クロクモソウ 黒雲草

Flora of Mikawa
ユキノシタ科 Saxifragaceae チシマイワブキ属
別 名 | キクブキ、イワブキ |
学 名 |
Micranthes fusca (Maxim.) S.Akiyama et H.Ohba var. kikubuki (Ohwi) S.Akiyama et H.Ohba synonym Saxifraga fusca Maxim. subsp. kikubuki (Ohwi) Kitamura |






花 期 | 7~8月 |
高 さ | 10~30cm |
生活型 | 多年草 |
生育場所 | 高山地の渓流沿いの岩上や湿った草地 |
分 布 | 在来種(日本固有種) 本州(近畿地方~山形中部)、四国、九州 |
撮 影 | 乗鞍岳畳平 06.8.20 |
地中の根茎は太い。全体に腺毛はない。根出葉は束生し、葉柄は長さ2~15cm、葉身は腎円形、長さ2~8cm、基部は心形、縁には粗い鋸歯があり、上面に短い縮れた毛がまばらにあり、下面は無毛。 花茎は高さ10~30cm、葉は無く、緑色、基部には長い毛がある。頂生の緩い、大型の円錐花序をつけ、花序には短い毛がある。花は暗紫褐色、ときに緑褐色、直径5~8mm。小花柄は長さ2~7mm、短毛がある。萼片は5個、卵状3角形、長さ1~1.5mm、花時には強く反りかえる。花弁は5個、長卵形、長さ約3mm、開花時に平開する。花盤が発達し、紫褐色まれに淡緑色、環状に隆起して2個の雌しべを取り囲む。雄しべは10本、花盤の縁につき、長さは約1mm。葯は裂開直前に橙色になる。子房は中位、2室あり、花盤中に埋まり花托筒となる。花柱は暗紫色、短い。蒴果は上部で2つに分かれ、花後には子房の上部が急速に伸び、長さ4~6mmになる。種子は紡錘状楕円形、長さ約0.8mm。花期は7~9月。
チシマイワブキ属
famiiy Saxifragaceae - genus Micranthesユキノシタ属(Saxifraga)に含められていたが、 形態的相違(Webb & Gornall, Saxifrages of Europe, 1987)とDNA遺伝子配列のデータ(Soltis et al., Amer. J. Bot. 83: 371-382. 1996)からユキノシタ属からチシマイワブキ属(Micranthes)に分割された。Flora of China などではユキノシタ属のsection Micranthesとしている。
ユキノシタ属の他の種とは異なる特性をもつ。葉に蓚酸カルシウムの結晶がある。花粉は表面(exine)は網目状。珠皮は1枚。
普通、有毛、しばしば腺がある。コーデックス(caudex)又は根茎があり、普通、木質でなく、鱗片がある。葉は根生葉(茎葉)、葉身は線形~(倒)卵形~円形、基部は漸減~腎形、縁は全縁~歯状。花序は花が少数~多数、苞は鱗片状。花は普通、放射相称、花托筒は分離又は子房に融合。花弁5個、白色、ときに基部に黄色の斑点がある。雄しべは10個、花糸は平ら又は様々に膨らむ。雌しべは1個(2室、対座は中軸又はたまに近位中軸又は遠位周辺)又は2個。子房上位~下位(果時にはより上位になる)。花柱は全体に分離。果実は蒴果又は袋果。
世界に約80種があり、アジア、ヨーロッパ、北アメリカ、南アメリカに分布する。とくに北半球の寒帯に多い。属名の語源はラテン語の小さい花の意味。Micranthes integrifolia, Micranthes nidifica, Micranthes fragosa, Micranthes apricaの中間体は普通に見られ、栄養繁殖、不稔のハイブリッドもある。
【アジア種】
Micranthes dungbooi , Micranthes fusca , Micranthes japonica , Micranthes kermodei , Micranthes laciniata , Micranthes manchuriensis , Micranthes nelsoniana , Micranthes oblongifolia , Micranthes pallida , Micranthes paludosa , Micranthes pluviarum , Micranthes rubriflora , Micranthes sachalinensis , Micranthes zekoensis
チシマイワブキ属の主な種
1 Micranthes fusca (Maxim.) S.Akiyama et H.Ohba クロクモソウ 黒雲草 広義
synonym Saxifraga fusca Maxim.日本(北海道、本州の中部地方以北)、四国に分布。針葉樹林下や高山に生える。
M. fuscaは、花序枝および小花柄の毛(それぞれ無毛、腺毛、無腺毛)の形態により、日本では3変種(var. kurilensis、var. fusca、var. kikubuki)に分類されていた。
1-1 Micranthes fusca (Maxim.) S.Akiyama et H.Ohba var. fusca エゾクロクモソウ 蝦夷黒雲草
synonym Micranthes fusca var. kurilensis (Ohwi) T.Fukuda & H.Ikeda チシマクロクモソウ
synonym Saxifraga fusca var. divaricata Franch. & Sav.synonym Saxifraga fusca var. kurilensis Ohwi in Acta Phytotax. Geobot. 1: 49 (1932)
北海道、本州(山形県中部以北)、千島列島原産。多年草、匍匐性の短い根茎を持つ。根葉は長い葉柄があり、腎状円形、長さ3~6cm×幅4~10cm、規則的な粗い歯があり、ほぼ無毛。花茎は高さ20~30cm、下部は無毛。円錐花序が頂生する。花は多数、緩くつき、褐色[~暗赤色(本州の高地に多い)、淡赤色、緑白色]。小花柄は細く、長さ5~12mm、腺毛がまばらにある。萼片は広卵形、先は鈍形、長さ約1mm、反曲する。花弁は狭卵形、長さ2.5~3mm、先は鈍形、広がり、花盤は明瞭。雄しべは短く、花糸は線形。蒴果は上位、直立し、長さ4~6mm。心皮は基部で合着する。種子は長円形、長さ約0.8mm、1肋があり、両端に短い微突起があり、縦に微細ないぼ状突起がある。花期は7~9月。2n=30(約30)。2n=約45(岩手雫石)。2n=30, 45, 60(千島列島)。
チシマクロクモソウ(f. kurilensis)は花序に腺毛がない。中間型のウスゲクロクモソウ(f.intermedia)は花序に長い屈曲した腺毛がある。
1-2 Micranthes fusca (Maxim.) S.Akiyama et H.Ohba var. kikubuki (Ohwi) S.Akiyama et H.Ohba クロクモソウ 黒雲草
synonym Saxifraga kikubuki Ohwisynonym Saxifraga fusca var. kiusiana H. Hara[Flora of Japan 1953]
本州(近畿地方~山形中部)、四国、九州に分布。高山地の渓流沿いの岩上や湿った草地に生える。別名イワブキ、キクブキ、異名はナンゴククロクモソウ。POWOではvar. kikubukiを認めず、var. kiusianaを認めている。Flora of Japan 1953ではvar. kiusianaをvar. kikubukiのsynonymとしている。地中の根茎は太い。全体に腺毛はない。根出葉は束生し、葉柄は長さ2~15cm、葉身は腎円形、長さ2~8cm、基部は心形、縁には粗い鋸歯があり、上面に短い縮れた毛がまばらにあり、下面は無毛。 花茎は高さ10~30cm、葉は無く、緑色、基部には長い毛がある。頂生の緩い、大型の円錐花序をつけ、花序には短い毛がある。花は暗紫褐色、ときに緑褐色、直径5~8mm。小花柄は長さ2~7mm、短毛がある。萼片は5個、卵状3角形、長さ1~1.5mm、花時には強く反りかえる。花弁は5個、長卵形、長さ約3mm、開花時に平開する。花盤が発達し、紫褐色まれに淡緑色、環状に隆起して2個の雌しべを取り囲む。雄しべは10本、花盤の縁につき、長さは約1mm。葯は裂開直前に橙色になる。子房は中位、2室あり、花盤中に埋まり花托筒となる。花柱は暗紫色、短い。蒴果は上部で2つに分かれ、花後には子房の上部が急速に伸び、長さ4~6mmになる。種子は紡錘状楕円形、長さ約0.8mm。花期は7~9月。
1-3 Micranthes fusca (Maxim.) S.Akiyama et H.Ohba var. kiusiana (H.Hara) S.Akiyama et H.Ohba ナンゴククロクモソウ 南国黒雲草
synonym Saxifraga fusca Maxim. var. kiusiana H. HaraJ. J. B. 87: 237 (2012).ではナンゴククロクモソウは大日植誌 3:67 (1939)からとされている。
2 Micranthes japonica (H.Boissieu) S.Akiyama et H.Ohba フキユキノシタ 蕗雪の下
北海道、本州(福井県以東)、四国に分布する。山地の湿った岩、川岸、渓谷に生える。和名は葉がフキに似ていることによる。根茎は太く、短く匍匐する。根生葉は房状につき、葉身は卵状心形、長さ3~10(~15)cm、幅は同程度、不規則な鋭鋸歯があり、ほぼ無毛。葉柄は長さ10~35cm、花茎は長さ15~80cm、しばしば1~3枚の小さい葉をつけ、緩く縮れた毛がある。円錐花序は長さ15~40cm、花はやや緩く多数つく。花は白色、小花柄は長さ5~20mm。萼片は卵形、反り返り、鈍形。花弁は斜めに広がり、卵形、先が鈍形、長さ3~4mm。雄しべは花弁よりわずかに長く、花糸はほぼ線形で、花盤は子房の基部を取り囲む。蒴果は長さ10~12mm。心皮は直立し、上部が斜めに斜上する。種子は紡錘形、長さ約1mm、縦に乳頭状の突起のある(mammillate)肋があり、種子の両端の尾は体と同長。花期は7~8月。
3 Micranthes laciniata (Nakai et Takeda) S.Akiyama et H.Ohba クモマユキノシタ 雲間雪の下
synonym Saxifraga laciniata Nakai & Takedasynonym Saxifraga takedana Nakai.
synonym Micranthes furumii (Nakai) M.Kim ヘラユキノシタ
synonym Micranthes laciniata f. takedana (Nakai) S.Akiyama & H.Ohba ツルクモマグサ
日本(北海道)、朝鮮、中国(吉林省)、サハリン、ロシア原産。中国名は长白虎耳草 chang bai hu er cao。標高2300~2600mの草原、岩の裂け目に生える。茎は高さ6~26cm、腺毛を有する。葉は普通へら形、長さ1.3~3cm×幅4~10mm、ほぼ多肉質、下面に腺毛があり、縁は下部が全縁、上部には5~8個の粗鋸歯があり、腺縁毛があり、先は鋭形。花序は散房花序、長さ1.7~13cm、5~7個の花がつく。枝と小花柄には腺毛がある。苞は披針形または線形、長さ2~12mm。萼片は後屈し、卵形、長さ2.3~2.5mm×幅約1.5mm、ほぼ多肉質、無毛、脈は3本あり先端で合流し、先は鋭形。花弁は白色、基部に2個の黄色斑点があり、卵形または狭卵形~長円形、長さ3~4.5mm×幅1.8~2mm、3~5本の脈があり、基部は長さ1~1.1mmの爪部に狭まり、先はほぼ鈍形または鋭形。雄しべは長さ約3mm、花糸は錐形。子房は亜上位、緑色、卵形、長さ2~2.5mm。花柱は長さ約0.2mm。蒴果は長さ5~7mm。花期と果期は7~8月。2n=20。
4 Micranthes manchuriensis (Engl.) Gornall et H.Ohba シロバナクロクモソウ 白花黒雲草
synonym Saxifraga manchuriensis (Engler) Komarovsynonym Micranthes octopetala (Nakai) Y.I.Kim & Y.D.K コウライユキノシタ
朝鮮、中国(黒龍江省、吉林省)、ロシア原産。中国名は腺毛虎耳草 xian mao hu er cao。森林の草原、斜面の岩の割れ目に生える。茎は高さ24~40cm、縮れた腺絨毛を持つ。葉柄は長さ6~17cm、腺毛を有する。葉身は腎形~円状心形、長さ3~5.7cm×幅3.8~8cm、下面および縁に毛または腺毛があり、掌状脈があり、縁は24~26個の円鋸歯状である。花序は円錐花序、長さ3~6cm、小花柄には腺毛がある。萼片は7個(または8個)、後屈し、ほぼ披針形、長さ1.3~1.5mm×幅0.4~0.5mm、ほぼ多肉質、両面とも無毛、1本の脈があり、縁に腺毛があり、先はほぼ鈍形。花弁は白色、長円状倒披針形、長さ2.3~3mm×幅約1mm、1脈があり、基部は徐々に狭まり、長さ0.3~0.5mmの爪部になり、先は凹形。雄しべは11~13本、長さ1.4~4.5mm。花糸は棍棒形。心皮は上位で基部のみ合着し、紫色または緑色で円錐形、基部に環状の蜜腺を持つ。花柱は直立またはわずかに広がり、長さ1~1.2mm。袋果は直立またはわずかに広がり、瓶形、長さ3.5~5mm。花期は7~8月。果期は9月。2n= 30~32。
5 Micranthes merkii (Fisch. ex Sternb.) Elven et D.F.Murray チシマクモマグサ 千島雲間草 広義
synonym Leptasea merkii (Fisch. ex Sternb.) Kom.synonym Saxifraga merkii Fisch. ex Sternb.
日本、千島列島、ロシア原産。高山の岩場に生える。
多年草、高さ15cmまでになり、平らに広がり、群生する。根茎はほぼ地表に横たわり、前年の葉の残骸が豊富にあり、密に枝分かれし、木質で、多数の繊維状の根がある。葉は厚い多肉質、基部に最大15枚、根生し、ロゼット状になる。葉身は長さ2.2cm×幅0.8cm・まで、長円形~倒卵形、先は鋭形、基部が鋭く狭まり、上面にやや密に剛毛があり、下面は無毛、縁には密に剛毛があり、ほとんど黒くならず、薄緑色である。茎葉はほとんどない。花序は散形状の総状花序で、花は1~5個つく。下部の苞状の小さい葉(attic leaf)は長さ7.5mm、幅2.2mm。小花柄は長さ8mmまで、密に剛毛があり、長い柄のある頭状の腺毛がある。苞は長さ6.1mm×幅1.7mm・まで、披針形で、縁と上部に長い柄のある腺毛が生える。花は小さな星形、直径1.5cmまで、葉の上に出て咲く。萼片は平開し、長さ5.1mm×幅5mm・まで、卵形、先は鈍くてノッチがあり、基部の長い線形の爪部があり、白色またはピンク白色。花弁は長さ8.2mm×幅6.7mm・まで、円状卵形、基部に長い線形の爪部があり、白色またはピンク白色。花盤は、長さ8mm×幅6mmまで。花糸は錐形、淡黄色。花粉は直径0.6mm、球形、濃紫色。雌しべ(子房)は長さ4.7mm×幅5.5mm・まで、中央部まで融合し、緑褐色。花柱は長さ0.1 mm以下で黄色。蒴果は長さ7.5mm×幅6.0mm・以下。種子は長さ0.8mm×幅0.5mm、パピラがあり、橙色。2n=26[ロシア]。
5-1 Micranthes merkii (Fisch. ex Sternb.) Elven et D.F.Murray subsp. idsuroei (Franch. et Sav.) Tkach クモマグサ 雲間草
synonym Saxifraga idsuroei Franch. & Sav.synonym Saxifraga merkii var. idsuroei (Franch. & Sav.) Engl. ex Matsum.
日本(本州の御嶽山、飛騨山脈中北部)、千島列島、ロシアに分布する。高山帯の頂上付近の日当たりのよい湿気のる礫地や岩場に生える。長野県の絶滅危惧IB類に指定されている。園芸店などで扱われているものは、セイヨウクモマグサもクモマグサと呼ばれるが、別種である。葉先が3浅裂する。多年草、小形の耐寒性の高山植物。根茎は細く硬質で横に匍匐し、分枝する。茎は叢生し、葉を密につける。葉は根生し、やや厚い多肉質、倒披針形、長さ1~2.5cm×幅2~6mm、先はしばしば3浅裂し、基部は長い楔形、縁には長い腺縁毛がある。花茎は高さ3~10cm、短い腺毛が密にあり、通常1枚の小さな葉をつけ、葉は長円形、長さ5~8mm。苞は2~3個つき、葉と同形。茎の頂部の散形花序に1~4個の花を上向きにつける。花は直径約1.3cm。萼筒は皿形、萼片は平開し、卵形、長さ約3mm、先が円形。花弁は白色、5個、平開し、広卵形、長さ6~7mm、先は鈍形、基部は急に狭まり明瞭な短い爪部がある。花弁の先端はチシマクモマグサよりややとがる。雄しべは1本、長さ約5mm、花弁よりやや短い。花糸は線形。葯は裂開前には黄色、先端が紅色を帯びる。子房は上位で、花柱は短い。蒴果は広卵形、長さ6~7mm、上半分が2中裂し、短い花柱が宿存する。花期は7~8月。
5-2 Micranthes merkii subsp. merkii チシマクモマグサ 千島雲間草
日本(北海道)、千島列島、ロシア原産。別名はヒメチシマクモマグサ・シベリアクモマグサ日本では北海道の中央高地、知床半島、夕張山地などの高山帯の礫地に生える。葉先が分裂しない。多年草、高さ約5cm。何株かまとまって小さな群落を作る。根生葉がロゼット状に密につき、葉身は厚い多肉質、長円形、先は鋭形、剛毛がまばらにあり、ほぼ全縁、ただし、花茎が伸びる頃に3浅裂の葉が目立つようになる。花は白色、星形。花弁は5個、広卵形、基部に細い爪部がある。萼片は5個,花弁の間に互生する。雄しべは10本。花盤の中心に盛り上がった子房が目立つ。花は白く斑点が無い。花期は7~8月。
6 Micranthes nelsoniana (D.Don) Small シベリアイワブキ
synonym Saxifraga nelsoniana D.Don
synonym Saxifraga punctata var. nelsoniana (D.Don) Engl.
synonym Saxifraga punctata subsp. nelsoniana (D.Don) Hultén
日本、千島列島、韓国、中国(黒龍江省、吉林省、内モンゴル)、モンゴル、ロシア、アラスカ、カナダ原産。中国名は斑点虎耳草 ban dian hu er cao。英名はdotted saxifrage, Nelson's saxifrage。標高1700~2300mの林縁、岩の割れ目に生える。
茎は高さ22~33cm、腺毛がある。葉柄は長さ4~10.7cm、腺毛がある。葉身は腎形、長さ1.6~5.5cm×幅1.9~6.5cm、上面に腺毛があり、掌状脈があり、縁は19~21歯があり、腺縁毛があり、歯は広卵形。花序は円錐花序、長さ5~15cm、30~52花がつく。枝と小花柄には腺毛がある。花托筒は長さ約0.6mm、無毛。萼片は後屈し、卵形~広卵形、長さ0.7~1.3mm×幅0.7~1mm、無毛、1脈がある。花弁は白色またはライラック色、卵形、長さ2.1~2.7mm×幅1.6~1.8mm、1脈あり、基部は長さ0.5~0.7mmの爪部に狭まり、先はギザギザる。雄しべは長さ2~3mm、花糸は棍棒形。心皮はほぼ上位~上位で、基部のみ合着し、紫色または緑色、円錐形で、基部に環状の蜜腺を持つ。花柱は直立またはわずかに広がり、長さ0.2~0.5mm。袋果(follicles)は直立またはわずかに広がり、長さ5~6mmの瓶形。花期は7月。果期は8月。2n=28, 30, 32, 40, ca. 60, 70, 76, 80, 84, 約88。
6-1 Micranthes nelsoniana subsp. aestivalis (Fisch. & C.A.Mey.) Elven & D.F.Murray
synonym Saxifraga nelsoniana var. aestivalis (Fisch. & C.A.Mey.) H.Ohba in J. Jap. Bot. 68: 335 (1993)
モンゴル、ロシア原産。6-2 Micranthes nelsoniana var. carlottae (Calder & Savile) Gornall & H.Ohba
synonym Saxifraga nelsoniana var. carlottae (Calder & Savile) H.Ohba in J. Jap. Bot. 68: 335 (1993)
synonym Saxifraga punctata var. carlottae (Calder & Savile) B.Boivin in Naturaliste Canad. 93: 646 (1966)
synonym Saxifraga punctata subsp. carlottae Calder & Savile
カナダ(ブリティッシュコロンビア州、ユーコン準州)原産。主にクイーンシャーロット諸島および隣接するブリティッシュコロンビア州沿岸に分布する。標高0~1000mの川岸、湿地に生える。葉身はわずかに肉質で、縁には9~12個の鋸歯がある。花序はやや密集し、絡み合って上向きに伸びる。雌しべは全長の大部分が合着する。蒴果は長さ6~12mm。2n=72。花期は夏。
6-3 Micranthes nelsoniana var. cascadensis (Calder & Savile) Gornall & H.Ohba
ブリティッシュコロンビア州、オレゴン州、ワシントン州に分布。標高800~2500mの湿地、川岸に生える。葉身は質が薄く、肉質でなく、縁には12~18個の鋸歯がある。花序はやや緩く、絡み合う伏毛がある。雌しべはほぼ全長にわたって合着する。蒴果は長さ3~8mm。花期は晩春~夏。
6-4 Micranthes nelsoniana var. insularis (Hultén) Gornall & H.Ohba
synonym Micranthes insularis (Hultén) Chepinogasynonym Micranthes nelsoniana subsp. insularis (Hultén) Elven & D.F.Murray
synonym Saxifraga insularis (Hultén) Sipliv.ロシア原産。標高0~1000mの湿潤ツンドラに生える。
葉身は厚く肉質で、縁には12~18個の鋸歯がある。花序は密集し、絡み合い、上向きの毛がある。雌蕊は長さの大部分が合着する。蒴果は3~8mm。花期は夏。
6-5 Micranthes nelsoniana subsp. nelsoniana
synonym Micranthes arguta Small in N.L.Britton & al. (eds.)
synonym Saxifraga arguta D.Donsynonym Saxifraga denudata Nutt. in J.Torrey & A.Gray,
synonym Saxifraga gracilis Stephan ex Sternb.
モンゴル、ロシア、アラスカ、カナダ原産。標高0~1200mの北極のツンドラ、渓流の岸辺に生える。
葉身はわずかに肉質で、縁には15~21個の鋸歯がある。花序は通常密集し、先端が紫色または褐色で、直立する有柄の腺を持つ。雌しべはほとんど全長が合着する。蒴果は長さ3~8mm。2n=約80、約84。花期は夏。
6-6 Micranthes nelsoniana var. porsildiana (Calder & Savile) Gornall & H.Ohba
synonym Micranthes porsildiana (Calder & Savile) Elven & D.F.Murray
ロシア、アラスカ、カナダ原産。標高0~2500mの河岸、湿地帯に生える。葉身は質が薄く、肉質でなく、縁には12~18個の鋸歯がある。花序は密集し、絡み合って斜上する毛がある。雌しべは長さの3/4まで合着する。蒴果は長さ3~8mm。2n =28。花期は夏。
6-7 Micranthes nelsoniana var. reniformis (Ohwi) S.Akiyama & H.Ohba チシマイワブキ 千島岩蕗
synonym Micranthes reniformis (Ohwi) Chepinogasynonym Saxifraga nelsoniana var. reniformis (Ohwi) H.Ohba in J. Jap. Bot. 68: 337 (1993)
synonym Saxifraga nelsoniana subsp. reniformis (Ohwi) Hultén
synonym Saxifraga punctata subsp. reniformis (Ohwi) H.Harasynonym Saxifraga reniformis Ohwi
日本(北海道の利尻島、大雪山)、千島列島、サハリン原産。山地や高山地帯の渓流沿いや渓谷沿いの湿地に生える。 根茎は匍匐性でやや細く、短い。根生葉は長い葉柄があり、腎形または腎状円形、長さ5~10cm×幅3~6mm、規則的な粗い鋸歯があり、ほぼ無毛。花茎は高さ5~25cm。花序は散房花序、花が密集し、花序柄と花序軸には柔らかく短い毛がある。萼片は反り返り、狭卵形、長さ約2mm、先は鈍形。花弁は斜めに広がり、白色、ときに赤紫色を帯び、長円形、長さ約3mm、下部には短い爪部がある。雄しべは花弁と同長~わずかに短く、花糸はわずかに平らで、先が広がる。蒴果は長さ4~5mm。心皮は長円形で直立し、先端は広がる。花柱は短い。種子は広紡錘形、ほぼ鋭形、長さ約0.7mm。花期は7月頃。
6-8 Micranthes nelsoniana (D.Don) Small var. tateyamensis (H.Ohba) S.Akiyama et H.Ohba タテヤマイワブキ 立山岩蕗
synonym Saxifraga nelsoniana var. tateyamensis H.Ohba in J. Jap. Bot. 68: 337 (1993)
日本(本州富山県)に分布。標高2700mの高山帯の礫地に生える。葉は長さ10~13cm、葉柄は長さ5~9cm、毛は長さ1~1.5cm、白色、密~まばら、持続性あり。葉身は円形または横広楕円形、長さ4~5cm、幅5~6.5cm、無毛~まばらに毛があり、先は円形、基部は深く心形、縁は狭鋸歯状で(16~)18本の歯があり、歯は卵形で先は三角形、長さ最大12mm。花茎は開花時に10 cm、開花時には20 cmの長さになる。後期には長く、毛は1-1.5mmで白色、密からまばら、持続性。苞葉は狭披針形から線状で、長さ最大11mm、持続性。花は約11mm幅、萼片は狭長楕円形、先は丸く、長さ約3mm、開花時に反り返る。花弁は白色で広がり、楕円形、長さ約5mm、幅約2mm、先は丸く、基部は爪状。雄しべは雄花期には花弁より明らかに短く、長さ2mm。花糸は棍棒状、白色。葯は約0.5mm長さ、円形、裂開前はオレンジ色。雌しべは淡緑色の円盤状で囲まれ、雄花期には自由部は3mmで、花柱はオレンジ色の柱頭を持つ円筒形。花胞は長さ7-9mm。花期は夏。2n=99~104。
7 Micranthes oblongifolia (Nakai) S.Akiyama et H.Ohba チョウセンイワブキ 朝鮮岩蕗
synonym Saxifraga oblongifolia Nakai朝鮮、ロシア原産。韓国のJirisan(智異山)、ロシアのウスリーに広く分布する。高山地帯の岩地に生える。
多年草、根茎は短い。茎は枝分れし、外側に腺毛があり、高さ約30cmまで、日当たりの良い場所では紫色を帯びる。葉は様々、根生葉は楕円形または円状楕円形、長さ3〜7cm×幅2〜5cm、縁に不規則な鋸歯があり、葉柄は長さ1〜4cm。茎葉は小さく、1~2枚つき、下面は通常帯赤色。苞は緑色、葉に似るが非常に小さい。花茎の先端の円錐花序に白色の花をつける。花序柄は細く、長さ3~12mm、腺毛がある。萼は萼片が5個、卵形、先が尖る。花弁は5個、長円形、下側の2個の花弁が長い。果実は蒴果、卵形、先が2裂する。種子は10肋がある。花期は7~8月。果期は9~10月。
8 Micranthes pallida (Wallich ex Seringe) Losinskaja ミクランセス・パリーダ
synonym Saxifraga pallida Wallich ex Seringesynonym Saxifraga clavistamineoides T.C.Ku
中国(甘粛省、四川省、西蔵、雲南省)、インド、カシミール、シッキム、ネパール、ブータン原産。中国名は多叶虎耳草 duo ye hu er cao。標高3000~5000mの森林、高山低木林、高山草原、高山の岩の裂け目に生える。
茎は高さ3.5~33cm、毛がある。葉柄は1~10cm、向軸および縁に毛がある。葉身は狭卵形~広卵形、まれに倒卵形、長さ1.3~8cm、幅0.7~3.7cm、上面に毛があり、基部は楔形または切形~ほぼ心形、縁には11~25個の円鋸歯または鈍い歯があり、縁毛があり、先は鈍形。花序は円錐花序、長さ4~20cm、4~13個の花がつく。枝と小花柄には毛がある。最も下部の苞は卵形~狭卵形、長さ1.2~4cm×幅0.5~2cm、上面に毛があり、基部には長さ2~7mmの柄があり、縁には歯があり、縁毛があり、先は鋭形。萼片は広がるか反り返り、卵形~狭楕円形、長さ3.3~3.8mm×幅1~2mm、両面とも普通無毛、まれに下面に毛があり、脈は3~7本で先端が合流し、縁は基部に細柔毛がある。花弁は白色で、基部に2個の黄色の斑点があり、卵形、長さ4~4.4mm×幅2~3mm、3~7本の脈があり、基部には長さ0.6~0.9mmの爪部があり、先は鋭形、鈍形、またはギザギザになる。雄しべは長さ2.5~4mm、。花糸は棍棒形。葯は紫色。子房は1/3までが下位にあり、緑色または紫色を帯び、卵形、長さ1.6~3mm、環状の蜜腺がある。花柱は長さ1~1.5mm。蒴果は長さ5~8mm、心皮は上部で散開する。2n=22, 44, 66。
9 Micranthes sachalinensis (F.Schmidt) S.Akiyama et H.Ohba ヤマハナソウ 山鼻草
synonym Saxifraga sachalinensis F.Schmidtsynonym Saxifraga virginiensis var. yesoensis Franch.
synonym Saxifraga yesoensis (Franch.) Engl.
日本(北海道)、千島列島、サハリン原産。山地の湿った岩場に生える。
多年草、根茎性、栄養部にやや長い腺毛があり、花序にはより短い軟毛がある。根生葉はロゼット状、卵形~長円形、長さ2~10cm×幅1~5cm、先はほぼ鈍形~円形、やや肉質、下部は急に狭くなって沿下し、縁は歯状、下面はしばしば紫がかる。葉柄は長さ0.5~2.5cm。花茎は長さ10~40cm。円錐花序に緩く多数の花がつく。小花柄は長さ5~15mm。萼片は反曲し、狭卵形、長さ約2mm。花弁は白色、卵形、先は鈍形、長さ3~4mm、3脈がある。雄しべは花弁とほぼ同じ長さで、花糸は上部で広がる。蒴果は長さ4~6mm。心皮は卵形、斜上し、先が短く反り返る。種子は紡錘状楕円形、長さ約0.7mm、両端に微突起があり、縦に肋がある。花期は5~6月。
10 Micranthes virginiensis (Michx.) Small ミクランセス・バージニエンシス
synonym Saxifraga virginiensis Michx.synonym Saxifraga virginiana Poit.
カナダ、USA原産。英名はVirginia saxifrage, early saxifrage。標高0~1500mの岩の多い丘陵地、崖、日陰の岩の露頭、川岸、樹木の茂った斜面に生える。
単生または叢生し、てい幹にむかご(bulbils)が付く。葉は根生する。葉柄は扁平で、長さ1~9cm。葉身は卵形~楕円形で、長さ2~8cm、±肉質、基部は漸尖し、縁は不規則に円鋸歯状~鋸歯状で、縁毛があり、上面にはまばら~±密に有柄の腺があり、絡み合う赤褐色の毛があり、上面は無毛。花序は花が30個以上(偏側生)つき、非常に開き、緩く、±頭部が平らな密錐花序(thyrses)、長さ6~50cm、下部に毛があり、上部には密に紫色の有柄の腺がある。花:萼片は直立~斜上(果時にも)、卵形~三角形。花弁は白色、斑点がなく、広長円形~楕円形、爪部はでないかまたは稀にわずかに爪部があり、長さ3~6mm、萼片の2倍以上。花糸は線形で扁平。雌しべは基部近くまで明瞭に分かれる。子房は±上位(子房の1/3まで)。蒴果は緑色~紫色、袋果状。2n=20, 38(+ 0~6過剰)。花期は春。
品種) 'Flore Pleno'
参考
1) The Jepson HerbariumMicranthes
Micranthes
Saxifraga Micranthes
Saxifraga Micranthes
Saxifraga p501
植物採集覚書(其二十七)九州地方〈其ー〉犬ケ観 (1,131m,福岡,大分県境)
ナンゴククロクモソウ 大日植誌 3:67 (1939)
Asiatic Species of the Genus Micranthes Haw. (Saxifragaceae)
Micranthes merkii (Fisch. ex Sternb.) Elven & D.F. Murray
チシマイワブキの分類学的検討と本州立山で見出されたタテヤマイワブキ