シライトソウ 白糸草
Flora of Mikawa
シュロソウ科 Melanthiaceae シライトソウ属
学 名 | Chamaelirium japonicum (Willd.) N.Tanaka synonym Chionographis japonica Maxim. |
花 期 | 5~6月 |
高 さ | 8~70㎝ |
生活型 | 多年草 |
生育場所 | 林内、谷沿い |
分 布 | 在来種 本州(秋田県以南)、四国、九州、朝鮮 |
撮 影 | 新城市 05.6.4 |
多年草。根生葉は卵形~披針形~倒卵状長円形、先は鈍形又は円形、まれに尖りぎみになり、長さ1~15㎝×幅6~50mm、縁には細かい縮れがあり、草質のくすんだ緑色(光沢が無い)、主な側脈はしばしば下面に隆起する。葉柄は短または長、長さ8㎝以下。茎は高さ8~70㎝。茎葉は4~35個つき、披針形~線形、ときに穂状花序の下に密集し、長さ5~80mm。穂状花序は長さ2~22㎝、しばしば、密に多数の花をつける。花被片は6個。花の上側の花被片は4又は3個が長く、へら状線形、白色、水平に広がり、長さ5~15mm、上部で幅0.6~0.8mm。花の下側の花被片はごく短く、長さ1~2mm、しばしば欠く。雄しべ6個、長さ1~3mm、上側の長い花被片よりかなり短い。葯は2室、帯白色。花粉粒は長さ12~17µmx幅14~18µm。蒴果は長円状卵形、長さ2.5~4㎜、斜上する。種子は紡錘形、上部の翼を含めて、長さ2.5~3.5㎜。2n=24(4倍体)。花期は5~6月。
シライトソウ属
family Melanthiaceae - genus Chamaelirium多年草、節のある太い根茎がある。根は収縮性があり(contractile)、ひげ根、肉質。茎は雌性植物では宿存し、直立またはうなずき、単純、中空、無毛。葉は宿存し、常緑、基部のロゼット状に密につき、上部では縮小する。葉身は無毛、縁は全縁またはわずかに波打つ。根生葉は葉柄があり、葉身はへら形~倒披針形。茎葉は無柄で、線形~披針形。花序は頂生、苞は無い。雄性植物では総状花序、まれに穂状花序、長さ7~15㎝、先はうなずく。雌性植物では総状花序または穂状花序で、果時み長さ35㎝までになる。花は単性、雄花と雌花が別々の植物に生じ、たまに両性、苞は無く、弱く合成心皮(syncarpous)。花被片は宿存性で、6枚、広がるかまたは斜上し、離生、白色~緑白色、後に黄色になり、1脈があり、狭い線状へら形、蜜腺はない。雄しべは6本。花糸は離生、平ら、不等長。葯は底着、2室、長円状披針形、外向き(extrorse)。子房は上位、3室、深く3裂し、隔壁腺はない。花柱は宿存性で、3本、反り返り、離生、線状棍棒形。柱頭は背側の表面に沿ってパピラがある。果実は蒴果、直立し、3室、胞背裂開。種子は小室あたり2~4個、楕円形~線状長楕円形、幅広の翼状の仮種皮を持つ。x=12。
世界に12種あり、日本、朝鮮、中国、ベトナムに分布し、北アメリカに1種ある。
Chamaelirium属は北アメリカの1種だけであったが、東アジアの Chionographis属が統合された。
Chamaelirium属もChionographis属のどちらの属も特徴的な四孔花粉粒を持ち (M. Takahashi および S. Kawano 1989)、どちらも x=12 を基本としており (H. Hara および S. Kurosawa 1962)、その他の核学的類似点も共有している。(N. Y. Tanaka および N. Tanaka 1985)。Chamaelirium と Chionographis の系統では、花の性差が極めて多様化している。Chamaelirium は雌雄異株(dioecious:雌花だけの株と雄花だけの株が別にある)、またはたまに雌雄混株の異株(polygamodioecious)であるが、Chionographis は両性花(monoclinous=bisexual)または雄花両性花同株(andromonoecious:雄花と両性花が同じ株にあり、雌花がない)であることが多く、ときに雌花両性花異株(gynodioecious:雌花だけの株と両性花だけの株が別にある)のこともあり、まれに雄花両性花異株(androdioecious;雄花だけの株と両性花だけの株が別にある)のこともある。(M. Maki 1992、1992b、1993; M. Maki および M. Masusa 1993、1994)。アメリカのChamaelirium luteum は、二形性に関連する雌雄異株に関する多数の研究の対象となっている。雄性植物と雌性植物は、形態、生活史、空間分布が著しく異なる。成熟した雌性植物は雄性植物よりも丈夫で、特定の個体群では雌性植物よりも雄性植物の方が比例して多くなる。(T. R. Meagher 1978、1980、1981、1982、1984; T. R. Meagher および J. Antonovics 1982、1982b; T. R. Meagher および E. Thompson 1987)。
旧シライトソウ属 Chionographis
多年草、しばしば、両性花又は雄花両性花同株(andropolygamous)、 雌花両性花異株(gynodioecious)、まれに雄花両性花異株(androdioecious)、短い丈夫な根茎をもい、無毛。葉は根生し、ロゼットになり、葉柄があり、へら形~楕円形、常緑、縁は全縁又は微細な波状鋸歯がある。花茎はロゼットの中心に生じ、直立し、単純、3~30個の苞状の葉(又は細い葉)を持つ。花序は頂生の穂状花序、多数の花をつける。苞は無い。花は無柄、左右相称、小さい。花被片は離生、上側の3又は4個はへら状線形又は糸状、下側の2又は3個はかなり短く又は欠く。雄しべは6本、花被片の基部につき、やや短い。葯は底着、類心状卵形~ほぼ球形、外向き、室は合流又は分離。子房は球形、3室があり、胚珠は各室に2個。花柱は3個、柱頭は内側につく。果実は蒴果、胞間裂開?。種子は紡錘形、片側に翼がある。世界に約5種があり、日本、朝鮮、中国に分布する。シライトソウ属の主な種と園芸品種
1 Chamaelirium actinomorphum (Aver. & N.Tanaka) N.Tanaka & Aver. カマエリリウム・アクチノモルフム
synonym Chionographis actinomorpha Aver. et N. Tanakaベトナム原産。種小名は花の放射形態に由来する。標高1000~1100mの山の尾根の頂上にある苔むした非常に急峻な岩の斜面や日陰の湿った岩の崖に生える。
多年草、ロゼットを作り、無毛、短い垂直の根茎を持つ。葉は多数あり、すべて上向きで、葉柄があり、常緑。葉柄は広く、わずかに二つ折り、基部は短く翼があり、長さ1~1.5(2)㎝。葉身はへら形~楕円形、縁は全縁、先は鈍形~鈍形、長さ(1.5)2~3(3.5)㎝、幅(0.8)1~2(2.5)㎝。花茎は腋生、ロゼット葉の先近くから生じ、斜上~直立し、単純で、高さ(6)8~15(20)㎝、(4)5~6(7)個の卵形~狭卵形の苞状の小さな葉があり、苞状葉は長さ(6)8~10(12)㎜。花序は頂生、緩く、真っすぐ、穂状花序の亜総状花序、長さ(3)4~8(10)㎝、花が多数つく。小花柄は非常に短く、苞はない。花は白色、前向き、放射相称、直径6~8㎜、無臭。花被片は6枚、離生、へら形(または典型的なスプーン形)、下部の約3分の2が円筒状の糸状、上部の約3分の1が楕円形~狭倒卵形、先は鈍形または円形、長さ(3)3.5~4(4.5)㎜。雄しべは6本、花被片の内側基部に挿入され、花被片より少し短く、長さ2.5~3.5㎜。葯は底着、心状卵形~ほぼ球形、2室、外向き。子房は楕円形、先が鈍い三角形、高さ1~1.5㎜、幅0.8~1㎜、3室があり、各室には2個の胚珠がある。花柱は3本、反り返り、腹側に柱頭があり、小パピラがある。果実は蒴果、楕円形または卵形、長さ3~4㎜。花期は3~4月。
2 Chamaelirium chinense (K.Krause) N.Tanaka チュウゴクシライトソウ 中国白糸草
synonym Chionographis chinensis K.Krausesynonym Chionographis merrilliana H.Hara
中国原産(福建省、広東省、広西省、湖南省)。中国名は白丝草 bai si cao。海抜700m付近の斜面や丘陵の斜面の日陰や湿った場所に生える。
葉は数枚~10枚以上。葉柄は長さ1~6㎝。葉身はへら形~楕円形、長さ1~6㎝×幅1~3.5㎝、無毛、縁はわずかに波打ち、先はほぼ鋭形。花茎は長さ14~40㎝。苞葉は4~5枚、披針形~卵形、長さ2~5㎜。穂状花序は長さ3~14㎝、花後に長く伸びるのが普通で、密集して多数花が咲く。花には芳香がある。花被片は白色~淡黄色。上部の3~4枚の花被片は長さ3~8㎜、先端部の幅は0.2~0.5㎜。下部の2~3枚の花被片は長さ0.5~1.5㎜、無いこともある。雄しべは長さ1~1.5㎜、3本は他のものより長い。葯はほぼ心形~卵形、室は合流する。蒴果はほぼ倒卵形、約・長さ4㎜×幅2㎜、上部で裂開する。種子は長さ1.8~2.8㎜×幅0.6~0.9㎜。花期は4~5月。果期は6月。
3 Chamaelirium cordifolium (N.Tanaka) N.Tanaka キイヒメシライトソウ 紀伊姫白糸草
synonym Chionographis cordifolia N.Tanaka日本固有種(紀伊半島の奈良県・三重県)
特徴は葉の基部が心形、花茎の苞状の鱗片葉が比較的に小さい。花被片は6個、下側の2個が常に存在し、上側の長さの1/2~2/2。葯は完全に1室。
多年草、小さく、無毛、雄花両性花同株(andromonoecious)または両性花であり、ときに雄性。根茎は斜上し、ほぼ円柱形、しばしば湾曲し、枯れた葉の痕があり、細く、長さ15㎜×直径2.5mm・以下。根は糸状、直径約0.3mm以下。葉は5~14個、ロゼットにつき、常緑、葉柄を含めて長さ5.5㎝以下。葉身は心形、卵形、または三角状卵形、基部は心形~類心形、まれに円形、先は鋭形~類鋭形、ときに鈍形、縁は著しく縮れ、長さ6~15(~18)mm×幅5~10.5mm。葉柄は細く、上面に溝があり、縁に狭い翼があり、下面に竜骨があり、長さ0.7~3.7㎝×幅0.5~0.7mm(中間部分)で、基部に向かってわずかに広がる。花のつく茎は直立し、花序軸を含めて長さ13~14㎝(果実では長さ約25㎝に伸びる)、直径0.5~0.6mm。果時の花序柄(または葉のつく花茎)は長さ約20cm×直径1.2mm・以下、少数の縦方向の角(かど)または狭い翼を持つ。花序柄につく鱗片状の茎葉は4~7個つき、狭披針形、狭楕円形、又は錐形、長さ12(~16)mm以下×幅2.5(~3.5)mm以下。花序軸は長さ6~10 mmで、少数の縦肋があり、果時には5.3cmまでに伸びる。花序は頂生の穂状花序、発達な花を含み6~10(~17)個つく。雄花又は未発達の花は普通、花序の上部及び(又は)雄花両性花同株の場合にはほとんど下部につく。花は花柄がなく、果時には短い花柄になり、苞は無く、両性又は雄性、わずかに左右相称。花被片は6個、狭いへら形、白色、上側の4花被片は長さ(2.2~)3~3.8mm、上部の最も幅広の点で幅0.2~0.4mm。 2つの下側の花被片は長さ(1.2~)1.5~3.5mm。雄しべは6本。花糸は細く、類円柱形、長さ0.3~0.8(~1.2)mm×幅0.1~0.2mm。葯は腎形、完全な単室、長さ0.2~0.3 mm×幅0.3~0.5mm。花粉は淡クリーム色。雌しべは1個。子房は楕円形、長さ0.5~0.6 mm、果時には前向きになり、卵形、長さ2.5~4.3mm、3溝がある。花柱は3個、狭長円形、曲がり、長さ0.6 mm以下、腹側に柱頭がつく。胚珠は子房の各室に2個、辺縁胎座の側面につく。わずかに未熟な種子は狭い(亜)楕円形、長さ2.3mm、褐色、上部に鋭く突き出た白色の薄膜質の種皮で覆われ、これを含めると長さ3.7mm。花期は5月下旬~7月上旬。
シライトソウもチャボシライトソウも6花被片のうち、下位の2花被片は通常退化的に存在するか、時にその一方もしくは双方が欠如しているが、キイヒメシライトソウの下位2片は常に存在するだけでなく、上位の花被片の長さの1/2~2/2。アズマシライトソウC.hisauchianaの花被片も常に6個あるが、下位の2個は上位の長さの約1/2である。キイヒメシライトソウの葯は完全に1室であり、この点はチャボシライトソウに近いが、花被片はシライトソウのように細いへら形である。葉身は小型で通常心臓形を呈する。成長した葉身が安定して心臓形ないしそれに近い形となるものは中国産種も含め他種には見られない特徴である。花茎上の小型の鱗片状葉もシライトソウやチャボシライトソウよりも相対的にやや小さい傾向がある。
4 Chamaelirium hisauchianum (Okuyama) N.Tanaka アズマシライトソウ 東白糸草 広義
synonym Chionographis hisauchiana (Okuyama) N.Tanaka4-1 Chamaelirium hisauchianum subsp. hisauchianum アズマシライトソウ 東白糸草
synonym Chionographis hisauchiana (Okuyama) N.Tanaka subsp. hisauchiana
synonym Chionographis japonica Maxim. var. hisauchiana Okuyamasynonym Chionographis japonica Maxim. subsp. hisauchiana (Okuyama) H.Hara
日本固有種(関東地方の埼玉県~東京都)。山地の林下に生える。アズマシライトソウはシライトソウに似るが、上位の花被片がシライトソウより短く、下位の花被片が存在し、無くならない。花粉粒も大きい。
根生葉は卵形~長円形、長さ1~6㎝、幅6~20mm、上面は不透明な緑色、縁は縮れる。茎は高さ8~35㎝の茎。上位の花被片4個は、長さ3~5mm、先付近の広がった部分で幅0.6mm。下位の2花被片は長さ1.5~2㎜。雄しべは6本、長さ1.5~2mm。花粉粒は長さ16~22µm×幅19~26µm。2n=42(7倍体)。花期は5月。
4-2 Chamaelirium hisauchianum subsp. kurohimense (Ajima & Satomi) N.Tanaka クロヒメシライトソウ 黒姫白糸草
synonym Chionographis hisauchiana (Okuyama) N.Tanaka subsp. kurohimensis (Ajima et Satomi) N.Tanaka
synonym Chionographis japonica Maxim. var. kurohimensis Ajima et Satomi
本州の秋田県、新潟県、長野県に分布。石灰岩地のブナ等の落葉樹林下に生える。葉柄が長く、大型。高さ15~40cm。根生葉はアズマシライトソウより大型、葉柄は葉身より長い、葉身はへら形、基部は漸尖し、くさび形。茎葉は小さく、まばらにつき、線形~披針形。雌性両全性異株で両性株と雌性株がある。花被片は6個、線形。両性花は上位4個が長く、シライトソウとほぼ同長。下位の2個はごく短く、ときに痕跡的になる。雌性花は花被片がやや短め。花期は6~7月。
4-3 Chamaelirium hisauchianum subsp. minoense (H.Hara) N.Tanaka ミノシライトソウ 美濃白糸草
synonym Chionographis hisauchiana (Okuyama) N.Tanaka subsp. minoensis (H.Hara) N.Tanaka
synonym Chionographis japonica Maxim. var. minoensis H.Harasynonym Chionographis japonica Maxim. subsp. minoensis (H.Hara) H.Hara
岐阜県美濃地方に分布。
ミノシライトソウは花被片が常に6個あり、上位の花被片は長さ3~6mmとシライトソウ(7~10㎜)より短く、下位の2個は雄しべより少し長いのが特徴。 根茎は太さ38mm、ときに曲がる。葉はロゼットにつき、倒披針状長円形、長さ2~8cm×幅1~2cm、先は鋭形又は鈍形、基部は長さ5~50mmの葉柄がつき、くさび状に漸尖し、上面は非常に明るい緑色、側脈は3~5本、鋭く斜上し、上面では凹み、下面では隆起し、葉縁の下部はわずかに縮れる。茎は高さ12~30cm、角(かど)は鋭い。茎葉は4~7個、線状披針形、長さ1~3cm×幅1~3㎜。 穂状花序は長さ1.5~3cm、密花がつく。 花は白色、無柄。花被片は6個、上位の(3)4個は長く、線状へら形、長さ3~6㎜×幅0.7~0.8㎜、先は鈍形。下位の(3)2個は雄しべより長く、長さ約2㎜。 雄しべは6本、長さ1~1.5㎜。 葯は球形~嘴のある卵形、花糸は短い。雌しべは長さ1.5㎜。花柱は3本、長さ0.5~0.7㎜。花期は6月。2n=42(7倍体)。
5 Chamaelirium japonicum (Willd.) N.Tanaka シライトソウ 白糸草
synonym Chionographis japonica Maxim.
日本(本州の秋田県以南、四国、九州)、朝鮮原産。
多年草。根生葉は卵形~披針形~倒卵状長円形、先は鈍形又は円形、まれに尖りぎみになり、長さ1~15㎝×幅6~50mm、縁には細かい縮れがあり、草質のくすんだ緑色(光沢が無い)、主な側脈はしばしば下面に隆起する。葉柄は短または長、長さ8㎝以下。茎は高さ8~70㎝。茎葉は4~35個つき、披針形~線形、ときに穂状花序の下に密集し、長さ5~80mm。穂状花序は長さ2~22㎝、しばしば、密に多数の花をつける。花被片は6個。花の上側の花被片は4又は3個が長く、へら状線形、白色、水平に広がり、長さ5~15mm、上部で幅0.6~0.8mm。花の下側の花被片はごく短く、長さ1~2mm、しばしば欠く。雄しべ6個、長さ1~3mm、上側の長い花被片よりかなり短い。葯は2室、帯白色。花粉粒は長さ12~17µmx幅14~18µm。蒴果は長円状卵形、長さ2.5~4㎜、斜上する。種子は紡錘形、上部の翼を含めて、長さ2.5~3.5㎜。2n=24(4倍体)。花期は5~6月。
5-1 Chamaelirium japonicum subsp. japonicum
synonym Chamaelirium luteum f. gracilis Miq.
synonym Chionographis japonica var. kurokamiana H.Hara in J. Jap. Bot. 46: 282 (1971) クロカミシライトソウ
5-2 Chamaelirium japonicum var. koreanum (F.T.Wang & Tang) N.Tanaka サイシュウシライトソウ 済州白糸草
synonym Chionographis japonica var. koreana (F.T.Wang & Tang) Okuyama in J. Jap. Bot. 19: 130 (1943)
synonym Chionographis koreana F.T.Wang & Tang韓国、済州島に分布。
植物は小型で、茎は高さ15.5㎝までの(花)茎 (果実のなる茎も含む)を出す。花序柄の鱗片葉は5~9枚、長さ2.7㎝まで。葉身は通常(狭い)披針形で、長さ5㎝まで、幅1.6㎝まで、先は鈍形または円形。上部の花被片は通常3枚、長さ5.8㎜まで。
5-3 Chamaelirium japonicum var. koshikiense (N.Tanaka) N.Tanaka コシキシライトソウ 甑白糸草
synonym Chionographis japonica var. koshikiensis N.Tanakasynonym Chionographis japonica subsp. yakusimensis var. koshikiensis N. Tanaka
鹿児島県の下甑島の固有種。標高約300~500mの常緑広葉樹林内の日陰のある湿った斜面、またはときには日当たりの良い二次草地に生える。植物は中型から大型になり、花茎は高さ(15~)20~55㎝まで(果実のついた茎を含む)。花柄の鱗片葉は6~17個、長さは最大6.2㎝。葉は長さ17㎝(葉柄を含む)、葉身は(狭)楕円形、卵形または披針形、先はほぼ鋭形~鈍形、長さ3.5~9.5㎝、幅 1.3~3.3㎝。内花被片は(2)3(4) 枚、長さ(5.5~)8~15㎜。花期は(5月下旬) 6月中旬~7月(8月上旬)。果期は10~11(12)月。
5-4 Chamaelirium japonicum subsp. yakusimense (Masam.) N.Tanaka ヤクシマシライトソウ 屋久島白糸草
synonym Chionographis japonica var. yakusimensis Masam. in Mem. Fac. Sci. Taihoku Imp. Univ. 11: 550 (1934)
synonym Chionographis koidzumiana var. yakusimensis (Masam.) Masam.
屋久島固有種。標高約570~900メートルの常緑樹が主体の森林の、川沿いの日陰または半日陰の湿った(岩の多い)斜面に生える。シライトソウに比べて全体に小型。花茎は高さ7~22(~30)cm。 花序柄の鱗片葉は 5~9 枚、長さ2.7cm まで。葉身は(狭)披針形、先は鋭形またはほぼ鋭形(ときに鈍形)、長さ1.7~4.7(~6.5)㎝×幅0.7~1.8(~2.5)㎝。内花被片は(1)2(3)枚、長さ7~12.5㎜。花期は6~7(~8初旬)月。
(5-5) Chionographis japonica Maxim. var. kurokamiana H.Hara クロカミシライトソウ 黒髪白糸草
synonym Chionographis koidzumiana Ohwi var. kurokamiana (H.Hara) M.Maki
九州の佐賀県黒髪山固有変種。湿った岩場に生える。POWOではsubsp. japonicumのsynonymとされている。シライトソウとチャボシライトソウのやや中間の形質を示すが、花被片が短いものもあり、先がやや太くなり、葯は2室が多いのが特徴。
多年草。高さ15~40㎝。葉は長楕円形~倒披針形、長さ3~14㎝、下部は次第に漸尖し、葉柄となり、縁には細かい波状の鋸歯があり、先はやや鈍形。茎葉は線形~披針形。穂状花序は長さ5~20㎝、花が多数つく。花被片は白色、6個つき、上位の4個は線形、長さ4~12mm、先がやや太く幅約0.3mmになる。下位の2個は短い。葯は2室が多く、室は合流。蒴果は長楕円形、長さ3~4㎜。花期は5~6月。
6 Chamaelirium koidzumianum (Ohwi) N.Tanaka チャボシライトソウ 矮鶏白糸草
synonym Chionographis koidzumiana Ohwisynonym Chionographis sparsa F.Maek.
synonym Chionographis koidzumiana Ohwi var. mikawana Ohwi et Okuyama
日本固有種(本州の愛知県・紀伊半島、四国、九州)。愛知県の絶滅危惧ⅠB類、国の絶滅危惧Ⅱ類に指定されている。山地の林内や沢沿いの岩上に生える。多年草。普通高さ10~20㎝、まれに30㎝を超える。地下茎は短い。葉は束生し、長さ 2~8cm、葉身は卵形~狭卵形、先は鈍形、縁の下部は細かい波状鋸歯があり、基部は漸尖し、葉柄状になる。花茎は高さ12~30㎝、分枝せず、茎葉は線状披針形。頂生の穂状花序にややまばらに花をつける。花被片は下位の2個が退化し、上位の4個のみ、白色~淡緑色、糸状、長さ 9~15mm、先は幅広にならない。蒴果で長楕円形、長さ3~4mm。花期は5月。2n=24。
6-1 Chamaelirium koidzumianum var. koidzumianum チャボシライトソウ 矮鶏白糸草 狭義
synonym Chionographis koidzumiana var. mikawana Ohwi & Okuyama in J. Jap. Bot. 28: 304 (1953)
synonym Chionographis sparsa F.Maek. in J. Jap. Bot. 11: 378 (1935)
日本。本州南西部、四国、九州南部(下甑島を除く)。この変種は雌雄同体またはまれに両性花(まれに雄花)である。葉身は(狭)楕円形、卵形または(狭)披針形で、長さ約1.3~7.5cm、幅 0.6~2cm、上面は鈍い(不透明)またはときに半光沢、細かい側脈は隆起していないか、ときにわずかに隆起し、質は薄くまたは中程度に厚い。花茎は高さ約5.5~25(~38.5)㎝。花は花序軸に5~26個。上部の花被片は長さ約10~17(~26)mm。花期は4月下旬~6月中旬。
6-2 Chamaelirium koidzumianum var. leiophyllum (N.Tanaka) N.Tanaka コシキチャボシライトソウ 甑矮鶏白糸草
synonym Chionographis koidzumiana Ohwi var. leiophylla N.Tanaka
鹿児島県の下甑島(しもこしきしま)の固有種。山腹の常緑広葉樹林の日陰の湿った岩や斜面に生える。特徴:葉身は楕円形または卵形、長さ約4~10㎝、幅2~3.6㎝、上面に光沢があり、細かい側脈は少し隆起し、質は中程度に厚い。花茎は高さ約25~52㎝。花は花序軸に15~35(~44)個つく。上部の花被片は長さ(12~)16~23(~28)mm。
草本植物は無毛、多年生、性的に雌雄同体、ときに両性同株(まれに雄性)である。根茎は直立または斜上し、ほぼ円筒形、長さ6㎝以下、直径0.8㎝以下、亜節状、しばしば弓状に曲がり、多くの瘢痕がある。根はひげ根、枝分かれ、細く、直径1.2㎜以下。葉は根生葉、ロゼットになり、葉柄があり、長さ約8~20㎝。葉柄は線形、基部が広がり、長さ3~9.5㎝、上面に細溝がある。葉身は通常楕円形または卵形、ときに(楕円状)披針形、長さ4~10㎝、幅2~3.6㎝、質はやや厚く、上面に光沢があり下面はより淡色で、縁は全縁またはほぼカリカリに縮れる。花茎は直立し、細く、果期には長くなり、花序軸を含めて長さ約25~52㎝。花序柄は長さ約42㎝、縦に狭く翼状になり、鱗片葉をつける。花序柄につく鱗片葉は6~11枚で、狭披針形または狭楕円形、長さ2.5~5.5(~8)㎝、幅4~7(~11)㎜。花序軸は開花初期でも(淡い)緑色で、長さ6~13(~19)㎝。花は左右相称花で、わずかに2唇形(花被片が弱く上下のグループに並ぶ)、両性(hermaphrodite)またはときに雄性、無臭、花序軸に15~35(~44)個の花がつき、開花初期から中期に斜め下向き、無柄または半無柄、苞は無い。花被片は2輪生で最大6枚。内(上側)花被片は4枚、糸状、真っ直ぐ、下部は円柱形、上部はわずかに平らになり(complanate)、先は円形、長さ(12~)16~23(~28)㎜、基部(最も広い)の幅は0.1~0.2㎜、淡緑色、紫色、または緑がかった紫色、1脈がある。外(下側の)花被片は最大2枚、退化しており、ときに欠損している。雄しべは2輪生で最大6本、裂開すると盾形になる。雄しべは下円柱形で、基部がわずかに複平面、上部がわずかに広がることが多く、長さ0.8~2.2㎜、淡緑色。葯は蹄鉄形(hippocrepiform)で、1室、底着、長さ0.5~1.2㎜、幅0.8~1.2㎜、淡緑色、外側の葯が内側の葯より早く裂開する。花粉は白色。雌しべは1個、子房は卵形、不明瞭に3裂し、長さ0.8~1.7㎜、緑色。花柱は3本、明瞭で、狭長楕円形または舌状、斜めに分岐、遠位で反り返り、長さ0.5~0.7㎜、白色、腹側に柱頭があり、密に小パピラがあり、所定の位置にある葯とほぼ同じ高さ。短い花柄の上の蒴果は上方に湾曲し、長さ約1㎜、 前向き、卵形、長さ3.5~4.5㎜、幅約2㎜、心皮は基部まで胞背裂開し、3バルブになり、バルブは上部半分で互いに分岐して散開し、上部で反り返り、麦わら色。種子は薄膜質の種皮に覆われ、側面が平らな紡錘形で、縦方向に狭く1(~2)縁があり、上部の端に短い尾があり、長さ3.0~4.1㎜、幅0.7~1.1㎜。種子の本体は(狭く)亜楕円形で、長さ2.0~2.8㎜、幅0.7~1.0㎜、褐色。花期は5月中旬~6月中旬。果期は11月上旬。
7 Chamaelirium luteum (L.) A.Gray カマエリリウム・ルテウム
synonym Chionographis lutea (L.) Baill.
カナダ(オンタリオ州)、USA東部(アラバマ州、アーカンソー州、コネチカット州、デラウェア州、ワシントン D.C.、フロリダ州、ジョージア州、イリノイ州、インディアナ州、ケンタッキー州、ルイジアナ州、メリーランド州、マサチューセッツ州、ミシガン州、ミシシッピ州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、ノースカロライナ州、オハイオ州、ペンシルバニア州、サウスカロライナ州、テネシー州、バージニア州、ウェストバージニア州)原産。英名はblazing-star,devil's bit, devil's-bit, fairy-wand, rattlesnake-root。標高0~1100mの湿った草原、茂み、樹木が茂った斜面、入り江に生える。
雌雄異株。単生花。雄性植物は葉が5~20枚、高さ1.5~3.5m。雌性植物は葉が15~50枚、高さ30~60㎝、果時の長さ1.5m。葉身はへら形~倒披針形、長さ5~20㎝×幅1.5~6㎝、先は鈍形で基部に向かって先細りし、幅4~6㎝の広い葉柄がある。上部の葉の葉身は倒披針形~線形、長さ3~8㎝×幅1~1.5㎝。花序は頂生し、雄花序は穂状花序が分岐し総状花序、長さ10~20㎝、白色で羽毛状、最初は直立し、後に曲がり、黄色い花粉でクリーム色に見える。雌花序は分岐せず、穂状花序、より短くて細く、白色、斜上する。雄花は白色。花被片は3~4mm。花糸は2形性で外側の方が長い。葯は白色で長さ0.5㎜。花粉は黄色。雌しべはない。小花柄は長さ2~5㎜。雌花は白色。花被片は長さ2~3㎜。仮雄しべはある。子房は楕円形~倒卵形。花柱は長さ1.5~2㎜。柱頭は無柄。蒴果は卵状長円形、長さ7~14㎜×幅5~6㎜。種子は赤褐色、長さ1.8~2㎜、長さ5~6㎜(翼状の仮種皮を含む)。花期は晩春~夏。
8 Chamaelirium nanlingense (L.Wu, Y.Tong & Q.R.Liu) N.Tanaka カマエリリウム・ナンリンゲンセ
synonym Chionographis nanlingensis L. Wu, Y. Tong & Q. R. Liu, sp. nov.中国(広東省)原産。広東省北部の南嶺国立自然保護区でのみ知られている。標高300~500mの森林の下の苔むした場所や道端の湿った岩に生える。
この種は C. shiwandashanensis および C. koidzumiana に類似してるが、前者とは主に花被片が3枚で長さ8~12㎜(6枚で長さ5~8㎜)、雄しべがほぼ2輪につき、外側の輪生花糸は長さ1.0~1.3㎜で花被片の間に挿入され、内側の輪生花糸は少し短く、花被片の基部に挿入される(花被片の基部に挿入され、長さ0.6~1.2㎜、規則的)点が異なる。また後者とは、苞葉が楕円形~長楕円形(線形~披針形)、花がほぼ放射相称、花被片が通常3枚で規則的(6枚で、下部の2枚または3枚が非常に短いか縮小する) 点が異なる。
9 Chamaelirium shiwandashanense (Y.Feng Huang & R.H.Jiang) N.Tanaka カマエリリウム・シワンダシャネンセ
synonym Chionographis shiwandashanensis Y.Feng Huang & R.H.Jiang中国の広西チワン族自治区原産。2011年に記載された。中国名は十万大山白丝草 shi mo da shan bai si cao。南部の防城港市石万大山に分布し、標高約790mの常緑広葉樹林に生える。
C. koidzumiana Ohwi や C. chinensis Krauseに似ているが、長円状楕円形~長円形の苞状の葉と6個の糸状の通常花被片をもつ。
多年草、短くて太い根茎と多数のひげ根を持つ。葉は根生し、ロゼットになり、多少葉柄があり、葉身はへら形~倒卵形、縁は全縁、先は鋭形~ほぼ鋭形、下部は急に狭まり、長く沿下し、平行脈があり、目立つ。蕾は葉のロゼットの中央から発生し、直立し、7~11枚の長円状楕円形~長円形の苞状の葉がつく。花序は長さ2.5~8㎝、花後に長く伸び、多数の花がつき、苞は無い。花は両性花(hermaphroditic)、6本の白い糸状の花被片をもつ。蒴果はほぼ倒卵形~ほぼ球形。
参考
1) Flora of ChinaChionographis
Chionographis
紀伊半島産シライトソウ属(シュロソウ科)の1新種 キイヒメシライトソウ
原寛:ミノシライトソウ
黒津幸子・原 寛: 日本植物の細胞分類学的予察(1)
原 寛: シライトソウ属の再検討
クロカミシライトソウ(新変種)
Chamaelirium luteum