以前はフタバラン属とされていたが、現在ではサカネラン属(Neottia) に分類されている。
茎は直立し、無毛。葉は対生し、2個だけつき、長さ1~1.8㎝、幅1~1.6㎝の卵状三角形、無柄、葉先は鋭頭、基部は切形~楔形。花茎を直立し、葉が茎の中間につく。花茎や花軸には腺毛があり、花茎は長さ3~5㎝、花軸は長さ3~5㎝、花は2~6(8)個まばらにつく。小苞は広卵形、長さ1~2㎜。小花柄は細く、長さ9~12㎜、捻じれがあり、花が逆さまになる(ラン科では普通)。子房は長さ1~3㎜、無毛。花弁や萼片は紫色~紫緑色、反曲する。背萼片は長さ1.8~2.5㎜、幅0.8~1㎜の倒卵形~惰円形、鋭頭~鈍頭。側萼片は斜めにつき、卵形、長さ2~2.5㎜、幅0.7~1.1㎜、鋭頭。花弁は披針形~披針状線形、長さ1.8~2.5㎜、幅約0.5㎜、先は鈍形。唇弁は紫色、長さ6~8(12)㎜、先が2裂し、Y字形になり、裂片の湾入部には三角状の歯があり、裂片の先端は鈍頭~鋭頭、やや鋸歯状になることもある。唇弁の基部には耳(耳状の小突起)があり、蕊柱を囲むようにつく。2n=38。
フイリヒメフタバラン form. albostriata 葉の中央部に白斑が入る。
ナガバヒメフタバラン form. longifolia は葉が長い。
ミドリヒメフタバラン(ミドリフタバラン)form. viridis は花が緑色。
コフタバラン(別名:フタバラン)
Listera cordsta は花が淡黄緑色、花弁や萼片が反曲しない。唇弁が長さ3~4㎜、基部の小裂片が斜開する。
アオフタバランListera makinoana 2個の対生する葉が地表近くにつく。花は緑色、唇弁の幅がやや広く、裂片の先が円頭。
ミヤマフタバラン Listera nipponica は亜高山に生え、葉が広卵形。花が緑褐色、唇弁の裂片が楕円形、円頭。基部の耳状裂片が開出する。
サカネラン属
family Orchidaceae - genus Neottia
多年草、小さく、地上生、独立栄養(autotrophic)または全菌従属栄養(holomycotrophic)。根茎は短く、多数、密集し、房状になり、根は繊維状または肉質の、ときに珊瑚状、多数つく。茎は直立し、基部に数個の鞘状の苞があり、緑色、淡黄褐色(buff)、または赤褐色、緑色の葉をつける場合とつけない場合がある。。葉(ある場合)は2枚 [Neottia ovata(Linnaeus)Bluff&Fingerhuthではまれに3~4枚]、対生またはほぼ対生、仏、茎の途中につき、無茎またはほぼ無茎、緑色、ときに白色の葉脈があり、卵形、三角状卵形、卵状心形、または心形、基部は浅い心形、切形、または広くさび形。花序は頂生、総状花序で花が多数、まれに花が単生する。花序柄は無毛または毛がある。花の苞は宿存性で、普通、子房よりも短く、膜質。花は小さく、逆さまになり(resupinate)、または非常にまれに逆さまにならず、膜質または肉質、緑色、紫色、黄褐色、または帯赤色。小花柄は細い。子房は楕円形。萼片は離生で、それぞれ似ており、広がる。花弁はしばしば、萼片よりも狭くて、短い。唇弁は普通、萼片や花弁よりはるかに大きく、ときに基部に一対の耳(耳状の小裂片)があり、距は無いが、ときに、基部が浅く凹むことがあり、先は深く2裂するかまたは凹形、まれに不分裂。ディスクはときに腺毛のある縦の縞または浅い光沢のある窪みがある。ずい柱は直立し、真っすぐまたはわずかに弧状になり、長いかまたは短く、足はない。葯は葯床(clinandrium:ずい柱の上部で葯を含んでいるくぼみ)の縁近くにつき、直立またはわずかにうなずく。花糸は非常に短く、不明瞭。花粉塊は2個、それぞれ±縦に2分割し、顆粒状粉状(granular-farinaceous)、花粉塊柄(caudicle) は無い。柱頭はほぼ頂生、凹面状または突き出す。嘴状体(rostellum)は水平に広がるか、ほぼ直立し、舌形または卵形、大きい。蒴果は小さい。
世界に約70種あり、東アジア、北アジア、ヨーロッパ、北アメリカに分布し、少数の種が熱帯アジアに広がっている。
1 Neottia acuminata Schltr. ヒメムヨウラン 姫無葉蘭
synonym Neottia asiatica Ohwi
synonym Neottia subsessilis Ohwi
日本(北海道、本州中北部)、韓国、中国、台湾、インド(シッキム)、ネパール、ロシア(極東)原産。中国名は尖唇鸟巢兰 jian chun niao chao lan。亜高山帯の針葉樹林下、日陰の草が茂った斜面などに生える。
葉が無い、全菌従属栄養(holomycotrophic)、高さ14~30㎝。根茎は肉質の根を多数つける。花序柄は長さ10~25㎝、無毛、鞘が3~5個ある。鞘は筒状、長さ1~5㎝、膜質。花序軸は長さ4~8㎝、無毛、密に花が20個以上つく。花は普通、3~4個ずつ束生する。花の苞は長円状卵形、長さ3~4㎜、無毛、先は鈍形。花は小さく、逆さまになり(resupinate)、黄褐色。小花柄は長さ3~4㎜、無毛。子房は楕円形、長さ2.5~3㎜、無毛。背萼片は狭披針形、長さ3~5㎜×幅約0.8㎜、無毛、1脈があり、先は長い尖鋭形。側萼片は背萼片に似ており、幅約1㎜。花弁は狭披針形、長さ2~3.5㎜×幅約0.5㎜。唇弁は形が様々で、普通、卵形、卵状披針形、または披針形、長さ2~3.5㎜×幅1~2㎜、縁がわずかに内曲し、1~3脈があり、先は尖鋭形または鈍形、分裂しない。ずい柱は非常に短く、普通、長さ0.5㎜未満で、嘴状体や葯よりも短い。葯は直立し、ほぼ楕円形、長さ約1㎜。柱頭は直立し、横長の長円形、両側に湾曲し、嘴状体を取り囲む。嘴状体は直立し、舌形、長さ約1mm以下。蒴果は楕円形、長さ約6㎜×幅3~4㎜。花期は6~8月。2n=36。
2 Neottia cordata (L.) Rich. コフタバラン 小二葉蘭
synonym Listera cordata (Linnaeus) R. Brown
日本(北海道、本州、四国、九州)、ヨーロッパ、アスランド、北アメリカに分布。英名はheart-leaved twayblade。別名はフタバラン(二葉蘭)。針葉樹林下に生える。
高さ5~33cm。 茎は緑色~赤紫色、多肉質、無毛。 葉は葉身が狭卵形~狭卵状心形または三角形、長さ0.9~2(~4)㎝×幅0.7~2㎝、先は微突形。花序は花が5~25個つき、緩い~密、長さ20~100㎜、細い。花の苞は卵形、長さ1~1.5㎜×幅1㎜。花序柄と花序軸はわずかに腺のある微軟毛があるかまたは無毛。苞および小花柄および子房は無毛。花は黄緑色。小花柄は細く、長さ約2㎜。背萼片は卵状長円形~長円状楕円形、長さ2~3㎜×幅0.5~1.5㎜、先は鈍形。側萼片は卵状長円形~長円状楕円形、わずかにかま形、長さ2~3㎜×幅0.5~1.5㎜、先は鈍形。 花弁は楕円形~長円状線形、長さ1.5~2.5㎜×幅0.5~1㎜、先は鈍形。唇弁は線状長円形、その長さの1/2~2/3まで2つに分裂し、裂片は線状披針形、長さ3~4㎜×幅1~1.5㎜。ディスクは、対の広がった線形の裂片をもち、先は鋭形。ずい柱は長さ0.5㎜×幅0.5㎜。蒴果は半直立、ほぼ球形、長さ5㎜×幅4㎜。2n= 36, 38, 40, 42。花期は6~8月。
3 Neottianthe cucullata (L.) Schltr. ミヤマモジズリ ⇒ニイタカヒトツバラン属(Hemipilia)
synonym Hemipilia cucullata (L.) Y.Tang, H.Peng et T.Yukawa
4 Neottianthe fujisanensis (Sugim.) F.Maek. フジチドリ ⇒ニイタカヒトツバラン属(Hemipilia)
synonym Hemipilia fujisanensis (Sugim.) Y.Tang, H.Peng et T.Yukawa
5 Neottia fukuyamae T.C.Hsu et S.W.Chung カンザシフタバラン
synonym Listera macrantha Fukuy.
synonym Neottia formosana S.C.Chen, S.W.Gale et P.J.Cribb
台湾原産。中国名は大花雙葉蘭 da hua shuang ye lan。
6 Neottia furusei T.Yukawa et Yagame カイサカネラン 甲斐逆根蘭
synonym Neottia japonica (Furuse) K.Inoue
synonym Archineottia japonica Furuse
日本固有種。北海道、本州中部地方に分布。亜寒帯~冷温帯の落葉樹林内に生える。
高さ20~40cm、菌従属栄養。根茎が地中に直立し、先が上向きの根を多数出す。全体が緑色を帯び、白色毛が散生する。茎は太く、多肉質。葉は退化し、膜質の鞘状葉が互生する。総状花序に淡緑色の小さな花を密につける。苞は花とほぼ同長。花は上向きに咲き、萼片と側花弁はほぼ同形・同長。唇弁が短く,他の花被片とくらべてやや長い程度で、先が3裂する(中裂片はときに非常に小さくなる)。花期は8~9月と遅い。
7 Neottia hohuanshanensis T.P.Lin et S.H.Wu
台湾原産。中国名は合歡山雙葉蘭 he huan shan shuang ye lan。
8 Neottia inagakii Yagame, Katsuy. et T.Yukawa タンザワサカネラン 丹沢逆根蘭
日本固有種。本州(宮城・福島・茨城・神奈川)に分布する。山地のモミ林など生える。ツクシサカネランに似ているがほとんど花が開かない。萼片が丸くなり側花弁と唇弁を包み込み、花披片の間に直径約1㎜の小さい開口部ができるだけであるが、全ての花が受粉する。
植物は地上生、葉緑素をもたず(achlorophyllous)、光沢があり、乳白色、高さ8~20㎝。根は束生、屈地性(ageotropic)、上向き、円筒形、長さ1~2cm、直径1.5~2㎜。茎は直立し、2~4個の緩い鞘があり、基部で直径6~7㎜、花序の基部で直径3~4mm。鞘は、へら形、ほぼ鋭形、膜質、茎と基部で合着し、上部の2個の鞘は基部の鞘より長く、長さ1.5~3cm×幅3~8mm。花序は頂生、花が10~20個つき、花序軸にはまばらに腺毛があり、長さ7~9㎝。花の苞は膜質。最下の2個の苞は、花を超え、上部の2つの鞘と同様の形状であり、へら形、ほぼ鋭形、5~7脈があり、長さ2.5~3㎝×幅3~4㎜、残りの苞は線状の披針形、鋭形~尖鋭形、1脈があり、長さ5~12mm。花は褐色がかったクリーム色の小花柄と子房を除いて、乳白色にごく近い。小花柄は円柱形、無毛、長さ3~5㎜。背萼片は倒卵形、全縁~小円鋸歯状、鈍形、僧帽形(cucullate)、1脈があり、広げると、長さ2.7~3㎜×幅2~2.5㎜。側萼片は強くカップ形、斜めの倒卵形、鈍形、僧帽形、1脈があり、広げると、長さ2.6~3㎜×幅2~3㎜。花弁は斜めの倒卵形、鈍形、僧帽形、1脈があり、長さ2.5~3.3㎜×幅1.5~1.9㎜。唇弁は長円形、3脈があり、広げたときに長さ3.4~4.2㎜×幅2.43mm。下唇(hypochile)は正方形。上唇(epichile)は2または3裂し、形が様々に変化するものもあり、内側に折り畳まれ開かず、長円形~卵形、鈍形。子房はこん棒形、腺毛があり、長さ3~7㎜×幅2~3㎜、ずい柱は円筒形、長さ2.1~2.5㎜。柱頭の裂片は直立し、長方形~三角形、鈍形。嘴状体(rostellum)は横長の卵形~三角形。葯は花時に直立し、花糸が無い。葯帽は半球形、長さ1,1~1,2㎜×幅1~1,1㎜。花粉塊は2個、粉質(mealy)。蒴果は長さ10~12㎜×幅5~6㎜。花期は6月中旬~7月上旬。
タンザワサカネランはツクシサカネランに似るものの次の点で区別できる。1)タンザワサカネランの花はツクシサカネランの花よりもやや小さい。2)タンザワサカネランの上唇は開花時に平開しないが、ツクシサカネランのそれは平開する。3)タンザワサカネランの葯は直立し花糸は無いが、ツクシサカネランのそれは直立せず短い花糸がある。4)タンザワサカネランのずい柱は円柱状だが、ツクシサカネランのそれは円錐状である。(参考11:Yagame et al. 2008,谷亀 2010)
9 Neottia japonica (Blume) Szlach. ヒメフタバラン 姫双葉蘭
synonym Listera japonica Blume.
本州(宮城県、山形県以南))、四国、九州、沖縄、台湾原産。中国名は日本对叶兰 ri ben dui ye lan。別名はムラサキフタバラン。山地の林内に生える。
多年草、高さ5~20㎝。茎は直立し、無毛。葉は対生し、2個だけつき、長さ1~1.8㎝、幅1~1.6㎝の卵状三角形、無柄、葉先は鋭頭、基部は切形~楔形。花茎を直立し、葉が茎の中間につく。花茎や花軸には腺毛があり、花茎は長さ3~5㎝、花軸は長さ3~5㎝、花は2~6(8)個まばらにつく。小苞は広卵形、長さ1~2㎜。小花柄は細く、長さ9~12㎜、捻じれがあり、花が逆さまになる(ラン科では普通)。子房は長さ1~3㎜、無毛。花弁や萼片は紫色~紫緑色、反曲する。背萼片は長さ1.8~2.5㎜、幅0.8~1㎜の倒卵形~惰円形、鋭頭~鈍頭。側萼片は斜めにつき、卵形、長さ2~2.5㎜、幅0.7~1.1㎜、鋭頭。花弁は披針形~披針状線形、長さ1.8~2.5㎜、幅約0.5㎜、先は鈍形。唇弁は紫色、長さ6~8(12)㎜、先が2裂し、Y字形になり、裂片の湾入部には三角状の歯があり、裂片の先端は鈍頭~鋭頭、やや鋸歯状になることもある。唇弁の基部には耳状の小突起があり、蕊柱を囲むようにつく。2n=38。花期は3~5月。
10 Neottia kiusiana T.Hashim. et Hatus. ツクシサカネラン 筑紫逆根蘭
synonym Neottia hypocastanoptica Y.N.Lee 済州島産
日本(愛知県、鹿児島県北部)、韓国(済州島産)に分布。日本のものは絶滅したと考えられている。
腐生の多年草。根茎は縦に伸び、長さ1.5~2.5㎝、多数の根を水平~やや上向きに出す。茎は1本、直立し、高さ6~10㎝、4~5個の鱗片葉を互生し、まばらに毛がある。鱗片葉は上部のものほど大きく、上部の1~2個は狭卵形、長さ1.8~2.5㎝×幅約1cm、先は鈍形。花は茎の上半部に8~10個つき、最下の1~2個は大型の鱗片葉の葉腋につき、他は花の苞があり、苞は披針形、長さ 5~7㎜。子房はやや卵形に膨れ、まばらに毛がある。萼片は狭卵形、長さ約3mm。唇弁は広卵形、約・長さ6mm×幅6㎜、先は2裂し、裂片は長さ・幅とも約2.5mm、先は円形。ずい柱は円錐状。柱頭は花期には2裂し、鈍三角形の2裂片(2片をあわせると、中央に凹みのある逆梯形に見える)と楕円形の小嘴体(rostellum)が共に直立する。葯は直立せず、やや後方に反り、葯の下には短いが明瞭な花糸が、とくに発達初期の花で認められる。花期は6月。
10-1 Neottia kiusiana T.Hashim. et Hatus. f. conformis Suetsugu タカクマツクシサカネラン
ペロリア化(整斉変態現象:唇弁が他の花弁と同一化したもの)を生じ、唇弁が花弁と同じになった品種。
11 Neottia kuanshanensis (H.J.Su) T.C.Hsu et S.W.Chung
台湾原産。中国名は关山对叶兰 guan shan dui ye lan。
12 Neottia makinoana (Ohwi) Szlach. アオフタバラン 青二葉蘭
synonym Listera makinoana Ohwi
日本固有種。本州、四国、九州に分布し、冷温帯の樹林下に生育する。
多年草、高さ10~20㎝。地下にある根茎は短い。茎は細く、直立して高さ10~20㎝、鱗片葉がまばらに4~10個、地表近くの茎の下部に、葉が2枚が対生する。鱗片葉は互生し、狭卵形、長さ2~5mm、先は尖鋭形。葉は無柄、長さ1~3㎝×幅1~3㎝、三角状卵形、光沢は無く、青緑色で不鮮明な白筋紋が3本ほどあり、基部は切形または浅い心形、縁は細かく波打ち、先は鋭形。総状花序に花を5~20個まばらにつける。花序軸と茎に毛がある。苞は鱗片葉とほぼ同形、長さ2.5mm、開出する。花は帯緑色。萼片は長楕円状披針形、長さ2~2.5㎜、先はやや鈍形。側花弁は線形、萼片と同長。唇弁は倒卵形、長さ5~6㎜、先は浅く2裂し、裂片は卵形で先は円頭、互いに先端で重なる。唇弁の基部の左右に耳は無い。花期は7~8月。
13 Neottia meifongensis (H.J.Su et C.Y.Hu) T.C.Hsu et S.W.Chung
synonym Listera meifongensis H. J. Su & C. Y. Hu
台湾原産。中国名は梅峰对叶兰 mei feng dui ye lan。
14 Neottia morrisonicola (Hayata) Szlach. ニイタカフタバラン
synonym Listera morrisonicola Hayata
台湾原産。中国名は浅裂对叶兰 qian lie dui ye lan
15 Neottia nankomontana (Fukuy.) Szlach. ツバメフタバラン
synonym Listera nankomontana Fukuyama
台湾原産。中国名は台湾对叶兰 tai wan dui ye lan
16 Neottia nidus-avis (L.) Rich. エゾサカネラン 蝦夷逆根蘭
synonym Helleborine nidus-avis (L.) F.W.Schmidt
synonym Neottidium nidus-avis (L.) Schltdl.
synonym Listera nidus-avis (L.) Hook.
synonym Ophrys nidus-avis L.
ヨーロッパ、ロシア、北アフリカ、西南アジア原産。英名はbird's-nest orchid , goose nest。
根茎は長さ1.5~4.2cm、水平。地上茎は長さ10~52cm、中実、毛は長さ0.1~0.3 mm、腺があり、開出する。葉は3~6個、鱗片、鞘、鈍形、無毛に変化する。上部のものは、ときに、鞘のない部分が伸び、薄板状で、鋭く、長さ5cm以下。花序は長さ7~22㎝、小花柄のある花が15~70個つき、下部の花は間隔が広い。基部の花の苞は長さ8.8~23㎜×幅2~3mm、通常、隣接する花よりも長く、披針形、鋭形、無毛。萼片は長さ6~7×幅2~2.5mm、広披針形、鈍形、やや僧帽形、外面の基部にいくつかの腺毛があり、薄褐色、側花弁は長さ5~5.5×幅2mm、±へら形、鈍形、無毛、薄褐色。唇弁は長さ9~11×幅5mm、萼片より長く、下部にわずかに掘られた蜜腺区域があり、外面の基部にいくつかの腺毛があり、透明な栗色。ずい柱(gynostemus)は長さ1~1.5 mm、±円筒形、直立し、無毛。葯は長さ1~1.5mm、卵形、鈍形。子房は長さ7~8 mmで、腺毛がある。果実は長さ10~11mm×幅5~6mm、6本のうねがある。種子は長さ0.6~0.8×幅0.1mm。2n=36(n=18)。(参考9:1817年の原解説)。柱頭裂片は極めて短く、葯はずい柱の上に直接乗っている(Rasmussen 1982)。花期はヨーロッパで5~6月。
日本のエゾサカネラン
北海道、本州に分布に分布する。山地の樹林に生える。
高さ25~45㎝の腐生植物。サカネランに酷似するが、花茎、花序が無毛。サカネランは茎や花柄、子房に毛が密生する。花期は5~6月。Flora Ibericaの解説ではヨーロッパのNeottia nidus-avisは腺毛がある。
17 Neottia nipponica (Makino) Szlach. ミヤマフタバラン 深山二葉蘭
synonym Listera nipponica Makino
北海道、本州の近畿地方以北、四国(東赤石山)、九州(祖母山)、千島、ウスリーに分布する。亜高山帯の針葉樹林内に生える。
多年草。高さ10~25cm。根茎は細く短くて、横に這い、根は糸状で長い。茎は紫褐色、細く、角張り、直立し、茎の下部に葉が2枚、対生状につき、葉の上部の茎には腺毛があり、広披針形の鱗片葉が1個つくかまたは無いこともある。葉は無柄、広心形、濃緑色で光沢があり、長さ、幅ともに10~25㎜、先は急に短く鋭形、基部は切形またはやや心形。花序は紫褐色、緑褐色の花を3~10個まばらにつける。苞は広披針形、長さ1~2mm、斜上する。萼片は狭披針形、長さ3~4mm、先は鈍形、基部から著しく反り返る。側花弁は狭長楕円形、萼片と同長。唇弁はくさび状広倒卵形、長さ約6mm、基部の両側に1対の耳状裂片があり、先は2深裂し、裂片は楕円形で先は円形。ずい柱は短く、真っすぐ、紫緑色、花粉塊は黄色。花期は7~8月。
18 Neottia papilligera Schltr. サカネラン 逆根蘭
synonym Neottia nidus-avis (L.) Rich. var. mandshurica Kom.
日本(北海道、本州の中部地方以北、九州、朝鮮、中国、ロシア原産。中国名は凹唇鸟巢兰 ao chun niao chao lan。林内に生える。
葉が無く、全菌従属栄養(holomycotrophic)、高さ27~34[20~40]cm。根茎は地中で直立し、多数の丈夫で肉質の根を持つ。花序柄は長さ約25cm以下、毛[褐色の短腺毛]があり、数個の鞘(鞘状葉)があり、鞘は筒状、長さ4.5cm以下、膜質。花序軸は長さ10~15cm、無毛または毛[褐色の短腺毛]があり、密に多数の花がつくが、普通、基部に1~3個花が広い間隔でつく。花の苞は長さ5~6㎜。花は逆さまになり(resupinate)、ベージュ色~肌色。小花柄は長さ約5㎜、普通、無毛。子房は紡錘形、長さ4~5㎜、無毛または毛がある。萼片は倒卵状へら形、約・長さ3.5㎜×幅1.8mm、1脈があり、先は鈍形またはほぼ切形。花弁はほぼ長円形、約・長さ3.5㎜×幅1.5㎜m、1脈があり、先は鈍形。唇弁はほぼ倒卵形、長さ5~5.5㎜、基部は明瞭に凹面状、先は深く2裂する。裂片は互いに鈍角(120°~170°)で散開し、細長円形で、普通、捻じれ、長さ2.5~3㎜×幅約1.2㎜、先は鈍形または切形。ずい柱は直立し、わずかに弧状になり、長さ2~2.5㎜。葯はほぼ長円形、長さ約1.2㎜。柱頭は舌形、長さ約1㎜、先は浅く2裂する。嘴状体(rostellum)はわずかに下向きに曲り、ほぼ長円形、大きく、長さ約1.2mm。蒴果は卵状楕円形、長さ7~8㎜×幅4~5㎜。花期は[5~6]7~8月。2n=36, 38。
日本の代表種であるサカネランはFlora of Chinaの解説とは異なり([ ]の箇所)、花期がやや早く5~6月。花序柄の上部や小花柄、子房に淡黄褐色短い腺毛が密にあるとされている。また黄色で、茎に毛が密生することもある。
19 Neottia piluchiensis T.P.Lin
台湾原産。中国名は碧綠溪雙葉蘭 bi lU xi shuang ye lan。
20 Neottia pseudonipponica (Fukuy.) Szlach. イチョウフタバラン
synonym Listera pseudonipponica Fukuyama
台湾原産。中国名は耳唇对叶兰 er chun dui ye lan。
21 Neottia puberula (Maxim.) Szlach. タカネフタバラン 高嶺二葉蘭
synonym Neottia yatabei (Makino) Szlach.
synonym Neottia mucronata (Panigrahi et J.J.Wood) Szlach.
日本(北海道、本州の関東地方北部・中部地方)、朝鮮、中国、ロシア原産。中国名は对叶兰 dui ye lan。亜高山帯の針葉樹林下に生える。
多年草。独立栄養性、高さ8~20cm。根茎は細長い糸状の根が非常に少ない。茎は円筒形で細く、普通、基部に1~2個の膜質の鞘がある。葉は2枚、対生し、ほぼ茎の中間につき、無柄で、心形、広卵形、または広卵状三角形、長さ1.5~2.5cm×幅1.5~2.2cm、基部は広くさび形またはほぼ心形、縁はわずかに縮れ、先は鋭形または鈍形。花序柄は長さ2~7cm、毛がある。花序軸は長さ2.5~7cm、毛があり、緩く、花が4~7個つく。花の苞は披針形、長さ1.5~3.5㎜、無毛、先は鋭形。花は非常に小さく、逆さまになり(resupinate)、緑色。小花柄は長さ3~4mm、毛がある。子房は長さ約6㎜、毛がある。萼片と花弁は広く広がらない。背萼片は卵状披針形、長さ1.8~2.4㎜×幅0.8~1㎜、1脈があり、先はほぼ鋭形。側萼片は卵状披針形、斜め、長さ1.5~2.2㎜×幅約0.6㎜、先は鋭形。花弁は線形、長さ1.2~2.2㎜×幅約0.5㎜、1脈があり、先は鋭形。唇弁は狭倒卵状くさび形または長円状くさび形、長さ6~8㎜×幅約1.7㎜、縁はわずかにパピラ状の縁毛があり、先は深く2裂する。裂片は散開またはほぼ平行、長円形、長さ1.8~2.5㎜×幅0.8~1㎜。ディスクは太い中脈がある。ずい柱はわずかに弧状、長さ1.5~2.5㎜。葯は嘴状体(rostellum)に向かって傾く。嘴状体は広卵形、大きいが、葯より短い。蒴果は倒卵形、約・長さ6㎜×幅3.5㎜。花期は7~9月。果期は9~10月。
22 Neottia suzukii (Masam.) Szlach. コバナノフタバラン
synonym Neottia deltoidea (Fukuy.) Szlach.
synonym Listera suzukii Masamune
台湾原産。中国名は无毛对叶兰 wu mao dui ye lan。
23 Neottia taizanensis (Fukuy.) Szlach. ナンコフタバラン
synonym Listera taizanensis Fukuyama
台湾原産。中国名は小花对叶兰 xiao hua dui ye lan。
フタバラン属
family Orchidaceae - genus Listera
多年草、地上生。根は細く、ひげ根。茎は細く~丈夫で、葉の下部は無毛。茎に苞が2(~3)個つき、茎の基部をむ。葉は2(~3、まれに)枚、茎の先につき、対生またはほぼ対生、無柄、無毛。花序は頂生、総状花序、花が2~100個つく。花序柄と花序軸には密に腺毛があるかまたは無毛。花の苞は不明瞭、披針形、楕円形、ほぼ円状卵形、菱状卵形、または長円形。花は逆さまになり(resupinate)、栗紫色、黄緑色~暗緑色、青緑色、またはピンク色を帯びた黄褐色。背萼片は卵状楕円形、楕円状倒卵形、線状楕円形、または披針形。側萼片は半円状楕円形、卵形、線状楕円形、または長円状披針形、しばしばかま形で反曲する。花弁は、後屈し、広がり、または輻合し、線形、線状長円形~披針形、または楕円形、かま形。唇弁は著しく下曲または下曲せず、無柄または爪部があり、線状長円形~倒卵形、ほぼ円状卵形、または卵状腎形、唇の基部に明瞭な耳(小裂片)や裂片は無く、先は2深裂し、広がるか円形になり、先には短突起がある。カルス(calli)は様々、パピラ(乳頭状突起)があり、対の角(つの)があり、または1~2個の薄板(lamellae)がある。ずい柱は弧状になり、太く、短く、先は広がるかまたは広がらない。葯はずい柱の先近くの内側にある。花粉塊は2個、黄色、柔らかい。子房は小花柄がある。果実は蒴果、水平から半直立し、楕円形、卵形、またはほぼ球形、無毛または無毛~腺毛がある。
世界に25種あり、北半球と南半球の寒冷な温帯地域に分布する。
フタバラン属の主な種と園芸品種
1 Listera cordata (L.) R.Br. コフタバラン ⇒サカネラン属
synonym Neottia cordata (L.) Rich.
synonym Listera cordata (L.) R.Br. var. japonica H.Hara
synonym Listera cordata (L.) R.Br. subsp. japonica (H.Hara) F.Maek.
2 Listera japonica Blume⇒サカネラン属
synonym Neottia japonica (Blume) Szlach.
2-1 Listera japonica Blume f. viridecens Nackej. ミドリヒメフタバラン 異分類
synonym Listera japonica Blume f. viridis (Hiyama) Y.Kobay.
2-2 Listera japonica Blume f. albostriata (Masam.) Masam. フイリヒメフタバラン 異分類
2-3 Listera japonica Blume f. longifolia Nackej. ナガバヒメフタバラン 異分類
3 Listera kuanshanensis H.J.Su ⇒サカネラン属
synonym Neottia kuanshanensis H.J.Su
4 Listera macrantha Fukuy. カンザシフタバラン⇒サカネラン属
synonym Neottia fukuyamae T.C.Hsu et S.W.Chung
5 Listera makinoana Ohwi アオフタバラン⇒サカネラン属
synonym Neottia makinoana (Ohwi) Szlach.
6 Listera meifongensis H.J.Su et C.Y.Hu ⇒サカネラン属
synonym Neottia meifongensis (H.J.Su & C.Y.Hu) T.C.Hsu & S.W.Chung
7 Listera morrisonicola Hayata ニイタカフタバラン⇒サカネラン属
synonym Neottia morrisonicola (Hayata) Szlach.
8 Listera nankomontana Fukuy. ツバメフタバラン⇒サカネラン属
synonym Neottia nankomontana (Fukuy.) Szlach.
9 Listera nipponica Makino ミヤマフタバラン⇒サカネラン属
synonym Neottia nipponica (Makino) Szlach.
synonym Listera smallii Wiegand var. nipponica (Makino) T.Hashim.
9-1 Listera nipponica Makino f. albovariegata Masam. et Satomi フイリミヤマフタバラン 異分類
9-2 Listera nipponica Makino f. viridis Masam. et Satomi ミドリミヤマフタバラン 異分類
10 Listera pseudonipponica Fukuy. イチョウフタバラン⇒サカネラン属
synonym Neottia pseudonipponica (Fukuy.) Szlach.
11 Listera japonica Blume ヒメフタバラン⇒サカネラン属
synonym Neottia japonica (Blume) Szlach.
synonym Listera shikokiana Makino
12 Listera suzukii Masam. コバナノフタバラン⇒サカネラン属
synonym Neottia suzukii (Masam.) Szlach.
synonym Listera deltoidea Fukuy.
13 Listera taizanensis Fukuy. ナンコフタバラン
14 Listera puberula Maxim. タカネフタバラン ⇒サカネラン属
synonym Neottia puberula (Maxim.) Szlach.
synonym Listera yatabei Makino
synonym Listera savatieri Maxim. ex Kom.
synonym Listera pinetorum auct. non Lindl.
synonym Listera mucronata Panigrahi et J.J.Wood
参考
1) Flora of China
Neottia
http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=2&taxon_id=122112
2) Plants of the World Online| Kewscience
Neottia
https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:325857-2
3) World Flora Online
Neottia
http://www.worldfloraonline.org/taxon/wfo-4000012430
4) Flora of North America
Listera
http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=118722
5) World Checklist of Vascular Plants
Neottia
https://wcvp.science.kew.org/
6) Flora Iberica
Neottia
http://www.floraiberica.es/floraiberica/texto/pdfs/21_189_06_Neottia.pdf
7) 筑波実験植物園研究報告 (10), p41-44, 1991-12
A New Neottia (Orchidaceae) Species from Kyushu, Japan ツクシサカネラン
https://www.kahaku.go.jp/research/publication/tsukuba/download/10/ATBG10_41.pdf
8) 知床博物館研究報告 Bulletin of the Shiretoko Museum 28: 7–8 (2007)
北海道におけるカイサカネラン(ラン科)の産地
http://www.cho.co.jp/natural-h/download/archive/shiretoko/2802s_UCHIDA-TAKITA.pdf
9) Acta Phytotax, Geobot.59 (3):219-222 (2008)
A New Speciesof IVeottia(Orchidaceae)from the Tanzawa Mountains Japan
https://www.jstage.jst.go.jp/article/apg/59/3/59_KJ00005124836/_pdf
10) 日菌報 50: 21-42,2009
ラン科植物と菌類の共生 大和政秀、谷亀高広
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjom/50/1/50_jjom.H20-02/_pdf
11) 植物地理・分類研究 66(1): 39-41 (2018)
タンザワサカネラン(ラン科)を中部地方に記録する
https://www.jstage.jst.go.jp/article/chiribunrui/66/1/66_0661-05/_pdf
12) 植物地理・分類研究 67(1):APG:191-193 (2018)
放射相称花をつけるツクシサカネランの新品種 タカクマツクシサカネラン
https://www.jstage.jst.go.jp/article/chiribunrui/67/1/67_0671-16/_pdf/-char/ja