コチャルメルソウ 小哨吶草

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Flora of Mikawa

ユキノシタ科 Saxifragaceae チャルメルソウ属

学 名 Mitella pauciflora Rosend.
コチャルメルソウの花序
コチャルメルソウの花
コチャルメルソウの花2
コチャルメルソウ
コチャルメルソウ葉
花 期 4~6月
高 さ 10~30㎝
生活型 多年草
生育場所 陰湿地
分 布 在来種(日本固有種) 本州、四国、九州
撮 影 茶臼山  05.5.29
日本産チャルメルソウ属では最も広域に分布する種で、雌しべが直立し、花柱は分岐せず柱頭が点状となること。雄しべと花弁が離生すること。顕著な匍匐茎を出すことなど、特徴的な形質を持つ。口吻の短いキノコバエ類によってのみ、特異的に送粉される。
 多年草、高さ10~30㎝。根茎は地中を横に這う。花後に地中に匍匐茎を出す。葉は互生、根生し、葉柄は長さ2~15㎝、腺毛が散生する。葉身は長さ2~5㎝、幅2.5~6㎝の広卵形~卵状円形、5浅裂し、縁に不規則な鋸歯があり、基部は心形、先は鋭形~鈍形、葉の両面に開出毛と腺毛がある。両性株のみが存在する。花茎は長さ10~30㎝、頂生の総状花序にまばらに小さな花を2~10個程度つける。花は萼筒の先が皿状、萼片は三角形、花時には開出する。花弁は普通5個、紅紫色~淡黄緑色、長さ約4㎜、7~9裂し、裂片が披針形、3~4対あり、櫛状に見える。雄しべ5個、雄しべと花弁は離生する。雌しべが直立し、花柱2個。柱頭は分岐せず小さい点状で、葯は上部で裂開する。蒴果は熟すと2裂し、椀状になり、種子が見える。種子は長さ約1.2㎜の卵状楕円形、暗緑色、黒紫色の細点があり、微細な縦の隆起線がある。2n=28, 42(3倍体、東北地方)。花期は4~6月。
 本種と同所的に見られる種は、ミカワチャルメルソウ、チャルメルソウ、タキミチャルメルソウ、シコクチャルメルソウ、モミジチャルメルソウ、オオチャルメルソウ、ヤマトチャルメルソウの7種であり、送粉者、花構造、花期などの生殖隔離機構が研究されている。
 類似のミカワチャルメルソウはやや大形で、花弁が7~11裂する。

チャルメルソウ属

  family Saxifragaceae - genus Mitella

 多年草。 根茎が這い、短い。葉は主に根生葉、葉柄は長く、茎少数または無い。托葉は薄膜質。葉身は単葉、心形または卵状心形~腎形状心形、縁は浅裂または欠刻状。 花序は頂生、総状花序、苞がある。花は小さい。萼片は5個。花弁はときに無く、縁は普通、羽状に細く裂け(魚の骨状または櫛状)、まれに全縁。雄しべ5個または10個。心皮は2個、合着する。子房は上位~開に見え、1室。胎座は2個、側膜胎座。花柱は2個。果実は蒴果、花柱の間で裂開する。種子は多数、卵形または狭楕円形、普通、いぼ状突起がある。
 世界に約20種あり、東アジアと北アジア、北アメリカに分布し、ほぼ周北植物の1種(Mitella nuda)がある。日本には12(未記載種を含め14)種がある。

日本産種


(1) アマミチャルメルソウ Mitella amamiana Y.Okuyama
(2) オオチャルメルソウ Mitella japonica Maxim.
(3) エゾノチャルメルソウ Mitella integripetala H.Boissieu
(4) クマチャルメルソウ Mitella sp.(トサノチャルメルソウ類似)
(5) コシノチャルメルソウ Mitella koshiensis Ohwi
(6) コチャルメルソウ Mitella pauciflora Rosend.
(7) ツクシチャルメルソウ Mitella kiusiana Makino
(8) タキミチャルメルソウ Mitella stylosa H.Boissieu
(8-1) シコクチャルメルソウ Mitella stylosa H.Boissieu var. makinoi (H.Hara) Wakab.
(9) トサノチャルメルソウ Mitella yoshinagae H.Hara
(10) ヒメチャルメルソウ Mitella doiana Ohwi
(11) マルバチャルメルソウ Mitella nuda L.
(12) ミカワチャルメルソウ Mitella furusei Ohwi
(12-1) チャルメルソウ Mitella furusei Ohwi var. subramosa Wakab.
(13) モミジチャルメルソウ Mitella acerina Makino
(14) ヤマトチャルメルソウ Mitella sp.(オオチャルメルソウ類似)
【日本産種の下位分類】
1マルバチャルメルソウ節 Sect. Nudae
 日本産は染色体数が2n=14の2倍体、北米産は2n=28。雄しべが10個。
 マルバチャルメルソウ Mitella nuda L.
2 エゾノチャルメルソウ節 Sect. Spuriomitella
 染色体数は2n=14の2倍体、花茎に大きな葉がつき、花弁は分裂せず、葯は萼片と対生する。
 エゾノチャルメルソウ Mitella integripetala H. Boissieu
3チャルメルソウ節 sect. Asimitellaria Wakab.
 染色体数が2n=28の異質4倍体(複2倍体)である。雄しべは5個で花弁と雄しべが対生する。種子は黒熟せず、表面に凹凸がある。また全種自家和合性、一部の種では集団内に半数以下くらいの割合で必ず雄性不稔の株が存在する雌性両全性異株である。さらにモミジチャルメルソウでは特殊化が進み雌雄異株である。チャルメルソウ節はさらに3つのクレードに分けられる。なお,各クレード内での種間雑種にはわずかに稔性がある場合が多いが、クレード間での種間雑種は不稔となる。
クレード A
 コチャルメルソウ,ミカワチャルメルソウ(変種チャルメルソウ),コシノチャルメルソウ,モミジチャルメルソウ
クレード B
 種子表面に乳頭状あるいはかぎ状の突起が散生する。
 タキミチャルメルソウ(変種シコクチャルメルソウ),ツクシチャルメルソウ,ヒメチャルメルソウ,アマミチャルメルソウ
クレード C
 縦に長い葉で特徴付けられる。
 オオチャルメルソウ,ヤマトチャルメルソウ,トサノチャルメルソウ,クマチャルメルソウ

チャルメルソウ属の主な種と園芸品種

1 Mitella acerina Makino モミジチャルメルソウ 紅葉哨吶草
 日本固有種。本州の福井県、滋賀県、京都府に分布する。山地の渓流沿いの崖地の岩上に生える。水際に特殊化した種であり、しばしば増水した沢に水没することもある。雌雄異株。
 多年草、高さ20~40㎝。チャルメルソウ属で唯一の雌雄異株種。根茎は地中にあり、長く斜上して、細長い走出枝を出し、走出枝は地上または地表近くに鱗片葉または普通葉をつける。根出葉はやや束生し、葉柄は長さ15~30cm、無毛。葉身は広卵形~卵状円形、長さ4~10cm×幅4~9cm、基部は深い心形、縁は5~7裂し、先は鋭形または尖鋭形、上面は鮮緑色、粗毛がまばらにあり、下面は無毛。花茎は直立し、短腺毛が密生する。雌雄異株。総状花序は頂生し、多数の花がやや密につき、花数が著しく多い。花柄は長さ1~3㎜、短腺毛がある。萼筒は浅い倒円錐形、短腺毛が密生する。萼片は5個、三角状卵形、長さ約1mm、花時に斜開する。花弁は5個、平開し、普通、赤紫色を帯びた黄緑色、長さ3~4mm、3裂まれに5裂し、裂片は針状線形。雄しべは5本、花弁に対生し、花糸は葯より明らかに短い。雄花は葯が淡黄色、開花後すぐに裂開する。雌花は葯は未発達。子房は下位、花盤がよく発達し、平らになる。花柱はごく短い。柱頭は2裂し、やや肥厚する。果実は蒴果。種子は狭卵形、長さ約1㎜、種皮は緑色~淡赤褐色でやや柔らかく、種子は水に浮き、決して水に沈まない。種子にパピラは無く、平滑。花期は4~5月。ミカドシギキノコバエと口吻の短いキノコバエ類の両方から訪花を受けるため、しばしばチャルメルソウと雑種を作り、また両種間での遺伝子浸透も確認されている。

2 Mitella amamiana Y.Okuyama アマミチャルメルソウ 奄美哨吶草
 日本固有種。奄美大島に自生する。屋久島にのみ自生するヒメチャルメルソウの姉妹種であり、よく似ているものの、ヒメチャルメルソウでは完全に退化してしまっている花弁が不完全ながら残っていることや、植物体がより大きい等の特徴で区別出来る。2011年に奄美大島で発見され、筑波実験植物園の遺伝子研究で、別種であることが解明され、2016年に新種として発表された。両性株のみが存在する。

3 Mitella doiana Ohwi ヒメチャルメルソウ 姫哨吶草
 日本固有種。屋久島にのみ自生する。
 極度に矮小化し、両性株のみが存在する。送粉様式は調べられていないが、花が極めて小さく、花弁も退化しており、また開花状態で柱頭と葯が接する構造になっていることから、専ら自動自家受粉を行っているものと考えられている。

4 Mitella formosana (Hayata) Masam. タイワンチャルメルソウ 台湾哨吶草
 台湾原産。中国名は台湾唢呐草 tai wan suo na cao。標高2900~3000mの峡谷に沿った湿潤な森林内に生える。チャルメルソウ節クレードCで唯一日本に分布しない種である。
 多年草、高さ14.5~24cm。 根茎は細長く、細い。 すべての基礎を残します。 葉柄は長さ7~13cm、密に褐色の腺のある縮れた絨毛がある。葉身は卵状心形、長さ3.5~7cm×幅3.3~5cm、両面に腺のある剛毛があり、基部は心形、縁は不規則な歯があり、不明瞭に5~7裂し、先は鋭形。両性株のみが存在する。総状花序は細く、長さ3~10㎝、腺のある絨毛があり、花が多数つく、小花柄は長さ2~4㎜、腺毛がある。萼片は広卵形、 約・長さ1.2×幅1.3mm、外側には腺毛があり、1脈があり、先は鋭形。花弁は長さ約3.6㎜、縁は深く羽状に5~7裂け、裂片は線形で、腺点がある。雄しべは5個、長さ約0.9㎜。心皮は2個、合着する。子房は約1/2半下位、広卵形。花柱は長さ約0.5mm。 柱頭は2裂。果実は蒴果。種子は多数、楕円状紡錘形、長さ約1mm。花期は4~8月。2n=14。口吻の短いキノコバエ類に送粉を依存している。

5 Mitella furusei Ohwi ミカワチャルメルソウ 三河哨吶草 広義
5-1 Mitella furusei Ohwi var. furusei ミカワチャルメルソウ 三河哨吶草
  synonym Mitella koshiensis Ohwi var. furusei (Ohwi) Ohwi
 日本固有種。本州(岐阜県、長野県、愛知県、静岡県)に分布する。陰湿地に生える。自家和合性で、雄性不稔の株が一定割合必ず存在する雌性両全性異株。ミカドシギキノコバエただ1種に特異的に送粉されるという非常に特殊な生態を持ち、花はチーズまたはゴムのような独特な匂いがあり、匂いの主成分はライラックアルデヒドである。ミカドシギキノコバエの長い口吻に適応して蜜源を花の奥に隠すために、萼片が直立している。
 多年草、高さ30~50㎝。地中の根茎は短い。葉柄は長さ2~8㎝、長毛と腺毛ある。葉はチャルメルソウと同じ広卵形~卵形、長さ2.5~8㎝×幅3~5㎝、基部は心形、縁は不規則な鋸歯があり、先は鈍形、両面に粗い長毛と腺毛があり、下面は常に紅紫色を帯びる。花茎は直立し、下部には白色の長毛が密に開出し、上部には短い腺毛がある。雌性両全性異株。頂生する総状花序に小さな花をまばらに6~15個程度つける。小花柄は長さ1~4mm、短い腺毛がある。萼筒は浅い倒円錐形、萼片は5個、卵状三角形、長さ約1.5㎜、先は鋭形、花時にやや内側に曲がり直立する。萼片の外側と萼筒には赤紫色の短い腺毛がある。花弁は5個、羽状に7~9(11)裂して櫛状に見え(チャルメルソウとは花弁の分裂がより多いことで区別される)、(緑色~)紅紫色、花時に強く後曲する。雄しべは5個、花弁に対生する。花糸は葯より短い。葯は淡黄色。子房は下位。花盤がある。花柱は2個、帯紅紫色。柱頭は2~4浅裂する。蒴果は広鐘形、花柱間の縫合線から裂開する。種子は長楕円形、長さ約1.3mm、種皮は熟しても黒色にならず、暗紅色、縦のごく細い隆条があり、乳頭状突起は無い。2n=28の異質4倍体(複2倍体)。花期は4~5月。
5-2 Mitella furusei Ohwi var. subramosa Wakab. チャルメルソウ 哨吶草
  synonym Mitella stylosa auct. non H.Boissieu
 本州(福井県、滋賀県、三重県以西)、九州(北部)に分布する。山地谷沿いの陰湿地に生える。
 花弁の裂片が少なく3~5裂する以外はほぼ同じ。産地により遺伝的に異なり、花柱の長さ等形態的な違いが見られ、近畿地方北部の集団、紀伊半島および四国の集団、中国地方と九州北部に分布する集団の3集団に分けられ、その連続性については検討が必要であるとされている。

6 Mitella integripetala H.Boissieu エゾノチャルメルソウ 蝦夷の哨吶草
 日本固有種。北海道と本州北部に分布し, 本州では福島県、宮城, 山形両県以北に分布する。山地の湿った林内に生える。唯一エゾノチャルメルソウ節。
 特徴は日本産種では唯一花茎に大きな葉がつき、また、花弁が分裂せず、葯と対生するのは花弁ではなく萼片である。エゾノチャルメルソウはコチャルメルソウと分布域が重なることがあり、エゾノチャルメルソウはコチャルメルソウに比べて葉がより五角形になり先が尖り、また、葉柄や葉の表面の毛が細く短いことで見分けることができるが、花や種子がないと難しい。花には刺激臭があり、キノコバエ類の訪花は日中だけでなく、月明かりのない深夜にもある。
 多年草、高さ20~40cm。地中の根茎は細く横に這い、細い走出枝を出して増殖する。葉は互生し、葉柄は長さ10~15cm、細い短毛がある。葉身は長さ3-7cm×幅3-7cm、3角~5角状卵形、基部は心形、先は鈍形~鋭形、縁は普通、浅く5裂し、まばらに鋸歯があり、上面にまばらに細い短毛がある。花茎は直立し、短腺毛が密生し、1~2個、まれに3個の茎葉が互生する。両性株のみが存在し、自家和合性である。総状花序は頂生し、花がまばらに8~16個つく。小花柄は長さ2~3㎜、短い腺毛が密にある。萼筒は杯形。萼片は5個、長さ約2mmの3角状披針形、淡褐色を帯び両面に微小な腺毛があり、花時に反曲する。花弁は紅紫色、5個つき、分裂せず針状線形、長さ4~5mm、幅約0.7㎜、微小な腺点があり、花時に先が外側に反り返る。雄しべは5個、萼片と対生して花盤の縁につく。花糸は長さ約0.6mm。葯は鮮黄色。子房は中位で萼筒と離れ、暗紅紫色を帯び、微小な腺毛が密生する。蒴果は花柱間の縫合線に沿って裂開する。種子は長卵形、長さ約0.7mm、熟すと黒色。花期は6~7月。2n=14(2倍体)。

7 Mitella japonica Maxim. オオチャルメルソウ 大哨吶草
 日本固有種。本州(近畿中部以南)、四国、九州に分布。九州で最も普通に見られる種であり、四国での分布は局所的である。山地の渓流沿いの林下に生える。なお、近畿地方に分布するものは別種である。ミカドシギキノコバエと口吻の短いキノコバエ類の両方から訪花を受け、花には青臭い特徴的な匂いがあるが、成分を分析するとチャルメルソウなどとあまり変わらず、主はライラックアルデヒドであり、この匂の正体は不明。  多年草、高さ20~40㎝。根茎は直立または斜上し、根出葉を束生する。托葉には長い縁毛がある。葉柄は長さ3~15㎝。葉身は狭卵形~狭三角状卵形、長さ1~10㎝×幅1~8㎝、基部は心形、縁は普通浅く鋭い欠刻条に5裂し、縁には不揃いの鋸歯があり、先は鋭形、上面には長毛があり、下面には腺毛がある。雌性両全性異株。花茎は直立し、総状花序が頂生し、多数花がつく。花弁は5個、花弁は赤褐色(または淡黄緑色)、羽状に5~9[九州産:3~5(7)]裂し、腺点がある。萼片は5個、花時に平開する。花期は4~5月。
7-1 ヤマトチャルメルソウ 大和哨吶草 Mitella sp.
 従来近畿地方に分布するオオチャルメルソウとされてきたは、分子系統解析と交配実験の結果、四国、九州のオオチャルメルソウとは全く異なる種であり、ヤマトチャルメルソウと名づけられた。雌性両全性異株。なお、開花期であれば形態でも花序あたりの花数、花弁の分裂数(5~9裂)、雌しべの形状などでオオチャルメルソウとは比較的容易に区別できるとされている。またオオチャルメルソウと異なり、ミカドシギキノコバエの訪花を受けない点で生態的にも異なっている。また花には鼻で感じられるにおいがほとんど無く、ライラックアルデヒドも放出しない。(参考7)

8 Mitella kiusiana Makino ツクシチャルメルソウ 筑紫哨吶草
 日本固有種。九州に分布し、九州の中部を中心に比較的広く見られるが、阿蘇溶結凝灰岩が分布する地域では分布が欠落している。深山の沢沿い、湿った岩上に生える。ミカドシギキノコバエと口吻の短いキノコバエ類の両方から訪花を受け、花にはリナロールを主成分とするさわやかな香りがある。
 多年草、高さ20~30㎝。根茎は横に這う。葉は互生し、葉柄は長さ10㎝以上あり、開出した長毛と短い腺毛がある。葉柄の基部に托葉があり、托葉は切れこみも縁毛もなく、腺毛もない。葉身は長楕円状卵形~卵形、長さ3~9㎝×幅2~7㎝、縁は浅く~やや深く3~5裂し、欠刻状の鋭い鋸歯があり、緑色で紫色を帯びず、両面に白色の長毛と微細な腺毛がある。両性株のみが存在する。頂生の総状花序に花が10個程度つく。花弁は淡黄緑色、羽状に5~7裂し、裂片は線形。萼片は平開し、先端だけが反曲する。裂開前の葯は淡黄色。種皮には鈎状の突起が密生する。花期は4~5月。オオチャルメルソウやクマチャルメルソウとしばしば不稔の雑種を作る。

9 Mitella koshiensis Ohwi コシノチャルメルソウ 越の哨吶草
 日本固有種。新潟県のほぼ全域と富山県の一部にだけ分布する。山地の谷川沿いや林内の陰湿地に生える。
 コシノチャルメルソウは葉の色や形はコチャルメルソウに似るが、匍匐茎を出さず、根茎が斜上あるいは直立することで、コチャルメルソウと区別できる。また、形態的にはコチャルメルソウとチャルメルソウあるいはミカワチャルメルソウの中間のようであり、雑種起源の種とも考えられている。花の匂いも中間的でライラックアルデヒドをわずかに含み、ミカドシギキノコバエと口吻の短いキノコバエ類の両方から訪花を受ける(参考7)。
 多年草、高さ20~50㎝。匍匐茎を出さず、地中の根茎は斜上または直立する。托葉は乾膜質でほとんど無毛。葉柄は長さ3~10cm、曲がった長毛が密生するが、短い腺毛はほとんど無い。葉身は長さ3~6㎝×幅3-5㎝になる広卵形で、基部は心形、縁は浅く5裂して不揃いの鋸歯があり、先は尖鋭形、両面に白色の長毛がある。花茎は直立し、下部には曲がった長毛が、上部と小花柄には白色の短い腺毛が密みつく。頂生の総状花序にまばらに花が20~35個つく。萼筒はごく短い倒円錐形。萼片は5個、広三角形、花時に平開するか外曲する。花弁は紅紫色で5個、羽状に細く5~9裂し、裂片に腺点がある。雄しべは5個あり、萼片と互生して花盤の縁につく、花糸は葯より短く、裂開直前の葯は濃黄色。子房は下位、萼筒と合着する。花柱は短く、2個。柱頭は2裂。果実は蒴果。種子は楕円形で長さ約1mm、褐色。花期は4~5月。

10 Mitella nuda L. マルバチャルメルソウ 丸葉哨吶草
 日本(北海道、長野県)、韓国、中国、モンゴル、ロシア、北アメリカ原産。中国名は唢呐草 suo na cao。英名はNaked Miterwort。別名はチョウセンチャルメルソウ 。湿った林内、沼地に生える。広域分布種であり、日本産では唯一マルバチャルメルソウ節に属する種で、雄しべが10本。
 多年草、高さ9~24㎝。 根茎は細長く、細い。茎は腺毛がある。根生葉は1~4個つく。葉柄は長さ1~8.3cm、堅い腺毛がある。葉身は円形~心形~腎形状心形、長さ0.8~3.7㎝×幅0.8~3.9㎝、両面に堅い腺毛があり、基部は心形、縁に歯があり、不明瞭に5~7裂する。茎葉は普通、1個または無く、短い葉柄がある。茎葉の葉身は約・長さ1.6㎝×幅1.4cm、硬い腺毛がある。花序は総状花序、長さ2~11㎝、数個の花がつく。小花柄は長さ1~5㎜、短い腺毛がある。萼片はほぼ卵形、長さ1.6~2mm、1脈があり、先はほぼ尖鋭形。 花弁は黄緑色、長さ約4㎜、縁は深く羽状に約9裂し、裂片は線形。 雄しべは10個、萼片より短い。心皮は 2個、合着する。子房は半下位、広卵形。柱頭は2裂。果実は蒴果、心皮は上部が分離、腺毛がある。種子は少なく、黒色、光沢があり、狭楕円形、長さ約1mm。 花期は6~9月。2n=14(アジア産), 28(アメリカ産)。

11 Mitella pauciflora Rosend. コチャルメルソウ 小哨吶草
 日本固有種。本州、四国、九州に分布する。陰湿地に生える。日本産チャルメルソウ属では最も広域に分布する種で、雌しべが直立し、花柱は分岐せず柱頭が点状となること。雄しべと花弁が離生すること。顕著な匍匐茎を出すことなど、特徴的な形質を持つ。口吻の短いキノコバエ類によってのみ、特異的に送粉される。
 多年草、高さ10~30㎝。根茎は地中を横に這う。花後に地中に匍匐茎を出す。葉は互生、根生し、葉柄は長さ2~15㎝、腺毛が散生する。葉身は長さ2~5㎝、幅2.5~6㎝の広卵形~卵状円形、5浅裂し、縁に不規則な鋸歯があり、基部は心形、先は鋭形~鈍形、葉の両面に開出毛と腺毛がある。両性株のみが存在する。花茎は長さ10~30㎝、頂生の総状花序にまばらに小さな花を2~10個程度つける。花は萼筒の先が皿状、萼片は三角形、花時には開出する。花弁は普通5個、紅紫色~淡黄緑色、長さ約4㎜、7~9裂し、裂片が披針形、3~4対あり、櫛状に見える。雄しべ5個、雄しべと花弁は離生する。雌しべが直立し、花柱2個。柱頭は分岐せず小さい点状で、葯は上部で裂開する。蒴果は熟すと2裂し、椀状になり、種子が見える。種子は長さ約1.2㎜の卵状楕円形、暗緑色、黒紫色の細点があり、微細な縦の隆起線がある。2n=28, 42(3倍体、東北地方)。花期は4~6月。
 本種と同所的に見られる種は、ミカワチャルメルソウ、チャルメルソウ、タキミチャルメルソウ、シコクチャルメルソウ、モミジチャルメルソウ、オオチャルメルソウ、ヤマトチャルメルソウの7種であり、送粉者、花構造、花期などの生殖隔離機構が研究されている。

12 Mitella stylosa H.Boissieu
12-1 Mitella stylosa H.Boissieu var. stylosa タキミチャルメルソウ 滝見哨吶草
  synonym Mitella leiopetala Ohwi et Okuyama
 日本固有種。本州(岐阜県、滋賀県、三重県)の鈴鹿山地に分布する。別名はハリベンチャルメルソウ。山地の渓流沿いや滝の近くなどの陰湿地に生える。チャルメルソウの仲間の中でも最も多量に花の香りを出す種であり、ミカドシギキノコバエが特異的に送粉を行う。地理的に接して分布するミカワチャルメルソウやチャルメルソウと酷似していて、花や果実が無い時期にはタキミチャルメルソウの識別は困難である。
 多年草、高さ20~30㎝。地中の根茎はやや太い。葉柄は長さ7~15㎝、長い粗毛がある。葉身は卵形、長さ4~9㎝×幅3~7㎝、基部は心形、縁は浅く掌状分裂し、裂片には不揃いの鋸歯があり、上面は暗緑色、まばらに粗毛があり、下面は淡緑色、しばしば紅紫色を帯び、まばらに粗毛がある。両性株のみが存在する。花茎は高さ20~30㎝、腺毛が密にある。頂生の総状花序に多数の花をつける。萼筒は鐘状から倒円錐形、褐色、腺毛が密にある。萼片は5個、褐紅色、花時に直立して先端だけがやや斜開し、萼片の内側には毛が無い。花弁は5個、花時に反曲し、紅褐色、普通、分裂せず、線形、ときに細く3裂し、まれに花弁が無いこともある。花弁に腺点があり、まれに無い。雄しべは5個、花弁に対生する。子房は下位、花盤がある。花柱は2個、やや長く、長さ約1.4㎜。柱頭やや太く4裂する。果実は蒴果、ラッパ状に上向きになり、花柱間の縫合線で開口する。種子は長楕円形、種皮にパピラ(乳頭状突起)が散生する。花期は4月。
12-2 Mitella stylosa H.Boissieu var. makinoi (H.Hara) Wakab. シコクチャルメルソウ 四国哨吶草
  synonym Mitella makinoi H.Hara
 四国、九州に分布する。四国では広く見られ、多産し、九州にも隔離分布する。深山の谷沿いの湿地に生える。ミカドシギキノコバエが特異的に送粉を行うが、花の香りは基純変種ほど強くない。
 多年草、高さ30~50㎝。葉柄は5~12cm、腺毛がある。葉身は長さ広卵形、長さ2~6㎝、基部は心形、縁は5~7裂し、上面は長毛と腺毛があり、下面には腺毛がある。両性株のみが存在する。花茎は腺毛を密生し、頂部の総状花序にに花をまばらにつける。萼片は花時に直立する。花弁は長さ約3㎜、羽状に細く5裂する(タキミチャルメルソウは花弁が0~3裂)。種子は熟しても茶色、うね状の隆起の上にパピラ(乳頭状突起)が散生する。花期は4~5月。

13 Mitella yoshinagae H.Hara トサノチャルメルソウ 土佐の哨吶草
 日本固有種。四国(徳島、高知県)に局所的に分布する。別名はトサチャルメルソウ 。深山の湿った岩上、岩壁に生える。シコクチャルメルソウと混生することが多いが、本種はミカドシギキノコバエの訪花を受けず、口吻の短いキノコバエにのみ送粉され、自然雑種はしないと考えられている。
 多年草、高さ20~30㎝。根茎は横に這う。托葉の縁には短腺毛がある。葉は互生し、葉柄がある。葉身は長楕円状卵形~卵形、長さ3~9㎝×幅2~7㎝、基部は心形、縁は3~4浅裂し、欠刻状の鋭い鋸歯があり両面に白色の毛と短い腺毛がある。雌性両全性異株。花茎は長さ20~30cm、短い腺毛がある。花は頂生の総状花序に多数つく。花弁は紅紫色、長さ3~4㎜、羽状に細く7裂する。萼筒は浅い倒円錐形で、萼片は花時に平開する。花期は4~5月。
13-1 クマチャルメルソウ 球磨哨吶草 Mitella sp.
 従来九州に分布するトサノチャルメルソウとされてきたものであるが、遺伝的には全く異なっており、トサノチャルメルソウと姉妹種の関係にもないため、別種とされ、九州の球磨地方が分布の中心であるため、この和名が与えられた。
 両性株のみが存在する。形態的にはトサノチャルメルソウに酷似するが、より小型、また托葉の形態が異なる(托葉の先端が2裂する)ことで区別できる。また、一見オオチャルメルソウに似ており、またツクシチャルメルソウとの雑種も多いため、混同に注意が必要であとされている。

14 ハイブリッド
(1) Mitella x inamii Ohwi et Okuyama ミノチャルメルソウ 
 チャルメルソウとコチャノレメルソウとの雑種。
 根茎は細くて長く地上を這い、やや太く、上端に葉を叢生する。 葉はチャルメノレソウよりも幅が広く、先が尖るが、コチャルメノレソウよりは小さくて幅が狭く、鋸歯が鈍い。花はまばらに、数がやや多くつき、チャルメルソウより大きめで、花弁の裂片の数も多い。

参考

1) Flora of China
 Mitella
http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=2&taxon_id=120815
2) Plants of the World Online| Kewscience
 Mitella
http://www.plantsoftheworldonline.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:60452048-2
3) World Flora Online
 Mitella
http://www.worldfloraonline.org/taxon/wfo-4000012430
4) Flora of North America
 Mitella
http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=120815
5) 植物研究雑誌 44(3): 70–70(1969)
 大井次三郎;ミノチャルメルソウ
http://www.jjbotany.com/pdf/JJB_044_70_70.pdf
6) 植物研究雑誌 82(6): 355–356(2007)
 上野雄規,大橋広好:エゾノチャルメルソウの南限と東北地方における分布
http://www.jjbotany.com/pdf/JJB_082_355_356.pdf
7) Acta Phytotaxonomica et Geobotanica Vol.28 Issue 4-6 p111-122(1977)
 若林三千男:タキミチャルメルソウ及びその近縁種について
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunruichiri/28/4-6/28_KJ00001078237/_pdf/-char/en
8) Bunrui 15(2): 109-123 (2015)
 日本産チャルメルソウ属および近縁種(ユキノシタ科)の自然史 奥山雄大  第13回 日本植物分類学会奨励賞 受賞記念論文
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunrui/15/2/15_KJ00010115016/_pdf/-char/ja
9) おくやまの研究ページ - 論文紹介(Okuyama 2016)
 新種アマミチャルメルソウ
https://sites.google.com/site/okuyamanokenkyuupeji/home/kenkyuu-gyouseki/okuyama-2016