花茎がある。茎は(基部から数本~多数)、分枝せず、高さ(2~)5~20(~30)㎝、下部に毛があり、上部は無毛、毛状突起は単純で2(~4)放射状、長さ0.1~0.4㎜。根生葉はロゼットになり、葉柄があり、葉身は倒卵形~へら形~倒披針形~披針形~長円形、またはまれに線形、長さ0.2~1.8(~3)㎝×幅(0.5~)1~5(~10)㎜、縁は全縁または両側に1~5個の歯があり、表面は単純または毛があり、毛は柄のある、長さ0.1~0.5㎜の2~4放射状の毛状突起である。茎葉は無い。総状花序は花が4~20(~30)個つき、苞は無く、通常、果時にかなり長くなり、花序軸は通常、屈曲し、無毛。果時の小花柄は散開~斜上し、真っすぐまたはわずかに上部で湾曲し、長さ(2~)5~20(~35)㎜、無毛。萼片は (緑色または紫色)、長円形、長さ1~2.5㎜、無毛になるかまたは毛があり、(毛状突起は単純または 2放射状)。花弁は白色、2深裂し、長さ(1.5~)2~4.5(~6)㎜×幅1~2㎜。葯は卵形、長さ0.2~0.4㎜。 果実は倒卵形~倒披針形~披針形~楕円形~長円形、または線形、平らで、扁平、長さ(2.5~)4~9(~12)㎜×幅1.5~2.5(~3.5)㎜。バルブは無毛。胚珠は子房あたり(20~)32~70(~84)個。花柱は長さ0.02~0.2㎜。種子は卵形(やや扁平)、長さ0.3~0.6(~0.8)㎜×幅0.2~0.4㎜。2n=14, 16, 20, 24, 28, 30, 32, 34, 36, 38, 40, 52, 54, 58, 60, 64。花期は2~5月。

20 ハイブリッド
(1) Draba japonica × Draba borealis  ウスキナズナ
 古くからの栽培種。ナンブイヌナズナとエゾイヌナズナの交配種とされている。花は淡クリーム色。種子はできない。
(2) その他
品種)  'Buttermilk' , 'John Saxton'

参考

1) Matthiola incana (L.) W.T.Aiton | Kew Science
 Orychophragmus violaceus (L.) O.E.Schulz
http://www.plantsoftheworldonline.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:1075897-2
2)Flora of China
 Draba
http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=2&taxon_id=110884
3)Flora of North America
 Draba borealis de Candolle
http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=200009439
4)GRIN
 Draba
https://npgsweb.ars-grin.gov/gringlobal/taxonomygenus.aspx?id=3959
5)An Attempt at a New Arrangement of Some Japanese Alpine Species of Draba. By H. Takeda.
 THE BOTANICAL MMAGAZIiY [vol. xxv. No. 296]p193-196
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jplantres1887/25/296/25_296_193/_pdf