オニノヤガラ 鬼の矢柄

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Flora of Mikawa

ラン科 Orchidaceae オニノヤガラ属

別 名 テンマ 天麻
中国名 天麻 tian ma
学 名 Gastrodia elata Blume
オニノヤガラの花
オニノヤガラの葉
オニノヤガラ
花 期 6~7月
高 さ 30~100cm
生活型 多年草
生育場所 低地~山地の陰地
分 布 在来種  日本全土、朝鮮、中国、台湾、ロシア、インド、ブータン、ネパール
撮 影 稲武町 05.7.16
地上生、葉が無く、炭素源を根状組織に内生する共生菌に依存する全菌栄養性(holomycotrophic)植物。夏には地上部は無くなり、地中の塊茎で休眠する。共生菌はナラタケ。
 多年草、高さ30~100cm、まれに高さ200cmまでになる。根茎は塊茎、普通、楕円形、長さ8~12cm、丈夫、直径3~5(~7)cm、ときに大きくなり、肉質、密に節があり、節に三角形または広卵形の鱗片がある。花序柄は橙色、黄色、灰褐色、または帯緑色、長さ25~80(~150)cm、基部に数個の膜質の鞘がある。花序軸は長さ5~30(~50)cm、ほぼ密から密に花が20~50個つく。花の苞は長楕円形、長さ10~16mm、しばしば子房を超え、膜質、先は尖鋭形。花は直立し、逆向きになり、弱く開き、橙色、淡黄色、青緑色、または黄白色。小花柄と子房は合わせて長さ7~12mm。花被筒はつぼ形、長さ8~10mm×幅5~7mm、側萼片との間に深い切れ込みがあり、基部が膨らみ、外面は平滑。萼片の自由な部分は卵状三角形、長さ3~5mm、先は鈍形。花弁の自由な部分はほぼ長円形で、萼片よりも小さく、先は鋭形。唇弁は不明瞭に3裂し、長楕円形、長さ6~7mm×幅3~4mm、無毛、基部に爪部があり、先の縁は不規則な房状へりになる。爪部は対の凸状の折れ(gibbous foldings)をもつ。ディスク(diskdisk:唇弁の下半部の側裂片との間の範囲)はパピラ(乳頭状突起)があり、対の肉質の腎形のカルス(reniform calli:硬くなったたこのような突起)をもつ。ずい柱は長さ5~7mm、ずい柱の足は短い。蒴果は倒卵状楕円形、長さ14~18mm×幅8~9mm。花期および果期は5~7月。2n=24, 30, 36。

オニノヤガラ属

  family Orchidaceae - genus Gastrodia

 地上生、葉が無く、炭素源を根状組織に内生する共生菌に依存する全菌栄養性(holomycotrophic)の草本。根茎は水平の塊茎、円柱形、ときにわずか珊瑚状で、わずかに肉質で、普通、密に節がある。夏季には地中の塊茎で休眠する。花序は直立し、頂生、節は中間より下に節があり、節に筒状または鱗片状の鞘があり、無毛、黄褐色または鈍い褐色で、通常は少数~多数の花がつき、まれに花が1個つき、ときに、果時に長くなる。花は開出または下を向き、鐘形、つぼ形、または円筒形、逆向きまたは逆向きにならず、クリーム褐色、黄褐色、または鈍い褐色、たまに、緑褐色、唇弁はしばしば明るい褐色、ときに、橙色の斑紋がある。小花柄は普通、果時に長くなる。萼片と花弁が統合し、花被筒(perianth tube)を形成し、先端部分だけが分離する。花被筒はとき、広がり、基部で袋状になり、ときに側萼片との間に深い切れ込みがあり、外面にはしばしば疣がある。花弁は萼片よりはるかに小さい。唇弁(lip)は花被筒の中に包み込まれ、ずい柱の足(column foot)の先につき、普通、小さく、普通は基部に爪部があり、単純または3裂する。ディスク(disk:唇弁の下半部の側裂片との間の範囲)は基部に球形のカルス(calli:たこ)の対をもつ。ずい柱は長く、基部に短いが明瞭なずい柱の足があり、先に翼があり、ときに、先に1対の歯状の突起がある。葯は花糸の上につき、大きく、ほぼ頂生、稔性がある。花粉塊(pollinia)は2個、顆粒状~粉状(granular-farinaceous)、普通、もろい花粉小塊(massulae)からなり、花粉塊柄(caudicles)は無い。柱頭は高くなり、盾形。蒴果は直立する。
 世界に約90種あり、インド北東部~東ヒマラヤ、中国南部~日本、東シベリア、東南アジア~オーストラリア東部、南西太平洋の島々、熱帯アフリカ、マダガスカル、マスカリン諸島に分布する。中国には15種(9種が固有種)ある。

オニノヤガラ属の主な種と園芸品種

1 Gastrodia albida T.C.Hsu et C.M.Kuo ヤクシマヤツシロラン 屋久島八代蘭
 日本(屋久島)、台湾に分布。常緑樹林下に生える。
 多年草、地上性、無葉。根茎は塊茎、長さ2㎝×幅5mm。花のつくシュートは直立し、高さ2~2.5㎝で、先に単生の花をつける。花序柄(根茎から小花柄まで)は長さ1~1.5㎝。鱗片は2または3個つき、長さ5mm、膜質、披針形、淡白褐色。小花柄は長さ5~7㎜、淡帯褐色。子房は長さ5㎜×幅2.5mm、淡帯褐色、暗褐色の縞模様がある。花被筒は鐘形、曲がり、両面がわずかに褐白色、外面に疣があり、長さ13㎜×幅12㎜。萼片と花弁は統合し、5裂片の花被筒を形成する。側萼片は花被筒の基部とだけ合着し、幅10mmの広く開いた隙間ができる。萼片の自由部分は円形、外面は褐白色で内面は白色、長さ3mm。花弁の自由部分は長円形で、両面は薄褐白色、長さは3㎜。唇弁は花被筒の背側の隙間から見え、三角形、先は尖鋭形で1個(fexed:single)、裂片は無く、わずかに褐白色、縁に沿って赤みがかる。下唇(hypochile)は2個の白色の球形の蜜腺の無いカルスをもち、カルスは直径0.8㎜。上唇(epichile)は細長い三角形、下半分はディスク(disk)までが厚く、やや脂肪で覆われるが、縁に沿ってわずかに2うねがあり、無毛、パピラがあり、上半分はやや狭く、はっきりと2うねがあり、若いときは縁に沿って細かい毛があり、成熟すると無毛になる。ずい柱は白色、真っすぐで、円柱形、長さ4.5㎜×幅1.8㎜、上部に1対の狭い側翼があり、側翼の縁はずい柱に平行、先に1対の歯状の突起(stellidia)があり、基部がわずかに狭くなり、ずい柱の足は短い。嘴(rostellum)は無い。柱頭は基部の近くに位置する。葯は半球形、長さ0.8mm。花粉塊は2個。蒴果は楕円形、長さ1.5㎝。小花柄は果時に長さ10㎝までに伸びる。

2 Gastrodia amamiana Suetsugu アマミヤツシロラン 奄美八代蘭
 日本固有種。琉球諸島、奄美大島、徳之島に分布。
 タブガワヤツシロランに似るものの、花は咲かせることなく蕾のまま自家受粉を行い、唇弁の形状やずい柱の構造が異なる。
 多年草、地上性、菌従属栄養(mycoheterotrophic)、高さ2~4cm。根茎は塊茎、紡錘形または円筒形、長さ3~8㎝、直径4~9㎜、黄褐色、多数の鱗片に覆われる。茎は葉が無く、直立し、淡褐色、長さ2~4㎝×直径2~3mm。苞は長さ約4mm。小花柄と子房の長さは6~10㎜。花は1~5個つき、筒状、わずかに上向きの角度でつき、逆向きになり、長さ10~13㎜、直径約7㎜。萼片と花弁が統合し、5裂片の花被筒を形成する。花被筒は完全に閉じている。萼片は等形、長さ10~13㎜、花弁の長さの約2/3と合着し、側萼片は互いにその長さの約3/5が合着し、外面は暗褐色、密に疣があり、縁は全縁。背萼片の自由部分は真っすぐで、卵状三角形、小凹形、約・長さ4.5㎜×幅4.5㎜。側萼片の自由部分は広がり、先は鈍形。花弁の自由部分は卵形または楕円形、約・長さ3㎜×幅2㎜。唇弁はずい柱の足につき、長さは6~7㎜。下唇(hypochile)は 2個の退化したカルスをもつ。上唇(epichile)は赤褐色、卵状三角形、基部がくびれ、上部に2(~4)本の不明瞭なうねの隆起があり、2本のうねが舌部の先まで伸びる。ずい柱は真っ直ぐ、こん棒形、長さ5.5~6.5㎜、白色で基部が灰褐色を帯び、1対の側翼をもち、ずい柱の足が有る。側翼は赤色、内曲し、縁はずい柱に平行。嘴(rostellum)は無い。柱頭は中間よりわずかに上に位置する。葯は半球形、直径約1㎜、花粉塊は2個。花期は3月。果期は4月。

3 Gastrodia appendiculata C.S.Leou et N.J.Chung   
 台湾原産。中国名は无喙天麻 wu hui tian ma。

4 Gastrodia boninensis Tuyama ムニンヤツシロラン 無人八代蘭
 日本固有種。小笠原諸島(父島、母島)に分布。  多年草、高さ8~10㎝(果時に高さ25~30㎝)、葉状体が欠如し、全体に無毛。根茎は塊茎、長さ約2.5~7.0cm、直径0.5~1.2㎝、ほぼ密な帯白色の絨毛があり、少数の鱗片が散在し、その下に厚い肉質の組織がある。花茎は花時に直立し、高さ約10cm、帯白色または淡褐色、平滑、節が3~4個あり、節に褐色の膜質の鱗片または鞘をつける 総状花序は頂生、ほぼ密に花が4~8個つく。花は鐘形、上向きまたは横向き、長さ12㎜×幅9 mm、全体が(初め)紫褐色(後に淡褐色)。小花柄と子房は長さ9~10㎜。苞は長さ6mm、広卵形で、先は鋭形。萼片はその長さの 3/4まで合着し、花被筒を形成する。中間の萼片(背咢片)はわずかに反り、倒卵形、明瞭に凹形、幅7.5mm。側萼片は斜めの倒卵形、狭く尖り、先はわずかに鈍形、幅6.5mm。花弁は筒部の先の萼片の間に合着し、卵形、先は鈍形、長さ3mm×幅2.5㎜、1脈がある。萼片と花弁は背側の縁で、大きな楕円形または円形の細胞が隆起し、ほぼ密に散在する(いぼがある)。唇弁は 長さ7mm×幅5㎜の長円状倒卵形の範囲をもつ。上唇(epichile)は両側が広四角状卵形で縁はわずかに内曲し、肉厚で暗色の7脈があり、縁は漸尖し、先は急に尖り長く、縁は全縁だが上部が小さくアーチ状になり、先近くの中央全体に微細なパピラがあり、カルスは2個小さい。下唇(hypochile)は横長の長円形、幅約3.5mm、幅広、肉厚で、両側が円形になる。ずい柱は長円形、長さ6.5mm×幅4mm、凹んだ三角形、先に2歯があり、歯は短く、長さ約1mm。長く、腹側の出た部分が先まで走る。葯は先が背側で円形に凹み、腹側はほぼ平ら、中間の柱頭は三角形、先が掘削され、薄板(lamella)は小さく後屈する。花粉塊は2個、腺がなく、基部に合着する。子房は鈍形、三角形、長さ4mm。蒴果は長さ3cm、濃紫褐色、熟すと裂開する。小花柄は果時に27cmまでになり、無毛または淡くなる。花期は12月末~1月。果期は2~3月。
4-1 Gastrodia boninensis Tuyama f. botrytis Tuyama  フサザキムニンヤツシロラン 
 花茎は丈夫で長さ約20㎝、基部の太さ8mm、多数花が房状につく。

5 Gastrodia callosa J.J.Sm.   
 台湾、インドネシア(ジャワ島)原産。绯赤箭 fei chi jian。

6 Gastrodia clausa T.C.Hsu, S.W.Chung et C.M.Kuo  ツボミヤツシロラン 蕾八代蘭
 日本(琉球諸島、小笠原諸島)、台湾に分布。
 ハルザキヤツシロランの類似種。2013年に日本にも自生することが報告された。
 多年草、地上性、菌従属栄養(mycoheterotrophic)。根茎は塊茎をつくり、紡錘状円筒形。 長さ2~7㎝×直径3~9㎜、褐色、多数の鱗片と根の毛のような単細胞の毛で覆われている。茎は直立し、細く、薄褐色、高さ3~5㎝×直径2~3mm。花の苞は広卵形~卵形、褐色、長さ5~6mmx幅3~5mm。子房と小花柄は長さ5~10㎜。花は1~5個つき、筒状、濃褐色。花被片は合着し、6花被片の花被筒を形成する。花被筒は完全に閉じ、直径5~6mm、萼片も同様。長さ10~l2mm、花弁と唇弁はその長さの3/5~2/3、外面は密に疣があり、内面は平滑、縁は全縁、先はわずかに凹状。背萼片の自由な部分は広卵形、長さ3.5~4mm×幅4.5~6mm。側萼片の自由な部分は三角形、長さ4~5mmx幅4~5mm。花弁は褐色、卵状三角形、自由な部分は約・長さ3mmx幅3mm、基部はくびれ、縁は全縁。唇弁は花被筒につき、褐色、卵状三角形、長さ3mm×幅3mm、基部はくびれ、縁は全縁。ずい柱は真っ直ぐ、こん棒形、長さ6mmx幅2.8mm、白色で基部が灰褐色を帯び、側面に1対の翼があり、腹面に明瞭な付属体がある。ずい柱の足は不明瞭。側面の翼は赤色、内側に曲がり、縁はずい柱に平行。嘴は無い。柱頭はずい柱の中間よりわずかに下になる。腹面の付属体は赤色、柱頭のすぐ下に生じ、先はずい柱に平行、菱状卵形、長さ3mmx幅2.5mm、先が2裂する。葯は半球形、長さ1mm×直径0.8mm。花粉塊(pollinia)は2個、顆粒状~粉状、多くの分離可能な花粉小塊(massulae)からなり、花粉塊柄(caudicles)と粘着体(viscidium)は無い。蒴果は円筒形、長さ2~3㎝。小花柄は果時に長さ15~40cm。花期は2~3月。果期は3~4月。

7 Gastrodia confusa Honda et Tuyama アキザキヤツシロラン 秋咲八代蘭
  synonym Gastrodia verrucosa auct. non Blume
 日本(沖縄)、朝鮮、中国原産。中国名は八代天麻 ba dai tian ma。竹林に生える。
 多年草、高さ6~15cm。根茎は褐色、倒円錐形または紡錘形、長さ2~4.5cm、5~8節があり、各節に8~10個の鱗片がつき、直軟毛がある。花序柄は淡褐色、長さ約13cm以下、数個の鞘があり、花序軸は短く、密に花が3~10個つく。花の苞は卵形、長さ6~8mm、先は鋭形。花はほぼ直立またはうなずき、逆向きになり、薄褐色または帯黒色。 小花柄と子房は合わせて長さ15~20mm、果時に小花柄は長さ約30cmまで伸びる。花被筒は鐘形、長さ11~12mm、外面に疣がある。萼片の自由な部分は内側に曲がり、卵形、長さ3~5.5mm、先は鈍形。花弁の自由な部分はほぼ楕円形、萼片よりもはるかに小さく、基部が厚くなる。唇弁は黄色、単純、卵形、長さ7~8mm×幅約4mm、無毛、基部に爪部があり、縁は不規則な歯状になる。爪部が広く、基部にとさかのようなカルス(crestlike calli)がある。 ずい柱はこん棒形、長さ約4.5mm、ずい柱の翼は 三角形またはほぼ四角形。ずい柱の足(column foot)が明瞭。蒴果は紡錘形、長さ32~35mm。花期は9~11月。2n=22。
7-1 Gastrodia confusa Honda et Tuyama f. viridis Suetsugu ミドリヤツシロラン 緑八代蘭
 花被が帯緑色のもの。

8 Gastrodia confusoides T.C.Hsu, S.W.Chung et C.M.Kuo 
 台湾原産。中国名は擬八代赤箭 ni ba dai chi jian。

9 Gastrodia elata Blume オニノヤガラ 鬼の矢柄
 日本(北海道、本州、四国、九州)、韓国、中国、台湾、ブータン、インド、ネパール、ロシア(極東)原産。中国名は天麻 tian ma。英名はTien Ma。別名はテンマ(天麻)。疎な森林、森林の空き地、森林の縁、雑木林の縁に生える。ナラタケ菌と共生する。
 多年草、高さ30~100cm、まれに高さ200cmまでになる。根茎は普通、楕円形、長さ8~12cm、丈夫、直径3~5(~7)cm、ときに大きくなり、肉質、密に節があり、節に三角形または広卵形の鱗片がある。花序柄は橙色、黄色、灰褐色、または帯緑色、長さ25~80(~150)cm、基部に数個の膜質の鞘がある。花序軸は長さ5~30(~50)cm、ほぼ密から密に花が20~50個つく。花の苞は長楕円形、長さ10~16mm、しばしば子房を超え、膜質、先は尖鋭形。花は直立し、逆向きになり、弱く開き、橙色、淡黄色、青緑色、または黄白色。小花柄と子房は合わせて長さ7~12mm。花被筒はつぼ形、長さ8~10mm×幅5~7mm、側萼片との間に深い切れ込みがあり、基部が膨らみ、外面は平滑。萼片の自由な部分は卵状三角形、長さ3~5mm、先は鈍形。花弁の自由な部分はほぼ長円形で、萼片よりも小さく、先は鋭形。唇弁は不明瞭に3裂し、長楕円形、長さ6~7mm×幅3~4mm、無毛、基部に爪部があり、先の縁は不規則な房状へりになる。爪部は対の凸状の折れ(gibbous foldings)をもつ。ディスク(disk)はパピラがあり、対の肉質の腎形のカルス(reniform calli)をもつ。ずい柱は長さ5~7mm、ずい柱の足は短い。蒴果は倒卵状楕円形、長さ14~18mm×幅8~9mm。花期および果期は5~7月。2n=24, 30, 36。
9-1 Gastrodia elata Blume f. viridis (Makino) Makino ex Tuyama アオテンマ 青天麻
 花だけでなく、全体が緑色の品種。
9-2 Gastrodia elata Blume var. pallens Kitag. シロテンマ 白天麻
  synonym Gastrodia elata Blume f. pallens (Kitag.) Tuyama
 オニノヤガラと同様にナラタケ菌と共生するといわれる。高さ40~80㎝。塊茎は楕円形、長さ約10cm。茎は円柱状で直立し、花序は長さ10~30㎝。花はほとんど純白色。花期は7~8月。

10 Gastrodia flavilabella S.S.Ying 
 台湾原産。中国名は夏天麻 xia tian ma。 2n=26。

11 Gastrodia flexistyla T.C.Hsu et C.M.Kuo   
 台湾原産。中国名は摺柱赤箭 zhe zhu chi jian。

12 Gastrodia flexistyloides Suetsugu ヌカヅキヤツシロラン 額突八代蘭
 日本固有種。鹿児島県竹島で発見された(Phytotaxa 2014)。竹林に生える。
 タケシマヤツシロランによく似ているが、被片の色が本種では淡褐色(淡褐色)であり(タケシマヤツシロランでは黒褐色)、花期がタケシマヤツシロランよりも1~2週間早い。また、ずい柱や唇弁の形態が異なり、ずい柱の中心部分が折れ曲がり、葯帽(花粉塊)と共に柱頭に接着して自動自家受粉するという特徴がある。通常ラン科における自動自家受粉は、花粉塊のみの移動によって起こり、ずい柱ごと柱頭に接着することはなく、このような受粉様式は、これまでには台湾に産する同属の Gastrodia flexistyla でのみ報告され、世界で2例目の発見となる。(参考11)  多年草、地上性、菌従属栄養(mycoheterotrophic)。根はほとんどなく、細く、ときに太く、ほとんどが根茎の頂点から伸びる。根茎は塊茎、紡錘形または円筒形、長さ2~8cm、直径4~12 mm、淡褐色、多数の鱗屑および単細胞の毛で覆われる。花序は直立し、淡褐色、長さ9~18cm×直径3~5 mm、3~4節があり、筒状の膜質の鞘をがある。苞は長さ8mm×幅5mm以下。小花柄と子房は長さ15mm以下。花は1~6個つき、筒状、わずかに上向きまたは下向き、逆さまになり、長さ15~18mm×直径5~6mm。萼片と花弁は統合し、5裂片の花被筒を形成する。花被筒は密閉されているか、または決して開かない。萼片はほぼ似ていて、肉質、長さ15~18㎜m、その長さの約3/4が花弁と合着し、側萼片は互いに約2/3が合着し、外面は淡褐色、疣がある。背萼片の自由な部分は卵状四角形、先は小凹形、約・長さ4.5mm×幅4mm。側萼片の自由な部分は卵形、約・長さ4.5mm×幅4.5mm、先は鈍形。花弁の自由な部分は淡橙色、卵形、約・長さ4mm×幅3mm、基部はくびれ、厚くなり、縁はわずかにザラつく。唇弁はずい柱の足につき、淡緑色、約・長さ8~9㎜×幅4~5mm。下唇(hypochile)は2個の帯緑色の球形のカルス(calli)がつく。上唇(epichile)は菱状卵形、基部がくびれ、花盤の上に4~6個のうねがあり、2個の中央のうねが先に向かって伸び、縁はわずかに波打ち、先部分は舌形、赤色、幅約1.5mm。ずい柱は3裂し、側裂片は直立し、長さ約6mm、中裂片は強く内曲する。ずい柱の足はよく発達する。嘴は無い。葯は半球形、直径約1mm、花粉塊(pollinia)は2個。蒴果は円筒形、長さ3~3.5cm。小花柄は果時に長さ30cmまで伸びる。種子は紡錘形、長さ約2mm。花期は3月中旬~4月初旬。果期は4月初旬~5月初旬。

13 Gastrodia fontinalis T.P.Lin トカラヤツシロラン 
  synonym Gastrodia tokaraensis Yokota et Umata was reported from Japan (Yokota & Umata 2001)
 日本(鹿児島県の竹島・黒島)、台湾原産。中国名は春天麻 chun tian ma。
 竹島で2014年、黒島で2018年に発見された。
13-1 Gastrodia fontinalis T.P.Lin f. albiflora Suetsugu シロバナトカラヤツシロラン 

14 Gastrodia gracilis Blume ナヨテンマ 弱天麻
  synonym Gastrodia dioscoreirhiza Hayata
 日本(本州の千葉県・神奈川県・伊豆諸島・静岡県・広島県、四国、九州)、台湾原産。中国名は细天麻 xi tian ma。常緑広葉樹林やスギやヒノキ植林の林床に生える。
 多年草、高さ10~60cm。根茎は褐色、円筒形または円錐形、長さ3~10cm×直径0.3~2cm、肉質、直軟毛がある。花序柄は淡黄色、長さ50cm以下、基部に数個n鱗片が散在する。花序軸は長さ3~10cm、密に花が3~20個つく。花の苞は卵形または楕円形、長さ2~4mm。花はうなずき、逆さに向き、黄褐色、唇弁は先が橙赤色に染まる。小花柄と子房は長さ8~15mm、小花柄は果時に15cmまでに伸びる。花被筒はつぼ形、長さ8~11mm×幅5~7mm、側萼片との間に深い切れ込みがあり、基部が膨らみ、外面は平滑。萼片の自由な部分は卵形、長さ約2mm、先は円形で普通3裂する。花弁の自由部分は卵形、萼片よりはるかに短い。唇弁は単純、卵状三角形、長さ5~6mm、基部に爪部があり、縁は波打ち、先は鈍形。爪部は楕円形または亜球形のカルスの対をもつ。diskは2個の縦の薄膜(lamellae)をもち、わずかにパピラがある。ずい柱は長さ5~6mm、先に対の半月形の翼をもつ。ずい柱の足は明瞭。葯は円形、長さ約1mm。蒴果は倒卵形または楕円体、長さ20~23mm×幅7~8mm。花期は5~6月。2n=22。

15 Gastrodia javanica (Blume) Lindl. コンジキヤガラ 金色矢柄
  synonym Gastrodia stapfii Hayata
 日本(琉球諸島・西表島)、中国、台湾、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ原産。中国名は南天麻 nan tian ma。林内に生える。
 多年草、高さ20~80cm。根茎は円筒形、ほぼ円柱形、長さ3~15cm×直径約1cm、肉質、密に節がある。花序柄は鈍褐色で、長さ60cm以下、基部に鱗片が散在する。花序軸は長さ5~20cm、緩く、花が4~18個つく。花の苞は三角形、長さ3~4mm。花は広がり、逆さ向きににならず、淡黄色を帯びたベージュ色から黄緑色、唇弁は基部が黄緑色、先が黄色に染まる。小花柄と子房は長さ5~6mm。小花柄は果時に伸びない。花被筒はつぼ形、約・長さ10×幅13mm、側萼片との間の切れ込みはほぼ基部まで伸び、基部が膨らみ、外面は平滑。萼片の自由部分は広卵状円状、長さ2.5~3 mm、先は鈍形。花弁の自由部分は卵形、萼片よりわずかに小さく、先は鈍形。唇弁は花被筒の深い切れ込みにより露出し、単純、菱状卵形、長さ5~7㎜×幅5~6 mm、無毛、基部に爪部があり、縁は内巻き、先は鋭形。爪部は長さ3~4mm、1対のカルスがつく。ディスク(disk)はしわがあり、厚くなる。ずい柱は長さ6~8mm、狭い翼が1対つき、黄白色。ずい柱の足は明瞭、長さ約3mm。葯は卵形。蒴果は円筒形、長さ約20mm。 花期は6~7月。2n=36。
15-1 Gastrodia javanica (Blume) Lindl. f. thalassina Yokota ヒスイヤガラ 
 藍緑色を強く帯びた花をつける。

16 Gastrodia kuroshimensis Suetsugu クロシマヤツシロラン 黒島八代蘭
 日本固有種。黒島山、悪石島、屋久島に分布する。鹿児島県三島村黒島で発見された。(2016年)
 多年草、地上性、高さ8~17cm、菌従属栄養(mycoheterotrophic)。根は少なく、細く、開花期後の根茎と花序の接合部から発芽することが多い。根茎は塊茎、紡錘形または円筒形、長さ3~11cm×直径4~14mm、黄褐色、多数の鱗片および根の毛に似た単細胞の毛で覆われる。花序は直立し、淡褐色、長さ8~17cm×直径2.5~5mm、3~4節があり、筒状の膜質の鞘がある。苞は卵形で、長さ6㎜×幅4mm以下。小花柄と子房は長さ15mm以下。花は1~4個つき、筒状、わずかに上向き、逆さになり、長さ11~13mm×直径約7mm。萼片と花弁は統合し、5裂片の花被筒を形成する。花被筒は閉じているかまたはほとんど開いていない。萼片はほぼ等形、長さ11~13mm、その長さの約2/3が花弁と合着し、側萼片はその長さの約3/5が互いに合着し、外面は暗緑褐色、密に疣があり、内面は淡緑褐色、平滑、縁は全縁。背萼片の自由部分は卵状三角形、小凹形、約・長さ5mm×幅5mm。側萼片の自由部分は広がり、先は鈍形。花弁の自由部分は、卵形または楕円形、長さ4~5mm、幅約2mm。唇弁は花被筒と結合し、長さ約10mm、下唇(hypochile)は赤褐色、2個の白色の退化した平滑なカルスがある。上唇(epichile)は赤褐色、卵状楕円形、基部はくびれ、ディスク(disk)は2~4うねがあり、縦の竜骨が先に向かって伸び、縁はわずかに波打つ。ずい柱は真っすぐ、半円筒形、長さ約7mm×幅2~2.5mm、白色で基部が灰褐色を帯び、側翼(stelidia)は褐色で狭く、縁はずい柱に平行、基部は内曲し、先は鋭形。嘴(rostellum)は退化する。柱頭は中間よりわずかに上に位置する。葯帽(anther cap)はずい柱につながり、半球形、直径約1mm、花粉塊(pollinia)は2個。蒴果は円筒形、長さ約3㎝。小花柄は果時に約30㎝に伸びる。種子は紡錘形、長さ約2mm。花期は4月中旬~5月中旬。果期は5月中旬~5月下旬。

17 Gastrodia nantoensis T.C.Hsu et C.M.Kuo ex T.P.Lin   
 台湾原産。中国名は南投赤箭 nan tou chi jian。

18 Gastrodia nipponica (Honda) Tuyama ハルザキヤツシロラン 春咲八代蘭
  synonym Gastrodia foetida Koidz.
  synonym Didymoplexis nipponica Honda 八代蘭
本州(東海地方以西)、四国、九州、琉球列島、伊豆諸島本州(和歌山県)、台湾に分布。常緑広葉樹林下の生える。
 多年草、高さ3~7㎝、寄生植物、葉状体が欠如し、全体的に褐紫褐色、無毛、塊茎の根茎をもち、塊茎は紡錘形、長さ10~30㎜×幅10~13㎜、2~3個の連続した数珠形。花茎は直立し、長さ3~7㎝(果期には長さ30~40㎝に伸びる)、円柱形、2~3節があり、節に1個の鱗片を備え、鱗片は丸みのある三角形、長さ6㎜、膜質。総状花序は頂生、花が1~2個、まれに3個、各花に1個の苞がつく。苞は広卵形または倒卵形、長さ5~7㎜。花は開出し、鐘形、中心が褐紫色、長さ15(15~17)㎜×幅7~8㎜、子房と小花柄は長さ7~8㎜。背萼片は細長い長円形、長さ12~15㎜×幅7~8㎜、先は円形、下部は花弁と合着する。側萼片は後側に1つずつあり、それぞれが基部から中間まで内側が合着し、上側の自由部分は先が丸みを帯びた鈍形。花弁は側萼片に似ているが、短い(花弁は微細な卵形)。唇弁は卵状楕円形、先は丸みを帯びた鈍形、長さ6~7㎜×幅4㎜、縁は波打ち、中央に3列の薄板がある(唇弁は先が卵形、基部は狭くなり、左右にこぶ状突起(カルス)があり、中間で狭くなり、2本の隆起線が縦方向の先で収束する)。ずい柱は長さ7㎜。蒴果は長円形、長さ2~3㎝×幅5~9㎜、6個のバルブに裂開する。種子小さい。花期は4~5月。2n=24。(参考4)

19 Gastrodia nipponicoides Suetsugu ヤンバルヤツシロラン 山原八代蘭
 日本固有種。沖縄本島、奄美大島に分布。常緑広葉樹林下に生える。
 ハルザキヤツシロラン(G. nipponica)に似るが、花被筒が長さ15~17mmと短く?(ハルザキヤツシロラン長さ15~17mm)、嘴が無く、唇弁の隆起が少ない。
 多年草、高さ3~6㎝、地上生の菌従属栄養植物。塊茎は紡錘形~円柱形、斜上し、長さ2~5㎝×直径3~9mm、黄褐色、表面に単細胞の毛が密にある。花茎は直立し、円柱形、高さ3~6㎝×直径約3mm、花が1~4個つく。花は筒状、やや上向きか下向きにつき、長さ15~17㎜×直径8~9㎜、黒褐色、表面に多数の白色の疣がある。萼片と花弁は統合し、5裂片の花被筒を作る。萼片と花弁はその長さの3/4まで合着し、背咢片と側萼片の自由部分は卵状三角形、約・長さ4㎜×幅4mm、背咢片の先は鈍形、側萼片の先は鋭形。萼片の間につく花弁の自由部分は卵形、長さ2.5~3mm×幅2~2.5㎜。唇弁は長さ約10mm。ずい柱は円柱形、長さ7~8㎜、白色。葯は直径1~1.5㎜。小花柄は果時に20~30㎝に伸びる。蒴果は円柱形、長さ約3㎝。花期は3~4月。

20 Gastrodia okinawensis Suetsugu Gastrodia okinawensis ツツザキヤツシロラン 筒咲八代蘭
 日本固有種。南西諸島(沖縄本島)に分布。別名はオキナワヤツシロラン。 山地のやや湿り気のある常緑樹林下に生える。
 ツツザキヤツシロランはタケシマヤツシロラン(G.takeshimensis)に似ているが、花に裂け目があり中が見え、花被筒が淡色、ずい柱が長さ10㎜と長い(タケシマヤツシロランは7~8㎜)。
 高さ10~17㎝。地上生の菌従属栄養植物。根はわずかで、細く、根茎との接合部や開花期後の花序から発生する。根茎は塊茎、紡錘形~円柱形、長さ20~60㎜×幅3~10㎜、黄褐色、多数の鱗片や根の毛状の単細胞の毛で覆われる。花序は直立し、青白い淡褐色、長さ10~17cm×直径2.5~4.0cm、3~4節あり、筒状で膜質の鞘がある。苞は卵形、約・長さ6×幅4㎜。小花柄と子房は長さ約10㎜。花は1~4個つき、淡褐色、筒状で上向き~下向きになり、長さ18~21㎜×直径6~8㎜。萼片と花弁は統合し、5裂片の花被筒を形成する。萼片はほほ等形、長さ18~21㎜、背萼片はその長さの約4/5の部分が花弁と合着し、側萼片は互いにその長さの約4/5が合着し、青白い淡褐色で外面に多数の白色の疣があり、縁は全縁またはわずかに波打つ。背萼片の自由部分は卵状~三角形、鈍頭、約・長さ5㎜×幅5㎜、側萼片の自由部分は、三角形、鋭頭、約・長さ5㎜×幅5㎜。花弁の自由部分は卵形~楕円形、約・長さ3.0㎜×幅2.5㎜。唇弁は花被筒と結合し、長さ約10mm、下唇(hypochile)は青緑色、付属体やカルスは何も無い。上唇(epichile)は青緑黄色~白赤橙色、長円形、基部で狭くなる。ディスク(disk)は中央の2本のうねが先に向かって伸び、縁はわずかに波打ち、頂部は舌状、赤橙色、幅約1.5㎜。ずい柱は直立し、半円筒形、長さ約10㎜×幅2.0~2.5㎜、白色。側翼(steridia)は明瞭で、縁は花柱と平行、基部でわずかに曲がり、先端は鋭形。嘴は無い。葯は半球形、直径1.0~1.5㎜。花粉塊は2個。蒴果は円柱形、長さ約3cm、小花柄は果時に約20~30cmに伸びる。種子は紡錘形、長さ約2㎜。花期は4月中旬~5月。

21 Gastrodia peichatieniana S.S.Ying   
  synonym Gastrodia autumnalis T.P.Lin
 台湾原産。中国名は北插天天麻 bei cha tian tian ma

22 Gastrodia pubilabiata Y.Sawa クロヤツシロラン 黒八代蘭
  synonym Gastrodia hiemalis T.P.Lin
 日本(本州の関東以西、四国、九州)、台湾原産。中国名は冬天麻 dong tian ma。スギ林や竹林に生える。
。  多年草、高さ2~5cm。 根茎はほぼ円筒形から紡錘形、長さ3~5(~10)cm。花序柄は暗褐色、密に多数の節がある。花序軸は非常に短く、花が1~3個つく。花の苞は広卵形、長さ3~4mm。花は直立し、逆さになり、大きく開き、褐色。小花柄と子房は暗褐色、長さ10~12㎜、パピラがある。小花柄は果時に50cmまでに伸びる。花被筒は鐘形、長さ約15㎜、外面は平滑。萼片の自由部分は広がり、長さ約5㎜、先は鈍形~円形。花弁の自由部分は、卵形~ほぼ円形、萼片よりはるかに小さい。唇弁は単純~不明瞭に3裂し、広卵状菱形、約・長さ5㎜×幅6.5㎜、基部に短い爪部があり、先は鋭く尖る。爪部は約・長さ1.5㎜×幅3.3㎜、柄のある球形のカルスの対をもつ。ディスク(disk)は白色の毛があり、唇弁の先近くに2個の小さな薄板(lamellae)がある。ずい柱は長さ約6㎜、幅の狭い翼があり、ずい柱の足が明瞭、ほぼ球形のカルスの対をもつ。蒴果は長さ20~35㎜。花期は12月

22-1 Gastrodia pubilabiata Y.Sawa f. castanea Fukunaga et S.Sawa ベンガラヤツシロラン 
 花や果実がベンガラ色(赤褐色)になる。

23 Gastrodia shimizuana Tuyama  ナンゴクヤツシロラン 南国八代蘭
 日本(奄美大島、沖縄島、西表島)、台湾原産。中国名は叉脊天麻 cha ji tian ma。常緑樹林に生える。
 特徴は1)花色が黄褐色である。2)唇弁の毛が疎である。3)唇弁の色がオレンジ色~クリーム色である。4)ずい柱の長さが唇弁よりも短い。
 多年草、高さ2~5cm。根茎は円筒形、長さ5~9㎝×直径0.5~0.8㎝、節に三角形の鞘があり、まばらに毛がある。花序柄は暗褐色、長さ約4㎝、基部に数個の短い筒状鞘がある。花序軸は長さ1~1.5㎝、密に花が1~4個つく。花の苞は広長円状卵形、長さ5~7㎜、子房より短く、先は尖鋭形。花はほぼ直立または広がり、逆さになり、黄褐色、直径15~18㎜。小花柄と子房は長さ8~10㎜、短いパピラがある。小花柄は果時に伸びる。花被筒は鐘形、外面に疣がある。萼片の自由部分は広がり、広卵形、長さ4.5~6㎜×幅5~6.3㎜、縁は全縁または縮れ、先は鈍形。花弁の自由部分が広がり、円形~広卵形、長さ3~3.5㎜×幅3~3.5㎜、縁は全縁または縮れ、先は鈍形。唇弁は3裂し、基部は橙褐色、先に向かって淡いクリーム褐色を帯び、三角状卵形、長さ5~6㎜×幅5.5~6.5㎜、基部に爪部がある。側裂片はほぼ円形~三角形、長さ3.2~3.5㎜×幅4.8~5㎜、先は鋭形~鈍形。中裂片は長円形、長さ2~2.1㎜×幅約1㎜、先は鈍形~切形。爪部は四角形または広倒卵形、長さ2.5~2.8㎜、対の球形のパピラのあるカルスがつく。ディスク(disk)は側裂片にパピラがあり、中裂片の下に2つの浅い薄片に分岐する中央の肉質の竜骨がある。ずい柱は長さ4~5㎜、ずい柱の翼は切形、内曲する。葯は卵形、長さ1.3~1.5㎜。ずい柱の足は明瞭、唇弁の基部の付け根に丸い1対のカルスがある。蒴果は円筒形。花期は2~3月。

24 Gastrodia sui C.S.Leou, T.C.Hsu et C.L.Yeh   
 台湾原産。屏东天麻 píng dong tian ma。

25 Gastrodia takeshimensis Suetsugu タケシマヤツシロラン 竹島八代蘭
 鹿児島県鹿児島郡三島村竹島で発見された種。竹林に生える。
 (1) 花筒が開かない (2) 唇弁の基部が花筒に合着し、さらに通常、唇弁の基部に見られる瘤状の付属器官を持たない (3) 花筒が細長い (4) 開花時期の背が高い、などの特徴から容易にハルザキヤツシロランとの違いを識別できる。
 多年草、地上性、高さ8~17㎝、菌従属栄養(mycoheterotrophic)。根は少なく、細く、たまに太く、ほとんどが根茎の先から伸びる。根茎は塊茎、紡錘状または円筒形、長さ2~9㎝、直径3~14mm、淡褐色、多数の鱗片および単細胞の毛で覆われる。花序は直立し、淡褐色、長さ7~16㎝×直径2~3.5mm、3~4節があり、筒状膜質の鞘がある。苞は長さ3.5mm×幅3㎜以下。小花柄と子房は長さ15mm以下。花は1~4個つき、筒状、わずかに上向きまたは下向き、逆さまになり、長さ16~20㎜×直径6~7㎜。萼片と花弁は統合して、5裂片の花被筒を形成する。萼片はほぼ等形、肉質、長さ16~20㎜、その長さの3/4が花弁と合着し、側萼片は互いに約2/3が合着し、外面は暗褐色、いぼがあり、縁は全縁。背萼片の自由な部分は、真っすぐ、卵状三角形、小凹形、約・長さ5㎜×幅5mm。側萼片の自由な部分は三角形、小凹形、先は鋭形。花弁の自由な部分は卵形または楕円形、長さ3.5㎜×幅2mm以下。唇弁は花被筒と結合し、長さ約10mm、下唇(hypochile)は淡緑色、付属体やカルスは何も無い。上唇(epichile)は赤橙色、卵状楕円形、基部が狭まり、ディスク(disk)は2~4うねがあり、中央の2本のうねが先に向かって伸び、縁がわずかに波打ち、先部は舌状、赤色、幅約1.5mm。ずい柱は真っすぐ、半円筒形、長さ7~8mm×幅約2㎜、白色。側部の翼(stelidia)は明瞭、狭く、縁はずい柱に平行、基部はわずかに角(かど)があり、先は鋭形。嘴は小さく、ずい柱の中間にある。柱頭は基部に位置する。葯は半球形、直径1~1.5mm。花粉塊は2個。蒴果は円筒形、長さ3~3.5cm。小花柄は果時に約30㎝までに伸びる。種子は紡錘形、長さ約2mm。花期は4月中旬~5月中旬。果期は5月中旬~5月下旬。

26 Gastrodia theana Aver. 
 台湾、タイ、ベトナム原産。中国名は短柱赤箭 duan zhu chi jian。

27 Gastrodia uraiensis T.C.Hsu et C.M.Kuo タブガワヤツシロラン 椨川八代蘭
 日本(屋久島)、中国、台湾原産。中国名は乌来天麻 wu lai tian ma。常緑広葉樹林に生える。
 多年草、地上性、高さ2~6㎝、菌従属栄養(mycoheterotrophic)。根茎は塊茎、紡錘形または円筒形、長さ3~9㎝×直径5~9㎜、黄褐色、多数の鱗片で覆われる。葉は無い。花序は直立し、淡褐色、長さ2~6㎝×直径2~3㎜。苞は長さ約4㎜。小花柄と子房は長さ6~10mm。花は1~5個つき、鐘形、わずかにうなずき、またはわずかに上向きに傾き、逆さになり、長さ約13㎜×直径約8㎜。萼片と花弁は統合し、5裂片の花被筒を形成する。萼片はほぼ等形、肉質、長さ11~13㎜、花弁の長さの約2/3が合着し、側萼片は互いにその長さ約3/5が合着し、外面は暗褐色、わずかに疣があり、縁は全縁。背萼片の自由な部分は真っすぐで、卵状三角形、小凹形、約・長さ5㎜×幅5㎜。側咢片の自由部分は広がり、先は鈍形。花弁の自由部分は卵形または楕円形、長さ約3㎜×幅1.5~2㎜。唇弁はずい柱の足につき、長さ6~7㎜×幅2~2.5㎜。下唇(hypochile)は2個の橙色の球形のカルスがつく。上唇(epichile)は基部が橙色、中間が緑白色、先が暗赤色、卵状三角形、基部が狭まり、部分ごとに4本の隆起したうねがあり、2本のうねが舌状の先まで伸びる。ずい柱は真っすぐで、円柱形、長さ6~7㎜×幅2㎜、白色で基部は赤褐色を帯びる。ずい柱の足はよく発達する。側翼は狭く、赤色、縁はずい柱に平行で、先は鋭形。嘴は長さ約0.7㎜。柱頭は基部に位置する。葯は半球形、直径約1㎜。花粉塊は2個。

28 ハイブリッド
(1) Gastrodia x nippouraiensis Suetsugu et T.C.Hsu  ヒメハルザキヤツシロラン 
 ハルザキヤツシロラン×タブガワヤツシロラン

参考

1) Flora of China
 Gastrodia
http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=2&taxon_id=113305
2) Plants of the World Online| Kewscience
 Gastrodia
https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:29530-1
3) World Flora Online
 Gastrodia
http://www.worldfloraonline.org/taxon/wfo-4000015373;jsessionid=33D19AD7486879E5122E5663CEE79599
4) Bot. Mag. (Tokyo) 53巻: 625号 (1939)
 Gastrodia boninensis TUYAM
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jplantres1887/53/625/53_625_1/_pdf/-char/ja
 Bot. Ma.g. Tokyo 46巻:544号 p168 (1932)
 Gastrodia nipponica (HONDA) TUYAM Didymoplexis nipponica HONDA 5) World Checklist of Vascular Plants
 Gastrodia
https://wcvp.science.kew.org/
6) Acta Phytotax.Geebot.64 (3):155-158(2013)
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 (Orchidaceae) from Okinawa Island,Ryukyu Islands,Japan
https://www.jstage.jst.go.jp/article/apg/64/3/64_KJ00008918925/_pdf/-char/ja
7) Ann.Bot. Fennici 50: 375-378 2013
 Gastrodia takeshimensis (Orchidaceae) a new mycoheterotorophic species from Japan
 鹿児島県三島村で発見されたタケシマヤツシロラン
https://www.kyoto-u.ac.jp/static/ja/news_data/h/h1/news6/2013_1/131107_1.htm
http://www.sekj.org/PDF/anb50-free/anb50-375.pdf
8) Taiwania, 59(4): 383‒ 386, (2014)
 First record of the mycoheterotrophic orchid Gastrodia fontinalis
 (Orchidaceae) from Takeshima Island, the Ryukyu Islands, Japan
https://www.researchgate.net/publication/286811662_First_record_of_the_mycoheterotrophic_orchid_Gastrodia_fontinalis_Orchidaceae_from_Takeshima_Island_the_Ryukyu_Islands_Japan
9) Acta Phytotax. Geobot. 66 (3): 193–196 (2015)
 First Record of the Mycoheterotrophic Orchid Gastrodia uraiensis
 (Orchidaceae) from Yakushima Island, Japan
https://www.jstage.jst.go.jp/article/apg/66/3/66_KJ00010115704/_pdf/-char/ja
10) Phytotaxa 278 (3): 265–272 (2016) 
 Gastrodia kuroshimensis (Orchidaceae: Epidendroideae: Gastrodieae),
 a new mycoheterotrophic and complete cleistogamous plant from Japan
 咲かない花をつける新種のラン科植物 「クロシマヤツシロラン」を発見
https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2016_10_13_01.html
11) Acta Phytotax. Geobot. 69 (3): 203–208 (2018)
 A New Record of Gastrodia albida T. C. Hsu & C. M. Kuo
 (Orchidaceae) from Yaku Island, Japan
 鹿児島県三島村竹島で発見されたヌカヅキヤツシロラン
https://www.jstage.jst.go.jp/article/apg/69/3/69_201804/_pdf
https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/embed/jaresearchresearch_results2015documents150505_201.pdf
12) J. Jpn. Bot. 91(6): 358–361 (2016)
 Kenji Suetsugu: New Locality of the Mycoheterotrophic Orchid Gastrodia fontinalis
 from Kuroshima Island, Kagoshima Prefecture, Japan
http://www.jjbotany.com/pdf/JJB_091_358_361.pdf
13) Phytotaxa 413 (3): 225–230 (2019) 
 Gastrodia amamiana (Orchidaceae; Epidendroideae; Gastrodieae),
 a new completely cleistogamous species from Japan
咲かないラン「アマミヤツシロラン」を発見
https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2019_08_02_01.html
14) 植物地理・分類研究 68(1): 43-45 (2020)
 ナンゴクヤツシロラン(ラン科)を奄美大島に記録する
https://www.jstage.jst.go.jp/article/chiribunrui/68/1/68_0681-05/_pdf
15) Flora of China Volume 25.doc
 Glossary of botanical terms used in the Orchidaceae
http://flora.huh.harvard.edu/FloraData/002/Vol25/FOC_25_Glossary.pdf