アブラガヤ 油茅

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Flora of Mikawa

カヤツリグサ科 Cyperaceae クロアブラガヤ属

別 名 アイバガヤ(狭義)
中国名 球穗藨草 qiu sui biao cao
学 名 Scirpus wichurae Boecklr.

 synonym Scirpus wichurae var. concolor (Maxim.) Ohwi(狭義)

 synonym Scirpus wichurae Boeck. f. wichurae
アブラガヤ蕾
アブラガヤ熟した小穂
アブラガヤ小穂拡大
アブラガヤ鱗片
アブラガヤ葉鞘
アブラガヤ茎
アブラガヤ
アブラガヤ小穂の初期
アブラガヤ小穂の中間期
アブラガヤ花序の分岐
アブラガヤ果実
花 期 7~10月
高 さ 60~100(150)㎝
生活型 多年草
生育場所 低地から山地の湿地
分 布 在来種  北海道、本州、四国、九州
撮 影 岡崎市  06.7.22
和名の由来は花序が油光りし、油臭いことから。低地から山地の湿地に生え、ごく普通に見られる。
 多年草、叢生し、稈はほぼ直立し、高さ1~1.5m、硬く、横断面は鈍3角形、6~9節がある。葉基部の鞘は密に稈を包む。葉舌の先は凹む。葉は多数の根生葉と少数の茎葉、長さ20~40(~50)cm×幅5~15㎜、断面は丸みを持った逆W形、縁は微細な上向きの鋸歯があり著しくザラつく。苞葉(総苞片)は5~6 枚、葉状、基部の3~4枚は花序を超える。花序は1~5個、頂生および側生し、数回(2~5回)分岐し、不規則な長さの花序枝および小花序枝の先に小穂が単生または1~3(~5)個密に集まってつく。側生花序は茎上部の節の葉腋につき、長い花序柄がある。側花序につく小穂は頂生の花序のものよりも小さい。花序枝および小花序枝はザラつく。小穂は無柄、長円形、長さ4~8㎜×幅3~4㎜、赤褐色。鱗片(苞頴)は多数が小穂に螺旋状につき、広倒卵形、長さ約2mm。痩果は長さ約1mm、横断面は扁3角形。刺針状花被片は6本あり、糸状、縮れて長く、先半分には疎らに上向きのザラつきがある。柱頭は3個。花期は8~10月。
 Flora of Chinaではエゾアブラガヤ(S. asiaticus)をアブラガヤ Scirpus wichuraeに含め、分布域を日本、朝鮮、中国(貴州省、遼寧省、青海省、山東省、雲南省)、インド、ブータン、バングラデシュ、タイ、インドネシアとしている。現在、Kewscienceではアブラガヤ、アイバソウScirpus wichuraeは日本固有種とし、チュウゴクアブラガヤ(S. luhanensis)とエゾアブラガヤ(S. asiaticus)を独立種と認めている。
 アブラガヤの下位分類はアイバソウvar. wichurae と狭義のアイバソウvar. concolorである。シデアブラガヤはアブラガヤとエゾアブラガヤの交雑種と考えられている。
(1) Scirpus wichurae var. wichurae アイバソウ
  synonym Scirpus wichurae Boeck. f. wichurae [YList]
  synonym Scirpus lineatus Michx. subsp. wichurae (Boeck.) T.Koyama
  synonym Scirpus eriophorum var. nipponicum Franch. & Sav.
 日本の中部~南部、北部の南部地域に分布。
 小穂は花序枝の先端に単生し、側部の小穂は小花柄があり、卵形、長さ4~5㎜。剛毛(刺針状花被片)は鋸歯状でザラつき、普通、上部がわずかに大きい。
(2) Scirpus wichurae var. concolor (Maxim.) Ohwi アブラガヤ 油茅 狭義
  synonym Scirpus wichurae Boeck. f. concolor (Maxim.) Ohwi [YList]
 日本(北海道、本州、四国、九州)に分布。日本の中部~南部に普通。
 葉舌の先が凹む。小穂は1~3個集まってつき、卵状長円形、多数の花がつき、長さ6~9㎜。剛毛(刺針状花被片)は鋸歯状でザラつき、普通、上部がわずかに大きい。

 シデアブラガヤ Scirpus x fujimakii M.Kikuchi et T.Koyama はアブラガヤとエゾアブラガヤの交雑種。小穂が長さ約1.3㎝の円筒状で束生する。
 エゾアブラガヤ(ヒゲアブラガヤ)は小穂が長さ3~4㎜(ただしFlora of Chinaでは長さ3~8㎜)、刺針状花被片が非常に長く、毛が密生したように見える。

クロアブラガヤ属

 family Cyperaceae - genus Scirpus

 多年草、稈(culm)は叢生し、3稜形~不明瞭な3稜形、稀に円柱形、少数~多数の節がある。葉は根生葉と茎葉。葉身は線形、草状、葉舌があり、基部に鞘がある。苞葉(総苞片)は葉状、開出する。花序は頂生の散房状のイグサ形花序(anthela)、多数の小穂をもつ。小穂は卵形~楕円形、通常、小さい。苞穎(鱗片)は螺旋状につき、それぞれが花を抱く。花は両性。花被の剛毛(刺針状花被片)は3~6個、小堅果(痩果)の長さと同長~かなり長く、小堅果とともに落ちる。雄しべは1~3本。花柱は基部が太くならず、宿存する。柱頭は2~3個。小堅果は卵形~楕円形、扁3稜形~両凸面形、先に嘴がある。
 世界に約35種があり、主に北半球の温帯に分布し、北アメリカに最も多い。

クロアブラガヤ属の主な種

1 Scirpus asiaticus Beetle エゾアブラガヤ 蝦夷油茅

  synonym Scirpus lineatus Michx. subsp. wichurae (Boeck.) T.Koyama var. asiaticus (Beetle) T.Koyama

  synonym Scirpus borealis (Ohwi) T.Koyama 
  synonym Scirpus wichurae auct. non Boeck.
  synonym Scirpus wichurae Boeck. var. borealis Ohwi

  synonym Scirpus wichurae Boeck. var. asiaticus (Beetle) T.Koyama ex W.T.Lee

  synonym Scirpus wichurae Boeck. subsp. asiaticus (Beetle) T.Koyama

 日本(北海道、本州、四国、九州)、韓国、千島列島、中国(貴州省、遼寧省、青海省、山東省、雲南省)、インド(アッサム州)、バングラデシュ、ブータン、、東ヒマラヤ(ネパール、インド、ブータン、チベット、ミャンマー)、満州、青海省、タイ原産。別名はヒゲアブラガヤ。湿地、池の縁、湿った草地などに生える。
 多年草、短い斜上する根茎を持つ。稈は高さ70~150㎝、太さ5~8㎜、鈍角の三角形、中心部は中空、平滑、帯褐色の6~9節があり、節間は長さ10~15(~20)㎝。根生葉と茎葉は線形、幅7~15㎜で、ほぼ革質 1本の中肋あり、先端が短く尖り、先は次第に尖鋭形になり、多少、隔壁の小結節があり、縁は上向きの微細な刺がありザラつく。鞘は稈を取り囲み、節間の半分の長さで、葉舌はほとんど無い。散房花序は頂生で単生、長さ7~15㎝の倒円錐形、側部に密な多数の穂状花序がある。苞葉は葉状、苞葉の1~2枚が花序を超えるかまたは等長。花序枝(rays)は長さ10㎝まで、斜めに開き、平滑。前出葉は黄白色膜質(ochreiform)、先に2尖頭があり、2肋の背に上向きの剛毛がある。二次の散房花序はザラつき、長さ3㎝まで、短い小花序枝をもち、小苞が基部を鞘状に覆う。小穂は赤褐色~錆褐色、1~4個が花序枝または小花序枝の先に頭状に固まってつき、これが多数集まり、大きな散房花序となる。小穂は球形、長さ(2.5~)3~4㎜×直径2.5~3.5㎜。 鱗片は卵形~広卵形、長さ2~2.5㎜、膜質、先は円形で微突形、緑色、背に1肋がある。堅果は[長さ約1㎜]、倒卵形、扁平な三角形(triquetra)、淡黄褐色(ftavescente)、先端は微突形、基部は楔形。花柱は3裂。刺針状花被片(hypogynous bristles)は6本、平滑または先端に小棘があり、非常に長く、ひどく縮れ、熟すと鱗片をはるかに超えて帯白色になり伸びる。果期は8~9月[参考9 Scirpus borealis]
 エゾアブラガヤ小穂が小さく、球形、直径約3㎜(Flora of Chinaではアブラガヤに近い長さ3~8㎜×幅2.5~3.5mm)。鱗片は長さ2~2.5㎜、果実は長さ約1㎜(Flora of Chinaでは鱗片は長さ1.8~2㎜、果実は長さ約1.3㎜とアブラガヤに近い)。刺針状花被片が長く、毛が密生したように見える。Flora of Chinaではアブラガヤ(Scirpus wichurae)に含めている。KewscienceではScirpus wichuraeは日本固有種としている。
【Flora of ChinaのScirpus wichurae Boeckelerの解説】
 稈は高さ60~100㎝で、丈夫で、3角形、数節ある。葉は稈より短い。基部の鞘は黒紫色で光沢があり、先には明瞭な葉舌がある(distinct tongue , ligule)。葉身は通常稈より短く、長さ0.5~1.5m×幅1~1.5㎝、平らで硬く、革質、縁はわずかにザラつく。苞葉(総苞)は5~6枚、葉状、基部の3~4枚は花序を超える。 花序は大きな複合または複(再)複合のイグサ形花序(decompound anthela)で、中央が凹んだこま形、長さ7~10㎝×幅8~15㎝。花序枝(rays)は5本またはそれ以上、長さ9㎝まで、細く、広がり(しばしば同じ方向)、毛がある。小穂は無柄、団散花序(glomerules)に3~7個つき、球形になり、長さ3~8㎜×幅2.5~3.5mm、多数の花がつき、先は鈍形。苞頴(鱗片) は錆褐色(表裏が同色:concolorous)、密につき、卵形~卵状三角形、長さ1.8~2mm×幅約0.8mm、膜質、淡褐色の1脈があり、先は漸尖し、成熟すると剛毛の先端が突き出し、羊毛状になる。剛毛の刺針状花被片(perianth bristles)は6本、小堅果の1.5~2倍の長さで、直立し、基部が合着し、先の半分はまばらに前向きのザラつきがある。花柱は糸状、長さ1.2~1.5mm。 小堅果は淡黄褐色、楕円形~倒卵形、長さ約1.3mm、3面があり、先は錐形の嘴になる。花期および果期はおそらく7月から10月。標高1800~2500mの湿った場所、丘の中腹、谷に生える。貴州省、遼寧省、青海省、山東省、雲南省 [バングラデシュ、ブータン、北インド、インドネシア (スマトラ)、日本、韓国、タイ北部]。Scirpus wichurae と S. luhanensis は、TangとF. T. Wang によって S. asiaticus として一緒に扱われた (Fl. Reipubl. Popularis Sin. 11: 12. 1961)。しかし、重要な違いから分かるように、我々はそれらが全く別のものであると考えている。S. wichurae の変種が認められるなら、日本産の植物が基本変種(typical variety)となり、中国およびその他の範囲の植物は S. wichurae var. asiaticusになる。

2 Scirpus cyperinus (L.) Kunth スキルプス・キペリヌス
  synonym Scirpus eriophorum Michx.
 カナダ、USA,メキシコ原産。英名はwoolgrass , cottongrass bulrush , brown woolly sedge , Scirpe souchet。標高0~800mの湿地、湿った牧草地、溝、浅い池、荒れた場所に頻繁に生える。
 多年草、密に叢生し、高さ90~180㎝。根茎は分枝し、短く、丈夫で、繊維状。 稔性の稈は直立またはほぼ直立し、節に腋生の小球根は無い。葉は稈当たり5~10枚。下部の葉の鞘は緑色~赤褐色、下部の鞘および葉身は隔壁をもち、隔壁は少数または多数、明瞭または不明瞭。葉身は長さ22~80㎝×幅3~10㎜。花序は頂生。花序枝(rays)は斜上、またはときに広がり、全体にザラつきがあるか、または主枝の下部は平滑で、花序枝には腋生の小球根は無い。苞葉(総苞片)の基部は赤褐色、帯褐色、または帯黒色、粘性は無い。小穂は2~15個が密な集散花序につき、各集散花序の中央の小穂は無柄、その他は無柄または小花柄があり、小穂は広卵形~卵形またはときに円筒形、長さ3.5~8㎜×幅2.5~3.5㎜。鱗片は赤褐色、褐色、または帯黒色、卵形または狭卵形から長円状卵形または長円状楕円形、長さ1.1~2.2㎜、先は短突起があるかまたは短微突起があり、短突起または微突は長さ0.1㎜。 花:花被片の剛毛(刺針状花被片)は宿存性で、6本、細く、捻じれ、痩果よりもはるかに長く、平滑で、鱗片を超えて突き出し、成熟した花序は羊毛のように見える。花柱は3分岐。 痩果は帯白色~非常に淡い褐色、外形は楕円形または倒卵形、丸みのある三角形または平凸形、長さ0.6~0.9㎜×幅0.3~0.5㎜。 2n=66。花期は7~8月。果期は8~9月。

3 Scirpus fuirenoides Maxim. コマツカサススキ 小松毬薄
 日本固有種(本州、九州)。別名はタマススキ。山野の湿地に生える。
 1年草、高さ80~120㎝。葉は硬く、幅3~4㎜。苞は葉状で、長い。茎頂、葉腋に球形花序を5~6個、散形又は単生し、花序の枝は複分枝しない。球状花序には小穂が10~30個集まる。小穂は長さ5~7㎜。鱗片は幅1~1.2㎜の長卵形。痩果は長さ1.3~1.5㎜、淡褐色、倒卵形、表面に細かい凸凹がある。刺針状花被片は6個つき、果実が熟すとが小穂の外に見えるようになり、傘の骨のように広がる。刺針状花被片の基部にはやや長い小刺がつく。2n=64,72。花期は8~9月。

4 Scirpus georgianus R.M.Harper セフリアブラガヤ

  synonym Scirpus atrovirens Willd. var. georgianus (R.M.Harper) Fernald

 北アメリカ東部原産。英名はGeorgia bulrush。飼料用又は緑化用の種子に混入して持ち込まれた外来種。湿った草地、沼地、溝などに生える。
  株は叢生する。根茎は短く、丈夫、繊維質。稈は稔性のものは上向き又寄りかかり、節に腋生の鱗芽はない。葉は稈に6~12枚つく。下部の葉の葉鞘は緑色又は帯褐色。下部の鞘と葉身は隔壁が少数~多数、普通、明瞭で無い。葉身は長さ19~50㎝×幅6~13㎜。花序は頂生。花序枝は斜上又は散開(しばしば、同じ花序で両方)。下部の枝は平滑、上部の枝はザラつき~細かくザラつく。花序枝はしばしば、鱗芽を腋生し、苞葉の基部は緑色、縁に褐色、又は少なくとも赤褐色の斑点があり、粘らない。小穂は4~35個束生する(最も大きいものは16個以上)。小穂は無柄、卵形、長さ2~4㎜×幅1~2㎜。鱗片は褐色又は黒褐色、中肋は淡色、楕円形、長さ1~1.8㎜、先は微突形(mucronate)、微突起は長さ0.1~0.3㎜。花被の剛毛はあれば宿存し、0~3本、細く、真っすぐ又は曲がり、痩果よりかなり短く(まれに、0.7倍)、平滑又はまれに、先近くに端の丸い後ろ向きの歯があり、鱗片の中に包まれる。花柱は3裂。痩果は淡褐色~ほとんど白色、楕円形~倒卵形、丸みのある3稜形又は平凸面形、長さ0.6~1.2㎜×幅0.4~0.5㎜。 2n=50, 52, 54。果期は晩春~早夏(6~7月)。
 
5 Scirpus hattorianus Makino イワキアブラガヤ 磐城油茅

  synonym Scirpus atrovirens Willd. var. georgianus auct. non (R.M.Harper) Fernald

  synonym Scirpus atrovirens auct. non Willd.
 北アメリカ原産。日本のものはおそらく帰化で長く定着していない。イワキアブラガヤは花被片が5~6本、長さは痩果と同長かやや短いのに対し、セフリアブラガヤは花被片が0~3本、長さは痩果よりもかなり短く、長くても70% の長さである。
 株は叢生する。根茎は短く、丈夫、繊維質。稈は稔性のものは上向き又はほぼ上向き、節に腋生の鱗芽はない。葉は稈に3~9枚つく。下部の葉の葉鞘は薄褐色。下部の鞘と葉身は隔壁が少数~多数、やや不明瞭。葉身は長さ20~35㎝×幅5~9㎜。花序は頂生。花序枝は斜上又は散開(普通、同じ花序で両方)。花序枝はしばしば、腋に鱗芽をつけ、下部の枝は平滑、上部の枝は細かくザラつく~ザラつき、苞葉の基部は緑色、縁に赤褐色、まれに黒一色の斑点があり、粘らない。小穂は密に4~55個束生する(最も大きいものは15個以上)。小穂は無柄、卵形~広卵形、長さ2~3.5㎜×幅1.3~2.5㎜。鱗片は帯黒色又はたまに帯褐色、中肋は淡色、楕円形~広楕円形、長さ1~1.4(~2)㎜、先は微突形(mucronate)、微突起は長さ0.1~0.2㎜。花被の剛毛は宿存し、(4~)5~6本、細く、真っすぐ又は曲がり、痩果より短~同長、薄壁、上部の(0.1~)0.2~0.4部分に先端の丸いかぎ状の返しがあり、鱗片に包まれる。花柱は3裂。痩果は淡褐色、楕円形~倒卵形、丸みのある3稜形、長さ(0.6~)0.7~1.1㎜×幅0.3~0.5㎜。 2n=56。果期は晩春~早夏(6~7月初旬)。

6 Scirpus karuisawensis Makino ヒメマツカサススキ 姫松毬薄
  synonym Scirpus fuirenoides Maxim. var. jaluanus Kom.

  synonym Scirpus fuirenoides Maxim. var. karuisawensis (Makino) H.Hara

  synonym Scirpus fuirenoides Maxim. subsp. jaluanus (Kom.) T.Koyama

 日本(本州の長野県、山梨県)、朝鮮、中国に分布。中国名は华东藨草 hua dong biao cao 。湿った場所、沼地に生える。
 根茎は短い。稈は高さ0.8~1.5m、丈夫、堅く、不明瞭な3稜があり、節は5~7個、基部は少数の葉身の無い葉鞘で蔽われる。葉は稈より短い。葉鞘は赤褐色。葉身は線形、幅4~10㎜、硬い。苞葉は1~4枚、葉状、花序を超える。花序は頂生と2~4個の側生のゆるいイグサ形花序からなる。側生のイグサ形花序は単純、5又は数個の長さ約7㎝の花序枝をもち、その頂部は多くの花序枝をもつ複(再)複合(decompound)のイグサ形花序に終わる。5~10個の球形の束生(密散花序)の中の小穂は長円形~卵形、長さ5~9㎜×幅3~4㎜、密に多数の花があり、先は鈍形。苞穎(鱗片)は赤褐色、披針形~長円状卵形、長さ2.5~3㎜×幅1~1.3㎜、膜質、1脈があり、先は鋭形。花被の剛毛は6本、白色、小堅果の長さの3~4倍、基部は曲がりくねり、先はまばらに前向きのザラつきがある。葯は線形。花柱は中間の長さ。柱頭は3個。小堅果は帯黄色、長円形~倒卵形、長さ約1㎜、扁平な3稜形、光沢があり、先に短い嘴がある。花期と果期は8~9月。

7 Scirpus lushanensis Ohwi チュウゴクアブラガヤ 中国油茅
  synonym Scirpus wichurae Boeck. var. lushanensis (Ohwi) T.Koyama

  synonym Scirpus wichurae Boeck. subsp. lushanensis (Ohwi) T.Koyama ex Ohwi et Kitag.

  synonym Scirpus lineatus Michx. subsp. wichurae (Boeck.) T.Koyama var. lushanensis (Ohwi) T.Koyama

  synonym Scirpus rongchengensis F.Z.Li
  synonym Scirpus lineatus var. lushanensis (Ohwi) T.Koyama
 日本(中国地方) 、韓国、中国(安徽省、重慶市、福建省、広東省、広西省、貴州省、河南省、湖北省、湖南省、江蘇省、江西省、吉林省、遼寧省、陝西省、山東省、四川省、西蔵、雲南省、浙江省)、ロシア(極東)、タイ、ベトナム、北東インド、インドネシア (スマトラ)原産。中国名は庐山藨草 lu shan biao cao。標高300~2800mの湿った草原、湿地、斜面の小道縁、川辺に生える。アブラガヤの亜種や変種ともされ、よく似ているが、鱗片(苞頴)が長さ1.3~1.5㎜と小さく、果実が鱗片より長い。日本の中国地方に見られるが、自生ではないと疑われている。
 根茎は短くて丈夫。 稈は高さ1~1.5 m、頑丈で直立、硬く、鈍角で 3角、節が5~8 個あります。葉は稈より短い。鞘は通常赤褐色、長さ3~10cm。葉身は幅0.5~1.5cm、±硬い。苞葉(総苞片)は2~4枚、葉状、通常は花序より短いか、まれに長くなる。花序は頂生および側生し、大きな複合または複複合のイグサ形花序(decompound anthela)、多数の花がつく。1次花序枝(ray)は長さ20cmまで、細い。花序枝と花序柄はザラつく。小穂はほとんど単生、ときに2~8個の集団になり、球形~楕円形、長さ2.5~3.5㎜、密に多数の花がつき、先は丸い。苞頴(鱗片)はさび色(表裏が同色:concolorous)、三角状卵形~広卵形、長さ1.3~1.5×幅0.7~0.8mm、膜質、1(~3)本の褐色の脈があり、先は鋭形。花被剛毛(刺針状花被片:perianth bristles)は6本、長さは小堅果の長さの約1.5倍、基部は屈曲し、上部は真っ直ぐ、先は前向きのザラつきがある。葯は線状長円形。花柱はミディアムの長さ。柱頭3個。小堅果は淡黄色、楕円形、約・長さ1.5㎜×幅0.5mm、3面がつぶれ、成熟すると抱く苞頴(鱗片)をわずかに超える。花期は6~7月。果期は8~9月。

8 Scirpus maximowiczii C.B.Clarke タカネクロスゲ 高嶺黒菅
  synonym Eriophorum japonicum Maximowicz;

  synonym Eriophorum maximowiczii (C. B. Clarke) Beetle

  synonym Scirpus japonicus (Maximowicz) Fernald
 日本(北海道、本州の中部地方以北)、朝鮮、中国、ロシア原産。中国名は佛焰苞藨草 fo yan bao biao cao。湿った場所、斜面、凍った土壌の高山に生える。
 根茎は斜め、匍匐茎がある。稈は単生、高さ15~30㎝、3稜形、節があり、基部は葉鞘に被われ、やがて崩壊し、繊維状になり、先はわずかにザラつく。根生葉は稈より短い。葉身は広線形、幅3~6㎜、平ら、先は急に狭く~3稜形になり、下面の中脈と縁はわずかにザラつき、先は鈍形。茎葉は2~3枚、葉鞘は緑色、まれに先が黒色に近くなる。葉身は線状披針形、長さ3~6㎝×幅4~6㎜、平ら又はわずかにひだがある。苞葉は1~3枚、仏炎苞状(spathelike)、類直立、基部は黒褐色。花序は頂生、イグサ形花序。花序枝は長さが不等、長さ3㎝以下、それぞれ頂部に(1~)2~3(~4)個の小穂がつき、横にうなづき、ザラつく。小穂は灰褐色、楕円形~卵形、長さ5~7㎜、花が多数つく。苞穎は楕円形~長円形、長さ3~4㎜×幅1.2~1.5㎜、膜質、1脈があり、先は鈍形。花被の剛毛は6本、長さ4~6㎜、曲がりくねり、先に逆向きのザラつきがある。雄しべは3本。葯は長さ2~2.5㎜。花柱は細い。柱頭は3個。小堅果は狭倒卵形、長さ1.8~2㎜×幅約1㎜、3稜形。花期と果期は7~9月。2n=64。

9 Scirpus microcarpus J. et C.Presl ヒメクロアブラガヤ 姫黒油茅
 ロシア、北アメリカ原産。英名はpanicled bulrush, smallfruit bulrush, barberpole bulrush。標高0~2900mの湿地、湿った牧草地、溝に生える。
 広がる。 根茎は帯赤色、長く、節と節間が目立つ。稈は直立またはほぼ直立し、節に腋生の小球根は無い。葉は1本の稈に4~11枚つき、下部の葉鞘は赤色。 下部の鞘と葉身には、少数~多数の隔壁があり、目立つかまたは目立たない。葉身は長さ23~60(~75)㎝×幅5~15(~20)㎜。花序は頂生。花序の枝(rays)は散開または斜上し、下部の枝はほぼ平滑、上部の枝はザラつき、花序の枝には腋生の小球根は無い。苞葉(総苞片)の基部は緑色、黒色、または赤色で、粘着質では無い。小穂は(1~)3~18個が密に束生し(最も大きい集団は6個以上の小穂を持つ)、小穂は無柄、長さ2~8mm×幅1~3.5㎜、卵形または狭卵形。鱗片は緑色または黒色、広卵形~卵形~広楕円形または楕円形、長さ1.1~3.4 mm、先は円形~鋭形または短突起があり、またはたまに微突形、短突起または微突は(存在する場合)は長さ0.2㎜まで。花: 花被の剛毛(perianth bristles)は宿存し、花あたり(3~)4(~6)本、丈夫で、真っ直ぐまたは曲がり、長さは痩果の1.5倍以下で、後ろ向きの、厚壁の、鋭く尖った歯がほぼ基部まで密につき、鱗片の中に包まれる(ときに弱く突き出す)。花柱は2(~3)分岐する。痩果はほぼ白色、外形は卵形~倒卵形、両凸形~平凸形、長さ0.7~1.6㎜×幅0.8~1㎜。2n=64, 66。果期は初夏(6~7月)。

10 Scirpus mitsukurianus Makino マツカサススキ 松毬薄
 日本固有種(本州、九州、四国)。日当りのよい湿地に生える。
 稈は直立、高さ80~180㎝、丈夫、鈍い3稜形、普通、節が5~7個のある。 葉は線形、幅4~8㎜、硬く、扁平、縁はザラつく。葉鞘は長く、長さ3~10㎝。 花序は複合の散房状イグサ形花序、小穂が10-25個束生した3~5個の直径1~1.5㎝の頭状花序が頂生および側生する。頂生のものは花序枝が長さ5~10㎝。苞葉は3~5個つき、下方の2~3個は花序よりも長い。小穂は無柄、長さ4~6㎜、楕円形、熟すと褐黒灰色になる。鱗片は幅が狭く、狭卵形~披針形、長さ2~3㎜×幅0.5~0.8㎜、膜質、中肋付近は淡褐色。柱頭は3個。刺針花被片は(5)8~10本、屈曲し、痩果よりもかなり長く、長さ約5㎜、先はザラつくがほぼ平滑。 痩果は倒卵形、長さ1㎜、淡色、上端に嘴がある。

11 Scirpus orientalis Ohwi クロアブラガヤ 黒油茅
  synonym Scirpus sylvaticus subsp. orientalis (Ohwi) Vorosch

  synonym Scirpus sylvaticus var. maximowiczii (Regel) F.Schmidt

  synonym Scirpus sylvaticus L. subsp. maximowiczii (Regel) T.Koyama [Ylist]

 日本(北海道、本州の中部地方以北)、韓国、中国(甘粛省、河北省、黒竜江省、吉林省、遼寧省、内モンゴル自治区、陝西省、山東省、山西省、新疆ウイグル自治区)、モンゴル、ロシア原産。中国名は东方藨草 dong fang biao cao。別名はヤマアブラガヤ、アオアブラガヤ。標高400~2700mの森の中の沼地、湿った場所に生える。
 根茎は短く、匍匐茎をもつ。稈は高さ0.6~1.8m×太さ7~12mm、中空、断面は鈍角の3角形、節が5~7節ある。葉は茎葉、花序の長さと同じかそれより短い。 葉身は幅4~15㎜、平らで、下面の中脈と縁は通常、ザラつく。苞葉(総苞片)は2~4枚あり、葉状、花序よりもはるかに長い。花序は頂生、大きな複合のイグサ形花序(anthela)。花序枝(rays)は多数つき、長さ10㎝まで、先はザラつく。小穂は通常単生、または2~3個が束生し、暗灰色、卵形~狭卵形、まれに卵形、長さ4~6㎜×幅約2㎜、多数の花がつく。苞頴(鱗片)は暗緑色、広卵形、長さ約1.5㎜、黄緑色の3脈があり、先は鋭形~ほぼ円形。刺針花被片(perianth bristles)は5~6本、小堅果と同長かそれよりわずかに長く、直立し、後向きのザラつきがある。雄しべは3本。葯は線状長円形、長さ約1㎜、葯隔の先が非常に短い。花柱は小堅果よりわずかに長い。柱頭は3個。小堅果は淡黄色、倒卵形~楕円形、三面が扁平。花期は6~7月。果期は8月。2n=60。

12 Scirpus radicans Schkuhr ツルアブラガヤ 蔓油茅
 日本(北海道、山形県、新潟県)、朝鮮、中国、モンゴル、ロシア、カザフスタン、ヨーロッパ原産。中国名は单穗藨草 dan sui biao cao。水中、沼地などに生える。
 根茎は短い。稈はわずかに叢生、高さ0.7~1.5m、不明瞭な3稜形、節が7~8個あり、平滑だが、花序付近がわずかにザラつく。葉は茎葉、花序より短い。葉鞘は長い。葉身は幅7~10㎜、下面の中脈と縁はわずかにザラつく。苞葉は2~3枚、葉状、花序を超える。花序は頂生、大きな複合のイグサ形花序、多数の花序枝があり、1次の花序枝は長さ9㎝以下。小穂は単生、長円状卵形~狭卵形、長さ5~8㎜×幅約2㎜、多数花がつき、先は尖鋭形。苞穎は密につき、長円形、長さ約2㎜、膜質、両面が暗灰黒色、中脈は淡黄色、基部はときにわら色、縁は先に縁毛があり、先は鋭形。花被の剛毛は6本、普通、小堅果の長さの2~4倍、はっきり曲がりくねり、後ろ向きのザラつきが先近くだけにある。葯は長さ約1㎜、線状長円形。花柱はわずかに短い。柱頭は3個。小堅果は淡黄色、倒卵形、長さ約1㎜、扁3稜形。花期と果期は6~9月。2n=56。

13 Scirpus rosthornii Diels ツクシアブラガヤ 広義
 日本(九州、沖縄)、中国、ネパール原産。中国名は百球藨草 bai qiu biao cao 。別名はスキルプス・ロストルニー。林内、林縁、斜面、道端、湿った場所、沼地に生える。
 根茎は短い。稈は高さ70~100㎝、丈夫、3稜形、硬く、節がある。葉は花序を超える。葉鞘は長さ3~12㎝、横脈がある。葉身は幅0.6~1.5㎝、±硬く、下面の中脈と縁がザラつく。苞葉は3~5枚、普通、花序を超える。花序は大きい頂生の複複合(decompound)のイグサ形花序。花序枝は6~7本、長さ12㎝以下、丈夫、ザラつく。小穂は無柄、頭状に4~15個束生し、卵形~楕円形、長さ2~3㎝×幅約1.5㎜、多数花がつき、先は類円形。苞穎はわら色~褐色、後に、黒褐色になり、広卵形、長さ約1㎜、3本の緑色の脈をもち、先は鈍形。花被の剛毛は2~3本、小堅果より長く、直立、上半分に前向きのザラつきがある。柱頭は2個。小堅果は黄色、楕円形~類球形、長さ0.6~0.7㎜、両凸面形。花期と果期は5~9月。
13-1 Scirpus rosthornii var. rosthornii スキルプス・ロストルニー
  synonym Scirpus kiushuensis Ohwi

  synonym Scirpus ternatanus Reinw. ex Miq. var. kiushuensis (Ohwi) T.Koyama

  synonym Scirpus ternatanus Reinw. ex Miq. subsp. kiushuensis (Ohwi) T.Koyama

 中国、チベット、ブータン、ネパール原産。中国名は百球藨草 bai qiu biao cao。

13-2 Scirpus rosthornii Diels var. kiushuensis (Ohwi) Ohwi ツクシアブラガヤ 筑紫油茅 狭義

 日本(宮崎県)固有変種。
 叢生し、高さ80~100㎝。匍匐茎は長い。茎は3稜形、節は5~7個。葉は広線形、幅6~8㎜、硬く、緑色。茎葉の葉鞘は緩く、節間より短く、淡緑色、褐色を帯びない。苞葉は葉状、3~4枚つき、花序よりかなり長い。花序は頂生。花序枝は数本、長さ5~7㎝、2次枝は上部がザラつく。小穂は無柄、球形に2~5(6)個束生し、楕円形、長さ3~4㎜×幅約1.5㎜、緑褐色。苞穎(鱗片)は類円形、長さ1~2㎜、背面に緑色の幅広い帯がある。柱頭は2個。小堅果は両凸面形、長さ0.5~0.7㎜。

14 Scirpus sylvaticus L. スキルプス・シルバティカス
  synonym Scirpus celakovskyanus Holub
  synonym Scirpus gramineus Neck.
  synonym Scirpus intermedius Celak.
  synonym Seidlia radicans Opiz
 ヨーロッパ~中央アジア、コーカサス原産。英名はclub-rush , wood club-rush , bulrush。汽水域や海水域の沼地、沼地沿い、水域の土手沿い、湿地帯の森林、湿った牧草地などの湿った場所に生える。クロアブラガヤ(Scirpus orientalis)がこの変種とされていたが、クロアブラガヤは独立種とされている。
 多年草、株は広がり、根茎は帯赤色、節と節間が目立つ。稈は高さ1mになり、稔性のものは直立又はほぼ直立、節には腋生の鱗芽をつけない。葉は稈に4~11個。下部の葉の鞘と葉身は少数~多数の明瞭~不明瞭な隔壁(節)をもつ。葉身は長さ23~60(~75)㎝×幅5~15(~20)㎜。花序は頂生。花序枝に腋生の鱗芽はない。苞葉の基部は緑色、黒色又は赤色、粘らない。小穂は(1~)3~18個、密に束生(大きなものは6個以上の小穂をもつ)する。小穂は無柄、長さ2~8㎜×幅1~3.5㎜、卵形~狭卵形、先は円形~鋭形、微突頭(apiculate)、たまに棘状突起があり(mucronate)、突起はあれば長さ0.2㎜以下。花被の剛毛は宿存し、各花に(3~)4(~6)本、丈夫で真っすぐ又は曲がり、長さは痩果の長さより短~1.5倍長まで、歯がつき、歯は後ろ向き、厚壁、鋭く尖り、ほとんど基部まで密につき、鱗片の中に包まれる(たまに、弱く突き出る)。花柱は2(~3)裂。痩果はほとんどが白色、卵形~倒卵形、両凸面形~平凸面形、長さ 0.7~1.6㎜×幅0.8~1㎜。2n=64, 66。

15 Scirpus ternatanus Reinw. ex Miq. オオアブラガヤ 大油茅
 日本、中国、台湾、インド、ブータン、ミャンマー、タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピン、パプアニューギニア、太平洋諸島。中国名は百穗藨草 bai sui biao cao 。湿った場所、丘陵の斜面、渓谷に生える。
 稈は高さ60~100㎝、丈夫な3稜形、数個の節がある。葉は稈より長く、基部に鞘がある。根生葉は鞘が黒紫色、光沢がある。葉身は幅1~1.5㎝、平ら、硬く、革質、縁はわずかにザラつく。苞葉は5~6枚、葉状、基部の3~4枚は花序を超える。花序は大きい複合(compound)又は複複合(decompound)のイグサ形花序、長さ7~10㎝×幅8~15㎝。花序枝は5本又はそれ以上、長さ9㎝以下、丈夫で、開出、平滑。小穂は無柄、頭状花序状に4~10個が束生し、卵形~楕円形~長円形、長さ3~8㎜×幅2.5~3.5㎜、多数の花がつき、先は鈍形。苞穎は褐色、密につき、広卵形~卵状円形、長さ約1.2㎜、膜質、淡褐色の1脈があり、先は鈍形~円形。花被の剛毛は2~3本、小堅果より長く、直立、先半分にまばらに後ろ向きのザラつきがある。花柱は糸状、長さ1.2~1.5㎜。柱頭は2個。小堅果は淡黄色、楕円形、等卵形又は類球形、長さ0.7~1㎜、両凸面形。花期および果期は6~8月。

16 Scirpus wichurae Boeck. アブラガヤ 油茅 [広義]

  synonym Scirpus cyperinus var. wichurae (Boeckeler) Makino
  synonym Scirpus lineatus var. wichurae (Boeckeler) T.Koyama
  synonym Scirpus lineatus f. wichurae (Boeckeler) T.Koyama

  synonym Scirpus lineatus Michaux subsp. wichurae (Boeckeler) T. Koyama

  synonym Scirpus wichurae var. asiaticus (Beetle) T. Koyama ex W. T. Lee.

 日本固有種。北海道、本州、四国、九州に分布する。低地から山地にかけて湿地に生え、ごく普通に見られる。
多年草、叢生し、稈はほぼ直立し、高さ1~1.5m、硬く、横断面は鈍3角形、6~9節がある。葉基部の鞘は密に稈を包む。葉舌の先は凹む。葉は多数の根生葉と少数の茎葉、長さ20~40(~50)cm×幅5~15㎜、断面は丸みを持った逆W形、縁は微細な上向きの鋸歯があり著しくザラつく。苞葉(総苞片)は5~6 枚、葉状、基部の3~4枚は花序を超える。花序は1~5個、頂生および側生し、数回(2~5回)分岐し、不規則な長さの花序枝および小花序枝の先に小穂が単生または1~3(~5)個密に集まってつく。側生花序は茎上部の節の葉腋につき、長い花序柄がある。側花序につく小穂は頂生の花序のものよりも小さい。花序枝および小花序枝はザラつく。小穂は無柄、長円形、長さ4~8㎜×幅3~4㎜、赤褐色。鱗片(苞頴)は多数が小穂に螺旋状につき、広倒卵形、長さ約2mm。痩果は長さ約1mm、横断面は扁3角形。刺針状花被片は6本あり、糸状、縮れて長く、先半分には疎らに上向きのザラつきがある。柱頭は3個。花期は8~10月。
 アブラガヤ(Scirpus wichurae) とチュウゴクアブラガヤ(Scirpus luhanensis)は、TangとF. T. Wang によってエゾアブラガヤ(S. asiaticus)として一緒に扱われた (Fl. Reipubl. Popularis Sin. 11: 12. 1961)。しかし、Keyの違いから分かるように、我々はそれらが全く別のものであると考えている。S. wichurae の変種が認められるなら、日本産の植物が基本変種(typical variety)の狭義のアブラガヤとなり、中国およびその他の範囲の植物は S. wichurae var. asiaticus(エゾアブラガヤ)になる(Flora of China)。  Flora of Chinaではエゾアブラガヤ(S. asiaticus)をアブラガヤ Scirpus wichuraeに含め、分布域を日本、朝鮮、中国(貴州省、遼寧省、青海省、山東省、雲南省)、インド、ブータン、バングラデシュ、タイ、インドネシアとしている。現在、Kewscienceではアブラガヤ、アイバソウScirpus wichuraeは日本固有種とし、チュウゴクアブラガヤ(S. luhanensis)とエゾアブラガヤ(S. asiaticus)を独立種と認めている。
 アブラガヤの下位分類はアイバソウvar. wichurae と狭義のアイバソウvar. concolorである。シデアブラガヤはアブラガヤとエゾアブラガヤの交雑種と考えられている。
16-1 Scirpus wichurae var. wichurae アイバソウ
  synonym Scirpus wichurae Boeck. f. wichurae [YList]
  synonym Scirpus lineatus Michx. subsp. wichurae (Boeck.) T.Koyama
  synonym Scirpus eriophorum var. nipponicum Franch. & Sav.
 日本の中部~南部、北部の南部地域に分布。
 小穂は花序枝の先端に単生し、側部の小穂は小花柄があり、卵形、長さ4~5㎜。剛毛(刺針状花被片)は鋸歯状でザラつき、普通、上部がわずかに大きい(参考10)。
16-2 Scirpus wichurae var. concolor (Maxim.) Ohwi アブラガヤ 油茅 狭義
  synonym Scirpus wichurae Boeck. f. concolor (Maxim.) Ohwi [YList]
 日本(北海道、本州、四国、九州)に分布。日本の中部~南部に普通。
 葉舌の先が凹む。小穂は1~3個集まってつき、卵状長円形、多数の花がつき、長さ6~9㎜。剛毛(刺針状花被片)は鋸歯状でザラつき、普通、上部がわずかに大きい(参考10)。

17 ハイブリッド
(1) Scirpus x fujimakii M.Kikuchi et T.Koyama  コマツカサアブラガヤ
 コマツカサススキとアプラガヤとの自然交雑種
(2) Scirpus asiaticus Beetle x S. wichurae Boeck. シデアブラガヤ
  synonym Scirpus wichurae Boeck. f. cylindricus (Makino) Nemoto 
  synonym Scirpus cyperinus Kunth var. concolor (Maxim.) Makino f. cylindricus Makino 
 小穂が長さ約1.3㎝の円筒状で束生する。

参考

1) Flora of China
  Scirpus
http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=2&taxon_id=129748
2) GRIN
  Scirpus<
http://tn-grin.nat.tn/gringlobal/taxonomygenus.aspx?id=10951
3)Flora of North America
  Scirpus<
http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=129748
4)Scirpus sylvaticus in Global Plants on JSTOR
 Scirpus sylvaticus
https://plants.jstor.org/compilation/scirpus.sylvaticus
5) 植物研究雑誌第31巻第8号昭和31年 p240
 マシシュウホタルイの一品(檎山庫三)
http://www.jjbotany.com/pdf/JJB_031_240_240.pdf
6)イワキアブラガヤおよび近縁の帰化種セフリアブラガヤ ... - j-stage
 イワキアブラガヤおよび近縁の帰化種セフリアブラガヤ (カヤツリグサ科)の国内の分布と由来
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunrui/15/1/15_KJ00009868546/_pdf
7)植物研究雑誌 第91巻 第1号 41-46 (2016)
 加藤ゆき恵,深津恵:北海道新産のイワキアブラガヤ(カヤツリグサ科)
http://www.jjbotany.com/pdf/JJB_091_41_46_abstract.pdf
8)植物研究雑誌 第32巻 第8号 昭和32年8月 254-255
 菊地政雄 . 小山鉄夫料: ホタルイ属のー雑種 コマツカサアブラガヤ
http://www.jjbotany.com/pdf/JJB_032_254_256.pdf
9)植物研究雑誌 1957年 32 巻 5 号 152-153
 菊地政雄 . 小山鉄夫料: カヤツリグサ科の分類学的研究 (6)
 Yezo・aburagaya p120-121
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjapbot/32/5/32_32_5_4134/_pdf/-char/ja
10)植物学雑誌 1904年 18 巻 211 号 p117-122
 T. Makino: Observations on the Flora of Japan
 Scirpus karuisawensis 119 , Scirpus cyperinus (Lien.) Kuntli. 120
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jplantres1887/18/211/18_211_117/_pdf/-char/ja